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ここは何処だろうか?あたり一面真っ白だ。何処を見回しても白い以外何もない。 そういえばここには前にも来たことがあるような気がする。いや、来ている。間違いない。 そう認識した瞬間歌が聞こえてくる。またあの歌だ。後ろを向くとやはり人影が見える。その人影はぼんやりとしていて姿がはっきりしていない。 しかし右腕だけはやけにはっきりしている。 やっぱり前と同じだ。 耳を澄ましてみるがやはり歌のサビは聞こえない。 目を凝らして人影を見るがやはりぼんやりとしていて姿が見えない。だが右腕はよく見える。私の、私のもう一つの腕だ。 あれは一体誰なんだ?どうして歌っているんだ?何故姿が見えないんだ?どうしてその右腕をしているんだ? 疑問は尽きることは無い。 そういえばここに来る前に私は何をしていたんだっけ?思い出せないな…… たしか船に乗って……、そのあとどうしたんだっけ?いくら考えても思い出せない。最近こんなことばっかりだ。 どうしてこういうことになっているんだろうか? でも……、なんかどうでもよくなってきたな。考えるだけ無駄な気がしてきた。 どうせ考えてもわからないんだろうしな。わからないことは暇なときに考えるさ。だから今出来ることをしよう。 そう思い改めて人影のほうへ向き直る。相変わらず歌は続いている。 今出来ること、それはあの人影に近づくことだ。体が動かせるんだから近づけるだろう。 そして人影に向かって1歩近づいてみる。そしてまた1歩、また1歩と確実に近づいていく。人影には何の変化も無い。 いくら近づいていっても相変わらず人影はぼんやりしていてどういう姿なのかわからない。 さらに歩いて近づいていく。すると人影の向こうからこちら向かってくる新たな人影が見えた。私以外にも誰かいるのか? ……ついに人影のところにまでたどり着く。人影はこれほど近くにあろうともぼやけており、やはり右腕以外は姿がはっきりしていなかった。 そして歌はやはりこの人影から発せられていた。だが、もはやそんなことはどうでもいい。 なぜなら私の目の前には人がいるからだ。 先程見たこちらに向かってきていた人影が目の前にいるのだ。 それは男だった。男は中肉中背でスーツを着こなしている。髪は後ろに撫で付けてあり、顔は良い悪いで言えば良い方に部類されるだろう。 その雰囲気、格好はあまりにも普通だった。ただの会社員という風に見える。そう、あまりにも『特徴が無い』 無理にでも一つだけ特徴的な部分を上げるとすれば柄が派手なネクタイだけ、それだけだ。 先程から相手も自分も動くことも無く見詰め合っている。 私の場合は何をしていいかがわからないだけだが、相手の場合は何を考えているかがわからない、それはちょっとした恐怖だ。 「きみは……ここが何処だかわかるかい?」 この静寂を初めに破ったのは相手だった。 「いや、わからないな。私は気づいたらここに居たんでね」 相手の質問にそう返す。そして驚く。 まさか初めて会ったはずの相手にこうまで簡単に受け答えするなんて、しかもこんなに気軽に!? 彼も何故か少し驚いたような顔をしている。もしかしたら彼も同じように感じているのかもしれない。なぜだかそう感じた。 「そういう質問をするとしてくるってことはそっちもここが何処だかわからないんだな?」 「ああ、私も気づいたらここにいたからな」 まるで初めからそうであるかのように自然に会話できる。どういうことだろうか? 「しかし何でここはこんなにも白いんだろうな?」 もはや世間話するような感覚で相手に話しかける。 「はあ?何を言ってんだ。見渡す限り黒いじゃないか」 彼がそういった瞬間に理解する。私の見ている景色と彼の見ている景色は違うのだと。 彼もそれを理解したのだろう。目を見開き驚いている。 もしかしたらこの歌も彼には聞こえていない、もしくは別の歌に聞こえているんじゃないか? 「あんた、こいつから歌が聞こえるか!?」 人影に指差し彼に問いかける。 「あ、ああ。聞こえてる。ただ、サビしか聞こえないけどな」 「俺はサビだけが聞こえないんだ」 彼の顔が、そして自分の顔が驚きに変わっていくのがわかる。 「……もしかしてお前にはこいつの右腕だけしか見えてないんじゃないか?」 彼は人影を指してそう聞いてくる。ということは、 「あんたにはこいつの右腕が見えてないんだな」 相手が頷く。 やっと理解する。彼と私が見聞きしているものは逆なのだと。 使い魔は静かに暮らしたい ルイズ視点 わたしの横にはヨシカゲが寝かされている。 わたしはその寝顔を見詰めながら思う。今ヨシカゲはどのようなことを考えているのだろうかと。 眠っているのに考えるというのはおかしいがなんとなくそんな気がするのだ。 あのとき、ヨシカゲを問い詰めたときにヨシカゲは、 『……もし、『そうだ』と言ったら?』 そう言った。 その質問に答えようとするとヨシカゲは突然顔色が悪くなった。 初めは船酔いなのかと思った。初めて船に乗るものにはよくあることだ。背中でも擦ってやればすぐによくなるだろうと思っていた。 しかし顔色はだんだんと、もはや船酔いでは済まされないほど悪くなっていった。 あとで聞かされたことだがそのときヨシカゲは息が出来ていなかったのではないかという。 あとは苦しそうにのどを押さえ膝を突き倒れこんだ。 そのあとわたしは人を呼び息をしていない彼に人工呼吸(勿論したのは船員だ)をし船員の寝床にヨシカゲを運ばした。 病気やそういったことに詳しい船員の話だと、見た限りヨシカゲに特に悪いところは無く、何故息が止まっていたのかはわからないらしい。 しかしもう呼吸しているからあとは目を覚ますのを待てばいいだけだそうだ。 そしてそれを聞いたときからずっとヨシカゲのそばにいる。 わたし自身何故ここにいるのかはよくわかってない。目が覚めたら文句の一つでも言ってやろう。 そんなことを考えているとワルドが船室に入ってきた。 「ルイズ、彼の調子はどうだい」 その問いに首を振る。 「そうか」 ワルドが気落ちした声で言う。しかしその顔を見ると少し、本当に少しだけ喜色が混じっていた。 普段なら気づかなかっただろう。しかし今の私なら気づける。それだけワルドを観察しているのだから。 でも、ヨシカゲが倒れて何故ワルドが喜ぶかは理解できないんだけどね。 それから暫らく沈黙が続く。 「ルイズ。自分の使い魔が心配なのはわかるが、篭りっきりだと気分が悪くなるよ」 沈黙を破りワルドがわたしに手を差し伸べてくる。 「さあ、一緒に甲板に出ようじゃないか」 でも、わたしがその手をとることは無かった。 暫らく手を差し伸べていたワルドは諦めたのか手を引っ込める。 「わかったよルイズ。それじゃあ気分が落ち着いたら甲板においで」 「ごめんなさい」 「いいんだよ」 そう言うとワルドは部屋から出て行った。 ワルド……、優しくて、凛々しくて、そしてわたしの憧れだったワルド。 でも、もうわたしにはあなたが、あなたのわたしに対する態度が疑わしいものに見えて仕方がないの。 あのときからわたしは変わり始めたのだから。少なくとも上辺だけを信じるような人間から脱却したつもりなのだから。 もう幼い頃のようにあなたを見ることは出来なくなってしまったのよ。 そしてヨシカゲの顔を見る。 わたしはヨシカゲのおかげで変わることが出来た。 そう思いながら、召喚したときのことを思い出した。 ----
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