ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は今すぐ逃げ出したい-28

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ここは何処だろうか?あたり一面真っ白だ。何処を見回しても白い以外何もない。
そういえばここには前にも来たことがあるような気がする。いや、来ている。間違いない。
そう認識した瞬間歌が聞こえてくる。またあの歌だ。後ろを向くとやはり人影が見える。その人影はぼんやりとしていて姿がはっきりしていない。
しかし右腕だけはやけにはっきりしている。
やっぱり前と同じだ。
耳を澄ましてみるがやはり歌のサビは聞こえない。
目を凝らして人影を見るがやはりぼんやりとしていて姿が見えない。だが右腕はよく見える。私の、私のもう一つの腕だ。
あれは一体誰なんだ?どうして歌っているんだ?何故姿が見えないんだ?どうしてその右腕をしているんだ?
疑問は尽きることは無い。
そういえばここに来る前に私は何をしていたんだっけ?思い出せないな……
たしか船に乗って……、そのあとどうしたんだっけ?いくら考えても思い出せない。最近こんなことばっかりだ。
どうしてこういうことになっているんだろうか?
でも……、なんかどうでもよくなってきたな。考えるだけ無駄な気がしてきた。
どうせ考えてもわからないんだろうしな。わからないことは暇なときに考えるさ。だから今出来ることをしよう。
そう思い改めて人影のほうへ向き直る。相変わらず歌は続いている。
今出来ること、それはあの人影に近づくことだ。体が動かせるんだから近づけるだろう。
そして人影に向かって1歩近づいてみる。そしてまた1歩、また1歩と確実に近づいていく。人影には何の変化も無い。
いくら近づいていっても相変わらず人影はぼんやりしていてどういう姿なのかわからない。
さらに歩いて近づいていく。すると人影の向こうからこちら向かってくる新たな人影が見えた。私以外にも誰かいるのか?
……ついに人影のところにまでたどり着く。人影はこれほど近くにあろうともぼやけており、やはり右腕以外は姿がはっきりしていなかった。

そして歌はやはりこの人影から発せられていた。だが、もはやそんなことはどうでもいい。
なぜなら私の目の前には人がいるからだ。
先程見たこちらに向かってきていた人影が目の前にいるのだ。
それは男だった。男は中肉中背でスーツを着こなしている。髪は後ろに撫で付けてあり、顔は良い悪いで言えば良い方に部類されるだろう。
その雰囲気、格好はあまりにも普通だった。ただの会社員という風に見える。そう、あまりにも『特徴が無い』
無理にでも一つだけ特徴的な部分を上げるとすれば柄が派手なネクタイだけ、それだけだ。
先程から相手も自分も動くことも無く見詰め合っている。
私の場合は何をしていいかがわからないだけだが、相手の場合は何を考えているかがわからない、それはちょっとした恐怖だ。
「きみは……ここが何処だかわかるかい?」
この静寂を初めに破ったのは相手だった。
「いや、わからないな。私は気づいたらここに居たんでね」
相手の質問にそう返す。そして驚く。
まさか初めて会ったはずの相手にこうまで簡単に受け答えするなんて、しかもこんなに気軽に!?
彼も何故か少し驚いたような顔をしている。もしかしたら彼も同じように感じているのかもしれない。なぜだかそう感じた。
「そういう質問をするとしてくるってことはそっちもここが何処だかわからないんだな?」
「ああ、私も気づいたらここにいたからな」
まるで初めからそうであるかのように自然に会話できる。どういうことだろうか?
「しかし何でここはこんなにも白いんだろうな?」
もはや世間話するような感覚で相手に話しかける。

「はあ?何を言ってんだ。見渡す限り黒いじゃないか」
彼がそういった瞬間に理解する。私の見ている景色と彼の見ている景色は違うのだと。
彼もそれを理解したのだろう。目を見開き驚いている。
もしかしたらこの歌も彼には聞こえていない、もしくは別の歌に聞こえているんじゃないか?
「あんた、こいつから歌が聞こえるか!?」
人影に指差し彼に問いかける。
「あ、ああ。聞こえてる。ただ、サビしか聞こえないけどな」
「俺はサビだけが聞こえないんだ」
彼の顔が、そして自分の顔が驚きに変わっていくのがわかる。
「……もしかしてお前にはこいつの右腕だけしか見えてないんじゃないか?」
彼は人影を指してそう聞いてくる。ということは、
「あんたにはこいつの右腕が見えてないんだな」
相手が頷く。
やっと理解する。彼と私が見聞きしているものは逆なのだと。


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