ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

Shine On You Crazy Diamond-8

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
ヨシカゲが使い魔になってから1週間ほど経っていた。時が過ぎるのはいつもながら早いものだと思う。
ヨシカゲは本当に良く働く。余計なことは全く喋らないし言われたことはしっかりする。
洗濯の仕方が下手だとか服の着せ方があんまり上手ではないこと以外殆ど文句はなかったし、そういったことも言われればそのつどなおしていた。
その働きに免じて食事抜きも1週間から4日に減らしたしスープには鳥の皮を入れておいた。やはりわたしは寛大だ。
魔法が使えないこと以外は全て順調だった。

しかし事件は起こった。事件といってもそんな大きなことではない。わたし個人に関する出来事だ。
そして今思えばわたしが変わるきっかけを作った事件だ。

始まりは夜だった。ヨシカゲはいつも大体同じ時間に帰ってくるのだが、今日はまだ帰ってこない。
どうしたのだろうか?いつも同じ時間に帰ってくるようなやつが遅くなるのは結構気になるものだ。まだ剣でも振っているのだろうか?
そう思っているとなにやら隣の部屋から騒がしい音が聞こえてきた。きっとツェルプストーだろう。
窓を開けてツェルプストーの部屋のほうを見ると一人の男が炎に炙られ落ちていくところだった。どうせ別の男と鉢合わせしてツェルプストーに追い払われたのだろう。
大体1ヶ月に数回はある光景だ。追い払われたものには可哀想にとしか言いようが無い。
しかし自分にはどうでもいいことなので
「………く、無粋な……ロ……」
「………彼と…う約束を………た……いだけど」
「………………友達よ。とにかく今、………が1番恋して…………なたよ。………ゲ」
ツェルプストーとツェルプストーが相手にしている男と思われる声が聞こえてくる。それにしてもこの男の声どっかで聞いたことあるような気がする。どこだっけ?
そのまま窓からのぞいているとまた一人誰かやってきた。そして炙られ追い払われる。
さっきの声何処で聞いたっけ?え~と……
そんなことを考えている間に今度は3人の男がやってきていた。彼らも炎に炙られ落ちていく。
「キュルケ、……がそろそろ……してもらう」
今度は聞き耳を立てていたせいか先程よりもはっきりと声が聞こえた。そうだ!これはヨシカゲの声じゃないか!
どうしてツェルプストーなんかと一緒にいるの!?
きっとツェルプストーが誘惑したのだろう。しかしツェルプストーの部屋にいるということはその誘惑に引かれホイホイついて行ってしまったということだ!
そこまで思い至ると怒りが湧いてくる。ツェルプストーにもだが一番はヨシカゲにだ。あの犬め!
ツェルプストーは敵だ。ゲルマニアの人間というだけでも嫌いなのにその上ツェルプストーはヴァリエール家にとっては不倶戴天の敵!
そんなやつに使い魔を取られたとあってはどれだけの恥か!ご先祖様にも申し訳が立たない!そう、自分はヴァリエール家の人間なのだ。ツェルプストーを敵視するのは当然なのだ。
ネグリジェのまま部屋を勢い良く飛び出しそのままの勢いでツェルプストーの部屋の扉を開ける。
そこにはやはりヨシカゲがいて、ツェルプストーとキスをしていた。わたしが入ってきたとわかっている筈なのに二人はキスをやめようとしない。
それがさらに頭に血を上らせる。
「キュルケ!」
蝋燭を蹴飛ばしながら近づき怒鳴りつける。そしてやっと二人はキスするのをやめる。
「取り込み中よ。ヴァリエール」
ツェルプストーはこちらを振り向くと今気づいたというような態度で言ってきた。
怒りがあふれ出してくる。
「ツェルプストー!誰の使い魔に手を出してんのよ!」
「しかたないじゃない。好きになっちゃったんだもん」
キュルケはこちらを気にした様子もなく両手を挙げて言ってくる。明らかにふざけている!
だから個人的にもツェルプストーが嫌いなのだ!
「恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命なのよ。身を焦がす宿命よ。恋の業火で焼かれるなら、あたしの家系は本望なのよ。あなたが一番ご存知でしょう?」
キュルケはそういいながら両手をすくめる。
あなたが一番ご存知でしょう?知るかそんなもん!
だがここで文句を言ってもどうせツェルプストーには意味が無い。色ボケしすぎて人間の言葉なんて伝わらないだろう。
ヨシカゲに目を向け、
「来なさい。ヨシカゲ」
怒りを押し込め言い放つ。以外にもヨシカゲはすぐに腰を上げる。しかしそれはツェルプストーによって阻まれる。
「ねえルイズ。彼は確かにあなたの使い魔かもしれないけど、意思だってあるのよ。そこを尊重してあげないと」
使い魔にそんなものが必要あるものか!
そういう前にヨシカゲはツェルプストーを振りほどくとわたしの方へやってきた。
「あら。お戻りになるの?」
ツェルプストーの言葉を無視しわたしとヨシカゲは自分の部屋帰った。
「まるでサカリのついた野良犬じゃないのよ~~~~~~ッ!」
そして部屋に入ってすぐにヨシカゲに怒鳴りつける。そうだ!使い魔としての教育が足りなかったのだ!
もっとしっかり躾けるべきだったのだ!甘すぎたのだ!
「そこにはいつくばりなさい。わたし、間違ってたわ。あんたを一応、人間扱いしてたみたいね。ツェルプストーの女に尻尾を振るなんてぇーーーーーーーーーー!犬ーーーーーーーーーーーーー!」
怒鳴りつけるだけでは怒りが収まらない!それにそれじゃあ躾としても甘すぎるだろう!
机の引き出しから乗馬用の鞭を取り出す。
「ののの、野良犬なら、野良犬らしく扱わなくちゃね 。いいい、今まで甘かったわ。乗馬用の鞭だから、あんたにゃ上等ね。あんたは、野良犬だもんねッ!」
そしてヨシカゲを叩こうと思ったとき、気が付いた。
ヨシカゲが剣を抜き始めたのだ!
「久しぶりに抜いてくれたな。相棒」
抜かれた剣が喋る。
「な、何よ?」
なんで剣なんか抜くのよ!ワケがわからないわ!
ヨシカゲは剣を抜いたまま1歩1歩近づいてくる。ヨシカゲの顔を見るとその顔には何も浮かんではいなかった。全くの無表情だった。それが怖かった。
顔から血の気が引いていくのがわかる。体が勝手に後ずさりする。殺される!そんな風に思ってしまう。
わたしが、使い魔に、殺される?それも平民の?
それはだめだ!ヴァリエール家の人間として!貴族として!平民に負けるなんて恥以外のなにものでもない!
覚悟を決めヨシカゲを叩こうと鞭をふる。しかし鞭はヨシカゲの剣に斬られてしまった。は、早く何とかしなければ!
「ななな、何よ!何か文句であカハァッ!」
いつものくせで思わず出てしまった文句は突然の衝撃で中断される。
く、苦しい!咽喉が痛い!それで自分が首を締め付けられているのがわかった。
首を締め付けている腕を外そうともがくがヨシカゲの腕はピクリとも動かない。
苦しい!誰か助けて!
声は出ない。思っただけでは誰にも伝わない。それでも声を出そうとする。
誰か助けて!
目の前が涙で霞んでくる。ヨシカゲが顔を近づけてくる。
お願い!もうやめて!離して!
必死に声を出そうとするが口からはやはり声は出ず、呻き声だけが漏れる。
「使い魔の調教に失敗したな」
そこにヨシカゲは淡々と言い放った。
失……敗?
その言葉を皮切りにさらに咽喉が圧迫される。
も、もうだめ……、死んじゃう……
いや!死にたくない!死にたくない!まだ魔法が使えるようになってないのに!周囲の人間を見返してない!家族からいっぱい褒められたい!自分の価値がゼロじゃないと証明したい!まだどれ一つ叶ってないのに……
涙が零れ落ちた。
そこで意識が途切れた。最後に見たのはヨシカゲの瞳だった。その瞳に何が映っていたのかわたしにはわからない。
でも、いつものヨシカゲとは違うということだけはわかった。

目を開けるとうっすら光が差し込んできた。
そうか、もう朝なのか。でもまだ眠たいな~、もう少し寝てよ。どうせヨシカゲが起こしてくれるだろうし。
そう思いながら毛布を顔まで引き寄せあげる。まだベッドの中でまどろんでいたいのだ。
ん?ヨシカゲ?
突然剣を抜き始めるヨシカゲ。1歩ずつこちらに向かってくるヨシカゲ。鞭を斬るヨシカゲ。わたしの首を絞め付けるヨシカゲ。そしてヨシカゲのいつもと違う瞳……
不意に思い出した出来事に毛布を払いのけ身を起こす。
そうだ!わたしはヨシカゲに絞め殺されたはずじゃ!?
慌ててあたりを見回すが何も変わっているところは無かった。
ど、どうなってるの!?もしかして夢!?
思わず首を擦る。夢のはずが無い。体が憶えているのだ。あのどうしようもなく苦しい感覚を、絞めつけられる痛みを。
あれが夢のはずが無い!
でもこうして生きてるし……もう!ワケがわからないわ!
そうだ!ヨシカゲは何処!?
部屋を見回すがヨシカゲはいなかった。
何処にいるの!?
ベッドから下り部屋を出ようとしたとき突然ドアが開きヨシカゲが部屋に入ってきた。そしてこちらに目を向けてくる。
「もう起きたのか。しかも自分で起きるなんて」
ヨシカゲはいつもと変わった様子はなかった。そう、なにも変わっていなかったのだ。
「あんたわたしの首を絞めたわよね」
でもたしかにあったことなのだ。それに平然を装う事ぐらい出来るだろう。だがこう質問すれば動揺するはずだ!
「何を言ってるんだ?私がそんなことするわけ無いじゃないか」
「嘘つかないで!わたしの前で剣を抜いて迫ってきて首絞めたじゃない!」
「はあ?お前夢でも見てたんじゃないか?」
どんな反応の変化も見逃すまいとしっかり見ていたがヨシカゲになんの変化も無かった。
つまり動揺していないということになる。そんなバカな!じゃあ本当に夢だとでも言うの!?
そうだ、もし夢ならわたしはキュルケの部屋から帰ってきたあとの記憶があるはずじゃないか!
でもいくら頭の中を探してもそんな記憶は無い!帰ってきたあと首を絞められて意識を失ったからだ!
「じゃあわたしがキュルケの部屋から帰ってきたあとすぐに寝たとでも言うの!わたしの記憶じゃ帰ってきたあとあんたに首を絞められたわ!」
これでどうだ!
「絞めたもなにもお前帰ってきてすぐに眠っただろ」
「嘘おっしゃい!いい加減にボロ出しなさいよ!」
「ボロも何もそんな身に覚えの無いことを言われても困るんだが」
「ご飯これからずっと抜きにされてもいいの!」
「身に覚えが無い無いといっているだろう……」
そんなすぐに眠ったなんてことありえるわけ無いじゃない!そんな疲れてたわけでも無いし、何より怒りで眠れるわけが無い!
そういえば、
「そうよ、あんたわたしの鞭斬ったじゃない!ちゃんとした証拠だわ!」
そう、わたしが鞭を振ったときヨシカゲは剣で鞭を斬ったじゃないの!
机に向かって引き出しを開ける。ここに鞭がなければそれが証拠に……あれ?あれ?あれれれれれ?
鞭はそこにあった。しかし斬れていない。前に引き出しに入れたときと変わらぬままそこにあった。
うそ……
後ろからヨシカゲが引き出しを覗き込んでくる。
「斬ったとか言ってたがなにもなってないじゃないか」
ヨシカゲの言葉がさらに現実味を出す。
じゃあ本当に夢だとでも言うの?ありえない!ありえない!たしかにわたしは首を絞められたはずなのだ!鞭を斬られたはずなのだ。
そうだ!喋る剣がいたじゃないか!あれに聞けば!
部屋の隅に立て掛けてあった剣を引き抜く。
「ねえ!あんた昨日鞭斬ったわよね!」
「朝っぱらから何言ってんだ?寝ぼけてんのかよ?」
「こっちの質問に正直に答えなさい!あんた鞭斬ったわよね!」
「斬るも何も最近抜いてもらってすらなかったぜ」
どうなってんのよ……、夢じゃないはずなのに何も証拠が無いなんて……
混乱していたが、それを解消するためにわたしはある一つの決心をした。

そしてその日からわたしのヨシカゲ観察がはじまった。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー