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「こんにちは。僕は石です」

しばらく適当に歩き回っているとすぐにエンカウントしたのは第三の芸術幻霊だ。

「あら。私もよ」
「そうなんですか! えっもしかしてミロのヴィーナスさんですか! すごい!」

彼は色めき立つ。

「そうよ。よろしく。撮影可よ」
「一度拝見したかったんです! わあすごい! 肌が白い! 最高! 綺麗!」
「ふふ、ありがとう」
「ミロのヴィーナスさんって、僕のとこですごい有名で、いや世界中で有名なんですけど、特に、みたいな、アイドルっていうか、その、すごく人気っていうか」

二十程度の青年に見える。服装は────いや、そんなものはあてにならない。芸術幻霊の見た目なんて。

「あっよかったらサイン書いて頂いてもいいですか? 自慢したいんで」

彼は懐からペンと色紙を取り出した。色紙を持ち歩いているのか。
差し出されたペンを、なんと彼女は片足の親指と人差し指で受け取り、立ったまま脚でサインをする。
石さんへ。Αφροδίτη της Μήλου♡。
彼女の曲芸を目にした彼はうわあと叫び、卒倒しそうな程に紅潮する。しばらく奇声を発し続けた。

「うわ召喚されてみるもんですね。まさかあなたにもお目にかかれるとは。ニケさんにも会えたし。あっニケさんにはもうお会いになりましたよね?」
「ええ」
「あーよかった。ネタバレになってたかと思いました。見たなら大丈夫ですよね」

べらべらと喋る彼は本当に興奮しているようで、手足をばたばたと動かしている。

「僕、ニケさんも好きで、いやヴィーナスさんも好きなんですけど、ニケさんは芸術幻霊で、なんか頭に乗せてるじゃないですか。ニケさんには悪いんですけどあれちょっと変じゃないですか? ニケさんの本来のバランスが崩れてるっていうか、蛇足っていうんですか、元が綺麗なだけになんか残念で」
「それ! そうそう、私もそう思う。何もしなくて十分綺麗なのにあの子」
「やっぱそうですよね。えっもしかしてヴィーナスさんもなんか付け加えたりしてらっしゃいますか?」
「いいえ。私は私だけ」
「ですよねですよね。よかったー」
「あの子馬鹿だから、なんか余計なことしちゃうっていうか。そういうとこあって」

ミロビちゃんはニケちゃんと親交があるようで、考えてみれば当たり前だ。同じルーヴルの展示品なんだから。
石トークはそのまましばらく続いた。アーチャーは蚊帳の外で暇そうに欠伸などしている。

「さて、この特異点のことについて教えてくれない?」
「はい。でもニケさんがネタバレするなって言ってて、いや僕もご協力したいんですけど、なんか駄目みたいで。芸術幻霊が七騎いるってのはご存知ですよね?」
「ええ。そのうちライダーは倒したわ」
「流石お早い! すごい! あ、えっと、僕はキャスターです」
「私と一緒ね。あの後ろのはアーチャー。そのまた更に後ろがマスター」

言わない方がよかったんじゃないか、それ。

「一応僕も召喚された以上は戦わないといけないって感じなんで、すいませんが後でお手合わせお願いします。すいません」
「ええもちろんよ。尋常にお願い」
「ギリギリ言っていい範囲で言っちゃうと、えっと、勝っても負けても大丈夫です。あ、僕なんかは弱いんで負けるとかあり得ないんですけど、まあ他の人とか、ニケさんとか」
「勝っても負けてもいい、っていうのは、どういうこと?」
「あー、えっと、そのままっていうか、人理とか、なんも関係ないんですよ。ここは。そもそも戦う必要がないっていうか。あーこれ以上は駄目だ。ごめんなさい」
「ふーん。わからないわね。まあいずれ教えてくれるでしょ。ニケちゃんが」

キャスターは腕時計を見て提案する。

「あ、じゃあお互い準備して、十五分後にバトりましょう。場所はここでいいですか?」


+ 現状見取り図
マスター 藤丸立香
芸術のアーチャー エロイカ
芸術のキャスター ミロのヴィーナス
セイバーの芸術幻霊
アーチャーの芸術幻霊
ランサーの芸術幻霊 塔&青騎士 撃破
ライダーの芸術幻霊 サモトラケのニケ(with水晶髑髏)
キャスターの芸術幻霊 不明
アサシンの芸術幻霊
バーサーカーの芸術幻霊



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最終更新:2018年03月06日 12:52