ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神・妖刀流舞-17

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匿名ユーザー

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 さて、少々ボロボロになったオスマンが、理事長室に取り合えず戻ったのは夜も更けてからだった。
 そのまま寝室へ戻る事も考えたが、ミス・ロングビルに『ではこちらの書類に目を通しておいて下さい!』と、不機嫌に、そして強く言われたので理事長室の自席へ戻ってきたのだ。
 早速一枚目に目を通してみる。
『馬鹿!死んじゃえ!』
 いきなり私情全開の悪口から始まった。
「うーむ、相変わらずお茶目じゃなマチルダちゃんは」
 二枚目を捲る。
『胸だけは触らないで下さい!』
「無茶を言うのう。あんだけ触り心地ええもんを、触らんでおられるか」
 三枚目を捲る。
『着替えを覗かないで下さい!』
「ほっほっほ、監視中に偶々目の保養になる事があるだけじゃ。全くあれ程のもん、そうそう拝めんわい、眼福眼福」
 四枚目を捲る。やっとで普通の書類が出てきた。
「しかしホント、マチルダちゃんがやってくれると捗るね。優秀な上に触り放題とか、後300年は生きれそうじゃね?私」
「ちゅっ?」
「ん?モートソグニル、おぬし疲れておらんか?」
「ちゅっちゅちゅちゅ」
「ほおほお、耳が虫食いの余所者のネズミを、絞めて追い詰めてやったとな。そりゃご苦労」
「ちゅちゅちゅっちゅー」
「なんと、使い魔連中を集めてこれからまた一戦しにいくとな」
「ちゅちゅっ」
「今度はアヌビスとシルフィードも引っ張り出すから逃がさんと。ふむふむ、んじゃ気を付けてやってきてくれたまえ」
 どこか疲れてるっぽい使い魔相手に雑談しながら暫らく書類に目を通していると、ノックがされた。
「ん?こんな夜更けに誰じゃね」
 それはアンリエッタ王女であった。

 さて、アンリエッタ王女の用件は以下の様なものであった。
  • アルビオンへの使者の任を幼馴染のルイズに命じ、手紙と水のルビーをを託した事
  • その任とはゲルマニアとの婚姻による同盟の障害となる物を取り除く事
  • アルビオンの貴族派がその任の妨害工作をしてくるであろう事
 それらの話しを聞き、オスマンは真面目な顔をして、顎に手を当て、考え込んだ。
「ふーむ、これまた厄介な仕事を」
「はい、わたくしもその様な危険な事を幼馴染に頼める筈が無いと思い止まりましたわ」
「しかし、結局の所任せたのではないですかな?」
「ええ、思いもよらぬところで、最近王宮でも噂に名高いグラモン元帥の子息が力になって下さる事に。ですので、それならばと思い」
「『ギーシュさん』じゃな!?」
 オスマン氏が唾を飛ばしながら大声を上げて立ち上がった。
「え、ええ。そうですわ。わたくしも僅かにですけれど、その噂は耳にしていますわ。侍女達の間でも噂になっておりました」
 アンリエッタはその反応に一瞬引きながらも、思っていた以上に期待できるのではと笑顔を見せた。
「流石『ギーシュさん』じゃ」
「学院長からも、その様に信任厚いのでしたらわたくしも安心ですわ」
「しかし、相応の供を付けるのも必要かもしれませんな。『ギーシュさん』と言えども経験浅い任の負担は大きい物ですぞ」
「ええ、ですので信頼できる者を一名、共に付けようと考えております」
「それは結構。私も何らかの検討を考えておきましょう」
 一通り話しが済んだところで、アンリエッタは『共の者の選抜もせねばなりませんので』と言い残し去って行った。

 そして夜は過ぎ去り、朝となる。

 何時もの制服姿に乗馬用のブーツといった出で立ちのルイズが自室の真下。
つまりは昨晩、自分の使い魔とその相棒を投げ捨てた辺りできょろきょろと何かを探していた。
「な、無いわ。ど、どどどど、どうしよう」
 地面には二振りが突き立っていた跡はあるのだ。
 これは不味い。魔法がまだまともに使えない自分がフーケのゴーレムと戦えたのははっきり言って、あの妖刀と魔剣のお陰なのだ。それぐらい自覚している。
 まさか家出か?と慌てた所で、いきなり自分を覆う様に影が落ちた。
 上を見上げると、タバサの使い魔のシルフィードの姿があった。その脚にはアヌビス神とデルフリンガーが握られている。


「全く厄介なネズミだったぜ。あんなすげえネズミは俺初めて見たね」
「あれが、おれの言ってたスタンド使いって奴だ。幻覚じゃない事が判ったかデル公」
「アヌさま、凄かったのね。アヌ様いなかったら勝てなかったのね。
 あ、下にルイズさまがいる。どうするの?きゅいきゅいっ」
 真下をうろうろするルイズに気付いたシルフィードが、脚に抱えられた二振りにどうするのかと促す。
「げぇっ。不味っ!んじゃ其の侭、おれ達を下に放ってくれ」
「判ったのね。後、わたしが喋る事ができるのは秘密なのね。きゅいっ」
「判ったぜ。んじゃーな嬢ちゃん」
「アヌさままたね。デルさまも、またねなのね」
 慌てる二振りを下に放ると、シルフィードは飛び去って行った。

 目の前に落ちてきた二振りを、ルイズがジロリと睨みつける。
「あんた達何勝手に出掛けてるのよ。探したわよ」
「いやーすまねえご主人さま。モートソグニルの旦那に呼び出されてた」
「オールド・オスマンの使い魔に?」
「ちょっと厄介な敵がいるから援軍に来いって言われたんだ。
 ここで生活してる以上、あの旦那の頼みは断れないんだ」
「そ、そう」
 使い魔の社会には、何か自分の知らないルールでもあるのかなと考えあえて追求するのは止めておいた。
 学院長の使い魔である以上、多分使い魔連中の間では逆らい辛い存在なのかも知れない。

 拾い上げられながらデルフリンガーが問う。
「所で朝っぱらからどーしたい。ブーツまで履き込んでお出かけかい?」
 ルイズはデルフリンガーを背に。アヌビス神を腰にぶら下げながら答える。
「姫さまから大切な任務を仰せつかったのよ。あんた達が馬鹿な事して放り出された後にね」
「ああ、あのアンリエッタとかいう。
 あれは中々良い二の腕と胸だった。是非近い内にずばァーと―――――」
「それから先を言ったら、水のスクウェアメイジ100人呼んで作らせた濃硫酸の池に浸け込むわよ。この無礼者」
 相手にするのも面倒なアヌビス神の世迷い事を黙らせて、ルイズはさっさと馬小屋へと向った。

 馬小屋ではギーシュとミス・ロングビルが馬に鞍を着けていた。
「ギーシュは昨日姫さま追っ掛けて来て部屋に忍び込んで、首突っ込んで来る事になったから、いるの判るけど。
 なんでフーケじゃなかったミス・ロングビルがいるのよ」
 予想をしていなかった顔にルイズが疑問の表情を浮かべる。
「オールド・オスマンに頼み込まれたのよ……。アルビオンなんて、絶ぇぇー対っ!に行きたく無かったのだけど……。
 重要な任務だから、土地鑑があって腕っ節が期待できる、わたしは適任なんだってさ」
 彼女は心底やれやれといった顔をした。
「ま、断れる立場じゃ無いしね。それにあの糞爺から暫らく離れられる方が心身が休まる気もしてね……。最近は本当にエスカレートしてもう泣きそ……」
 更に忙しく表情を変えて、引き攣った顔を見せ、今度は遠い目でどこかを見ている。
 ギーシュは彼女の実力を知っているので。『付いてきてくれて、実に心強い』とか媚び諂っている。美人なお姉さんがいるのが嬉しいのがどこか見て取れた。
 こんな男の腹の底が、純粋真っ白で本当は一人の女性に心をちゃんと決めていた。ってのが実に信じ難くなるルイズであった。

 幸せそうな顔のギーシュをジロジロ見ていたら、困ったような顔をして口を開いた。
「お願いがあるんだが……」
「なによ」
 そのまま続けて更にじろっと睨んでやる。
「ぼくの使い魔をつれていきたいんだ」
「はぁ?何言ってんのよ。あの巨大モグラをどうやって連れて行くってのよ」
 眉をひそめて睨みに更に迫力をくわえてやる。

 すると突然お尻の辺りから抗議の声が上がった。
「何を言ってんだよご主人さま。正直ロングビルが来るからギーシュはいらねえけどよ。ヴェルダンデは必要だろうが!
 奴は使える。おれと奴が組むだけで、暗殺の成功度が数十倍に跳ね上がるんだぜ」
 その言葉にミス・ロングビルが何か思い出したのか、少し嫌な顔をした。
 自分が馬鹿にされた上に内容が物騒な物の、肯定の意見を聞けて、ギーシュの表情がぱっと明るくなった。
 そして足で地面を叩く。
 すると、モコモコと地面が盛り上がり、茶色の大きな生き物、つまりはヴェルダンデが顔を出した。
 ギーシュはすさっ!と膝をつくと、ヴェルダンデを抱きしめた。
「ヴェルダンデ!ああ!ぼくの可愛いヴェルダンデ!」
 それを見ながらアヌビス神が声をかける。
「解散するなりの再会だな」
 ヴェルダンデがそれに返事らしく鼻をモグっといわせる。
 デルフリンガーも何か喋りたそうだが、背負われた時に鞘にしっかり収められてしまって少しカチャカチャ震えている。
「ああ、ヴェルダンデ、きみはいつ見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」
 嬉しそうに返事をするヴェルダンデに頬擦りをするギーシュに向って、ルイズは困った顔をする。
「ねえ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょう?」
「そうだ。ヴェルダンデは何せ、モグラだからな」
「そんなの連れていけないわよ。わたしたち、馬で行くのよ」
「そいつ、地面の中進む速度滅茶苦茶速いぜ。昨晩一緒に強襲したから判る。
 どっかの拳法家が乗ってる黒だの白だのの馬じゃ無い限り、置いていかれることはないな」
 アヌビス神の言葉に、ギーシュとヴェルダンデがうんうんと頷いた。
「わたしたち、これからアルビオンに行くのよ。アルビオンは空の上よ?地面を掘って進む時点でダメよダメ」
 ルイズがそう言うと、ギーシュは地面に膝をついた。
「お別れなんて、つらい、つらすぎるよ……、ヴェルダンデ……」
 そのとき、ヴェルダンデが鼻をひくひく、くんかくんかとさせてルイズに擦り寄ってきた。
「ちょ、ちょっと!」
 そのままルイズは押し倒されてしまい、鼻で身体をまさぐられる。

 その様子を遠くから覗っていた、ミス・ロングビルは『やっぱこの学院はそんなのばっかりか!』と内心頭を抱え泣きたくなった。

「こら!無礼なモグラね!姫様に戴いた指輪に鼻をくっつけないで!」
 ヴェルダンデはルイズの右手の薬指に光るルビーを見つけると、そこに鼻を摺り寄せ始めた。
「なるほど、指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね」
「どうでも良いが勘弁してくれ。おれも一緒になって潰される」
「ははは、ヴェルダンデは貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ。『土』系統のメイジのぼくにとって、この上もない、素敵な協力者さ」
 ヴェルダンデに押し倒さればったばったとルイズが暴れていると、突然一陣の風が舞い上がり、ヴェルダンデを吹飛ばした。
「誰だッ!」
 ギーシュが激昂してわめいた。
 朝もやの中から、一人の長身の貴族が現れた。羽帽子をかぶっている。
「貴様、ぼくのヴェルダンデになにをするんだ!」
 ギーシュがすっと薔薇の造花を掲げた。一瞬早く、羽帽子の貴族が杖を引き抜き、薔薇の造花を吹き飛ばす。模造の花びらが宙を舞った。
「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。きみたちだけではやはり心もとないらしい」
 長身の貴族は、帽子を取ると一礼した。額には何故かバンソウコウが貼られていて、緊張感が少し台無しだ。
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」
 文句を言おうと口を開きかけたギーシュは相手が悪いと知ってうなだれた。魔法衛士隊は、全貴族の憧れである。ギーシュも例外でない。
 ワルドはそんなギーシュの様子を見て、首を振った。
「すまない。婚約者が、モグラに襲われているのを見て見ぬ振りはでき―――」
 ワルドは突然途中で、口と首を止めてギーシュをまじまじと見入る。
「ま、まさか……」
 声が上擦っている。
 ギーシュは突然の展開にぽかーんとしている。
「もしや噂の……グラモン元帥のご子息の」
「あ、ああ、ギーシュ・ド・グラモンだが」
 ギーシュがきょとんとして答えた。
「やはり噂の『ギーシュさん』か!」
 突然表情を和らげたワルドがギーシュに握手を求めてきた。

「いやぁ……純粋なる『愛』の話しには、僕も心を打たれてね。是非一度お目に掛りたかった。いやぁ先程は本当に失礼をした」
 ギーシュは混乱して『え?』『え?』とキョロキョロ見て周り。
 取り合えず目に付いたミス・ロングビル辺りに目で助けを求めたが、知らん振りをされたので、素早く落ち着いた笑顔を作ってそれに応えた。

「わ、ワルドさま……?」
 立ち上がろうとしたルイズは、妙な勢いではしゃぐその姿を見て、そのまま突っ伏すようにすっ転んだ。
 今のワルドは『これは部下に自慢できるかな。ハッハッハ。グリフォン隊にもきみのファンは多くてね』とか熱く語っている。
 ルイズは何とか上半身を起こして座り込んで、その様子をぽかーんと見ていたら、ミス・ロングビルが引き起こしてくれた。
 そして、えー?と言う顔をしていたら、ミス・ロングビルは首を左右に振って応えてくれた。
 少しだけ、新しい頼れる姉が一人増えた気がした。
 なんかちょっとだけ小声で「ギーシュさん!ギーシュさん!」とコールが聞こえたのは多分日頃の疲労が抜けてないからだろう。
 もしくは先程転んだ時に打ち所が悪かったとか

 しばらくするとワルドがギーシュと談笑しながらルイズの前までやってきた。
「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」
「お久しぶりでございます。ワルドさまは随分とお変わりになられて」
 苦笑してワルドの言葉に答えた。
「いやいや、まさかこの様な場所で彼にお目にかかれるとは思っていなくてね。年甲斐もなくはしゃいでしまったのだよ」
 笑う彼の額のバッテンバンソウコウが実にお茶目だ。
「そ、その額はどうなされたのですか?」
「いや、これはちょっと転んでしまってね」
 言い訳はマヌケさを助長しただけであった。

「「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」」
 その有様にルイズの背面から大笑いの二重奏が聞こえてきた。
「サイコーだ。この男サイコー過ぎる。キメてるつもりでキマってねえ」
「全くだーね。天然だねえ、多分この男自分に酔ってる天然だねえ」
「あいつ多分ホモだぜホモ、同性愛者。ギーシュにベッタリだしよ
 口髭があれだから判る」
「中々博識だな相棒。覚えておくぜ。あの口髭はホモ」
 アヌビス神とデルフリンガーがツボに嵌ったが如く大笑いを続けている。
「無礼な。何者だね」
 むっとした顔でワルドがルイズの後ろをキョロキョロと見る。しかしそこには彼が望む姿は無い訳で。
「ルイズ、これはどういう事だい?」
「そ、そそそ、その。わたしの使い魔と……その仲間です」
「まさかこの背と腰に下げた剣がかい?」
 指差すワルドに、顔を赤く染めたルイズが頷いて応えた。
「おれが使い魔のアヌビス神だ」
 腰から声がした。
「でもって俺がデルフリンガーってえ者だ」
 何時の間にかルイズから距離を取ったミス・ロングビルが、強く生きろよ的な視線をルイズに送ってくる。
「インテリジェンスソードを使い魔にするとは。予想外だったかな。
 しかし、友達をあてがってあげるとは、相変わらず優しいね、きみは」
 そう言ってルイズの頭を優しく撫でてきた。
 今のは子供扱いっぽい気もしたが、少し嬉しいルイズだった。
 真相とは全然ずれているのは伏せておこう。
「優しくねえよ。昨晩も野晒しプレイされたんだ」
「全くだ。何度殴打された事か一月経たない内に500年分は貰ったね」
 しかしあっさり、伏せた物が踏み荒らされた。何だか違う方向から。
「ちょ、ちょっとだけ失礼しますわ、ワルドさま」
 そう言うとルイズは馬小屋の裏へと、たたたーっと駆けていった。
『ははは、ルイズは相変わらずお転婆だなぁ』とか言いながら、ルイズを見送ったワルドが、ミス・ロングビルの方を向いた。
「やはり貴女も同行を?
 宜しければお名前を覗いたいのだが……」

 さてその頃の馬小屋裏。
「あ、ああ、あんたらーっ!」
 乗馬用の鞭を持ったルイズが、その鞭で空を切るようにびゅんびゅん振り回している。
「覚悟は良いんでしょうね覚悟は!」
 その前には地面に叩きつけられたアヌビス神とデルフリンガーが……。
「一応婚約者なの!聞こえたでしょうがっ!絶対あんたらわざと変な事言ったわね?言ったわね?言ったわね?」
「俺はすっ転びカップルでお似合いだと思うぜ、ウン」
 デルフリンガーの言葉で、丁度ぶち切れたらしく鞭が振るわれた。
ビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッ
ビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッ
ビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッ
「ああ?知るかよ。あんな髭はやしてる間抜けが悪いんだ」
「あんたアルビオンに着いたら、天空高くから下に投げ落としてやるからっ!」
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
 鞭ではストレスが解消できなかったらしく、口答えを皮切りに、二振りは乗馬用ブーツでしこたま蹴り回される。
「ま、まて。あいつも良い男だと思うぞ。あの首は刎ねるのが非常にテクニカルそうで、斬首心をとても擽る」
「犬が首を刎ねるって?あ?何言ってんの?わんだろわん。閉め切った小屋から出るな。ずっと閉じ込めるぞオラ?
 オラオラオラオラッ」
ドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッ
ドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッ

 暫らくしたら荒い息を肩でするルイズが戻ってきた。
 先程と違い鞘がリボンで彩られている。
「ぜぇっぜぇっ。お、お待たせしました」
「用事は済んだのかい?」
「はい、もう大丈夫ですわ、ワルドさま。
 本当につまらない用事で時間を取らせてしまって申し訳ありません。
 ちょっと身嗜みに手抜かりが。ほほほほほほほ」
「そうか。僕もきみが美しくあってくれると、嬉しいよ」
「……お恥ずかしいですわ」
 アヌビス神が反吐がでそうになったが我慢した。
 理由は主にルイズの最後の殺し文句が怖かったから。

 さて、落ち着いたところで漸く出立となったのだろうか。
 ワルドが口笛を吹くと、朝もやのなかからグリフォンが現れた。
 ワルドはひらりとグリフォンに跨ると、ルイズに手招き……しようとして悩み出した。
 何かぶつぶつ言っている。
「いや……ここは『ギーシュさん』を乗せるのが人の礼としては……。
 しかしだ……婚約者を優先すべき……か?
 だが『ギーシュさん』を蔑ろにしたとあっては、後々……ぐぅむ」

 その頃ギーシュは、ミス・ロングビルに促がされて、少し嬉しそうな表情で馬に跨ろうとしていた。
 憧れの魔法衛士隊と言えども、野郎二人で相乗りはちょっと嫌だったようだ。
 何者であれ、綺麗なお姉さんと一緒の方が良いに決まっているのだ。

「なんと、流石噂に名高い『ギーシュさん』!!レディファーストの精神が結晶したかのような……、さり気なさッ!!
 しかもあの表情。それを喜びとすら思っておられる。噂は真だったか」
 ワルド、その様子を見て、またなにかブツブツ言っている。
 途中ルイズのどうしたのかな?という表情に気付き、慌てて手差し伸べ。
「おいで、ルイズ」
 やたらと良い笑顔でルイズを呼んだ。

 最後に注釈しておけば、ワルドに目に映る今のギーシュは、ミス・ロングビルを颯爽とエスコートしているところである。




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