仮想空間

デスピサロを先頭に、サマンサ、バーバラ、ライアン、デッシュエドガー、ティナ、アルスの八人は儀式の間に向かった。
部屋は既に準備が整っていた。儀式の内容を把握するついでに、サマンサが準備を整えたのである。
あとは燭台に火を燈し、供物を台座に添えるのみだ。
もちろん、供物というのはヒトの首である……

「では、儀式を始めるにあたって、内容について発表してもらおうか」
「それは構いませんが、あの少年たちを待たなくとも良いのですか?」
一応問うサマンサ。デスピサロは構わん、とだけ返した。
天空の武器を使う少年、クーパーたちが向かった湖の祠にも旅の扉が発生した。
目の前に扉があるのに、時間を押してわざわざ神殿まで戻ってくるか、疑問だからだ。

「わかりました。では、始めさせていただきます」
サマンサはそう言うと颯爽と一礼した。
アルスはそれを複雑な気持ちで見ていた。そこには自分の知らない、かつての仲間の姿があったからだ。
苦楽を分かち合い、共に戦ってきた仲間の事を、自分はどれだけ理解していたのだろう…

「まずは、この世界の成り立ちについて話します。最初に言っておきますが、これは儀式の企画者、ハーゴンが考察し、その断片を書き記し、あるいは口頭で伝え残した『情報』を、私の中で再構成したものです。
 ですから、これから言う事をハーゴンが考えていたのかどうかはわかりません。
 それだけはご了承ください」
サマンサの正面にいるデスピサロとエドガーはすぐさま肯いた。
それにつられてエドガーの隣のデッシュとバーバラも首を縦に振る。
ライアンはバーバラの後ろにいるが、既に怪しい様子だ。
そしてアルスとティナは集団から一歩下がった場所でその様子を見ている。

「まず最初に。このゲームの最初、全員が一堂に集められ、武器や道具を破壊された事はまだ記憶に新しいと思います。
 ここで問うべき事は、どのように、武器や道具だけを、所持者に傷を負わせずに破壊したのか、と言う事です」
「よくわかんないけど、ゾーマの魔法じゃないの?」
バーバラの答えに、サマンサは首を横に振る。

「正解でしょうが、適確ではありません。
 例えば、一般に使われる物理干渉の魔法では所持者を全く傷付けないことは不可能です。
 正確には呪いと言うべきでしょうね…まあ、呪いと一口で言っても非常に広義ですが。
 例えば、情報の変質、誤差の誘導、認識の反転、仮想の書き換え……」
「要は物理的干渉の結果、武器を破壊するのではなく、直接武器を破壊したということだろう」
サマンサはデスピサロのフォローに肯く。
「私は専門外なのでわかりませんが、手間と膨大な魔力をもってすれば実現可能ということです。
 ですが、情報の直接的な書き換えは下手をすれば術者のほうが存在そのものを抹消されかねない諸刃の剣です。
 そこで利用されるのが仮想空間です」

「仮想空間?」
「要は、世界の上にもう一つ世界を作ることで擬似的な直接干渉を行うわけです」
???マークを頭に浮かべる一堂(デスピサロ除く)。
「つまり……どういうことだ?」
尋ねるデッシュに、サマンサはやや興奮しながら言う。

「つまり、この世界はゾーマの魔法によって作られた仮想世界なのです」

「それじゃ、あのアリアハンは…!?」
思わず口に出すアルス。
「私たちがいたアリアハンではありません。別の世界です」

「確かに帝国領は不自然に人の気配がなかった…だが、それだけでは」
「理由はまだあります。このゲームには世界が異なっている者達が集められています。
 そして、それぞれの世界の魔法を普通に使っている。
 ですが、法則や魔力の在り方自体が違うのに使える、それ自体がおかしいんです」

「…なるほどな。ここで我等が使う魔法は、仮想世界によって擬似的に発動しているのか」
「おそらく。ですから、元の世界に比べて効果が変わっていたり、弱体するのです。

 魔力を制限されているのではなく、そもそも魔法は発動していないのです。

 仮想世界が「魔法を唱えた」ことに対してアクションを返しているから魔法が使えると誤解しがちですが、仮想世界が「魔法を唱えた」ことにアクションを返さなくなったら、魔法は使えなくなるんです。
 そして、アクションを返すかどうかの決定権は、ゾーマにある……」

奇妙な沈黙が周囲を満たした。頭を掻きながら、デッシュが呟く。
「なんと言うか、凄まじいな……そんな凄いヤツが相手じゃ、抵抗する気もなくなる」
「ですが、完全じゃありません。確かにこれだけの仮想世界を構築するのは並大抵の技ではありませんが、それは綱渡りのようなバランスの上に成立しているのです。
 仮想世界を構築する上で元となるモノがあると思いますが、それが内包する情報…例えば「夜間に雨が降る」…といったスケジュールを変えることは出来ないようですしね」
「…あの雨は、ゾーマが降らしたわけじゃない、と言うこと?」
「ええ。放送で言ったのは、そういった気象の変化ですら制御している事をアピールするためでしょうね。
 実際は、昼夜逆転させるラナルータの呪文だけで崩れてしまうような、危ういものです。
 ですから、付け込む隙はあります」

「つまり、まとめるとこういうことだな。
 我々のいる世界はそれぞれの世界によく似た別の世界である。
 この世界では我々本来の魔法は使えない。だが、擬似的に偽者の魔法が発動する。
 そしてこれは俺の予想だが・・・擬似的な魔法ではこの世界を崩壊させることは出来ない」
エドガーの説明に、うなずくサマンサ、バーバラ、デッシュ。
デスピサロは黙ったままで、そんな彼をアルスはまだ睨み付け、それをティナが不安げに見守っている。
そしてライアンは、ウムムと唸っていたが、とりあえず誰も気にすることはなかった。

「現状ではそうでしょうね。唯一、ラナルータが世界を崩壊させてしまうバグを秘めていたわけですが…」
「それに気づいた主催者側が、すぐさま禁止魔法にした。あの不自然なタイミングでの放送はそれが理由か」
「その通りです。それゆえに、ハーゴンなるものはこの世界そのものが虚実であり、幻のようなものだと考えたようです」

そこで、バーバラが手を上げた。
「ちょっといい?あのね、私の世界でも魔王が幻の世界を作ったんだ。
 夢が集まる世界を具現化させて、形を持った夢を消し去ってみんなを絶望に包もうとしたの」
「夢の世界か・・・なんかメルヘンチックだな」
デッシュの何気ない言葉に、バーバラを首を横に振る。
「そうでもないよ……夢の世界は、個人個人で独立してるわけじゃないから。
 思いが弱い人は夢の世界でも弱いし、逆に強い人はベッドですら空を飛ばすことが出来るのよ」
「それで、そのときはどうやって魔王に対抗したのだ?」
デスピサロの言葉に、バーバラは、
「うーん、なんていったらいいのかな。夢見の雫っていって、夢を具現化するアイテムがあったの。
 それのお陰で、夢と現実を行き来することができるようになったんだけど」
「その状況を我々に当てはめるなら、この仮想空間からゾーマの世界に行く方法を探さなくてはならない。
 n次元の存在は、n+1次元の存在を知ることは出来ても触れることも出来ません。
 だから、我々がとるべき道は、ゾーマと同等になるか、ゾーマを我々の舞台に引き釣りださないといけません。
 そして、この儀式は……」

「仮想空間を破壊することで、ゾーマを我々の舞台に引き釣り出すということか」

周囲を静寂が満たした。
とりあえず、これからなすべきことはわかった。
ゾーマを引き釣り出すというこの企みが、一体どんな結末をもたらすのか。
もし成功したとしても、ゾーマと戦うことになるのか。あの、恐怖の塊のような存在と…
事の重大さと、今から感じる大魔王の戦慄に、一堂の背筋に冷たいものが走る。

が、影響を受けていない人物が約一名いた。
「まあ、なんにしてもそれが成功すれば良いことでござるな」
ガクリ、と皆が脱力する。バーバラはジト目を背後の戦士に向けた。
「お気楽なもんねー。成功してもそれで全部解決って訳じゃないのよ?」
「ワシには難しくて詳しいことはわからぬが、ゾーマが剣の届く所にくるのなら、歓迎するでござる。
 いくら剣を振るおうと、アヤツにそよ風一つ与えられぬ今よりはよっぽどマシでござるよ」

しれっと言い放つライアンに、唖然とする一同。
「……クッ。ハハ、ハッハッハ!」
デスピサロは軽く震え、それから大きく体を揺らして笑い出した。
一見すると冷徹なイメージのデスピサロの哄笑に、他の者は更に唖然とする。

「その通りだ、ライアン。何もしなければゾーマに一矢報いることもできず、殺しあうのみならば。
 私は認めぬ。ゾーマに作られたような運命は否定する!」
「ワシも否定するでござる。これまで奪われた命、それが無駄ではなかったことの証のために!」
ライアンの言葉に肯き、デスピサロはその場にいる者たちを見回す。
「お前たちも覚悟を決めるがいい。この場に残ってもけして後悔せぬという者のみ残れ。
 引止めはしない。己が選択せよ!」

真っ先に口を開いたのはアルスだった。
「ゾーマと戦えるというのなら、僕は残る」
「アルス君!?」
「もしも僕が選ばれた勇者だというのなら、ゾーマを倒すことが僕の使命だから」
力強く言うアルス。デスピサロを信用してはいない、いまだ警戒している。
それでも、倒さなくてはならない相手がゾーマだ。そんな決意は、ティナにも伝わってきた。

「そう、なら私も残る。大切なことから逃げる、そんな後悔だけはしたくないから」
「私も残るよ。テリーのような子を、これ以上増やすわけにはいかないわ」
こうして、ティナとバーバラも参加表明した。

「さてと、俺はどうするかな」
「…おい、エドガー?」
デッシュの非難がましい言葉に、軽く指先を振って見せる。
「別に儀式を否定しているわけじゃないさ。だが、儀式を成功させたとしても難関を一つクリアするだけだ。
 依然としてこの首輪は残るし、方法は他にもあるかもしれない。
 第一、俺にできることなんてなさそうだ。なら、黙って見てるよりも出来ることをやろう」
「それは、……そうかもしれない」
気を落とすデッシュの肩をポンポン、と叩いてからエドガーはデスピサロに言う。
「そういうことだ。色々準備もあるし、しばらく考えてみるが期待しないでくれ」
「好きにするがいい」

「勿論、私は聞くまでもないでしょう?」
「そうだな。サマンサ、魔法が使えるものたちに儀式の詳細を伝えてやれ。
 アルス、貴様にはマジャスティスを使えるようになってもらうぞ。
 時間がない故に手荒い、覚悟しておけ」

【デスピサロ 所持品:『光の玉』について書かれた本
 第一行動方針:マジャスティスの伝授
 第二行動方針:儀式を行う
 第三行動方針:腕輪を探す
 最終行動方針:ロザリーの元に帰る】
【アルス 所持品:小さなメダル 天空の剣 対人レミラーマの杖 黄金の腕輪
 第一行動方針:マジャスティスの習得
 第二行動方針:儀式をおこなう
 第三行動方針:デスピサロの真意を探る
 基本行動方針:弱きを守り悪しきを裁く
 最終行動方針:ゲームを覆し、ゾーマを倒す】
【サマンサ 所持品:勲章 星降る腕輪 手榴弾×1 ハーゴンの呪術用具一式
 第一行動方針:儀式を行う(準備完了)
 基本行動方針:デスピサロに従う
 最終行動方針:生き残る】
【デッシュ(寝不足) 所持品:首輪 裁きの杖
 第一行動方針:儀式不参加?エドガーと情報交換
 第二行動方針:首輪の解除法を探る、マテリアの生成方法を調べる?
 最終行動方針:首輪を解除しゲーム脱出】
【ライアン 所持品:大地のハンマー エドガーのメモ(写し)
 第一行動方針:儀式を行う
 第二行動方針:デスピサロに協力する
 基本行動方針:来る者は拒まず、去るものは追わず】
【バーバラ 所持品:果物ナイフ ホイミンの核 メイジマッシャー
 第一行動方針:儀式を行う】
【ティナ 所持品:プラチナソード チキンナイフ
 第一行動方針:儀式を行う
 第二行動方針:仲間を探す】
【エドガー 所持品:ボウガン 天空の鎧 スナイパーアイ ブーメラン
 第一行動方針:儀式不参加?デッシュと情報交換
 第二行動方針:首輪の解除方法を探す
 最終行動方針:首輪の解除】
【現在位置:神殿】


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最終更新:2011年07月18日 07:10
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