第9章 滅びの分岐点

AZA本部は深刻な雰囲気に包まれていた。それはたった一冊の観察記録、しかしそれに伴って分かった事実が多すぎた。

それは少し前のこと・・・異次元から流れ着いた「ゾビッポン観察記録」はAZA本部に持ち込まれた。隊長とオーバー5人はそれを読み進めていた。そこに書かれていた事実だけでも衝撃的なものだった。「つまり・・・『ゾービの惨劇』で滅んだ並行世界があるの?」ゆびが重い口を開く。「そういうことになる。」隊長が答えた。恐ろしい事実だった。もしかしたらこの世界もそうなっていたかもしれない。「赤いゾビッポン、Quickeningと交友関係を結んだ人間というのも興味深いね・・・」すしが言った。

日記の要約はこうだ。日記の作者タクミの世界でもかつてのこの世界同様にゾビッポンがエネルギー利用されていた。しかし、あちらの世界でも「ゾービの惨劇」が起こりゾビッポンが反逆を始めた。しかしその中に、はぐれ者の赤いゾビッポンがいた。タクミはそのゾビッポンと仲良くなりQuickeningと名付ける。ゾビッポンの反逆は日に日に勢いを増し、とうとう世界に残った人間はタクミのみ。彼は異次元を移動できる装置を開発していたが未完成であり、タクミは残る必要があった。Quickeningだけが異次元へと脱出。その時に観察記録も異次元に放り込んだようだ。タクミの行く末は分からないがゾビッポンになったことはほぼ確実だろう。

こちらの世界では「ゾービの惨劇」は一国が沈むに過ぎなかった。いや一国が沈むのも相当に恐ろしいことだが、世界というレベルを見るともはや霞んで見えた。

一通り読み終えた6人。その時、「・・・なんだ!なんだこの記憶は!」突然ミキが苦しみだした。「どうしたの!ミキくん!」

孤島では戦いがひと段落。クムト・デューは戦いのデータを見返していた。「ほう・・・思った以上にどいつもやるな・・・これなら素体無しでも行けそうやな。」

ゾビッポン帝国にはゾビッポン四天王の欠員した一体を除く、三体が揃っていた。「腐食狩人ゾビアーチャ!」「腐食魔導士ゾビマジーラ!」「腐食剣士…ゾビソルダ…」「久しいな、ゾビソルダ。」ゾビホウが言う。「修行により長らくここを空けていたが…ゾビデータはどうした。」「あいつはAZAのやつらにやられた。今クムトが欠員を埋めうるものを作って戦闘訓練をさせてる。」ゾビアーチャが答えた。「フン…あの人間、本当に信用できるのか?」「今はやつを利用するしかないだろう。」

AZAでは、ミキがやっと落ち着いてきていた。「いったい何だったんだ・・・」デビが言った。(とうとうこの日が来てしまったか…)リュウの声だ。(今こそ真実を話そう…ミキの正体を…タクミとは何者か…)

リュウが話し始めた。(それはあちらの世界の『ゾービの惨劇』の時だった…その日記にある通り、タクミは最後の最後まで抵抗を続けていたが、ゾビッポンになってしまった。しかし、その日記にある通りタクミはゾビッポンへの耐性があった。それは肉体だけじゃない。魂にも染み込んでいた。我は世界の均衡を守る龍…あの時点で世界の均衡はゾビッポンのものだった。つまりゾビッポンに反逆していたタクミは我が敵でもあった。しかし、私にはタクミを見捨てることはできなかった。ゾビッポンになりきらないうちにタクミの魂を私は回収し、保存した。)

「魂を保存!?」ゆびが訊いた。(そうだ…私はこの魂を保存し機会があったら報われるようにしてやろうとした。しばらくしてまた『ゾービの惨劇』が起こった世界が出てきた。それこそがこの世界だ。この世界では国一つで惨劇は収まった。その滅んだ国で最後まで抵抗した者こそミキ、この世界のタクミに当たるものだ。ミキもまた極限まで追い詰められていた。こちらでもあの異次元を作る装置は作っていたようだが、完成には至っていなかった。恐らくゾビマジーラはそれを利用したのだろう。そして、ミキの肉体は完全に機能を失うところまで追い詰められていた。我が力でその肉体を回収し、そして保存してあったタクミの魂を融合させて意識を取り戻した。しかし魂というのは繊細なものだ、辛うじてゾビッポンへの恨みと平行世界の同一人物が接着剤となって、比較的ダメージは少なく済んだが、それでも大部分の記憶が失われた。そこで我が龍群地に連れていき、一から戦士としての修行を積ませた、というわけだ。)

「それじゃあミキくんは!」桃ぽよが気づいた。「Quickeningによく似たあの赤いゾビッポンと闘えなかったのはそういうことだったのか!」(そういうことだ…タクミの魂はほとんど残っていないはずだが、あいつとの思い出は強すぎて消えなかったのだろう。しかし、今この日記を前にしてタクミの魂が戻ろうとしているのかもしれない。)

「・・・」ミキは黙っていた。まだ前の記憶もタクミの記憶も戻らないようだ。(我の勝手な判断でお前には余計な戦いを強いることになってしまったかもしれん。済まなかった…)「いや、むしろ感謝してる。そのおかげでこうしてAZAの仲間に出会えたからね。」(そうか…ありがとう…)

その夜のこと…ゾビマジーラは星を見て言った。「くっ…あの星の動き、凶星か!しかもゾビッポン帝国ではない、この世界そのものの凶兆…!いったいどういうことだ…」

次の朝、ゆびが血相を変えて起きてきた。「あの夢が・・・強くなってる!」

~第9章完~

次回予告! 「腐食剣咀腐…!」「ついに異次元へと旅立つ時だ!」「ちょっと体を動かしたくなってね」 次回!「連携と連携の協奏曲
最終更新:2020年12月22日 21:24