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「よろしくお願いします」
「よろしく。本当に二人で構わないの?」
「はい。アーチャーさんも含めて、そちらのマスターさんのサーヴァントなんで。あの、ご真名とかわかりませんけど、さぞかし高名な方なんだと思います。よろしくお願いします」
「ああ。頼むよ」

キャスターは腕まくりをして、手を掲げる。

「僕宝具一点特化な感じなんで、もう前置きなしでやっちゃいますね」

キャスターが名乗りをあげる。

「『大英博物館』」

回廊に地響きが迫る。

「上だ」

天井が抜けて、物体の津波が押し寄せてくる。それらの単純な物量に呑まれそうになり、二人は走る。僕はアーチャーの小脇に抱えられた。

「逃げろ、クソッ、なんだこれは!」

回廊を満たし、逃げる僕達に迫る勢いで増殖するそれは、大英博物館の展示品だ。
羅列もできないような、もはやなにもかもともいえる、歴史。

 真名判明
キャスターの芸術幻霊 真名 ロゼッタ・ガイド

「やっと自己紹介ができる。僕はロゼッタ・ガイド。ロゼッタ・ストーンと大英博物館案内図の芸術幻霊です」

大英博物館は歴史を保存するもの。案内図はそれを理解するもの。ロゼッタ・ストーンは人間の知的好奇心の象徴。
つまり、歴史的質量攻撃。彼の宝具だ。

「ロゼッタ・ストーンの宝具が大英博物館なのかよ。せめて逆だろ!」
「いや、僕もそう思うんですけどね」

展示品が秒速二十メートルで回廊を満たし埋めつくす展示物。
ルーヴル美術館に、大英博物館が溢れかえる!
抱えられたまま振り向くと、彼は轟音と共に展示品の波に乗って流されていた。サーフボードは勿論、ロゼッタ・ストーン。

「マスター。喋るなよ、舌を噛む」

わかってるよ。それ言ってみたかっただけだろ。

「マスターをこっちへ。私は逃げるからアーチャー、あなたは宝具を」
「わかった。マスターを投げる! 一、ニの────」
「ああ、大丈夫です」

キャスターが口を挟んできた。

「そのままもうしばらく逃げていただければ」

大丈夫、とは?

「いくら大英博物館っていっても、収蔵品が無限ってわけじゃないんで。もうそろそろなくなります」
「は? 言っちゃっていいの、それ」

彼は自分の致命的弱点を暴露した。

「ご迷惑とかかけたくないですし。戦おうと思ってましたけど、やっぱりやめときます。実際使ってみたらすごい見苦しい宝具だったんで、もういいかな、的な。目立つんで、たぶんどっかから見てもらえたと思います、ニケさんに。義理立てくらいはしておこうかなと。頑張ったけど負けちゃいました、みたいな」
「ええ……」
「マスターのいるサーヴァントなら、マスターのために全力でやるのが美徳ですけど、別に僕ニケさんのサーヴァントじゃないですしね。なんか勝手に刺客にされたっていうか」

じゃあ、誰に、なぜキャスターは召喚されたんだ。

「何言ってもネタバレになっちゃうな。ごめんなさい」

押し寄せる展示品が次第に減速し、やがて止まった。

「はい、おしまいです」

彼はサーフボードから飛び降りる。

「ニケさん、なんか様子がおかしかったですよ。頭のせいですかね」
「私の前でマスターに手を出したのは事実だし、お灸を据えてやるわ」
「お願いします。あ、そろそろ死にますね。そうだ、アーチャーさん、よければお名前を教えていただけませんか?」

キャスターは適当な剣を拾って自分の胸に突き刺した。
アーチャーはもう萎えきってうんざりしている。いかにも早く帰りたいという顔だ。

「3番だ、3番。ベートヴェンの」
「えっ3番! えっ英雄さんですよね。マジで! ヤバ、えっすごい!  お会いできるなんて、もっと早く聞いとけば、流石スタイルいいと思いましたもん。えっ強い、凄い! あっ時間がない! あー急ぎすぎた、えっとえーっと、好きです! 毎日聴いてます! サインを、間に合わない、消滅しちゃう! あの、ありがとうございま────」

キャスターの芸術幻霊、撃破。

「可愛い子だったわね」

そうか?


+ 現状見取り図
マスター 藤丸立香
芸術のアーチャー エロイカ
芸術のキャスター ミロのヴィーナス
セイバーの芸術幻霊
アーチャーの芸術幻霊
ランサーの芸術幻霊 塔&青騎士 撃破
ライダーの芸術幻霊 サモトラケのニケ(with水晶髑髏)
キャスターの芸術幻霊 ロゼッタ・ガイド 撃破
アサシンの芸術幻霊
バーサーカーの芸術幻霊



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最終更新:2018年03月10日 00:16