ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!?-53

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匿名ユーザー

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「ムゥ~~ッ!!
フゴムゴォ!
ングゥ~ッ!」
部屋に響くのはギーシュのくぐもった声であった。
言い訳や状況説明をする暇なくルイズによって簀巻きにされ、
DIOに足首を掴まれて逆さ吊りにされているのだった。
口には猿ぐつわがしてあり、何を言っているのか明瞭ではない。
ルイズはギーシュの足を持っているDIOの上着をまさぐり、
ナイフを一本取り出した。
そして、逆さ吊りで視界が反転しているギーシュに視線を合わせるため、
ヤンキー座りになった。
豚でも見るかのような冷たい目で、
ルイズはギーシュの横っ面をナイフでペチンペチンと叩いた。
ナイフに嫌な思い出があるのか、
それを目にした途端ギーシュは激しく身を捩った。

「これどうします、姫様?
なますにしてラグドリアン湖にバラまきますか?」

「フ、フガッ…!?」
まさかの死刑宣告である。
かろうじて自由な目をせわしなく動かして、ギーシュが呻いた。
アンリエッタは事の展開のあまりの早さに、
頭がまだ追い付いていなかった。
いきなり生死の審判を委ねてくるルイズが、
純粋に怖かった。

今ルイズがギーシュに向けている目に、
見覚えがあったからであった。
まだ二人が幼かった頃だった。
ルイズは侍従のラ・ポルトに、
時折りあんな目を向けていた。
ラ・ポルトは魔法の使えないルイズを『ゼロ』『ゼロ』と
散々陰で馬鹿にしていたのだった。
……そういえばラ・ポルトは宮中を去った後、
プッツリと消息を絶ってしまっている。
元気にやっているであろうかと、アンリエッタは少し気になった。
しかし今重要なのは、目の前で逆さ吊りになっているメイジを
どうするかということである。
死の恐怖にガタガタと震ている姿は、
痛ましくて見るに耐えない。
その光景が、部屋を訪れたときの自分と重なり、
アンリエッタはギーシュに同情せざるを得なかった。

「あ、あのルイズ。
もうそのあたりで許してあげては……」
ルイズはギロリとアンリエッタの方に振り返った。
腰が抜けてしまいそうなほどの威圧感だったが、
なけなしの勇気を振り絞って、アンリエッタはルイズを見返した。
数瞬の沈黙の後、ルイズはつまらなさそうに
DIOに目配せをした。

「ブギャッ!!」
DIOがパッと手を離し、ギーシュの頭が床に墜落したのだった。

そしてルイズは無造作に、手にしたナイフをギーシュに向けて投擲した。
ギーシュに突き刺さるかと思われたナイフはしかし、
紙一重でギーシュを避け、彼を拘束していたロープを切断した。
こうしてようやっと束縛を解かれたギーシュは、
覗き見をしたことを必死で謝罪した。

『薔薇のように見目麗しい姫様のお姿に心奪われ、
ついつい後をつけ、覗き見をしてしまった』
要約するとこんな感じである。
……つまり、アンリエッタの変装がチャチだったのが原因だった。
しかし、まさかギーシュ如きに一発で見抜かれてしまうほどだとは。
ルイズは頭が痛くなってきた。
これではもうどうしようもない、こいつも連れていくしかない。
もしギーシュを学院に残したら、口の軽いこいつのことだ、
ペラペラと話してしまうに違いない。
はぁ、御荷物が増えた……
とルイズは胃がキリキリする思いだった。
しかし、アンリエッタに巻き込まれる犠牲者が
また一人増えただけなのだと考え直すことにした。
ルイズは健気で前向きな少女だった。

「姫様、致し方ありません。
この者も同行させます。
名はギーシュ・ド・グラモン、『土』のドットメイジにございます」

「グラモン? あの、グラモン元帥の?」
ギーシュは慌てて立ち上がり、一礼した。

「ありがとう。
お父様も立派で勇敢な貴族ですが、
あなたもその血を受け継いでいるのですね。
では、お願いします。
この不幸な姫をお助け下さい、ギーシュさん」

「姫殿下が僕の名前を呼んで下さった!
姫殿下が!
トリステインの可憐な華、薔薇の微笑みの君がこの僕に微笑んで下さった!」
ギーシュは顔を真っ赤に赤らめて、
感動のあまり後ろに仰け反って失神した。
やれやれこいつアンリエッタに惚れたのか、
とルイズは推察した。
しかし、こいつはちょっと前に浮気騒ぎを起こしたばかりの、
札付きの信用無しである。
その被害を被った女生徒の一人……モンモンだったか、確かそんな名前だった……
は、最近になってようやく立ち直ったとか。
いっそ去勢でもした方が学院の、引いては人類の平和に繋がるんじゃないかと思って、
ルイズはチラッとギーシュの切ない部分に目をやった。
もちろんわからないようにしたつもりだが、
薄ら寒いものを感じたのか、ギーシュの肩が若干震えた。
ルイズは気を取り直してアンリエッタに向き直り、
話を進めることにした。

「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発いたします」

「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」

「了解いたしました。
以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、
地理には明るいかと存じます」

「旅は危険に満ちています。
あなた方の目的を知ったら、アルビオンの貴族達は
ありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう」
アンリエッタは真剣な眼差しをDIOに向けた。
「頼もしい使い魔さん。
よければお名前を教えて下さい」
声を掛けられDIOはしかし、アンリエッタを一瞥しただけで、
彼女の言葉を無視した。
意外な反応に、アンリエッタは怪訝な反応をした。
気まずい沈黙が場を支配し始め、ルイズは慌てた。

「こ、こら、姫様の御言葉よ!
ちゃんと名乗りなさい!」
ルイズの命令を受けて、DIOは小さな声で名乗った。

「……DIOだ。
そこのルイズの執事の真似事をやっている」
声を聞いて、ルイズはDIOの機嫌がよろしくないことを悟った。
ルイズにしか分からないくらいの変化だったが、
確かに、DIOの声は不機嫌そうだった。

何故だろうとルイズは疑問に思った。
しかし、アンリエッタはそれに気付かず微笑んだ。

「わたくしの大事なお友達を、これからもよろしくお願いしますね」
民衆に見せる営業スマイルでにっこりと笑ったアンリエッタは、
そのままルイズの椅子に座った。
そして、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、
さらさらと手紙をしたためた。
アンリエッタは、自分が書いた手紙をじっと見つめた。
やがて決心したように頷き、末尾に一行付け加えた。
密書だというのに、まるで恋文でもしたためたようなアンリエッタの表情を、
ルイズは怪訝に思った。
しかし自分がとやかく言う領分ではないので、
ルイズはだんまりを決め込んだ。
巻いた手紙に封蝋をなし、花押を押して、
アンリエッタは手紙をルイズに手渡した。

「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡して下さい。
すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」
それからアンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜き、
これもルイズに手渡した。

「母君から頂いた『水のルビー』です。
せめてもの御守りにこれを。
路銀が心配なら、売り払って旅の資金にあてて下さい」

無自覚トラブルメーカーであるアンリエッタの私物を頂戴したとあって、
ルイズはこっそり嫌そうな顔をした。
厄介事を招き寄せる呪いでも掛かっていそうだ。
彼女の言う通り直ぐに売っ払ってしまおうかと、
ルイズは思った。

「この任務にはトリステインの未来がかかっています。
母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風を、
幻影のように鎮めて下さいますように」
アンリエッタは静かな祈りを捧げた。

――――――――――
朝靄の中、ルイズ一行は馬に鞍をつけていた。
いつもの制服姿だが、長時間の移動に備えて乗馬用のブーツを履いているルイズ。
密命に燃え、気合いの入ったセンス最悪の衣装に身を包んだギーシュ。
デルフリンガーを背に、ハートの飾りが頭に光るDIO。
そして…………いつものメイド服姿で、
当たり前のようにDIOの代わりに雑務をこなしているシエスタ。
ついてくる気満々である。
ルイズは乗馬用の鞭を片手に、
腰に手を当ててシエスタを睨みつけた。

「なんであんたがここにいるわけ?
今回ばかりは引っ込んでなさい、事情が違うわ」

苛立ちも露わに言い放つルイズだが、シエスタは涼しい顔で一礼した。
これ見よがしに胸が揺れる。
ルイズの顔面の青筋が増えた。

「旅の間、DIO様の御世話をさせていただきます。
光栄なことに、DIO様より直々の指名をたまわりました」
何とDIOの命令らしい。
ルイズは即座に、その怒りの矛先をDIOに向けた。
しかし、ルイズが怒り出すのは承知の上なのか、
ルイズが口を開く前にDIOが理由を説明した。

「ルイズ。見誤っているようだから言っておくが、
私はまだ万全ではないのだ。
降りかかる火の粉を払うのに、余計な労力を消費するわけにはいかん」

ぐっ……とルイズは言葉に詰まった。
確かに、付き合いが浅いので正確には知らないが、シエスタは有能だ。
匂いで分かる。
少なくともギーシュの百倍は役に立つだろう。
しかし、ルイズにはシエスタのあの澄ました態度が
癪に障って仕方がないのだ。
頭では納得できても、割り切ることは出来ないものがある。

そしてシエスタもまた、ルイズの内心を悟っているかのように、
鋭くルイズを射抜いた。

「……失礼ですが、ミス・ヴァリエール。
私は、例え仮初めといえども貴女がDIO様の主人であるなどと、
認めてはおりません」
それっきりシエスタはルイズに背を向けて、自分の仕事に戻った。
一瞬何を言われたのか分からず、キョトンとした顔をしたルイズだったが、
見る見るうちにその顔に黒い怒気が浮かんだ。

「……あぁ? 今、なんつったの?」
肩を掴んで、シエスタを無理やり自分の方に向かせるルイズ。
しかし、ドスの利いた声でシエスタに詰め寄っても、
顔面がぶつかるくらいに近寄ってメンチをきっても、
シエスタは眉一つ動かさない。

「貴女には主人としての資格などありませんと、
申し上げたのです」
使い魔の主人である資格が無いなどと言われることは、
貴族の沽券に関わる問題である。
決して聞き逃すことの出来ない侮辱であった。
ルイズは片手でシエスタの胸倉を掴み上げた。
片手であるにも関わらず、
シエスタの足は地面を離れた。
だが、それに怯むことなく、シエスタもルイズに牙を剥く。

「URYYYY……!!」
「KUA ッ!!!」
一触即発の状態で、二人はバチバチと火花を散らした。

事の成り行きを見ていたギーシュには、まさか口出しなんて出来るはずもない。
彼は必死で目を合わせないようにした。
あんな連中に、自分の使い魔を連れていってもいいか
などと聞けるはずもない。
ギーシュは自分の使い魔を連れていくことを渋々諦めた。
しかしこの修羅場な空気を断ち切る存在が現れた。
ルイズの横の地面がモコモコと盛り上がり、
茶色の大きな生き物が顔を出したのだ。
血で血を洗う肉弾戦に突入しそうな勢いだった二人は、
突如現れたその生き物に目を向けた。
その茶色い生き物は、ギーシュの使い魔のヴェルダンデであった。

「ヴェルダンデ!
ああ! 僕の可愛いヴェルダンデ!」
自分が溺愛する使い魔の登場に、ギーシュは感極まった声を上げた。
それとは対照的に、ヴェルダンデを見る二人はどこまでも無言だった。
その激しい温度差に、ギーシュは気づかない。

「あんたの使い魔って、ジャイアントモールだったの?」
場の流れを無理やり変えられて、ルイズが不機嫌そうに聞いた。
主人のもとに駆け寄ったヴェルダンデを抱きしめながら、
ギーシュは目を輝かせた。

「そうさ、僕の可愛い使い魔のヴェルダンデだ!
ああ、ヴェルダンデ! 君はいつみても可愛いね!!」
暫く主人の熱い抱擁を受けていたヴェルダンデだったが、
やがて鼻をひくつかせた。
くんかくんかと匂いを探るヴェルダンデは、何故かルイズ……
正確には、ルイズの右手の薬指に光る指輪……に狙いを定めた。
ヴェルダンデは宝石が大好きなのだった。
だからこそ、『土』系統であるギーシュにとっては最上の協力者であった。
つぶらな瞳を輝かせて、ヴェルダンデはルイズに突撃した。
ルイズは自分めがけて走ってくるモグラを無感情に見下ろした。

「それ以上近づいたら蹴るわよ?」
モグラ相手にバカみたいだが、ルイズは一応警告した。
しかし、やはりモグラがその突進を止めることはなかった。

「あはは、噛みつきやしないさ。
とっても賢いやつなんだ!」
気さくな笑みを浮かべるギーシュ。
やがて距離が縮まり、一直線に駆けたヴェルダンデは、
そのままの勢いでルイズの胸に飛びつこうとした。
―――が

「フンッ!!」
"ボギャア!"という鈍い音と共に、ルイズの膝蹴りが
ヴェルダンデのアゴに炸裂した。
勢いがついていた分、ダメージは相当のものだった。

ヴェルダンデはもんどり打って倒れ、ピクピクと痙攣し始めた。
愛する使い魔に対するあんまりな仕打ちに、
ギーシュはプッツンした。

「な、なにをするだァーーーッッ!
許さんッ!」
懐から、杖として使っている薔薇の造花を取り出して、
ギーシュは鼻息荒く目を血走らせた。
この場で決闘でも始めかねない剣幕だ。

「警告したでしょうが。
殺さなかっただけ感謝しなさいよ」
だが、ルイズはそんなギーシュを宥めるどころか、
逆に挑発したのだった。ルイズはシエスタとの一件で、まだ気が立っていた。
そんなルイズに対する怒りで身を震わせるギーシュは、
何の躊躇もなく薔薇を振った。
薔薇の花弁が二枚宙を舞い、たちまちそれは青銅で出来たゴーレム、
『ワルキューレ』に姿を変えた。
ギーシュの十八番、錬金であった。

「け、け、けっけっけっ決闘だァ!
このビチグソがぁあああッッ!!」
錯乱状態のギーシュが薔薇を振るうと同時に、二体のワルキューレがルイズに踊り掛かった。

to be continued……


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