「
アイラ…さん?」
ミレーユはその姿を見て呆然と呟いた。
ゲーム開始直後に出会った女性、彼女に支給されたチェスで一時を過ごした事がある。
あのときの彼女は生気に満ち溢れ、使命感を秘めた強く美しい人だった。
今はどうだ。瞳に光は無く、全身に気だるさが篭っている。
瑞々しい肌は青くくすみ、片腕では切り落とされて存在しない。
幽鬼だ。そういうより他に表現方法はない。
「アイラさん、でしょ?よくぞ無事で……」
はっと、ミレーユは思い出した。彼女が探していた人は、最初の放送で呼ばれていた。
それで
セリスのように我を失って、こんな姿に成り果てたのか……?
一方アイラ。
彼女に思考能力など、ない。ミレーユなど、そもそも気にならない。
彼女を支配するのは、自分に差し伸べられた暖かい手。
呪いに捕らわれる我が身を照らす、主の声。我が王の御言葉。
それ以外は全て些末事だ。
ミレーユの脇を通り抜けて、アイラはビルの外へと歩いていく。
「待って!」
そんな声に耳を貸すわけも無く、立ち止まりもしない。
ミレーユにとって幸運だったのは、呆気に取られてアイラの行く手を遮れなかったことだ。
邪魔をする相手には容赦も遠慮もしない、苦痛も疲労もない屍。それが今のアイラだから。
しかし、そんなことはミレーユが知る由もない。
知り合って言葉を交わした女性が相次いで気が触れた行動をすることに彼女は愕然とする。
何で、自分がこんな目に会うんだろうと――――
自分のやる事なすこと全てが裏目に出ている気がして、目の前が暗くなる。
やはり、自分に出来ることなど、何もないのだろうか、と。
――――危険を避け、一人で時を過ごした方がいいのか、と。
ミレーユは頭を振った。いけない、こんなことでは。私は変わるんじゃなかったのか。
無意味かもしれない、でも何もしないよりはいい。
そう思ったから、セリスを連れて次の世界に来たんじゃないか。
ある方向から、足音が聞こえてくる。セリスがいる。
どちらも放っておけないけれど……
ビルから去って行くアイラに一瞬視線を向けてから、ミレーユはセリスの後を追った。
【セリス(
記憶喪失・自我薄弱) 所持品:
ロトの剣
行動方針:とりあえず高い所へ】
【現在位置:神羅ビル外】
【アイラ(
ゾンビ・左腕欠損) 所持品:チェス板、駒
死者の指輪 ダイヤソード
第一行動方針:ゾンビ状態中はとんぬらを探してついていく。死者の指輪が外れたら???】
【現在位置:神羅ビル・正面】
最終更新:2011年07月18日 07:34