上を目指して

「はあ、もう真っ暗だ」
ティーダは欠伸をかみ殺しながら呟いた。

この家にいたリノアを葬った後、パパスと情報交換した。
パパスの探し人であるとんぬらとティーダの探し人であるアーロンが接触したらしいこと以外、
お互い求める情報はなく、あまり意味はなかった。
だが仕方ないことだ。何もかもうまくはいかないだろう。特に、こんな場所では。

パパスはすぐにでも探し人を見つけに行きたかったが、
エアリスが部屋に閉じこもっているので、一先ずここに留まることにした。
彼女がどんな選択をするかはわからないが、それを見届ける責任が自分にはあると思う。
そんなパパスをティーダは受け入れた。そして彼に警戒を任せ、つい先程まで眠っていたのだ。

ずいぶんと中途半端な時間に起きてしまったが、
いい加減眠り飽きたし、そろそろ交代したほうがいいだろう。
起きている筈の男を探して……家の中にいないことを確認した。
外か? もしかして、どこかにいってしまったとか?
それも仕方ないことだと思う。ティーダは頭をかきながら外に出た。

パパスは、そこにいた。
花園の中、直立不動の姿。
体の正面、鞘に納まった剣を杖のように地面に立て、柄に両手をのせる。
さらさらと花を揺する風がやんわりと男の黒髪や口ひげを撫でている。

不思議な光景だと、ティーダは思った。
夜の花園に佇む中年。言葉にすれば恐ろしく齟齬がある。
なのに、そんな光景があの中年には似合う。
花園に溶け込むような美しさはない。ただ、美しいものを従える威厳がある。
ノーブレス・オブリージュ、統べる者の心構えを有するが故のカリスマ性。

アーロンとも父ジェクトとも違う何かをパパスから感じて、その場に立ち竦む。
どれだけの時間が過ぎたか。動いたのはパパスだった。

「そこで何をしているのかね」
「え? あーっと、今起きたとこッス」
振り向いて何事もなかったかのようにたずねてくるパパスに、あわてて返答する。
それで、よくわからない硬直は消えた。後は自分のペースを取り戻すだけ。
「そうか。彼女は?」
「いや、まだ寝てる見たいッス」
そうか、とパパスはうなずいた。そして視線を向こうに戻す。
沈黙。話題が見つからず、気持ちが空転する。さて、何を話したものか。
考えるティーダだったが、次に口火を切ったのもパパスだった。
「静かなものだ。アレから、誰一人ここに近寄った気配はない」
「はぁ」
「誰もいないのか、それとも何かがあったのか」
「何か?」
「……君は、例の定時放送を聴いたかね?」

あ、とティーダは呟いた。そういえば主催者側の死者を告げる放送がない。
「いや、聞いていない」
「わしもだ。前回の旅の扉の出現時間が遅れたこといい、
 崩壊するタイミングが早かったことといい、何かがおかしい」
「うーん。誰も死ななかったから、とか。ここのは昼過ぎでさ、次の放送で言うとか?」
「それはない。最後の放送があってから正午までに、少なくとも一人死んでいる」

そんな時だ。
彼らのいるミッドガルに、エドガーの放送が流れたのは。

顔を見合わせる少年と中年。
「今の放送……」
「……どう思う?」
少し考える少年と中年。
「本当なら凄いことだけど」
「うむ、罠でないとも言い切れんな」
こんな世界で、あんなことをさせられてきたのだ。疑うなと言うほうが無理だろう。

しかし、手詰まりのこの状況では、エドガーの誘いに乗るしかないと言うのもまた事実だった。
「でも、もしも本当のこと言ってるなら、俺たち生きて帰れるかもしれない」
「その通りだ。すぐに向うべきだろう」
救いだろうが罠だろうが、そこにいけば何かがあるのだから。
ティーダは力強くうなずく。

「って、エアリスは?」
二階を見上げるティーダ。部屋には明かりが灯っていない。
まだ眠っているのか。悲しみ疲れているんだろう。しかし、起こさないといけない……
そう思った二人だったが、その声は意外な所から聞こえてきた。

「私なら大丈夫。さ、行こう」
荷物から服装化粧まで準備万全のエアリスが、玄関から出てくる。
その表情に悲観はない。柔らかで芯の通った彼女そのままだった。
「大丈夫かね」
一応、パパスが声をかける。エアリスは苦笑を浮かべると、はっきりと答えた。
「大丈夫、じゃないかな」
「は?」
唖然とするティーダに、エアリスは重ねて言う。

「平気じゃない、けどやるべきことがあるなら、今はそれをしないとって思う。
 可能性があるのなら、それがどんなに辛くても、悲しいことでもやらなきゃ。
 私が出来ることなんて小さなことかもしれない。何も変わらないかもしれない。
 それでもやらなきゃ。希望は繋がなきゃ。そうやって、私たちは生きるんだから」

ね? と笑顔を浮かべる彼女に、男二人は何も言えなくなる。
彼女の言うことは正しい。けれど、それを口にするまでにどれだけの葛藤があったか。
絶望を押しのけて、それでも希望を信じると言うことがどれだけ難しいか。

それがわかるから、パパスは口元を緩めた。
「そうか。君は思った以上に強いようだ、安心した」
パパスの賞賛をエアリスは素直に受け止める。もう大丈夫だと、自らを信じ込ませるように。
そんな彼女の姿が、スピラで出会ったあの少女の姿と被って、ティーダの胸は熱くなる。
だから誓う。絶対に帰る、と。絶対に諦めない、アイツに会うために絶対に生きのびる、と。



こうして、ティーダ、エアリス、パパスは上を目指して出発した。
それぞれの胸に、それぞれの希望を抱いて。


【パパス 所持品:アイスブランド イオの書 バスターソード 妖剣かまいたち ドラゴンテイル 食料多
 第一行動方針:神羅ビル前からゾーマ城へ
 第二行動方針:バッツと双子を捜す。 とんぬらに会う。
 最終行動方針:ゲームを抜ける】
【ティーダ
 所持品:いかづちの杖 参加者リスト 吹雪の剣 ロトの剣 小型のミスリルシールド
     マテリア(かいふく) 真実のオーブ
 第一行動方針:神羅ビル前からゾーマ城へ
 第二行動方針:アーロンを探す
 最終行動方針:何らかの方法でサバイバルを中止、ゾーマを倒す】
【エアリス 所持品:癒しの杖 エドガーのメモ マジャスティスのメモ 癒しの杖 妖精のロッド 月の扇
 第一行動方針:神羅ビル前からゾーマ城へ
 最終行動方針:このゲームから抜ける】
【現在位置:エアリスの家】


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最終更新:2011年07月17日 15:29
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