夕暮れの山々に奇妙な声が響く。
「生麦、生米、生卵・赤巻紙・青巻紙・黄巻紙」
どうやら早口言葉のようだが、こんな場所で何故?
早口言葉はさらに続く、マシンガンのようなスピードと正確さでもって、
と、やがて声がやみ。その声の主であるとんがり帽子の魔法使い、
サマンサは唇の端をわずかに歪め
満足げに呟く。
「絶好調です」
魔法の威力を左右するのは当然のことながら使い手の魔力なのだが、人の身である以上、
いかに修行に励もうとも、マスターレベルともなれば、その限界は大差はなくなる。
と、なれば何処で差をつけるか、それは詠唱速度だ。
例えば呪文の一節を例にとっても。
「オロカナルイキモノタチヲヤミニカコマレタハイキョニミチビキタマエ」と
「オロカナルイキモノタチヲヤミニカコマレタハイキョニミチビキタマエ」
では雲泥の差があることは明白だろう。
それでも実際に短縮できるのはほんのわずかな時間に過ぎないのだが。
頑丈だが愚鈍なモンスターではなく、人間相手となればどれだけ早く一撃を与える事ができるかにかかっている。
屈強な戦士といえども、剣を抜き放つ前に、自分めがけて飛んでくるギラやイオを目にすれば、
わずかなりとも挙動は遅れ、熟練の魔法使いでも詠唱を遅らせる事も可能だ。
子供だましのような理屈だが、これが結構有効な手口だ。
マホカンタのように本来先読みが必要な呪文でも、今のサマンサなら相手の呪文を確認してからでも
何とか間に合わせる事が出来るだろう。
山々に沈む夕日を見ながら、サマンサは軽く背伸びをする。
久々の太陽がまぶしいのか、わずかに目を細めながら。
そろそろ放送の時間のはず…通路の中では恐らく放送は聞こえないだろう、そう思いわざわざ地上に
出てきたのだが…まだ少し早かったらしい、ならば少し早めの夕食でも取るか、と岩場に腰を下ろす
サマンサだが、ふと自分の視界を横切った小動物の影にいぶかしげな顔をする。
サマンサは小動物の通ったあたりの地面に目をやる、すると積もった雪にくっきりと足跡が残っている。
「なるほど、野うさぎでしたか」
と、足跡を見て納得気にうなずくサマンサのお腹がぐぅ~と音を立てる。
食料は充分だったが、それでも動物性のたんぱく質には少し飢えている、久々にご馳走にありつきたいものだ。
サマンサはうさぎの足跡をそっと辿っていく…やがてそこから少し離れた茂みの中で、うずくまるうさぎを発見すると
うさぎはサマンサの姿を見ても、動じることはなく逆に彼女を睨みつけている、
まるで(オイラを捕まえられるなら捕まえてみやがれ)といわんばかりに。
「ふふ…人間様を甘く見てはいけないのです」
サマンサはうさぎの挑発に受けて立つべく、腕輪を装着すると、
(早く走れるのはいいのですが、付けっぱなしだと疲れるのですよ)
全速力で飛びかかる、と、一瞬の早業でうさぎの首根っこを掴んでいた。
サマンサは満面の笑みで、うさぎの顔面を見つめる…久々のご馳走に有りつけそうだ。
まずは血抜きをして、それから皮を…そこである事実に気がつく。
「私としたことが…道具が無いではないですか」
肉食獣ではないのだから、そのまま丸齧りするわけにもいかない。
さて、どうしようか、と思案をめぐらすサマンサだったが、
と、そこで自分の足元からか細い声が聞こえてくる。。
そこには一匹の子うさぎがサマンサにすがりつくようにして鳴いていた。
「ふふ、捕まったのが私で、お前は幸運ですよ、それにいい子供を持ちましたね」
と、苦笑しながらサマンサは手にしたうさぎを解放し、パンを千切って投げてやる。
うさぎは少し驚いたような感じだったが、やがてパンを口にすると親子そろって茂みの中へと消えていった。
「ふふ…私としたことが柄でもない」
それから少し遅れて、
「今の何だったんだろ?皆どこいっちゃったんだろ?」
きょろきょろと周囲を不安げに見まわしてるのは、不運にも竜巻に飲みこまれた
ルーキーだった。
くんくんと鼻を動かし、匂いを嗅ぎ取ろうとしていたルーキーだが、と、そこで自分の視界を横切った
あるものに気がつく。
「うさぎだ(^^)」
空腹状態のルーキーにとってはそれはまたと無いご馳走だった。
ルーキーは
ブーメランを構えると、狙いをつけてそのまま投擲する、装着した
スナイパーアイの効果か
いとも簡単にブーメランはうさぎ達に命中した。
ルーキーはスライム特有の捕食体型を取ると、そのまま気絶したうさぎ達を丸のみしようと迫っていく。
「いただきま~す」
そして、今まさに親子もろとも丸飲みにしようとしたその瞬間、自分のすぐ近くに摩擦音、
見ると自分の真横に鋭い氷柱が突き刺さっている。
はっ、と周囲を見渡すルーキー、するとスナイパーアイ越しに魔術師風の女性が睨んでいるのが見えた。
その女性はさらに第二撃を放つ、それを辛くも避けるルーキー、距離が遠いので命拾いしたが、
これ以上近くに来られるとひとたまりも無いだろう。
「ど…どうして、どうして!?」
状況が飲みこめないまま、脱兎のごとく逃げ出したルーキーのすぐ背後からまた
爆発音が響くが、
それには構わずひたすら北へと逃げるルーキーだった。
一方のサマンサにとっては、明確にルーキーを敵と認識して襲ったわけではない。
ただ、折角助けた命が自分の目の前で奪われるのが何となくもったいなかったという程度の理由でしかない
いずれにせよ魔物ならば放っておくわけにもいかないし、まさかスライムが参戦しているとも思えない。
ともかくサマンサもまた逃げるルーキーの後を追いかけていったのだが、
と、そこでサマンサは遠目ながらも、ルーキーの身体にしっかりと装着されている首輪を見つける。
「ほう…」
サマンサはそれを見て。追撃のスピードを緩める。
首輪がある以上只のスライムとは思えない、ここは慎重にかからねば思わぬ痛手をこうむる
可能性がある
「しかしどうしてあんなスライムを…」
少なからず疑問を感じながら、追跡を続けるサマンサだった。
【サマンサ 所持品:勲章 星降る腕輪 手榴弾×1
第一行動方針:ルーキーを追う
第二行動方針:神殿に向かう
基本行動方針:
デスピサロを手伝う
最終行動方針:生き残る】
【現在位置:ロンダルキア中央西よりの山地、雪原との境界線付近】
【ルーキー 所持品:スナイパーアイ ブーメラン
第一行動方針:逃げる
第二行動方針:
ライアンとの合流】
【現在位置:ロンダルキア中央西よりの山地】
最終更新:2011年07月18日 07:24