ラスボスですと言い手と翼を広げるニケちゃん。
「あたしを倒すとここから出られるよ」
ニケちゃんの顔と胴体はサイズがアンバランスで、雑なコラージュのように見える。
「聖杯戦争なんだから、芸術幻霊を全部倒せば勝ちだよね。七番勝負ももうちょっと。ランサー、キャスター、バーサーカーはあなたたちが倒して、アーチャーとアサシンはフォーリナーが倒したんでしょ。フォーリナーは数に入ってないから、残りはセイバーとライダーだけ」
ニケちゃんはクラス名を指折り数えながら歩いて近づいてくる。ニケちゃんの歩き方は一歩一歩がふわふわしている。片足が床から離れてからもう片足が接地するまでに僅かに浮いているのだ。まるで彼女にだけ、重力が弱く働いているみたいに。
「一騎打ちだよね。力比べ。やろうよ」
「ニケちゃん。あなた、やっぱり首がない方が似合ってるんじゃない?」
ミロビちゃんが彼女に呼びかける。
「?」
「あと、あなたちょっとおかしいわ。自分でもわかってるでしょ。不意打ちでビームを撃ったり、マスターを強引に攫ったり」
「そんな……」
「あなた、そんなに好戦的じゃなかったでしょ。何、ラスボスですって」
「ミロビちゃん」
「あなた今、聖杯戦争って言ったわよね? 芸術幻霊七番勝負とも言ってた。全然違うでしょ、聖杯戦争と七番勝負は」
ニケちゃんは固まる。表情を手に入れたばかりで、ポーカーフェイスの技術を持っていないのだ。
「聖杯戦争なのだったらマスターとあなたの他に五騎のはず。七番勝負だったなら、マスターを除いて、あなたの他に六人。一騎違うじゃない」
ニケちゃんは泣きそうな顔になり俯く。
「私は聖杯戦争という方が間違いなのだと思う。ラスボスと名乗りたいための方便でしょう。七番勝負と例えたのが本当だとすると、初めはマスターイコールセイバーの芸術幻霊だと隠していたから成り立っていたけど、今は違うとわかるでしょ」
誰も動かずにミロビちゃんの話を聞く。アーチャーも流石に茶々を入れない。
「フォーリナーは数えてない、とわざわざ注釈を入れたのに数を間違えた理由。私はサーヴァントがもう一騎いるからだと考えるわ。そいつを数えちゃったんでしょ」
流石のミロビちゃんだ。ニケちゃんの言葉端から芸術のアサシンの存在に辿り着くなんて。
「駄目よ、カルデアのマスターくん。彼のことを話しては駄目」
そうか! アサシン、彼の宝具は認識されることにより発動すると言っていた。僕と彼の状況が例外であるとも。
うっかりミロビちゃんやアーチャーに彼のことを伝えないでよかった。真名や容貌どころか、クラスだけでもまずいかもしれない。
「そう。隠したい秘密があるの。それとも隠しておかないといけない秘密?」
「詮索しないで」
「じゃあ、その未知のサーヴァントに、おかしくされたわけね」
「!」
ミロビちゃんとニケちゃんは元々ルーヴルでの友達なのだ。語らずともお互いのことは伝わる。
「違うの?」
「……そう、そうなの」
ニケちゃんは彼女の懐に飛び込んだ。
ニケちゃんは、最初にあったときに話していたようにアサシンと既に接触している。彼の宝具に巻き込まれて、おかしくなってしまったのだろう。好戦的というか、乱暴に。
彼女はフォーリナーの大きな目から涙をぽろぽろと零す。
「じゃあ、そいつを探してしばかない?」
ミロビちゃんがニケちゃんに囁く。ニケちゃんはぶるぶると首を振った。涙が飛び散る。
「駄目、駄目、あたしがもう駄目だから、バグってるから。どんどん考えてることがばらばらになる。わからないの。もう一秒でも考えてたくないの」
ニケちゃんはミロビちゃんの腕に抱かれたことで、湛えていたものが溢れてしまったのだろう。嗚咽とともに弱音を吐く。
「戦ったりとかしたくないの。もうやだ。もうやだ。早く座に帰ろ。ルーヴルに帰ろ」
「よしよし、一回落ち着こう」
「落ち着くとかじゃないの。そうじゃないから、もう落ち着けないから、だから、一緒に死の」
僕はあっと声を上げた。
ニケちゃんの背中から生えている大きな翼が、その片方が、ミロビちゃんの霊核、心臓を貫いていた。
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現状見取り図 |
マスター |
藤丸立香 |
不在 |
芸術のアーチャー |
エロイカ |
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芸術のキャスター |
ミロのヴィーナス |
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セイバーの芸術幻霊 |
ID藤丸立花 |
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アーチャーの芸術幻霊 |
九相図眼球譚 |
脱落 |
ランサーの芸術幻霊 |
塔&青騎士 |
撃破 |
ライダーの芸術幻霊 |
サモトラケのニケ |
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キャスターの芸術幻霊 |
ロゼッタ・ガイド |
撃破 |
アサシンの芸術幻霊 |
ブレイクタンゴ |
脱落 |
バーサーカーの芸術幻霊 |
キュビズム・フォーヴィズム |
撃破 |
芸術のフォーリナー |
プロメテウス |
撃破 |
芸術のアサシン |
ベルフェゴール |
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最終更新:2018年09月07日 00:05