ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ポルポル・ザ・ファミリアー-7

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「モグ・・・ング・・・ン、ンマーイ!!」
「そ、そんなに急いで食べなくても・・・誰もとったりしませんから・・・」

シエスタはそう言いながら、瞬く間に空になった皿にシチューをよそった。ポルナレフは皿を受け取ると、
再び怒涛の勢いで湯気を立てるシチューを咀嚼していく。これで四度目のおかわりだった。
魔法学院の胃袋を一手に担う厨房は、昼食の配膳が終わった直後だからか嵐の後のような有様である。
そんな中で、ポルナレフはシエスタの温情に甘えて、賄いのシチューを頂いていた。無論欠片も遠慮することなく。
かれこれ一晩ぶりの食事なのだ。旨くない筈が無い。

「そうは言ったって腹ぁ減ってるし、何よりコイツがンマくてよ!止まらんぜぇ~!」

口にスプーンを突っ込みつつ大口でしゃべるポルナレフ。非常に下品である。

『・・・幸せそうに食べる人だなあ』

ひっきりなしに動くスプーンの残像をそれとなく目で追いながら、シエスタは思った。
一口一口がやたら早いが、噛み締めるように食べているのが表情でわかる。物食う人間はかくあるべき、
といった表情だった。格式を重んじる貴族だったら眉をひそめただろう。しかし、シエスタはポルナレフ
の幸せそうな表情を見て、心から食事させて良かった、と感じた。

「ガツガツ・・・うん・・・ハフハフ・・・こいつぁぜっぴ・・ッグ!ゲフッゲフッ!!」

あまりに急いでかっ込んだせいで、アツアツのシチューが気管に入りむせる。
遅かれ早かれこうなるのを予期していたのか、シエスタはすかさずテーブルに置いてあった水差しを取り、ポルナレフに渡した。
コップに注ぐ余裕も無かったのか、ポルナレフは水差しをひったくると一気に口内を水で満たし、嚥下する。

「んげふ、ぐっ、んぐっ・・・フ~、死ぬかと思った」
「ですから言いましたのに、まったく・・・」
「わりぃわりぃ。でも、本当に美味しかったぜ。トレビアンだよ、ト・レ・ビ・ア・ン!」

丁度空になったシチュー皿をガチャンと置いて、ニッカリと笑うその頬にはニンジンが張り付いていた。
その間抜け面に、シエスタはまた思わず吹きだしてしまう。
ポルナレフの言動は徹頭徹尾コミカルで、接した人を和ませるようなムードを持っていた。シエスタもまた、知らず知らずの
うちにそのムードに包まれてしまっていたのだ。

「腹も落ち着いた所で、改めて自己紹介させてもらうぜ。俺はJ・P・ポルナレフ。よろしくな」
「ポルナレフさん・・・変わったお名前ですのね。どうぞよろしく。ところで・・・この学院の関係者だとか、
 使い魔だとか仰ってましたけど・・・本当はどんな身分の方なんです?」
「言ったとおり使い魔ってやつだ。ほれ、この左手のルーン」
「っ!・・・」

ほれ見よと甲を見せて指差されたポルナレフの左手に、シエスタは思わず息を飲んでしまう。

「どうした?どこか変なとこでも・・・あぁ」

そうか、と合点がいった。左指を握ったり開いたりしてみる。何度動かしても、指は三本しか動かない。
三本しか指は無いのだから。
ポルナレフはシエスタに対して、別段不快感を抱いたりはしなかった。人間、あるべきものが無い、という事象には
原始的な恐怖を感じてしまうものだと、知っていたからだ。

「すまん、女の子への配慮が足りなかったな」
「こちらこそ、すみません・・・どうか、気を悪くしないで下さい・・・」
「気にしなくて良いんだぜ?俺も気にしてないからさ」

シエスタは自分の反射的な反応を恨んだ。
食事中は、せわしなく動くスプーンと、口にシチューを突っ込むたびに幸せそうに頷くポルナレフの顔を見ていた
(そしておかわりのタイミングを見計らっていた)ので、終ぞ左手を見ていなかった。だから気づかなかったのだ。
ポルナレフがそれを攻めないことが、唯一の救いだった。

「ミス・ヴァリエールが使い魔として平民を召還したって、学内で噂になってましたけど・・・あなただったんですね」
「噂になってんのか・・・珍しいことなのか?人間召還するのって」
「私は貴族様のことは良く存じませんが・・・噂になるくらいですから、多分珍しいのでしょうね」
「ふーん・・・」

ルイズは、結構珍しい存在なのだろうか?ポルナレフの心に一瞬疑問がよぎるが、すぐに消えた。
珍しい、というか実力が無いのだろう。使い魔といったらやっぱりフクロウとか猫とか、オカルティックな生き物が最初に
思い浮かぶ。実力のある奴はドラゴンとか、すごい使い魔を召還することができて、そうでないヌケサクは人間を召還するので
はないか。仮説を立て終わると、ルイズについての疑問は頭から吹っ飛んだ。

「・・・そうだ。飯を奢ってもらって、話にも乗ってもらって、このまま帰るわけにはいかねえな」

ポルナレフはそう言って、満腹で突っ張る腹をかばいつつ席を立った。

「何か手伝えることはねえか?なんでもいいぜ」
「・・・そうですね、じゃあ、デザートを運ぶのを手伝ってください」

ポルナレフがデザートのケーキが乗ったトレイを運び、シエスタがケーキを配膳する。無論ポルナレフは二つ返事で了解し、
かくしてちょっとした波乱の待つ食堂へと、ポルナレフは赴いてしまうのであった。

『・・・しかし、このシエスタって娘、カワイイなぁ~~~。
 素朴な可憐さっていうかよ、キュルケとかとはまた毛色の違った可愛さだよなぁー・・・』

シエスタと、貴族たちが座るテーブルの間をぬってケーキを配膳している間、ヒマなポルナレフは悶々とそんなことを
考えていた。腹が一杯になったおかげで、脳みそを邪に使う余裕が出てきたのであろうか。

『メイドってのもポイント高いぜぇ・・・
 貴族のボンボンが難癖つけて、困っているメイドを颯爽と助ける俺!
 ボンボンと決闘して、無論俺は難なくボンボンをボギャァー!する!
 そしていつしかメイドは俺に・・・って何考えてるんだ俺は・・・』

イメージプレイも大好きなポルポル君は、どうやら腹に血液が集まったおかげでマトモな思考が出来ないようである。

『しかし・・・俺の勘が囁いている・・・
 今想像したこと、近いうちに起きそうな気がするぜ・・・いや、この俺の勘だ、絶対的中するぜ!!』

妄想を続行するポルナレフには、根拠の無い自信が満ち溢れていた。


ギーシュ・ド・グラモンはこの日、滅茶苦茶ご機嫌であった。
ガールフレンドのモンモランシーから、プレゼントを貰ったからだ。キザ男として通っている彼であるから、
女の子からのプレゼントは慣れている・・・という程ではないにしろ結構貰っているのであるが、今回は別格
であった。

~これより甘い回想~

「ギ、ギーシュ・・・」
「やあ、どうしたんだいモンモランシー?こんな早くから・・・」
「あの、これを・・・」

唐突にモンモランシーが突き出した手には、一本の小瓶が乗っていた。
それが香水の入った瓶であることは、ギーシュにはすぐに分かった。過去何度か同じデザインの瓶に入った香水を
貰ったことがあるからだ。
過去の香水と違うのは、中の液体が神秘的な紫色でなく、深い群青色であることだった。

「いつもの香水と違うね、どうしたんだい?」
「珍しい材料が手に入ったから、試してみたらそんな色になったの」
「・・・もしかして、僕のために?」
「そ、そんなんじゃないわ!単に実験!実験よ!!」
「それは残念だなあ。君のような可憐なレディに、自分だけのための香水を作ってもらえたら、
 どんなにか幸せだろうに」

お得意のキザな台詞を連射する。
モンモランシーも満更でもないらしく、白い頬に赤みがさす。

「・・・単に実験・・・だけど・・・でも、珍しい香水を一番に試してほしいとは・・・思ったわ」
「モ、モンモランシー・・・」

これがデレって奴ですか、安西先生!!!!
ギーシュは心の中で絶叫した。モンモランシーの心遣いがたまらなく嬉しく、そして愛おしかった。

「・・・ありがたく使わせてもらうよ、愛しのモンモランシー・・・僕の大切な人・・・」
「・・・ギーシュ・・・」

~ここまで甘い回想~

『あぁ、思い出すだけでも鼻血が出そうだよ、愛しのモンモランシー・・・』

おかげで授業も上の空だったし、昼食もあまり食べることが出来なかった。
学友たちの囃し立てる声も、今のギーシュには聞こえない。ポケットをまさぐると、ガラス瓶の冷たい感触がかえってくる。
モンモランシーの愛が詰まった香水瓶を撫でているだけで、ギーシュはもう天にも昇る気持ちだったのだ。
食堂はデザートを食べ終わった生徒が出て行ったからか、少し閑散としはじめていた。

「なあ、ギーシュ、どうしたんだ?今日の君はホントに変だぞ」
「変なクスリでも嗅がされたか?」

ギーシュはため息を返すのみである。

「もうだめだ・・・こいつ完全にイカれちまってるぜ・・・」

そんな声も今のギーシュにとってはマジでどうでもいい虚無の彼方である。
浮気もやめようかなあ・・・そんなことを考えながら再びポケットに手を突っ込んで殴りぬけ・・・ではなく、
香水の瓶をいじろうとしたその時、瓶はスルリと指の間をすり抜け、床にポトリと落ちてしまった。

「アッ!!」

一瞬ギーシュの顔から血の気が引いたが、床に落ちても割れなかった香水瓶を見てホッとする。
落ちた拍子に勢いがついたのか、コロコロと転がっていく香水瓶。
あの瓶が割れたら一大事だ。すぐ拾おうとギーシュは席を立つ。しかし、運命は非情だった。

ドグチアァッ!!

ギーシュの視界に突然現れた半長靴が、奇妙な擬音とともに香水瓶を押しつぶした。

「・・・え?」

余りに余りな展開に、ギーシュの脳みそは一瞬にして処理落ちしていた。
一瞬の後、半長靴の下から群青色の液体が流れ出す。あたかも潰された死体から流れ出す血の様に。

「・・・ん?」

妄想に浸っていたポルナレフは、そこでやっと、自分が何かを踏みつけていることに気づいた。
トレイを持っていたことで、足元の視界が制限されていたこともあって、転がってくる香水瓶に気づけなかったのだ。トレイを退けて
足元を見ると、何か青色の液体が靴の下から流れ出していた。

「な、なんだこりゃ!」

何かバッチィ物を踏んでしまったと想像したポルナレフは思わず半歩飛びのいた。
しかし、その仕草は再起動の済んだギーシュにとどめを与えるのに十分だった。

「・・・この瓶、もしかしておめーのか?」

ギーシュは答えない。聞こえてはいる。
しかし、答えるという選択肢は、既にある感情で満たされた彼には存在していないのだ。

「わ、悪かった。ぼーっとしちまってて・・・」
「・・・を・・・」
「へ?」

そして、その感情の高ぶりが頂点に達した瞬間、ギーシュはその感情・・・「怒り」にもっともふさわしい台詞を吐き出した。



「何をするだぁーーーーーッ!!!!!!!!許さん!!!!!!!!!!」



それは、ある愛に生きる貴族の慟哭であった。

to be continued・・・->

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