l10

「クラス? セイバー? いいえ、私はセイバーではありませんし、そもそも芸術幻霊ではありません。クラスはフォーリナー」

フォーリナー。降臨者。領域外の生命を意味するクラス。
セイレムでのアビゲイル・ウィリアムズ、いつかの夢の中の葛飾北斎。二人しか、僕はそのクラスを見てはいなかったが。
存外、既知の領域というのは狭いらしい。

「フォーリナーってなんですか? よくわからない。たまたま機会があったので、折角なので人間になってみようと思って、来てみたんですが」

彼女は危険だ。僕の第六感が叫んでいる。ニケちゃんもそうだったが、更に上であると感じられた。
格が違う。一段階上のステージに立っている。一段階どころではないかもしれない。
アーチャーとミロビちゃんが僕の前に立ち、盾になってくれている。

「移動できるっていうのも慣れないですね。人間語? 言葉? みたいなのもおまけで貰えました。話すっていうの、これは結構楽しいですね」

彼女は手にする枝を軽く振った。
目の眩むような赤の光。炎が束ねられたレーザー状のものが枝の延長線上に延びる。
破壊ですらない。融解だ。圧倒的なまでの高温が壁と床を、切断する。
ウォーターカッターというものがあるが、これはそれの炎版だ。切り離された空間には、ちろちろと残り火が所在なさげに漂うのみ。

「戦う、というのはやったことないんですが、あ、アサシンとアーチャーはなんか焼いたら死んでしまったので。やってみたいです」

ミロビちゃんが先制攻撃を仕掛ける。アサルトライフルを取り出す。何丁か数えるまでもなく、ニケちゃんのとき以上だ。

「ねえ、教えてもらえるかしら。ここはどこで、あなたは誰なの?」

弾と質問を同時に投げかける。薬莢の滝が川になり僕の足元に広がる。

「そういう質問って、戦いを始めながらするものでしたっけ。いいですけど」

フォーリナーは枝を前に突き出す。炎が噴射され壁となり、弾丸を全て空中で蒸発させる。

「ここは、もちろんルーヴルですよ。ていうか、あなた達の方がよく知っているでしょう」

銃弾の中を、高温を、掻い潜ることもせず、アーチャーが光になって突っ込む。音に温度は関係ないから。
フォーリナーからすれば、目の前の炎からいきなり光が突き出てきたように見えただろう。
しかし。

「そして私は、地球です」

枝を持っていない方の左手で、光をなんでもないように払い除ける。
屈折したアーチャーは、逸らされて壁に突き刺さる。嘘だろ、宝具だぞ。

「自然です。地理です。環境です。美しい景色です」

ミロビちゃんは一分の隙もなく攻撃を続ける。手にする武器を目まぐるしく切り替え、銃弾、魔力、火炎、液体、低温、電撃、風圧、ガス、あらゆる手段で炎の突破を目論んだ。されどそれは叶わない。

「『擺き瞬く内的宇宙(ジ・アース・プロミネンス)』です」

彼女、芸術のフォーリナーは枝を大きく振る。
美術館全体が光の流れに切断され、ばらばらになった。
建物自体が形を保てなくなり、崩壊を始める。ルーヴルの一画が切り離された。
切り離されてどうなるかというと、落下を始める。
傾く。滑り落ちる。身体が宙に投げ出される。

「マスター!」

アーチャーが迷わず飛び込んできて僕に手を伸ばすが、全く間に合わない。
落ちる。視界の中の美術館が小さくなる。
敷地のテクスチャの裏側なんていう、絶対に見られないようなものを見ながら落ちる僕は、やっぱり3Dモデルのようだと思ってしまう。
どこにも着地することなく落ち続ける。
みるみるうちに視界がただの真っ黒になる。自分が目を開けているのかどうかすらもわからない。
しばらくの時間が経っても落下をやめない僕は、することがないので暇で、眠くなってしまう。
今まで歩き回っていたもんな。ちょっとくらいならいいだろう。



+ 現状見取り図
マスター 藤丸立香
芸術のアーチャー エロイカ
芸術のキャスター ミロのヴィーナス
セイバーの芸術幻霊
アーチャーの芸術幻霊 九相図眼球譚 脱落
ランサーの芸術幻霊 塔&青騎士 撃破
ライダーの芸術幻霊 サモトラケのニケ
キャスターの芸術幻霊 ロゼッタ・ガイド 撃破
アサシンの芸術幻霊 ブレイクタンゴ 脱落
バーサーカーの芸術幻霊 キュビズム・フォーヴィズム 撃破
芸術のフォーリナー 不明



BACK TOP NEXT
l09 超美術館空間 ルーヴル l11

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2018年05月14日 00:07