「落ち着いたかね」
声をかけられて、
ティーダは振り向いた。
そこには、ボサボサの黒髪に口髭、筋骨隆々とした中年の男がいる。つい先程助太刀してくれた男だ。
「あー。まぁ。一応。かな」
ティーダは曖昧な返事をした。
落ち着いた、といわれればそうかもしれないとは思うが、正確には疲れたのだ。
叫んで、叫び続けて……でも誰かが生き返るわけもなくて、それで疲れたのだ。
だから、落ち着くというよりは、落ち込む、というのが正しいと思う。
はぁ、と一つ溜息をつくとティーダは背筋を伸ばした。
終わってしまったことをウダウダ愚痴っていても何も変わりはしない。
そんなことで立ち止まるより、
可能性を信じた方がいい。無限の可能性というやつを。
「そういや、まだ礼も言ってなかったっけ。その、助けてくれてありがとうっス。
あっと、俺、ティーダ。で、あっちが
エアリス」
ミレーユの亡骸を抱いて項垂れているエアリスを親指で示す。
中年の戦士はフム、と顎を動かすと。
「
パパスだ。礼には及ばん。あの少年を放置してしまった責は私にもある」
「……どういうことっスか?」
パパスはこれまでの経緯を説明した。
以前のフィールドで
スコールと遭遇し、見逃してしまったことを。
ティーダは何ともいえない気分になった。パパスに非が無いことはわかるが、
もしも前のフィールドでスコールを殺していれば…そう思うとやりきれなくなる。
だから、口に出したのはこんな台詞だった。
「そういうことはあまり言わない方がいいと思うっス」
「そうかな……?」
「あの時ああしていれば、こうしていれば……そんなこと考えるのは果てしないから」
もしも、を考えるのは人の常だ。しかし過去が変わることはなく今が良くなる事はない。
けれど未来を良くする事はできるだろう。
「死ななくてもいい奴がこの先死なずに済んだ。そう考えた方が健全っスよ。……多分」
「そうだな。後悔は死ぬ前でも遅くはない。今は先のことを考えよう」
そう言うと、パパスは脇に持っていたものを地面に降ろした。
それは、武器や道具袋である。自分とエアリスの物ではない。つまり、そういうことだ。
「放置して悪用されるとも限らん。使えるものは頂戴し、そうでないものは破棄しておくべきだろう」
「そっスね」
「なかなかしっかりした造りの剣だ。使わせてもらおう」
バスターソード、
妖剣かまいたちを確保するパパス。
「アレ、この柄どっかで見たことあるなぁ?どこで見たっけ??」
よく思い出せないが気になったので、ロトの剣はティーダが持つ事にした。
ドラゴンテイルは何かの役に立つかもしれないから保持しておくとして、
ガンブレードは破棄することにした。使い方がわからないし、そもそも使う気になれない。
「あれ、これ?」
ティーダは折れた正宗を手にとった。雪原で捨てた筈のものである。
クラウドが偶然拾ってこの世界に持ち込んだのだが、それを知らないティーダには、ただ不気味なだけである。
「……後で処分しとこ」
続いて袋の中身だが、ミスリルシールドはティーダが欲しがったので彼の物になった。
マテリアや
真実のオーブは一見何の役にも立ちそうになかったが、
嵩張るものでもないからということで、これもティーダが持つ。
妖精のロッドと
月の扇は、女物だからエアリスの判断に任せよう、ということになった。
食糧や燃料は三等分する。
とりあえず配分を終えたパパスとティーダはエアリスの元に向かった。
声をかけると反応して見上げてくる。目元は真っ赤だが、意識はしっかりしているようだ。
パパスの素性や道具の分配のことを説明すると、
「わかった。じゃ、これは私が持っておくね」
そう答えて、自分の道具袋にしまう。
「大丈夫かね?」
パパスが念の為そう問い掛けてみると、エアリスは疲れたままで笑顔を浮かべた。
「大丈夫、じゃないかも。布団に入って、ぐっすり眠りたいかも」
こうしてティーダとエアリス、そしてパパスはエアリスの家に向かった。
三人を待っていたのは物言わぬリノアの首だったが、
他に人の気配や危険もなく、周囲は静寂に浸されている。
エアリスは火傷の治療をした後で自分の部屋のベッドに潜り込んだ。
現実を受け入れるために、今は眠りが必要だった。
パパスとティーダはリノアの首を庭先に埋めることにした。
適当な花を切って、埋めた場所に供える。
何となく、ティーダは呟いてみた。
「何で、この人笑ってたんスかね」
「満足して死んだという事かも知れぬな」
「寂しいっスね」
「そうだな」
このゲームが始まってから、周囲は死に満ち満ちていた。
生きて、死んでいく様をいくつも見てきた。それは悲しく、寂しい事だった。
けれど一番寂しいのは、そんなこの世界の雰囲気に慣れ始めている事かもしれない……
訳もなく、そう思った。
【パパス 所持品:
アイスブランド イオの書 バスターソード 妖剣かまいたち ドラゴンテイル 食料多
第一行動方針:
バッツと双子を捜す。 とんぬらに会う。
最終行動方針:ゲームを抜ける】
【ティーダ
所持品:いかづちの杖
参加者リスト 吹雪の剣 ロトの剣
小型のミスリルシールド
マテリア(かいふく) 真実のオーブ
第一行動方針:
アーロンを探す
最終行動方針:何らかの方法でサバイバルを中止、
ゾーマを倒す】
【エアリス 所持品:
癒しの杖 エドガーのメモ マジャスティスのメモ 癒しの杖 妖精のロッド 月の扇
第一行動方針:休養
最終行動方針:このゲームから抜ける】
【現在位置:エアリスの家】
最終更新:2011年07月17日 15:28