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当たれ、と闇雲に突き出した九字兼定が、フォーリナーの炎を切り裂いた。
対結界宝具。エネルギーの輪郭を破壊する宝具。炎状の熱を包んでいるものを破壊する。
ここからが賭けだ。熱が溢れ出して、何もかも蒸発してしまいフォーリナーと相打ちになるか、勝つか。
眼前の熱気に慄く。
果たして、熱の襲い来る熱気は、僕を飲み込む寸前でふっと消えた。

「なっ……！」

フォーリナーが怯む。彼女の持っていた枝からの炎は先程までのうねりが嘘だったかのように消えてなくなってしまった。
安全装置が作動したのだ。
炎が暴走しないように、彼女の宝具にあらかじめ仕掛けられていたオートブレーキ。
聖杯戦争に召喚されるサーヴァントなら、万一のときに周囲への影響が小さくなるように、設計の段階で配慮がされているはず。これがあるのかどうかは一か八かだった。

「お前、人間め！」

ただの棒切れとかした枝を振り上げ、僕を打とうとするフォーリナー。何が起きたのかは理解していないが、ピンチであることはわかったらしい。
どう動けばいいかは身体が考えてくれた。僕は緊張を解いて、それに身を委ねるだけでいい。
僕は身を翻し、勢いそのままに一度片足で地面を蹴り、両手で持った刀を遠心力で滑らせ、フィギュアスケートのようにターンをして。
初めからそうなる反射だったかのように、何万回も繰り返し最適化された動作のように、フォーリナーの首を飛ばす。

「きゃああああああ！！！」

意外と決着はあっさりなものだった。全く手応えが無いほど自然にフォーリナーの首をはねた僕は心の中でフォーリナーに謝る。
ごめんなさい、フォーリナー。でも君が悪い。
僕の身体は目的を果たした段階で糸が切れ、残心の動作まで辿り着くことなく、ぶっ倒れる。
射出された勢いで間抜けに転げる僕。やがて止まり、目が回るのと全身が痛いのを我慢して立ち上がる。
フォーリナーは首元を切断され、致命傷を負い、なおかつまだ喋っていた。首だけの状態で。

「あああ！　ああ、あ～、やられちゃいました」

頭部がころころと転がる。頭から下はしばらく突っ立っていたが、やがてバタリと倒れた。

「なかなかやりますね。私の負けです。あなた戦えたんですか」

生首が喋る。どうやって声を出しているんだ。声帯も無いだろ。
アーチャーとミロビちゃんが走ってくる。

「おい、大丈夫か」
「きゃーマスターかっこいいー！　やるときはやる男ね！」

ありがとう。踏み込みのときに足に負担をかけすぎた。痛い。

「ちょっと、揺らさないでくださいよ」

アーチャーがフォーリナーの首を拾い上げる。

「お仕置きの時間だぞ。半殺しにしやがって」
「いいじゃないですか。サーヴァントって戦いあうもんなんでしょ」
「違う」
「あなたよくそれで生きてるわね」
「まずは俺達とマスターに謝ってもらおう」
「乱暴に髪を持たないで、ねえ、髪をですね」
「片手しかないんだから仕方ねえだろ」
「じゃあせめて下から抱えるとか」
「うるせえ、サッカーしてやろうか」

ぎゃあぎゃあ口喧嘩をするアーチャーとフォーリナー。
僕は息を整える。
しかしこれで一安心、とはいかないんだよな。
この空間から脱出する方法を考えなければ。
と、いうところで、僕は、背後に立っていた無言の彼女に気づく。
しばらくいろいろなこと続きで、すっかり頭から抜け落ちていた彼女。
芸術幻霊。二体目の疑似神性。
頭部を失ったサモトラケのニケは、そこに立っていた。
驚いた僕達が構える前に彼女は、水平に飛行し、アーチャーの手からフォーリナーの首を狙う。
アーチャーの意識の隙間を縫い、当たり前のように、受け取るかのようにそれを奪ったニケちゃんは、叫ぶフォーリナーをゆっくり持ち上げる。
まさか、と思い当たった一つの可能性を彼女は辿る。

「誰ですかあなたは！　何をする気です！」

ニケちゃんの首から下と、フォーリナーの首から上が、合体する。

「ちょっと！　あっ！　やめてください！　やめて！　あっ、あ、お、おおお、おおっ、おお……『不崩神話(アンフラグメント)』おわり。大変だったね。へへ」

フォーリナーの無表情が崩れ、にへらと笑う。僕はニケちゃんの表情を初めて目にした。

「首があったからもらっちゃった。ありがとう。あたしがラスボスです」

現状見取り図

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最終更新：2018年09月07日 00:07

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