「…
アーロン殿」
「ああ…見られて…いるな」
アーロンの言葉に、
メルビンは無言で頷いた。
南の方から現れた何者かは、じっと息を潜めてこちらを伺っている。
気配はほとんど感じられない。
もちろんこんな芸当のできる奴など、まともな人間ではない。
「どうする? どんな人間かわからんが…」
相手に聞こえない様に、アーロンは小さい声で問いかけた。
「十中八九、味方ではないでござるな。
こんな気味の悪い視線はまともな人間が出せる代物ではないでござる」
「こちらから仕掛けるか。相手にやる気があるのかはわからないが、
先手を取られるのは面白くない」
「うむ。わしが隙をつくるでござる。飛び道具があるやもしれぬでござるから、
正面からは避け、左右から挟みこむ形で行くでござる」
「わかった。中にいる
モニカが心配だ。すぐにケリを…!!!」
その時、思ってもみない事が起きた。
三人が行動に移す前に、森の中にいる何者かが足早にこちらから遠ざかっていくのだ。
「話が聞こえていたので
ござるか!?」
「たぶんな。おそらく、時間を置いたらまた来るだろう」
「うむ。追いかけたい所でござるが…」
「やめておこう。先にやらなくてはならない事がある」
建物の中にいる連中には、未だに動きが無い。
モニカが叫んでからは静寂を保ったままだ。
さっきの奴がまたいつくるのかわからない。
しかし人質をとられている以上、こっちの相手には先手を取る事が出来ないのだ。
どうしたものか…。と三人が考えを巡らせていたその時、
南の森の方からの女性の叫び声が、保たれていた静寂を切り裂いた。
「アーロン殿!!」
「ああ。俺達より向こうを優先したんだな」
「うむ。見過ごすわけにはいかないでござるな。
わしとガウ殿で行く。アーロン殿はここで待機していて欲しいでござる」
「…わかった。気をつけろよ」
この状況で半怪我人の自分がどれだけ足手纏いになるのか
アーロンもよくわかっているのだろう。
メルビンとガウを見送り剣を鞘に収めると、建物の中の様子に意識を集中させた。
今、自分が果たさなくてはならない仕事に専念しなくてはならないのだ。
「とんぬらさん、今の悲鳴は!」
「ああ。助けに行かないと…。
アニー、ここで待っていて。すぐに戻るから」
「イヤ、行かないで!」
アニーはとんぬらの服の裾をつかんで離さない。
「アニー…」
「なにがあるかわからないのよ。もしなにかあったら…私……」
「………」
アニーは目に涙を溜め、服の裾をより強く握りなおした。
「イヤ…イヤなの……」
とんぬらはすすり泣く娘を抱きしめた。
お互いに程度の違いはあれ、離れたくないのは同じだろう。
それに、おそらくこの舞台には安全地帯など存在しないのだ。
「…これじゃあ行けないね」
「………」
「えっと、僕が見てくるよ。とんぬらさんはアニーについていてあげて」
「
ルーキー。…ごめん」
「気にしなくていいよ。でも、なにかあったら助けにきてよ」
「ああ。約束する」
ルーキーは
スナイパーアイを装備すると、まっすぐ悲鳴のした方へ走り出した。
「足跡は残っているでござるな。ガウ殿、臭いを追えるでござるか?」
「ガウ!!」
ガウは地面に残った足跡を嗅ぐと、南西の方角へと走り出した。
メルビンも後ろからついて行く。
途中足跡が増え、おそらく襲われた女性も同じ方向へ逃げているらしい事がわかった。
木々の隙間を縫う様に走る事数分、森が開け、
切り立った崖と、対岸の島へ渡る吊り橋が見えた。
「ガウ!」
「この橋を渡っていったのでござるな。行くでござるよ!!」
そう言って二人は吊り橋の上を駆け出した。
ちょうど半分まで来た所であろうか、前を走っていたガウが急に立ち止まった。
「どうしたんでござるか?」
「ガウゥ…。(臭いが…消えてる…?)」
メルビンの顔がこわばり、弾かれたように後ろを振り返った。
対岸にいたのは、紫の髪をした女性の姿。
「しまった! 罠か!!」
女性は醜く顔をゆがめると、掌に生み出した火球を吊り橋に叩きつけた。
「ガウ殿! 逃げるでござる!!」
「ガウ!!」
間一髪、二人は橋が落ちる前に対岸にたどり着くことが出来た。
後ろを振り返ると、さっきの女性の姿はどこにも見当たらない。
火に包まれた吊り橋があげている、黒い煙しか見えなかった。
(どうしよう。すごいものをみてしまった。
キレイな女の人が変な杖をふると、メルビンさんそっくりに変身したんだ。
それだけじゃない。変身する直前、一瞬だけど気配を隠すのをやめた時、
…アイツの体からものすごい瘴気が漏れたんだ。あんなの、高位の魔族じゃなきゃ…。
アイツの向ってる方向は、地図で祠が書いてあった方みたいだ。
橋の方が気になるけど、先にとんぬらさん達と合流しないと)
「…どうなっているんだ」
つい数分前から立ち上った黒い煙を、アーロンは歯がゆそうに見上げていた。
煙とメルビン達が向かっていった方角は一致していた。
「…あの二人に何かあったのか?」
建物の中は未だに沈黙を保っている。
今すぐ向こうの様子を見に行きたいが、モニカを放っておく訳には行かない。
体を二つに裂いてしまいたい衝動に襲われる。
どちらも自分の
命の恩人であり、大切な仲間なのだ。
その時、森から誰かが姿を現した。
「アー…ロン…殿……」
現れたのは傷だらけになったメルビンだった。脇腹から血を流している。
「どうした! なにがあったんだ!!」
アーロンは今にも倒れそうになっているメルビンを支えた。
「罠…だったんで…ござる…。ガウ殿は…」
「わかった。もう喋るな」
「モニカ殿は…どうなったで…ござるか?」
「まだ中にいる。さっきから何も動きがない」
そういってアーロンは見えない祠の方を向いた。
「なるほど。そこに祠があったんだな」
耳慣れない言葉。アーロンがその言葉の意味を理解する前に、
メルビンの右手に発生した雷撃が、アーロンの体を絡め取った。
「ぐ…がぁ…」
「ほう、確かにここに何かがあるな」
メルビンは地面に倒れこんだアーロンを一瞥すると、
アーロンの向いた方向を調べ始めた。
「貴様…何者だ……」
アーロンは剣を構え、フラフラと立ち上がった。
「…そうか。そんな奴が……」
とんぬらは帰ってきたルーキーの話を聞くと、アゴに手をやって思案し始めた。
「…行こう。祠の中にだれかいるかもしれない」
とんぬらはそう言って立ち上がった。
「………」
アニーは心配そうにとんぬらを見上げる。
「アニー。さっき話しただろう。
ぼくは死なない。おまえや
クーパーを残して死ねるわけはないだろ?」
とんぬらはアニーの肩に手を置いて、ゆっくりと話し掛ける。
「大丈夫。ぼくがどれだけ強いかわかってるだろ?」
アニーは黙って首を縦に振る。
「ここで隠れていなさい。でも危なくなったすぐににげるんだよ」
「…私も行く。もう離れたくない!」
少女の決意は固く、曲げる事はできないようだ。
「…わかった。急ごう。もう祠についているかもしれない」
「ぐうっっ」
見えない衝撃波にアーロンの体は吹き飛ばされ、近くの木に叩きつけられた。
「わしか?…そうだな。次の姿は貴様にしようか」
「一体…何を……!!!」
メルビンは袋のなかから奇妙な杖を取り出し、呪文を唱えた。
奇妙な煙がメルビンの体を覆い、次の瞬間、メルビンの姿はアーロンそっくりになった。
「こういう事だ。まあ、貴様は見事にだまされてくれたわけだな」
アーロンもどきはそう言うと、印を組み呪文を唱え始めた。
「同じ人間が二人もいるのはおかしいからな。貴様はしばらく眠っておれ」
少しずつアーロンの体から自由が奪われていく。指先が痺れて動かない。
舌が全く動かない。モニカに危険を知らせる事も、もはや出来ないようだ。
(くっ…意識が……気を…失っ…て……たまるか…)
「安心しろ。殺しはしない。もっとも、誰も貴様を助けに来る者などいないのだがな。
ヒョーッヒョッヒョッヒョッヒョッヒョぶっ!!!」
えらそうに高笑いをしているアーロンもどきの後頭部を、
彼方から飛来した
ブーメランが直撃した。
【アーロン(怪我・半冷凍)
所持品:折れた鋼の剣
第一行動方針:気を確かに持つ
第二行動方針:モニカを助ける
第三行動方針:仲間を探す】
【現在位置:祠の離れのそば】
【メルビン 所持品:
虎殺しの槍
第一行動方針:アーロンとモニカを助けに行く
第二行動方針:仲間を探す
第三行動方針:
ホフマンの仇をうつ】
【ガウ 所持品:なし
第一行動方針:アーロンとモニカを助けに行く
第二行動方針:仲間を探す
第三行動方針:ホフマンの仇をうつ】
【現在位置:祠から南の島】
【
エビルプリースト(現在の姿はアーロン)
所持品:
危ない水着 変化の杖
ファリスのペンダント
第一行動方針:この場にいる全員の始末
第二行動方針:天空の勇者(ソロ・クーパー)の始末】
【現在位置:祠の離れのそば】
【
とんぬら 所持品:
さざなみの剣
第一行動方針:アーロンもどきを倒す
第二行動方針:クーパー、
パパスとの合流
第三行動方針:
アイラの呪いを解ける人を探す】
【ルーキー 所持品:スナイパーアイ、ブーメラン
第一行動方針:アーロンもどきを倒す
第二行動方針:
ライアンとの合流】
【アニー 所持品:
マインゴーシュ
第一行動方針:アーロンもどきを倒す
第二行動方針:クーパーをみつける】
【現在位置:祠の離れのそば】
※祠から南にある橋は焼け落ちました。
最終更新:2011年07月18日 07:48