「ほおおおん。 それで全裸の女にあてられてポッポッポー、か! 全く、うぶいやんぐだなおまえ!」
「… ヤング? 」
「まあったく、隅に置けんなあ斉藤クンは。…っととッ、危ねえ。俺のホルモンさんが焦げる所だったぜ…」
「俺にはクンでホルモンにはさんかよ。……それにしても、」
「なんで焼肉屋にいるんだ、俺達は…」
in、K市商店街、某焼肉店。
個人経営の為規模は小さく、席は手狭。 然し、来る人間には人気のあるしきりのある角席で、俺は独りごちに呟いた。
「ホルモンさんをディスってんじゃねえよ。 それにしてもFHってのは気前がいいなあ、清貧にあえぐ学生に気前良く焼肉奢ってくれるなんてよ」
機嫌の良さそうな友人をよそに、俺は深く溜息を吐く。
何箸パチパチならしてんだよ。行儀悪いぞ。「ホルモンさん」じゃねえよ。臓物だろ。
美味しいけど。
「まあ俺が福引きで商品券引いてなかったらこんな事にはウグッ」
「――我々の組織は巨大なのだ! この程度は造作も無い!。…どうだお前達ぃ、我々のセルに入らんか。オルフェウスはいいぞ、ちょうてんは一つだからな!」
隣席に居た眼鏡に白衣を着た男がどや顔をしていたかと思えば、突然、まるで足を強く踏み込まれたように言葉に詰まってしまった。
代わりに、引き抜き勧誘を掛けて来たのは、すっきりとしたスタイルの少女だ。
「お断りだ」
「ぬああっ、なんで!?」
「お前らみたいなふざけたな連中と仕事が出来るか、って言ってるんだ」
「…うおい! 私はなあ、真面目な話をしてるんだぞ!田中ぁ、お前コーラもってこい!強炭酸で酔わせるぞ!」
「へぇ、今時そんなもんあるのか。飲んでみてえなあ」
「……焼肉屋でタン塩つつきながら真面目な話してんじゃねえよ…」
「ハムハムッ、ハフッ、え、あ何か言いましたリーダー?炊き立てご飯にロースがウゴッぉ、ぉ…」
今度はまるで脛に蹴りでも入れられたような声をあげながら、眼鏡の男は机に突っ伏す。 それでも最後まで、焼き立てのロース肉が乗ったタレの絡んだご飯茶碗は手放さない……。その執念は何なんだ。
「…それで。 …話の続きをしてもいいか。 真面目に聞けないなら肉を折詰にして帰るからな」
「こ、こいつぅ、しっかり貰うもん持つ気は…。ちくしょーばーか! 早く話せよ! もぐもぐ!」
「…あっ、馬ッ鹿野郎! 俺の上ミノさんが!」
「別にもういいだろ! 私の奢りなんだからぁ!もぐもぐ」
「まだ焼けてねえしそれとこれとは話が別だろうが!帰せこの」
「むぐぐぐー!」
…狛井は、 普段大ざっぱな性格の割りに、肉の焼き方には拘るタイプなのだ。いつかあいつの妹がギャップ萌えです、言っていた気がするけど、それは違うと思う。誰にそんな言葉を教えて貰ったんだ、狛井の妹は。
兎に角、友人は顔を真っ赤にして箸で少女とメインプロセスを行っていたので、俺は落ち着くまでぽりぽりとカクテキを喰って、暫し待つ事となる。
まだ悶絶している男、カクテキを喰う高校生、年端も行かない女の子に容赦ない箸撃をする高校生、それを受け流す少女。
店員さんや他のお客さんの目も最初は偉く気になっていたが、もう今は、どうでもいい。カクテキが、美味しい。それだけで、満たされていた。
《閑話休題》
「……私は、ほーらいにんぎょーの謎を解き明かす義務と好奇心によって動かされている。 どうしてああいう結果になったのか、詳しい話を聞く必要があるのだ。 今はきょーりょくかんけーだからな」
「へえ、あのおっかねえ支部長に良いように転がされてるわけじゃねえんだなあ」
「おい! 口をつつしめ小僧! あの方の話は今するな!」
「おい、今あの方って」
「リーダー素が出てますよ! ほらオレンジジュース」
「あぁっ、ゴッキュゴキュ……。 …ふうう。 …あの女とは、まあほら、何? 対等なかんけーなわけ。 そう!ビジネスパントマンって奴だな!」
ビジネスをしているふりをする人、か。 強ち誤用でも無いんじゃないだろうか?
事の経緯を話そう。
友人の狛井から、仕事場に電話がかかって来た事から、今回は事を端する。
「妹が調理場で化学実験をしている」というので、飯を集られる羽目になったのだ。 元々、そろそろ期末試験もほど近い師走。 一度どちらかの家に行こうという話はしていたのだけど。
そうして狛井と合流した後、また卵ご飯でも出すかな、とオオゼキに足を向けた矢先、あの少女に呼び止められる事になる。言わずもがな、この愉快でご機嫌な頭をしていそうな言葉を繰り返す、この少女。
FHオルフェウス・セルのセルリーダーである、
春日愛理。その御付の田中という男。《プランナー》都築京香が、K市支部に託した「
蓬莱人形」。それに、彼らも何か目的があって近付いている。
支部長としては、アシで使える部下でも欲しかったのだろうか?彼らは、現在UGNK市支部と協力関係、共同研究体勢にある。
人の感情を受けて成長すると聞く、蓬莱人形。 三日前の「あの騒動」によって、お腹周りが人間らしくなった。 それに、自らを「研究者」と自称する少女としては、その顛末を聞きたくなったとのことだった。
「あーあーあー。 私がちょっと出かけている隙にぃ。成長するなら私が見ているときににょきにょきすりゃあいーもんがよーいたっ」
むくれた様にじゅじゅじゅー、と行儀悪くわかめスープを啜る少女の頭を叩く。
「音立てるな。」
これが、今回の事件(妹科学実験編)の、始まりだ。
…何だか、デジャヴだなあ。
「話を早く聞かせろよう。二次会始まっちゃうぞう」
「二次会?」
「焼肉の後のスイーツがなきゃつまらないだろ! 後、ここにも何人か呼んだ、うん」
「……何でまた。」
「お前らだけだとじょうほーが偏りそうだからだ!」
……もうやめて。 焼肉店の座席の数は0よ。
最終更新:2010年12月08日 11:32