残酷な放送

デスピサロたちは、放送の時刻に合わせて近くの出入り口に来ていた。
大陸中央部と神殿の間、ちょうどティナアルスエドガーたちの野営地から岩山一つ挟んだあたりである。
流れてきた放送に、三人とも表情を凍らせた。
人数があまりにも多かった事もある。だが、それ以上に知己の死が衝撃を与えた。

「バカな…ソロどのが?それにメルビンどのやガウどのまで」
テリー…そんなぁ…!」
愕然とするライアンバーバラ。デスピサロは零度の瞳を東に向ける。

「…神殿。神殿で何かあったな!」
はっと、バーバラの顔が強張る。
「そ、そう言えばテリーたちを最後に見たのは神殿の南だったわ。
 私は嫌な予感がして引き返したんだけど」
「賢明だったな。ともあれ、一刻の猶予も最早ない。行くぞ」

言うと同時に、デスピサロはひょいとバーバラを小脇に抱えた。
何をされたのかわからず頭に疑問符を浮かべるバーバラ。
次の瞬間、デスピサロは物凄いスピードで走り出す。

「わああ!ちょ、ちょっと!」
「黙ってろ、舌を噛む」
「そうじゃなくて、おろしてよぉ!」
「一刻の猶予もないといったはずだが」
「だからってこんな、モノみたいな運ばれ方…ひやぁぁぁぁッぁぁ!!??」
スピードを落とさず角を曲がる。
遠心力で体が横に流され、岩壁スレスレを通った。

「危ない!危ない!やだ、怖いってば。やめてよー!」
「黙っていろと言っている!」
「……楽しそうでござるな」
「何か言ったか!?」
ギロリと、後ろについて走るライアンを睨むデスピサロ。

ライアンは生真面目な表情で口元を引き締めた後、なんとなく顔を伏せる。
「その…ワシには理解できぬ趣向でござるが、それも一つの個性ならば認めなければと」
「…なんだそれは」
「案じられるな。お互いの気持ちが邪ならぬ限り、ワシは温かく見守るでござる」
ライアンは顔を上げると半分凍りついた笑みを浮かべた。
何故か、ライアンの瞳が男らしく光った…気がしたような。

それがデスピサロの癇に障った。
「キサマ、今、物凄い勢いで私を虚仮にしたな!?」
「滅相もない、でござる」
「だから降ろしてよー、バカなこと言ってないでさぁー!」
既にバーバラの声は涙混じりである。

こうして、デスピサロたちは数倍の速度と数十倍の賑やかさで地下通路を突き進んだ。
そして到着した出口。その側に、人影があった。
壁にもたれて、力無く座り込んでいる男。その側に一筋の槍が転がっている。

「何者だ?」
デスピサロは二人を見る。ライアンとバーバラは首を横に振る。
「なにやら落ち込んでおられるようでござるな」
そんな声が聞こえたのか、男は視線を上げた。その瞳に、力はない。
「誰だ?」
「質問しているのはこちらだ。答えろ」
睨みあう二人。割って入るのはライアンだ。

「そんなケンカ腰ではまとまるものもまとまらなくなるでござるよ。
 失礼仕った。ワシはライアンと申す。バトランドが王宮の戦士でござる」
「バトランド…聞いたことがないな」
「で、ござろうな。こちらはピサロどの。脇がバーバラどのでござる」
「………脇って」
バーバラがなんとも情けない声を上げたが、とりあえずスルーして。
「あんた…もしかしてデスピサロか?」
男の言葉に、デスピサロの視線が更に鋭くなる。
と、その時。デスピサロはこの男が意外なモノを抱えている事に気付いた。

「何故、貴様がその娘を連れている」
「あんたの事はジタンから聞いた」
答えになっていない。だが、デスピサロだけはそれが何を意味するかがわかる。
この男は何らかの縁でジタンから少女を託されたのだ。
「話せ。洗いざらいな」


デスピサロたちはその男、カインから神殿での出来事を教わった。
回避できたはずの戦いを繰り広げて、3名の死者を出した。
それぞれがそれぞれの感情で、何も言えずに口を噤む。

「そうして、オレは神殿から出た。だが、今の放送だ。
 止めなきゃいけない親友は、既に誰かの手にかかって死んでいた。オレは、どうすればいいんだ…」
「………一つだけ、聞かせろ。その少女を貴様が引き受けた時、ジタンはなんと言った?」
「ん?……確か、『頼む』と」
「そうか。あの愚か者め、これを手放して自分の責も手放したな」
淡々と言うデスピサロの口調は、どこか乾いて虚しいとライアンは思った。

まぁ、脇に少女を抱えているのでとっても道化じみているのだが。

そんなことを考えているうちにデスピサロは踵を返すと歩いていく。
「ピサロどの?」
「神殿に急ぐぞ。ハーゴンが死んだ以上、儀式の施行が難しくなった。
 何をするつもりだったのか調べた上で、今後の行動を決めねばならん」
「しかし、彼は?」
デスピサロは立ち止まると、カインを一瞥する。
「捨て置け。腑抜けに用はない」

デスピサロは出口から外に出て行こうとしている。
カインは自嘲的に「腑抜けか」と呟いている。
何となく似たような状況があったな、と思いながらライアンは言った。
「カインどの、親友を手にかけたものを探してみてはどうでござるか?」
セシルを…殺した」
「何らかの事情があったのかも知れぬし、このゲームに乗った者の仕業かも知れぬ。
 自分が為すべき事を代行したものに会うことで、迷いが開けるのではないか、と」
「………」

「それだけでござる。では、ワシはこれで」
「待ってくれ」
デスピサロの後を追おうとしたライアンをカインは引き止める。
「ム?」
「あんたは…多分信頼できる人だ。一つ、頼まれてくれないか」
「ワシにできることだったら良いでござるよ」
あっさりと答えるライアンに、カインは胸に抱いている少女、リディアを差し出す。

「この子を、守ってやってくれないか。目覚めるまで」
「それは構わぬが、おぬしはよいでござるか?」
「目が覚めた時にオレが側にいるのは不幸なことだからな。その子とはそういう関係だ」
どこか自嘲の混じった声。それが何を含んでいるのかはわからないし、
触れてはいけないことだろうとライアンは思う。
だから、黙ってリディアを受け取った。

「頼む。それと…セシルが死んだこと、隠しておいてくれないか」
「……承知したでござる」

こうして、カインはデスピサロたちと別れ、新たな目的のために動く事にした。
リディアを引き取ったライアンは、合流したデスピサロから散々嫌がらせを受けるのだが、
それはまぁ、自業自得。


【デスピサロ 所持品:『光の玉』について書かれた本
 第一行動方針:神殿に行く
 第二行動方針:腕輪を探す・偵察
 最終行動方針:ロザリーの元に帰る】
【ライアン 所持品:大地のハンマー エドガーのメモ(写し)
 第一行動方針:デスピサロに同行する
 第二行動方針:リディアの保護
 基本行動方針:来る者は拒まず、去るものは追わず】
【バーバラ(負傷)
 所持品:果物ナイフ ホイミンの核 ペンダント メイジマッシャー
 第一行動方針:デスピサロに同行する
 第二行動方針:レナの遺言を果たす】
【リディア(気絶中) 所持品:なし
 第一行動方針:?
 第二行動方針:エーコバッツたちと合流
 第三行動方針:仲間(セシル?)を捜す】
【現在位置:神殿周辺、地下通路の出入り口】

【カイン 所持品:ビーナスゴスペルマテリア(回復) 天罰の杖
 第一行動方針:セシルを殺したものを探す】
【現在位置:神殿周辺、地下通路の出入り口】


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最終更新:2011年07月17日 22:51
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