「クラス? セイバー? いいえ、私はセイバーではありませんし、そもそも芸術幻霊ではありません。クラスはフォーリナー」
フォーリナー。降臨者。領域外の生命を意味するクラス。
セイレムでのアビゲイル・ウィリアムズ、いつかの夢の中の葛飾北斎。二人しか、僕はそのクラスを見てはいなかったが。
存外、既知の領域というのは狭いらしい。
「フォーリナーってなんですか? よくわからない。たまたま機会があったので、折角なので人間になってみようと思って、来てみたんですが」
彼女は危険だ。僕の第六感が叫んでいる。ニケちゃんもそうだったが、更に上であると感じられた。
格が違う。一段階上のステージに立っている。一段階どころではないかもしれない。
アーチャーとミロビちゃんが僕の前に立ち、盾になってくれている。
「移動できるっていうのも慣れないですね。人間語? 言葉? みたいなのもおまけで貰えました。話すっていうの、これは結構楽しいですね」
彼女は手にする枝を軽く振った。
目の眩むような赤の光。炎が束ねられたレーザー状のものが枝の延長線上に延びる。
破壊ですらない。融解だ。圧倒的なまでの高温が壁と床を、切断する。
ウォーターカッターというものがあるが、これはそれの炎版だ。切り離された空間には、ちろちろと残り火が所在なさげに漂うのみ。
「戦う、というのはやったことないんですが、あ、アサシンとアーチャーはなんか焼いたら死んでしまったので。やってみたいです」
ミロビちゃんが先制攻撃を仕掛ける。アサルトライフルを取り出す。何丁か数えるまでもなく、ニケちゃんのとき以上だ。
「ねえ、教えてもらえるかしら。ここはどこで、あなたは誰なの?」
弾と質問を同時に投げかける。薬莢の滝が川になり僕の足元に広がる。
「そういう質問って、戦いを始めながらするものでしたっけ。いいですけど」
フォーリナーは枝を前に突き出す。炎が噴射され壁となり、弾丸を全て空中で蒸発させる。
「ここは、もちろんルーヴルですよ。ていうか、あなた達の方がよく知っているでしょう」
銃弾の中を、高温を、掻い潜ることもせず、アーチャーが光になって突っ込む。音に温度は関係ないから。
フォーリナーからすれば、目の前の炎からいきなり光が突き出てきたように見えただろう。
しかし。
「そして私は、地球です」
枝を持っていない方の左手で、光をなんでもないように払い除ける。
屈折したアーチャーは、逸らされて壁に突き刺さる。嘘だろ、宝具だぞ。
「自然です。地理です。環境です。美しい景色です」
ミロビちゃんは一分の隙もなく攻撃を続ける。手にする武器を目まぐるしく切り替え、銃弾、魔力、火炎、液体、低温、電撃、風圧、ガス、あらゆる手段で炎の突破を目論んだ。されどそれは叶わない。
「『擺き瞬く内的宇宙』です」
彼女、
芸術のフォーリナーは枝を大きく振る。
美術館全体が光の流れに切断され、ばらばらになった。
建物自体が形を保てなくなり、崩壊を始める。ルーヴルの一画が切り離された。
切り離されてどうなるかというと、落下を始める。
傾く。滑り落ちる。身体が宙に投げ出される。
「マスター!」
アーチャーが迷わず飛び込んできて僕に手を伸ばすが、全く間に合わない。
落ちる。視界の中の美術館が小さくなる。
敷地のテクスチャの裏側なんていう、絶対に見られないようなものを見ながら落ちる僕は、やっぱり3Dモデルのようだと思ってしまう。
どこにも着地することなく落ち続ける。
みるみるうちに視界がただの真っ黒になる。自分が目を開けているのかどうかすらもわからない。
しばらくの時間が経っても落下をやめない僕は、することがないので暇で、眠くなってしまう。
今まで歩き回っていたもんな。ちょっとくらいならいいだろう。
+
|
現状見取り図 |
マスター |
藤丸立香 |
|
芸術のアーチャー |
エロイカ |
|
芸術のキャスター |
ミロのヴィーナス |
|
セイバーの芸術幻霊 |
|
|
アーチャーの芸術幻霊 |
九相図眼球譚 |
脱落 |
ランサーの芸術幻霊 |
塔&青騎士 |
撃破 |
ライダーの芸術幻霊 |
サモトラケのニケ |
|
キャスターの芸術幻霊 |
ロゼッタ・ガイド |
撃破 |
アサシンの芸術幻霊 |
ブレイクタンゴ |
脱落 |
バーサーカーの芸術幻霊 |
キュビズム・フォーヴィズム |
撃破 |
芸術のフォーリナー |
不明 |
|
|
最終更新:2018年05月14日 00:07