ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『女教皇と青銅の魔術師』-11

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匿名ユーザー

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フーケ騒ぎから十日あまりが過ぎた。
土くれのフーケは捕らえられ、破壊の杖は取り戻された。
宝物庫に運ばれる破壊の杖を見てミドラーは「カイロの闇市で見たアレね…」と呟いたが、
それに反応できる人間は黒焦げ状態だったためスルーされた。
フーケは三日間オスマン師の取調べの後、王宮に護送された。
その三日間で夜の学院にうめき声が聞こえるという怪談話が持ち上がったが、事情を知る人間は誰も真実を口にしなかった。

知らないほうが幸せな真実も、ある。

騒ぎの翌日に開催された舞踏会は、教師陣とフーケ騒ぎの功労者以外には大盛況であった。
盗賊だったとはいえ元同僚が拷問を受けている時に騒ぐ気にはなれなかったのか、教師はほぼ全員欠席し、主役の三人(+1)は欠席するわけにもいかず多少青ざめた顔ではあるが着飾って出席していた。
ミドラーは鬱々とした雰囲気を吹き飛ばすべく踊り子の衣装を用意したが、ギーシュが「そういう踊りじゃないから!」と泣きながら懇願した為諦めて裏方にまわった。

マルトー達と結託して料理の一品として紛れ込ませたエジプト風鳩肉料理はかなりの好評であった。


ミドラーが放課後に開く交流会(実際にはほぼ食事会)には、最近キュルケも顔を出すようになった。
基本的に巨体のシルフィードに圧倒されてこの交流会に他の使い魔は参加しないのだが、匂いに我慢できなくなったフレイムが主人を盾に近寄ってきたのが始まりである。
女三人寄れば姦しいと言う。
例に漏れずこの集まりも話が弾み、妙な話題になったりもする。

キュルケもタバサもミドラーの身上については大体のところ気がついていた。
先住魔法と時々口にする砂漠の話、最初の怪我。
エルフが人間に化けているのかあるいは混血だろう。
その辺については触れないのが二人の暗黙の了解であった。
だが、異国の話というのはやはり興味深い。
そんなわけでミドラーに、この辺にはいない幻獣を説明してもらったのだが…

「氷柱をばんばん飛ばす鳥がいた」
キュルケもタバサも絶句する。
私が前見せた魔法と同じようなものか、とタバサが尋ねると
「普通はだいたい同じくらい。だけどあの校舎が一撃で半壊するくらい大きい塊も出してた」
土の中を掘り進んだり足元を凍らせて動けなくするなどの説明をすると、フレイムが怯えはじめる。
天敵である。どう考えてもフレイムに勝ち目はない。
しかもそれほどの幻獣を、ミドラーの元主は番犬がわりにしていたという。
なるほど人間がエルフに勝てないわけだ、と二人は納得する。

「目に見えないほどの速さで飛翔する、人の舌を引きちぎるクワガタ」
「フーケのゴーレムくらいの船を自在に操るゴリラ(オランウータンの説明には失敗)」
「頭の前後に性別の違う顔がついている人もどき」
ミドラーの説明は続く。
しかもこれらは全て彼女の主が従えていたらしい。
それ以外に見たことはないが有名な幻獣として、学院全部合わせたより大きな鳥がいる、と言う。
キュルケもタバサも、そんな鳥は知らない。
まだ見ぬ異国の恐るべき野生を知り、圧倒される二人であった。

ミドラーにとってもこの交流は貴重なひと時である。
ギーシュからでは聞けない話も耳にする。
例えば例のサイトとかいう少年だが、舞踏会ではルイズと踊っていたらしい。
ほんの数時間前まで黒焦げだったのに、である。
あのアヌビスもどきといい、やはりあの少年は油断できないと心に留める。

そんな事があってから数日。
朝。
公衆の面前で犬のSMプレイに興じるルイズ達にミドラーはドン引きしていた。
(ただでさえアレな雰囲気を醸し出す使い魔だと思ってはいたけど、主まで染まり始めた?)
しかしタバサの説明によれば使い魔は主に似たものが呼び出されるという。
ということは、ルイズは元々アレが素なのだろうか。
(…わたしとギーシュも似てる?そうは思えないんだけど…)
サイトがわんと鳴いている。主従ノリノリだ。

溜息をつく。
とりあえず今後ルイズを他人に紹介するときは友人ではなく知人としよう。


翌朝。
ミドラーは熟睡しているところをギーシュに揺さぶられて目覚めた。
未だかつてギーシュが自発的に起きた事などない。
(敵襲かッ!?)
跳ね起きて周囲を警戒する。
…何やらギーシュが苦笑している。敵ではないのか。
とりあえず説明をしてもらう事にする。

説明されてもよく判らない。
何かえらい人に言われて長旅をする事になったらしい。
昨日王族らしいえらく豪勢な一行が来ていた。
一応ギーシュも名門の出らしいし、そういった人脈からの依頼というのもあるのだろう。
ちょっと貴族っぽくて見直した。
留守の間にやっておいて欲しい事はあるか、と聞いたら怒られた。
わたしも一緒に行くらしい。
そういえば自分が使い魔をやっていることをすっかり忘れていた。
自分の荷物をまとめる。
長旅らしいしそれなりの用意がいるだろうが、衣類以外の日用品は女教皇で作ればいい。
こういう時スタンド使いに生まれて本当に良かったと思う。


朝もやの中馬に鞍を載せる。
その上に女教皇で自作したラクダこぶを固定する。
同行者はルイズ主従(+アヌビスもどき)、ギーシュと私、そしてさっきから私のラクダこぶを妙な目で見ているヒゲ。
笑いをこらえているのがみえみえでムカツク。
物腰も妙に柔らかくて気味が悪い。
…ギーシュに聞いたところ、騎士団長?のような偉い人でルイズの婚約者らしい。
なるほどあの物腰の柔らかさはロリコンだからか。

私とギーシュ、サイトは馬に、ルイズとヒゲロリはグリフォンに乗る。
グリフォンを見たのは初めてだったのでなでようと近寄ったが、眼光が鋭すぎてあきらめた。
ペットショップと大差ない目付きの悪さだった。
あれは口から火とか噴く。
間違いない。

そういえばこの学院から本格的に離れるのは初めてだ。
エジプトから出たことのなかった自分には見るもの全てが珍しい。
この旅で何が見られるのか楽しみだ。
シルフィードと離れるのは寂しい。一応出発前に挨拶はしておいたが。
どれくらいかかるか判らないが戻ってくる時にはお土産を忘れないようにしよう。


やっぱり馬は嫌いだ。
なんというかラクダに比べて余裕みたいなものがない。
地面を蹴る衝撃がこっちまでいちいち伝わってくる。疲れる。
女教皇で自転車でも作ろうかと考えたが、ゴムタイヤが作れないので断念した。
馬のスプリングシューズは前に試してえらい事になった。
結局この振動に耐えるしかないか。
もういやだ疲れた。
疲れた!

朝早くから馬を走らせまくって夜中に目的地に着いた。
もう限界だ。
何か途中でギーシュとサイトが取っ組み合いをはじめたり、散々だった。
観光とかする暇もないし。
しょんぼりとしながら岩山の中を縫うように進む。
かぽかぽと馬の足音が響く。
明るい月夜に険しい岩山。風光明媚と云えないこともないが…

そんなことを考えていると、崖の上からたくさんの松明が降ってきた。
馬が炎に煽られて暴れる。
「敵襲ッ!」
ギーシュが落馬しながら叫ぶ。
こっちも慌てて女教皇で遮蔽物を作る。
同じく馬に振り落とされたサイトが隠れにくる。
無数の矢が急造の遮蔽物(今回は車)に突き刺さる。


「ギーシュ、こっちへ!」
とりあえず一箇所に集まる。
ルイズとヒゲは離れた場所に一緒だ。
サイトはこっちだ。アヌビスもどきを抜いているのがちょっと怖い。
「崖上に敵。ミドラー、届く?」
「大きいのは無理だけどこの距離なら無力化くらいはできる!」
OK、久しぶりに大暴れしていいって事ね?

女教皇を崖上に這い登らせる。
もちろん崖の壁面と同化しているから相手には気付かれない。
敵は五人。全員崖下を覗き込んでいる。
弓矢と普通の武器だけで特にメイジはいないようだ。
足元に潜む。
標的が大きく下を覗き込んだ瞬間、かかとの下の土を10センチほど盛り上げる。
…手をばたばたさせて数秒間不自然な体勢で堪えていたが、結局悲鳴をあげて落ちていった。
あと4人。


さてどうしよう。今ので下への攻撃は止まったけど周囲を警戒し始めた。
これ以上不自然な転落をさせると、敵は逃げそうな気がする。
一網打尽にするには…
考えていると、突然スタンド背後から暴風が吹きつけた。
木の小枝が折れるレベルの風。
もしや、と空を見上げるとやっぱりいた。
月夜に浮かぶ竜の姿はほれぼれするほどカッコイイ。

結局、襲撃してきたグループは全員崖から落ちて簡単に捕まった。
キュルケ達は朝方に出発する私たちを見てこっそり尾行してきたらしい。
タバサを見る。
ちょっと赤くなってそっぽを向かれた。
どうやら心配してついてきてくれたらしい。
ありがとう。

わたしがシルフィードにほおずりしている間に、尋問が終わったらしい。
ただの物取り…ってヒゲロリコンあんたグリフォンに乗ってたでしょうが!
どこの馬鹿がそんな物騒な獣に喧嘩売るのよ。おかしいじゃない。
ギーシュを見る。
どうやら同感のようだ。使い魔のリンク?で話をする。
(あのヒゲおかしいんじゃない?)
(確かにちょっとおかしいね。急ぐにしてもこいつらをもうちょっと問い詰めるべきだろう)
(目的地はもうすぐなのよね?こっちで片付けとくから先に行ってて)
(頼む。仲間が襲撃してこないとも限らないから気をつけて)
キュルケに私の馬に乗ってもらい、私とタバサ、シルフィードがこの盗賊の後片付けに残る。
…これで今日はもう馬に乗らなくてすむ。


盗賊を見る。
あのロリコンはまともに尋問もできないのだろうか?全員まだ減らず口を叩けるほど元気だ。
溜息をついてとりあえず女教皇でパワーショベルのアームを出す。
盗賊が何か言っているが完全に無視して大穴を掘る。
本調子なら顔を地面に作って飲み込めばOKなのだが、まだあの顔は作れない。
承太郎にやられたイメージが強すぎて、回復できない。

穴が完成。とりあえず有り金全部と武装を剥ぐ。
結構な小金持ちだった。
穴の縁に全員立てかけて埋め戻す。
ここまで無言で作業。
盗賊はかなり喚き散らしていたが、無視。
首だけ出した状態まで埋めてから初めて声をかける。
「で、あんた達、何?」

一番端の男に聞く。
「だからさっきから盗賊だって言ってモガッ」
頭の上まで埋める。次。
「ちょっとまてお前いくら盗賊だっていきなりモガッ」
埋める。次。
「やめてやめて助けてたすけモガッ」
埋める。次。
「何でも話しますから助けてくださいッ!」
やっと話し合いに応じてくれた。

どうやら全員傭兵らしい。仮面を付けた男に大金で雇われたと吐いた。
しかもこの先の街で、だ。
急がないとギーシュ達が危ない!
大急ぎで全員埋める。
シルフィードの背中にしがみついて、タバサに合図する。
今日の目的地、ラ・ロシェールはもうすぐだ。
シルフィードに全速力で追ってもらう。

…やっぱり馬とは全然違う…


両脇を峡谷に挟まれた街、ラ・ロシェール。
夜に宿にたどり着いた一行はくたくたのまま宿で潰れていた。
ワルドとルイズが翌朝の船の確認に行っている間に、ミドラーが先程の盗賊の説明をする。
まずこちらの行動が筒抜けであること。
そして敵の実行部隊は昨日この街で雇われたということ。
雇った人物は白い仮面を付けた男(おそらく貴族)であること。

「子爵からのルートでしか計画は漏れようがない。おそらく貴族派だろう」
トリステイン中枢にも内通者がいる、とギーシュが苦々しく言う。
彼にとって貴族派はどうあっても共存できない敵である。
武門のグラモン家が、他国とはいえ主君に仇成す有象無象を許せるはずもない。


「でも不自然」
茶をすすりながらタバサが発言する。
「あんな装備でグリフォンとそれに乗った貴族を襲うのは無理」
ミドラーもギーシュも頷く。
それが一番気になっていたところだった。
例え奇襲が成功しても、ワルドとグリフォンには勝てなかっただろう。
前金をいくら積まれても傭兵は不可能に思える仕事は請けない。
命が無ければ金を使うこともできないのだから。

「闇夜も魔法で明るくされる。高所からの待ち伏せでもグリフォンは飛べる」
タバサが指折り数える。
「傭兵側に伏兵もなし。メイジを相手にするには明らかに戦力不足」
「これらから推測できることは一つ」
「あの傭兵達はグリフォンを襲う気が無く、馬に乗る三人だけを狙った」


重苦しい沈黙が降りる。
「…すぴー…」
訂正。テーブルに突っ伏したサイトの安らかな寝息だけが聞こえる。
引きつった笑みを浮かべてキュルケが場を取り成す。
「そ、それじゃあアレはこっちの戦力を削ぐだけの様子見ってことね?」
「多分。どこか遠くからこちらの反応を見ていたと思われる」

「じゃあ次は…」
「相手の戦力は測った。居場所も特定。
 増えたこちらの戦力に対応する時間は必要だけどここなら傭兵の補充は簡単。
 この宿にいる間に大規模な奇襲を受ける可能性が高い」

タバサはいつもの調子を崩さないが、キュルケは動揺を隠せないでいる。
フーケ戦の時はあくまで奇襲する側、攻め手であった。
今回のような相手に命を狙われる実戦は初めての経験だ。
お互い命を賭けて決闘したことのあるギーシュとミドラーは、少し感心してタバサを見る。
どうやら二人の想像以上にタバサは修羅場を経験しているようだ。
安らかな寝息を立てている凄腕の使い魔は…どうなのだろう。

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