ヘンリーは憤慨しながら腰をあげると、
ミスリルアクスを右手に掴んだ。
「マヌーサごときでっ」
呪文が見せるいくつもの
ミレーユの幻を打ち払うべく、斧をふりまわす。呪文の効果はあっけなく途切れた。
髪をふり乱して走り行く、ミレーユの後ろ姿だけが遠くに残った。
ヘンリーはすかさず斧投げの体勢に入った。
だが斧を握って振りかざす右腕が、頭上でとまる。
ミレーユに投げつけるには、距離がありすぎるからだ。体勢を戻すのに時間のかかったヘンリーは
追撃の機会を逃がした。軽く舌打ちする。
「いいさ、次は万全の状態でやってやる」
肩で大きく息をして腕を下ろす。視線の先の雪景色には、足跡がくっきりと一本の筋道となって残っていた。
彼の目からは既に、ミレーユは黄色い点であった。
また雪は降ってきた。足跡もじきに消えてなくなってゆく。
旅の扉の位置を把握しなければならないし、早めに行くべきだと思ったヘンリーは、後方でそびえる
山脈のふもとで暗い口を開ける、ロンダルキアの洞窟に足を運ぶことにした。
追撃がないことに安心しつつも、
セリスを説得できる自信が揺らいでいることにミレーユは悩む。
そして、やっとの思いで、ステップを踏むような走り方をしているセリスに追いつくと
「セリスさん、止まって!」
荒い息づかいも抑えずに、彼女の手をつかんだ。セリスの手はひどく冷たかった。
「なぜ?
ロックが北にいるというのに」
セリスは足を止め、奥底にある力を感じさせない灰色の瞳で言って返した。
「あの男は邪魔な私たちを消すために嘘をついたのよ、北には誰もいないの!」
自分を取り戻してほしいから、ミレーユは熱のこもった声を出す。
セリスは反応を見せない。ただ、茫然と降りしきる雪の数をかぞえるように、表情を崩さす横を向いている。
ミレーユはセリスの正面にまわると、両肩を手で押さえて顔を見つめた。セリスは目を逸らそうとする。
「戻りましょう、距離的に洞窟の旅の扉以外は多分間に合わないから。だいじょうぶ、女同士力を合わせて
真っ正面から闘えば、あの男なんかに負けはしない」
そう言ってセリスの方を揺さぶった。
「でももしかしたらロックはまだここに……」
言いよどむセリスにも変化の兆しはあった。葛藤しているのだ。決定的に異なる願望と現実、その合間に
苛まれて。
「目を覚まして! どこを探しても彼はもういない!」
ミレーユはしきりに叫んだ。正気に戻って、自分を取り戻してと。
そして手にぐっと力を込めた。右手を肩から離すと、セリスの頬を一発はたいた。
「ロックさんは死んだのよ」
ミレーユは静かに言った。
「あなたには可哀相だけど、しっかりと目を開いてほしい。現実を受け入れてほしい。
どうしようもなく、辛いことでしょうけれど……」
セリスがその場に崩れて膝をついた。忌まわしい現実をのみこんだ瞬間だった。
「行きましょう。このゲームは悲しいことがありすぎる。早く止めさせなければいけないのよ。
……私も、苦しみを味わったから」
セリスの肩を抱いて、涙を見せる彼女を優しく立たせてあげた。
放送を聞いたあとには、誰もが絶望を与えられる等しさがあり、狂いに向かってひた走る
可能性が
あることをよく理解できるために。
ミレーユもまた、夜中の放送を聞いているのだ。
【ヘンリー
所持品:食料多、支給ランプ×2(リバスト・アグリアスから回収)ミスリルアクス イオの書×3
まどろみの剣 なべのふた
スリングショット ブラッドソード
リフレクトリング 弓矢(手製)
第一行動方針:洞窟へ行く
基本行動方針:皆殺し(とんぬら優先)
最終行動方針:全てが終わった後、
マリアの元へ逝く】
【現在位置:東の平原、洞窟そば】
最終更新:2011年07月18日 06:54