ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第九話 『柵で守る者』後編

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匿名ユーザー

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「……あぁん?」

 いきなり巻き起こった変化に、ラバーソールは眉をひそめた。
 スタンドを通して感覚で分かる。フェンスの周りの空気が急激に冷やされて、『黄の節制』を固めていくのが。

(凍らせて動きを止めようってのか?)

 まぁまぁ、悪くない考えだとラバーソールは正直に思う。
 今自分のスタンドはフェンスを心太よろしく貫いているわけだし、この状態で凍らされたら正直身動きが取れない。
 だが……

「所詮、脳みそがマヌケな奴が考え付く浅知恵だねぇー!」

 ギタリと笑って、呆然とこちらを見つめるタバサを睨みつける。
 ラバーソールの『黄の節制』は、確かに冷やすと固まるが……その性質は、本体から離れて敵に喰らいついた『肉片』がもつ物だ。本体にその法則は通用しない。
 『黄の節制』は、『力を吸い取る鎧』であり、『攻撃する防御壁』であり、極端に熱気や冷気が通り難いのである。
 内部にまで冷気を通すには、スクウェアクラスの冷気が要求される。
 そう、少なくとも学院に通うタバサのような子供が、凍らせられるはずが無いのだ。

 ラバーソールの顔が、こわばる。
 そんなはずはない。トライアングルクラスの冷気で、『黄の節制』が凍りつく通りなど無い筈だ。それなのに――

 ルイズの、才人の、キュルケの、三人の口が、あんぐり開いたまま閉じなくなる。彼らの眼前で信じられないことが起きていた。
 フェンスを中心にして、無敵の筈の『黄の節制』の肉が、凍り付いていた……フローズンでは作れるはずの無い、極低温の世界がそこには広がっていた。

「な、なにぃぃぃぃぃぃっ!?」

 必死で肉を動かそうとするも、凍りついた肉はラバーソールの命令を受け付けず、微動だにしなかった。しかも、有得ない事はまだあった。
 冷たいのだ! ラバーソールが纏っている『黄の節制』が! 霜焼けしそうなほどに!
 幸い、身に纏っているほうは芯まで凍り付いているわけではなく、何とか動かせるが――どんな温度で冷やせばここまで高速で冷えるのか!?

「凍り付いてやがるだとぉ!?」
「……何、あれ」

 驚いたのはタバサも同じだ。
 彼女は、ギーシュに言われたとおりありったけの魔力を混めたものの……あそこまで極端な冷気を発生させる事はできない。タバサの魔力では足りないのだ。
 それに……『雪風』の二つ名を持ち、氷と風のエキスパートであるタバサにはわかった。己の作った冷却空間に行われた干渉が。あれは、肉を凍らせたあの冷気は、自分ではない何者の冷気が上乗せされた結果だ。
 一体誰が――

「『跳ね返した』んだ」

 呆然とする一同をよそに、ギーシュはよろよろと立ち上がりながら、口を開いた。それを聞いたラバーソールは、うろたえて叫ぶ。

「て、てめぇー! 何やったぁぁぁぁぁっ!?」
「僕のスタンドは、『受けた衝撃を跳ね返すフェンスを作る』能力……今の今まで、そうだと勘違いしていたよ。けど、そうじゃなかったんだ。
 さっき、僕の作ったフェンスに霜が下りていたのをみて、僕はそれに気付いた。
 跳ね返すんだ。あのフェンスは、全てを……衝撃だけじゃない……冷気も熱気も全て。
 あの霜は……君の肉が伝えた氷の槍の冷気を、フェンスが跳ね返したから出来た物だったんだ。跳ね返された『冷気』は肉の温度を冷やし、冷やされた肉がまたフェンスを刺激して、跳ね返す……その繰り返しが、辺りの気温を下げた結果、霜が降りた……
 氷の槍から漂ってくる冷気だけで霜が降りたんだ……フローズンなんか唱えたら、肉くらい簡単に冷凍できる……!」
「す、すごいじゃない……それ」

 ざっ……ざっ……

 キュルケの漏らした純粋な感想をバックミュージックに、足を引きずり、右手からだらだらと血を流しながら、ギーシュはラバーソールに迫る。

「そして、余裕ぶってお前は僕たちに攻めてこなかった……その余裕が肉を凍りつかせた。その上僕のフェンスを破壊せずに残した……どちらが欠けても僕は勝てなかっただろう。
 君のスタンドは確かに最強だよ……僕たちじゃあ君には勝てなかった。お前はお前自身の油断に負けたんだ」
「――くぁ!?」

 動けない状態で居るわけには行かず、ラバーソールは脱出を試みた。凍りついた肉の大半を切り離し、無事ですんだ肉だけを身に纏って距離を取ろうとして――

「おおおおっ!!」
「!?」

 ――位置の間にか真横に回りこんだ才人に、全てを台無しにされた!

 ざ ぞ ん っ ! !

 何のためらいもなく振り下ろされたデルフリンガーを、ラバーソールはなんとか回避したが……払った代償は決して安くは無かった。纏っていた『黄の節制』の触手をフェンスに伸ばし、それを突き飛ばす事で反動を利用して回避した結果、伸ばしていた触手を切り落とされてしまった。
 なけなしの肉の、大半を。

 敵が全員真正面に集まった事で、ラバーソールは己を護る肉の割合を減らし、全てを攻撃に回すつもりで質量の大半を触手の中に押し込んで……割合としては1:9。大半がフェンスの向こう側で触手になって凍り付いているのだ。
 その一割のうちの、更に九割を今失った。

「っ! 足の一本も落とせないか!」
『おいコラ相棒! 無茶すんな!』

 自分が出した多大なる戦果に気付かず、才人は悔しがってデルフリンガーのお小言を聞き流す。
 驚いた事に、才人は相手が動けないと感じ取った瞬間に走り出し、回りこんで攻撃を仕掛けたのである。

「この餓鬼ィ……!」


 己からスタンドを奪った少年を忌々しそうに睨みつけて、

 がしゃりっ……

「君のスタンド……要するに素手で触れなければいいわけだ」
「!」

 そのラバーソールの心臓を握りつぶす声が、間近に聞こえた。
 恐る恐る振り向くと、そこには予想通りの金髪が煌いていて。
 その髪の持ち主は自分のスタンドの両腕に、青銅製のグローブらしき物を装着させていた。

「『錬金』……残った精神力を、全部このグローブに込めた。今のお前の纏っている肉の量なら、こいつで十分だ。果たして、その僅かな量で防ぎきれるかな?」
「……『黄の」
「 遅 い ッ ! ! ! ! 」

 ぐしゃぁっ!

「ぼぎゃぁぁっ!?」

 肉を動かしてギーシュを襲おうとしたラバーソールの顔面を、スタンドのアッパーがブッ叩く。跳ね飛ばされた落下するラバーソールの首根っこを掴み、ギーシュは囁きかけた。

「君は、さっき『象徴』がどうとか言っていたね……それが、スタンドの名前の由来か。
 おかげで、決めあぐねていた僕のスタンドの名前が決まったよ……要するに、僕を象徴する物を名づければいいわけだ」

 自分を象徴する物といわれれば、普段のギーシュならば薔薇を真っ先に連想しただろう。
 だが……今の彼が連想したのは、薔薇ではなく、フェンスだった。
 その言葉と、才人が教えてくれた故郷の言葉がかみ合って、一つの名詞が完成する。

「『柵で守る者(フェンスオブディフェンス)』だ」

 それは、ギーシュが夢で叫んだ言葉が浮き彫りになった名前だった。

『雨も嵐も、雷も防ぎきれない未熟な身なら……レディ達を守る柵でいい。
 凶暴な獣達から、モンモランシー達を守る――柵がいいっ!!!!』

「聞こえるかい? フェンスオブディフェンス……それが僕のスタンドの名前だ。
 僕は、この柵で全てのレディと友を獣から守る」
「あ、あが……」
「――貴様などには、欠片も傷つけさせはしない!」

 ドガァッッ!

 再びアッパーカットでラバーソールのボディを跳ね上げ……落下してくるその体を、今度はクビを掴まずラッシュを叩き込む!

「シャラララララララララララララララララララララララララララララララララララララ
ラララララララララララララララララララララララララララララァァァァァァァァァァァッ!!」
「ぶぎゃらぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 ド派手に吹っ飛ばされ、殴られすぎてなんだかよく分からないものへ変化したラバーソール。ギーシュはその落下音を耳にしながら……その場に膝を突いて嘆息する。
 スタンドの右手から張り付いた肉が剥がれ落ち、右脛もゆっりと流れ落ちていく。

「っ~~~~~~~~~~~~~……」

 ギーシュは思いっきり息を吐いたが、彼が吐き出したかったのは息ではなく体の中にわだかまった疲れと疑問だったのかもしれない。

 何故自分が狙われたのか? 何故生け捕りにしようとしたのか? というか、そもそもコレだけ大暴れしたのに、本来の衛兵が一人も出動してこないのは何事か?

 考えたい事は山ほどあったが、思考が疑問に追いつかない。
 右足を襲う痛みも深刻だったが……それ以上に、血の残量がやばい事になっていた。
 ギーシュの右腕はスタンドに張り付いた肉の影響で血がだらだら流れっぱなしだったのだ。

(い……)

 しかも、そんな腕の状態でスタンドラッシュなどぶちかましたものだから、むき出しの骨が複雑骨折してさらに見た目がスプラッターだ。

(痛い……!)

 出血と激痛。常人なら片方でも意地気を失えるほどのダブルパンチに、ギーシュはあっさりと意識を手放した。


「う、うおぉ~! 骨! 骨~! 骨が見えてるってこれ~~~~~~!」
『落ち着けよ相棒……』

 肉がはがれた事であらわになった傷口に、大騒ぎする才人。
 白目をむいて泡を吹くギーシュと併せて緊張感の無いその姿に、ルイズもようやく戦闘の終わりを実感する事ができた。
 その場にへたり込み、深いため息をつく。

「はぁ~……」
「はぁい、ルイズ。ご苦労様」
「なぁにがご苦労様よ……欠片も役に立ってないくせに」

 各々が各々の形で敵にダメージを与えた中で、一人だけ何の役にも立たなかった女に、ルイズは噛み付いた。キュルケは心外だとばかりに肩をすくめて、

「私は私で色々やったわよ? 先生呼ぼうととしたり」
「先生?」
「ズォースイ先生よ……先生方で頼りになるのって、あの人ぐらいだから、フレイムを使って起こそうとしたんだけど」
「……じゃあ、何で先生が来ないのよ」
「いらっしゃらなかったのよ。部屋に……フレイムもあちこち探したんだけど」

 困ったようにクビをかしげるキュルケと、ジト目で睨みつけるルイズをよそに、タバサはラバーソールに向かって杖を振って、残った魔力で氷の枷を作って手足を拘束する。
 敵を倒したという安心感が、彼女たちの警戒心を下げさせたのか……頭上でホバリングする蝙蝠の存在に気付くものはいなかった。



(これは……嬉しい誤算だな)

 使い魔を介してラバーソールの敗北を知った『博士』は、己の策謀が根本から失敗したというのに、全く落胆していなかった。
 それどころか、表情に歓喜すら滲ませている。
 サイレントの結界を解除し、厩舎から抜け出して辺りを警戒しながら、使い魔を呼び戻す。

(まさか、ラバーソールを撃退するほどのスタンドだとは! ガンダールヴの力があれ程のものだったとは! 素晴らしい!)

 普通人間は失敗を重ねれば『意欲』を殺がれるものだが……この男に関して言えば、それは真実ではなかった。
 自分の事を知っているラバーソールが捕まり、下手をすれば自分の地位も危ういというのに、『博士』の心は歓喜で満たされている。
 ラバーソールが口を割らないと信頼しているわけではない。
 彼もまがなりにもプロなわけだし、おいそれと自分の事を漏らすとは有得ないだろうし……漏れてもたかが知れている。

(平民すらもあれ程に強くする伝説のルーン! 平民にすら視認出来るほどの圧倒的なパワーを持つスタンド! ガンダールヴを呼んだのはこの世界のメイジであり、スタンドに至ってはメイジが保有する物!)

 顔面に貼り付けた『砂』をはがし、形作った偽の顔を崩しながら、『博士』は帰ってきた使い魔の喉をなであげる。
 ラバーソールは彼の本当の顔も、本名も知らない……あの男から得られる情報で、博士にまで辿り着かれる事はまずないだろう。

(間違いない……間違いないぞ! 我々にはまだ『可能性』がある!
 メイジの『先』があるのだ!)

 脈動する好奇心と向上心を原動力にして、博士は杖を振るった。魔力に干渉された足元の土が一瞬で風化し、砂となって馬型のゴーレムを形作る。

(平賀才人とギーシュ・ド・グラモン……必ず、必ず君たちを捕まえよう!
 そして、『先』に行くための礎となってもらう!)

 砂の馬に飛び乗った瞬間、博士はとうとう歓喜を抑えきれず、声を立てて笑いだした。。

「ふふふははははははははははっ!!
 今日は、いい日だぁっ!!」

 疾走する人造物の馬にまたがり、交渉するその姿には、暖かい月の光でも覆いきれない狂気が滲み出ていた。





┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃    スタンド名-『フェンス・オブ・ディフェンス』               ┃
┃       本体-ギーシュ・ド・グラモン                    ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃   破壊力C      ┃   スピードA       ┃  射程距離E    ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃   持続力A      ┃  精密動作性C     ┃  成長性 A       ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ 能力 - 殴った場所に『フェンス』をはやす事のできる近距       ┃
┃離パワー型スタンド。生えた『フェンス』に対する攻撃は、全       ┃
┃てが攻撃した者へと跳ね返る。ただ、GEのように『攻撃した個    ┃
┃人』に攻撃を返すのではなく、あくまで与えられた衝撃などを      ┃
┃そっくりそのまま同じ方向に跳ね返すだけであり、しかもフェ      ┃
┃ンスの『枠』には反射能力がないためにフェンスの面積以上の    ┃
┃攻撃を受けると、あっさり壊れる。熱や冷気も跳ね返す。        ┃
┃また、強度や融点が普通の青銅ほどしかないので、フェンスに     ┃
┃火を放って強化しても、枠が溶け出してしまう。                 ┃
┃なお、フェンスだけなら出現させっぱなしで寝ても消えない。     ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

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