一人、雪原に残ってからどれくらい時間が経っただろう。
一時間?30分?それとも3分か?
ただ一つ確かなのは、すでに
ロックの全身には無数の痣と刀傷があることだ。
致命傷こそまだないにしても、逃げながら戦っていた自分の動きがこうも捕らえられる、
この男の技量が半端ではない事を認めざるをえなかった。
握力がなくなり始めたことに気付いて、
吹雪の剣を握りなおす。
どんなに傷ついても血で滑る事がない。片っ端から凍ってしまうからだ。
傷口にしても、外気によって塞がれてしまう。血は出ないが、体の底から冷えていく。
汗一つかいていないのに、ロックは息を荒げていた。
「どうした、口だけか」
セフィロスが嘲笑する。
一人雪原に残って自分を挑発してきた男が、自分の何かのワナにかけようとしていることはわかっている。
それが何か。他の者が逃げるまでの時間を稼いでいるのか、あるいは自分を葬り去る秘策があるのか。そんな事には、セフィロスは興味がなかった。
目の前にあるモノを破壊する、ただそれだけの原初の
ルール、それに従うまでだ。
「へ、俺一人さっさと殺せない奴のセリフじゃないだろ」
瞬間、ロックは飛び離れると、すぐさまロックのいた場所を白刃が通る。
二転、三転、転がって間合いを離すと、セフィロスに向けて切りかかる。
この男相手では鍔迫り合いになるのもマズい、ヒットアンドアウェイ、初手を打つと同時に逃げる、それを繰り返すしかない。
もちろん、そんな攻め方で倒せる敵などいないが、自分の役目は囮なのだから、これでよかった。
切り替えしたセフィロスの刃がロックの肩を掠める。
少し肉を持っていかれたが、ロックは意に介さず二度三度切り込んだ。
一撃目は半身を動かしただけでかわされ、二撃目はあっさり斬り弾かれる。
三撃目は、放つ前にセフィロスが蹴りを放ってきたので届く前に不発で終わった。
すぐさま間合いを離す。そしてまた同じことを繰り返すのだ。
最初の頃は余裕の表情だったセフィロスも、
次第に打ち合おうとしないロックに苛立ち始めたようだ。
剣筋は粗く鋭くなっていき、ロックはかわすだけで精一杯になる。
それでも攻撃の手を止めるわけには行かない。防戦一方になったら、後は逃げるしかなくなる。
自分の役目は彼を誘導しつつ、後続が体勢を整える時間を稼ぐことだ。
それが困難であることなど、最初から承知の上ではないか――――
そんなときだった。
二人の間に割って入る人影があった。
「な――――」
呆然とするロックを追い越して、彼女、
アイラはセフィロスのほうへ歩いていく。
セフィロスを目指しているわけではない。彼などまるで無視して北に向かって歩いていく。
それがセフィロスの癇に障ったようだ。
ブゥン!
長大な刀が空を斬る。アイラはひらりと宙返りしてそれをかわした。
「ほう、道化か。やるな」
着地すると、アイラはダイアソードを抜いた。
何もしなければ無害だが、攻撃すれば反撃する。自分の邪魔をするものを排除する。
極めて原始的なロジックだった。
迫る正宗を気にせず、アイラはセフィロスに切りかかる。
今のアイラに恐怖と痛みという感覚はなかった。だからこそ、セフィロスという男だろうと躊躇いなく立ち向かう事ができる。
アイラの攻撃はかわされたが、殴りつけてきた…さすがに正宗で超近接戦は出来ない…セフィロスの拳を掴む。
「む…」
ぎし、とセフィロスの腕が軋んだ。
ゾンビ化することで限界も外れているアイラの力はほっそりとした女性のものではない。
すぐさま、正宗の柄でアイラを殴り飛ばす。それは確かめるまでもなく浅い。
「ふん…いいだろう、殺してやる」
立ち上がるアイラに、初めてセフィロスは構えを取った。
両足を揃え、一方だけやや前に出す。胸のあたりで刀身が水平になるように正宗を持つ。
アイラはやや身を屈めるような格好で、剣を下段に構えた。
攻撃の応酬。
ロックはそれを呆然と見ていた。
だが、すぐに自分を取り戻す。この機会を逃す手はない。
二人の戦いを見守りながらセフィロスの隙を突いて切りかかる。
いまだセフィロスに一太刀も入れられないが、これならいけるかもしれない、ロックがそう思ったとき。
「調子に乗るな…見切ったぞ、キサマのその力」
セフィロスが大きく正宗を振りかぶる。ヤバい、とロックは飛び離れ、アイラはここぞとばかりに攻撃を仕掛ける。
刹那、セフィロスの攻撃!アイラはそれをダイアソードを翳して受け流そうとする…
が、セフィロスの攻撃はアイラの首や胴を狙ったものではなかった。
「………」
半ばで軌道を変えた刃はアイラの左腕、肘から手首の間を綺麗に両断した。
ぼふ、と鈍い音を立てて、アイラの左腕が雪の上に落ちる。
途端にアイラの腕から地が噴出し、アイラは絶叫した。
「あ、あああ、ああああああああ!!!!」
跪き、落ちた腕を思わず掴む。
「妙だ思っていたが、それがキサマの力の源泉か。下らん」
アイラをゾンビかさせていた
死者の指輪が腕ごとアイラの体から離れたことによって、呪いの効果が解除されたのだ。
死者として動いていたことによる負荷と、唐突に回復した自意識と痛覚がアイラの頭を混乱させる。
気が狂ったような絶叫にセフィロスは不敵な笑みを浮かべると、
ヒュン、軽く刃を振るう。それだけでアイラの命は終わる。
はずだったが、
「俺の前で人殺しなどさせないぜ!」
ロックの絶妙ともいえる横槍が入り、アイラは命拾いをした。
左腕を抱き、剣を握り、アイラは立ち上がって駆け出す。
どこからそんな瞬発力が生まれたのか、と問いたくなる勢いで。
「どこまでも邪魔をするか…!」
「当り前だ!何もかも思い通りにいくと思うなよ!」
セフィロスと切り結ぶロック。正直、体力は限界に近い。
だが、彼女のおかげで時間は稼げたし、恩を酬いるために彼女を逃がしてやりたい。
それに、奇襲ポイントまで後少しだ。後、もう少しなのだ。
一方、戦線を離脱したアイラは、森の中に駆け込んだ。
飛びそうになる意識をかき集めて、血を噴出す左腕を布で縛りつつ、必死に状況を整理する。
とはいえ、指輪を身につけた後の事は、あまり覚えていない。
ただ、自分に手を差し伸べてくれた人がいて、その手がとても暖かかった事ははっきりおぼえている。
「もう一度、逢いたいな。あの人に…」
持ってきた左腕で、紫色に鈍く光る指輪。
自分をわけのわからない状態に陥れた呪いの品。
だが、これを身につけている内は少なくとも痛みを感じることはなかったし、
体が動かなくなる事もなかった。
アイラはもう自分のものではなくなった左腕の指から、指輪を抜いた。
意識がもう、擦れ始めている。左腕から流れる血とゾンビ状態から戻ったことが重なって、
彼女の生命力はほぼ尽いていた。
何もしなければ、自分はすぐに死んでしまうだろう。
それがわかったから、アイラは残った右腕の指に、死者の指輪を嵌めた。
【セフィロス(負傷) 所持品:正宗(損傷)
基本行動方針:全員殺す
最終行動方針:勝ち残る】
【現在位置:東の平原、山脈の側】
【ロック 所持品:吹雪の剣
第一行動方針:交戦中、セフィロスを誘導する
第二行動方針:
エリアを探す】
【東の平原、山脈の側】
【アイラ(ゾンビ・左腕欠損) 所持品:チェス板、駒 死者の指輪
ダイヤソード
第一行動方針:ゾンビ状態中はとんぬらを探してついていく。死者の指輪が外れたら???】
【現在位置:東の平原、中央の森】
最終更新:2011年07月18日 07:33