「……あれ。ここは……うわぁっ!」(ドシン!)
ふらふらと体を起こしたらバランスを崩してカウンターから落ちてしまった。
辺りを見回すと、部屋の中は台風でも来たかの様に荒れていて棚の所に置いてあった
のだろういくつもの薬瓶が割れて床の所ドコロに水溜りを作っていた。
なんでこんな所にいたのか全然思い出せない。無い首をひねっていると聞き覚え
の無い声が自分の名前を呼んだ。
「おう
ホイミン。やっと気がついたか。」
声のした方を見ると、空の薬瓶をいくつか抱えた、緑の髪の男が階段から降りてきた。
もちろんこんな人は知らない。自分が知っている人間は
ライアンさんぐらいだ。
「びっくりしたぞ。ここに入ったらいきなり棚の下敷きになってるんだもんな。」
まるで自分の事をよく知っているかの様に喋っている。
「どうしたんだ?黙り込んで。頭でもうったか?」
「えーーと、一つ聞きたいんだけど。」
「?。なんだ?」
「…あんた誰よ。」
緑の髪の男
ヘンリーは浮かべた笑顔をこわばらせた。どうやら人違いのようだ。
「えーと、それじゃあお前はトンヌラのトコの奴じゃないのか。」
「うん。それとさ、顔とかヤケドしてるみたいだけど…」
「へ?ああ、前の世界でやられたんだ。」
「大丈夫?すごく痛そうだけど。」
「ああ。薬を探しにココに来たけど、全部ダメになっているみたいだしな。」
「ぼくで良かったら治しましょうか?」
「出きるのか?頼む。」
ホイミンの触手の先に淡い光が灯る。数本の触手が傷口に近づいた。
次第に痛みが消えていく。新しい皮膚が再生し、ただれていたソコが
他の所と同じ白い肌に戻った。
「…もう痛くないですか。」
「ああ、助かったよ。火傷跡が残るか心配だったからな。」
「どういたしまして。ぼくも助けてもらっちゃったみたいだしね。」
「…あれ?おい、壁の所になにか書いてあるぞ。」
ヘンリーは部屋の奥の壁をゆびさした。
「え?どれどれ。」
ホイミンほフヨフヨとただよいながら、指差された所に行った。
「………ヘンリーさん。ナニも書いてな…」
レンガでできた壁が二つに割れ、拡散していく。目の焦点があわない。
体が動かない。浮遊感が失われていく。
そしてホイミンはなにが起きたのかわからないまま、
床にできた水溜りの中に落ちていった。体を真っ二つにして。
「ふん。手間かけさせやがって。」
青い液体の付着した斧を側にあった手拭いでふき取りながら
新たにできた青い水溜りに悪態をついた。
「ちっ。おまけにナニも持っていやしねえしな。」
見つけたザックの中身はとっくに自分のに移し替えて二階に置いてある。
もちろんめぼしいものはナニもなかったが。
大地のハンマーは一階のどこかに
埋まっているはずだった。
「ビンは見つかったし、そろそろ移動するか。」
カウンターに置いておいたビンを抱え二階に戻っていった。
「中身は酒場で探せばいいな。」
少しばかり増えた荷物を整理して、斧を持ってヘンリーは立ち上がった。
部屋にあった町の地図で大体の場所はわかっていた。火炎瓶なんか何度も作っている
無論、人に向かって使って見た事は無いがな。そんな事を考えていた。そのとき背後でドアを開ける音がした。
「!!! だれだ!」
階段を上る音は聞こえなかった…はずだ。
「…なんだ貴様、まだ生きていたのか。」
開かれたドアから現れたのは、ついさっき殺したばかりのホイミンだった。
しかし、先程までの雰囲気は無い。青かった体は透き通るような緋色になり、
触手はそれに映えるミントグリーン。そして一番変わっていたのは、先程まで
理性の光を灯していた目が、いまでは虚ろな光に変わっている。
「ちっ。死に損ないが。くたばれ!」
手に持った斧を一閃させる。しかしホイミンはなんなく身かわすと、ゆっくりと
ヘンリーに近づいていく。
「この!よけるんじゃねえ!さっさとくたばりやがれ!!」
後退しながら斧を何度も振り下ろす。しかしホイミンは全て難無くかわしていた。
ホイミンは触手を数本振り上げた。
(ホイミスライムのくせに攻撃か?笑わせやがる)
そんなに速くもないスピードで振り下ろされた触手を斧で受け止め……
異常な手応えを感じた。受け止めきれず、斧が弾かれ部屋の奥に飛んでいった。
背中に壁があたる。もう後は無い。目の前でふよふよ浮いているホイミンの触手
が急に何本か消え…。ヘンリーはなんとか身をひねって攻撃をかわす。
さっきまでいた所に触手が突き刺さり、壁を貫いていた。
(うそだろ。ホイミスライムにこんな攻撃力は…)
もはや全てにおいてヘンリーは追い詰められていた。このままではやられてしまう。
(こうなったら…)
ヘンリーはマントを外してホイミンに投げつけた。
体がマントに絡まり、少しだけ動きを止め触手を使ってマントをバラバラに切り裂いた。
しかしそこにヘンリーの姿は無かった。窓は開け放たれていた。ホイミンはゆっくりと
ソコから宙に身を躍らす。しかし、既にヘンリーの姿はどこにも無かった。
いくつモノ薬品が不均等に混ざりあった液体は、ずっと心に封じてきた
魔物としての本能。開放されずに蓄積されてきた、人間の戦士と旅をしていた
時の経験値。そしてホイミン自身の資質を開放してしまったのだ。
知っている者がコレをみたら、こう呟いただろう。
「進化の秘法」と。
(…ぼく…どうしたんだろう…。…なにも考えられない。
…なにも思い出せない。…………体がゾワゾワする。)
もうヘンリーの事は忘れていた。ふらふらとしながら町をさ迷っていた。
(…ぼくは…どうしたら……。…人間…に……なる…殺す……ライアン…サン…)
会いたい。
自分が人間になれることを信じてくれたただ一人の人間。
(ライアン…サン…。)
ホイミンはおぼつかない足取りで北に向かっていった。
ヘンリーは町から去っていくホイミンを見送り、道具屋の二階に戻っていた。
ザックは持ち去られていなかったし、斧も残っていた。
斧を持ち上げ……。ヘンリーの顔が強張った。
強固なミスリルでできた斧に、凹みができていた。
さっきのホイミスライムがやったのだろう。
自分がまだ生きていることを、まだ信じる事ができなかった。
【ホイミン(強化) 所持品:大地のハンマー(装備不能)
行動方針:ライアンを探す】
【現在位置:アルブルクの町 道具屋→北へ】
【ヘンリー(顔の一部と左腕に火傷) 所持品:
ミスリルアクス 瓶×3
第一行動方針:火炎瓶を作る
最終行動方針:皆殺し】
【現在位置:アルブルクの町・民家】
最終更新:2011年07月18日 06:48