きしさま~

「ハア、ハア。…なんとか、逃げきれたわね」
呼吸を落ち着けて、追って来る者がいないか聞き耳をたてる。
足音は聞こえなかった。神殿は、いつもの静寂を取り戻したようだ。
セーラはほっと、安堵の溜息をもらす。そして、周りを見渡した。
「適当に走ってきたけど、ここ、どこなのかしら」
見渡す限り、ゴミや鉄屑の山、山、山。
「酷い臭いね。こんな所、もう一秒だっていられませんわ」

「待ってください!セーラ姫!!」
不意にかけられた男の声に、部屋から出かけたセーラは思わず振り向いた。
春のうららかな光のさす花畑に、騎士の鎧を纏った男が立っていた。
男はかぶっていた兜を脱ぐと、セーラに微笑みかけた。
「ずっと、貴方を探していたんだ。姫」
「あなたは…、あなたは私の騎士様なのね?」
あふれ出る涙が抑えられない。セーラはゆっくりと男の方に近づいていく。

「ずっと貴方様を探しておりましたわ」
セーラは男の胸に頬を寄せ、体を預ける。
「知っています。私なんかの為に、危険な事をされていた事を」
男は両手をセーラの背中に回し、抱きしめた。
「どうしてそのことを…」
男は微笑んで、自分の後ろを指差した。
そこには、先程セーラを追ってきた人外の化物達が、光り輝く長槍に貫かれて絶命していた。

「貴方を殺そうとしていた下郎共も、貴方をこんな目にあわせた主催者共も、
全て殺して参りました。そのために貴方を迎えに来るのが遅くなってしまいました」
男はセーラの首に手をまわし、首輪を外した。
そして、一歩後ろに下がると、セーラの足元に跪いた。
セーラは男の言葉と、久しぶりに感じた開放感に驚いた。
「立って下さい、騎士様」
「貴方は私を許してくださるのですか? 貴方を多くの危険に遭わせてしまったのに…」
「いえ、私は、貴方に会えた事だけで…」
「姫、私も、ずっと貴方に…」
それ以上二人の間に言葉はいらなかった。桃色の花畑の中で、二つの影が一つに……

「うふふふふふっ。きしさま~~」
「なんてアホな夢をみておるんじゃ。こいつは」
瓦礫の山の上で、幸せそうな顔をして眠っているセーラに、
ついつい夢を覗き見てしまったアークマージは溜息をついた。
「適当に組み立てたが、なかなかうまく働いてくれたな」
アークマージは手にもった機械のスイッチを切った。
「こんな神殿にも、面白い装置があるものだな」

「しかし、ここまで引っかかるとは…。
まあ、良い。もう二度と目を覚ます事はないのだからな」
そう言うと、セーラの体を中に浮かせ、鉄屑の山の影に作った魔法陣の中心に据える。
「わしがお前の体を、お前よりも有効に使ってやろう」
アークマージはゆっくりと呪文を紡ぎ始める。徐々にアークマージの体から湧き上がった
怪しい霧が、セーラの体へと吸い込まれていく。

「―――やはり、器が小さいな。魔力が半分も入らんかったわい」
目を覚ましたセーラはゆっくりと腕を伸ばしたり、曲げたりしている。
「残った魔力はこっちの体に置いといて、他の器を捕まえてくるしかないのう」
そう言うと、セーラは死んだように眠っているアークマージに呪文をかけて、
他の人間に見えないようにした。
「もう少しマシな器がみつかるといいんじゃがな」

そしてセーラはゆっくりと目を閉じると、自分の意識の中心にいる「何か」を確認した。
「自我を消去するには時間がかかるからな。
 まあ、仮に目を覚ましてもわしの自我を上回る事は無いじゃろうて」
セーラは一通り高笑いをあげ、あさっての方向に中指をおっ立てた。
「待っていろエビルマージ!!貴様の計画などこのわしが捻り潰してくれるわぁ!!!」

【セーラ@アークマージ 所持武器:ブレイズガン 神殿内限定幻影制御装置 
 第一行動方針:より良い体を探す
 第二行動方針:エビルマージの計画を潰す】
【現在位置:神殿の廃棄場】


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最終更新:2011年07月18日 08:01
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