「あれぇ、ここどこぉ?」
イリーナはもうかなりの時間、平原をさ迷い歩いていた。
左足の傷はかすっただけで大したことは無かったが......人恋しくてたまらない。
そういえば崖から滑り落ちていくときに誰かが後を追いかけてきてくれていたような気もする。
そんな事を考えながら、とぼとぼと歩くイリーナの目の前に大きな城が見えてくる。
「あれは.....」
ごそごそとイリーナは袋の中から地図を取り出し、現在位置を確認する。、
「えー、もうこんなに歩いちゃったの~~やだなぁ」
イリーナはすでにツェンを通り越し、ベクタにまで辿り着いていたのだ。
しかも自分の経路もついでに確認すると、同じ場所を何度も行ったり来たりを繰り返していた。
そのため直線距離ならさっきの岩山から4時間程度のベクタまで到着するのに、
途中、野宿をしたとはいえ、ほぼ1晩中歩き詰めだった事になる。
「......」
事実を知って疲れがどっと押し寄せたのだろう、先程まではぶつくさと独り言を言っていたのだが、
無言で茂みの中に入るとそのまま座りこんでしまった。
それからしばらく経過して.....。
「どうして開かないんだっ!」
手持ち無沙汰だったソロは歩きながら、再びスーツケースと格闘していた。
叩く!蹴る!殴る!斬る!。
再びあらゆる方法を試したのだが、依然として開かない、こうなったらまたギガデインを....
と、思ったがそれは流石にやめた、精神力の無駄遣いだし。
「あー、もういいや、こんなの」
流石に嫌気がさしたのか、ソロはまた不用意に手近な茂みの中にスーツケースを放りなげる。
そして先を急ごうとしたのだが......。
「ちょっと、こんなものいきなり投げないでよ、危ないじゃないの!」
ぎくり....っとして振り帰った先には、金髪の女性、そう、イリーナが立っていた。
「!!」
どうせコイツも
デスピサロの手先に違いない!戦うべし
反射的に剣を抜こうとしたソロだったが寸前で思いとどまる。
先程と比べると、ソロの頭も多少は冷えていた、勇者であるからには誰も彼も疑ってばかりではいけない
やはり冷静になった上で判断しないと......そう自分に言い聞かせながら、ソロは軽く頭を下げる。
「すいません、そのカバンが開かないもので、ついイライラしてしまって」
イリーナは手に持ったスーツケースをしげしげと眺めている。
「これは.....」
良く見ると取っ手のところに神羅のマークが刻印されている、本体に刻まれている
円を囲むようにして、三つの台形が組み合わされたマークは何だったか忘れてしまったが。
と、イリーナは何かを思いついたのだろう、ソロに向かってにやりと笑う。
「ねぇ、これ開けてあげようか?」
イリーナは懐から自分の社員証を取り出すと、それを取っ手の部分のスリットに差しこむ。
と、空中に綺麗な女性の姿をした、ホログラムが映し出される。
『神羅社長室直属、総務部調査課”タークス”のメンバーと確認いたしました、アクセスを承認します』
無機質な機械音声と同時に女性の姿はコンソールを備えたパネルへと変化する。
ソロはその光景を驚きの表情で眺めている
「ふふっ、凄いでしょ」
イリーナはにこりとソロに微笑むが、その内心は冷や汗ダラダラだった。
(機密レベル.....ダブルSですって、何なのよこれは!)
空中に映し出された情報は、このカバンが最重要機密1歩手前だ、という事を示していた
いかにタークスだろうと、これ以上先の情報は無条件に知ることは出来ない。
(プロテクトを破るしかない.....か)
いつの間にか、イリーナはプロテクト破りに夢中になっていた....自分が知る限りのコードを、
次々と入力していく、はっ、と気がついた時にはかなりの時間が過ぎ去っていた。
(いけない、本来の目的を忘れるところだったわ)
イリーナは作業をしながら、ちらりとソロの様子を見る、ソロは次々と起こる未知の体験に、
あんぐりと口をあけて、画面に見入っている。
(今だっ!)
ソロが最新テクノロジーに気を奪われているスキに、イリーナは素早くソロの腰に下げている剣を奪い取ると、
そしてそのまま逃走する.....はずだった。
だが、イリーナの手が剣に届く寸前、その手はソロによって阻止されていた。
その顔が見る見るうちに怒りの悲しみが入り混じった凄まじい形相に変わっていく。
「そうか、やっぱりお前もデスピサロの手先だな!よくも僕を裏切ったな!」
「ですぴさ?何よそれ、新手のピザのチェーン店?」
ばれたからには仕方ない、居直ったイリーナは廻し蹴りをソロへと放つ。
「ツォン先輩直伝のキックよ!あんたなんかに交わせるはずが....」
だが、イリーナ自慢のキックは軽々とソロに見切られてしまった。
「な....なんでなんで!?」
見事なまでに空振りし、尻餅をついたイリーナへと剣を向け、ソロは言い放つ。
「勇者には邪悪な攻撃は当たらないようになっているんだ!覚悟しろ!」
まかりなりにもつい最近まで勇者だったソロの大上段からの一撃を何とか交わしたのは、
流石はタークスと誉めるべきだろう。
そしてそのまま、イリーナは振り帰ることなく脱兎のごとくベクタの街へと逃げ込んでいく
(た....助けてツォン先輩、ルード先輩.....この際レノ先輩でも構わないからっ)
「助けてぇぇぇぇぇっ!」
背後にソロの気配を感じながら、足の負傷のことも忘れて、ついでに手持ちの手榴弾のことも忘れて、
ひたすら逃げるイリーナだった。
【イリーナ(左足負傷) 所持品:グレネード×1
第一行動方針:ソロから逃げる】
【現在位置:ベクタの街】
最終更新:2011年07月17日 22:28