ザ・サン…もとい頭を光らせながらコルベールが何やら疲れきった様子でプロシュートに近付いてきた。
「君に言われたとおり、樽五本分のガソリンの精製が今、終わったところだよ」
「早いな」
この前ガソリンのサンプルを作ってから数日、それから飛ばせるだけの量を精製する事になったのだが、結構早く出来たのでそれなりに驚いていた。
「それが飛んだ姿を見たくてね…ふふ…ここ数日徹夜続きだったよ」
目の下のくまがスゴイ。
俯き怪しく笑いながら荷台に積んだ樽を浮かしながら運んでいる姿は、なんかもう色んな意味でペリーコロ(危険)さんである。
広場に付きガソリンを入れていると、他の教師からアルビオン宣戦布告を聞いたコルベールがブッ飛んでいた。
「なんですと…!アルビオン軍がタルブ村に!?」
スデに他の教師や生徒達には禁足令が出ているらしい。
「ヤベー状況か?」
「…トリステイン艦隊は司令長官が戦死した上に、残存艦艇も無傷の艦はほとんど無いらしい」
地上戦力も3000対2000で劣っている。
つまり、制空権を抑えられ、蹂躙されるだけという事だ。
「まぁついでだ、あいつに『これ』を見せるっつったからな」
「タ、タルブに行くというのかね!?禁足令が…」
そこまで言って関係無い事に気付いた。
目の前の男は生徒でもなければ貴族でもない。
「ちょ、ちょっと何やってんのよ!」
そこに飛び込んでくるのはルイズだ。
「タルブまで空の散歩だ」
「散歩って…聞いたでしょ!?アルビオン軍が攻めてきたって!!」
「放っといても、そのうちこっちに来んだろーが、それにだ」
「…それに?」
「守んのは性に合わねーんだよ。どうせ相手すんなら打って出た方が早い」
「兄貴の能力じゃここの連中巻き込むしな」
「そういうこった」
必要であれば巻き込むのも躊躇しないが、能力的には敵のド真ん中での能力使用による殲滅が最も適している。
ルイズもグレイトフル・デッドの射程はどのぐらいか聞いていたが、それ以上の射程の大砲でドンパチやっている戦場に行かせる事はできない。
「…こんなのでアルビオン軍に勝てるわけないじゃない!怖くないの…!?死んじゃったらどうするのよ…!!この馬鹿!!」
「怖くねーやつなんていねぇよ。それを上回る『覚悟』を持ってるか持ってねーかってこった。恐怖心を持たないヤツが居たとしたらそいつは、ただの馬鹿だ」
「じゃあ…なんでタルブに行くのよ…!」
泣きそうだが、必死になってこらえる。泣いたところで説教が始まるか、ガン無視されるだけだ。
「言うだろーが、『攻撃は最大の防御』ってな。待ってるだけじゃあ状況が悪くなるだけだ。………こっちだと一応オメーらも仲間なんだからよ」
「あたしとしては『仲間』より『恋人』って言って欲しかったんだけどね」
「な…ッ!何時からそこに居やがった…!」
「おもしろそうな事やってるからさっきからそこに居たんだけど」
よく見るとタバサも隣に居る。
仲間云々の部分はルイズに聞こえない程度の声で言ったつもりだったがしっかりキュルケに聞かれていたらしい。
「ちッ!…時間がねー、オレはもう出るぜ」
「照れなくてもいいじゃない。…あ、でもそんなダーリンも素敵ね」
「レア」
そんなやり取りを見ていたルイズだが、自分も含めて仲間と思っていてくれている事に気付いた。
「…なによ…性に合わないって言ったくせに、結局守るためじゃない」
「ルセーな…あっちに居た時は、オメーらみてーなマンモーニは居ねーんだよ」
ペッシの事はスルーしているが気にしない。
空にペッシが泣き顔で『ひでーや兄貴ィィィ』と言っているような気もしたがこれも無視した。
そう言いながらゼロ戦に乗り込もうとする。
「わ、わたしも、それに乗って行くわ!」
「言っとくが、こいつが墜ちたら死ぬぞ?」
「わたしはあんたのご主人様なのよ!?あんた一人死なせたら…わたしがどうすんのよ!そんなのヤなの!」
ルイズの目をジーっと見る。目は反らさない。
それだけ確認すると、何も言わずゼロ戦に乗り込む。
「な、なによ!こんな時ぐらい言う事聞きなさい!」
しばらくするとゼロ戦の中から破壊音が聞こえ、操縦席から壊れた馬鹿デカイ無線機が放り投げられた。
「ったく…あの時のペッシと同じ目ぇしやがって…言っとくが後ろに席はねーぞ」
組織を離反すると決意した日、マンモーニながら自分達に付いてくると言った弟分と同じような目をしていた。
だからこそペッシと同じようにルイズを連れて行く気になった。
ルイズがゼロ戦に乗り込むと同時に各計器チェック、機銃弾装填確認を行う。
全て良好。旧日本海軍の整備力の高さと固定化の賜物だ。
「ミス・ヴァリエール!…行くな…と言いたいところだが止めても君は行くのだろうから…これだけは言わせて欲しい」
何時に無く真剣な顔のコルベールを見てルイズが操縦席から身を乗り出しそれを見る。
「自分の身を大事にしなさい。わたしから言えるのはそれだけだよ」
「あたし達も『仲間』なんだから付き合うわよ」
キュルケに同意するようにタバサも無言で頷く。
「…ついでだ、纏めて面倒みてやるが、万が一の覚悟ぐらいはてめーでしろよ」
そう言うが、甘くなったなと思う。
イタリアに居た時なら、任務を遂行するためには切り捨てる事も必要だと割り切っていたはずだが
ブチャラティの言う事もここに来て分かるような気はしてきた。
「『任務は遂行する』『弟分も守る』『両方』やらなくちゃあならないのが『兄貴』の辛いところ…ってとこか」
「なんか言った?」
「何も言ってねーよ」
「…嘘ね!」
ルイズが後ろで色々五月蝿いがエンジンをかけそれを無視する。
「兄貴、このままだと距離が足りねぇ、前から誰かに風を吹かせてもらわねぇと」
「オメーに分かんのかは理解できねーが…気がきいたな」
「俺は伝説の武器だからよ、ひっついてりゃあ大概の事は分かるさ」
「自分で伝説とか言ってるヤツが一番危ねーんだよ」
「あ、それ結構傷付いた、ヒデーよ兄貴ィ」
「前を見なさい前をーー」
軽口叩きながらコルベールに風を吹かしてくれるように伝える。
風が吹くと同時にブレーキを踏み込みピッチレバーを合わせる。
ブレーキを弱めフルスロットルにすると、勢い良く加速する。
「ぶぶぶぶぶぶ、ぶつかる!」
「舌ぁ噛むぞ黙ってろ!」
後ろでルイズが辞世の句を頭に浮かび上げているが、壁にぶつかる手前で操縦桿を引き上げると、それに合わせゼロ戦も地を離れた。
「素晴らしい…まるで私の信念が形となったようだ…」
このハゲ、ゼロ戦が飛んだ姿を見てどこぞの軍人が乗り移ったご様子で日食の事はすっかり忘れている。
「なにこれ…ホントに飛んでる!」
「しかも、はえーなこいつ、おもしれえ!」
「そりゃあな」
巡航速度程度でも350キロ以上は叩き出せるゼロ戦だ。
フルスロットルなら524キロまで出せる速力を誇る。
当然、キュルケとタバサを乗せたシルフィードは置いていかれている。
「ちょっと、もうあんな先にいかれてるじゃない!もっと速度出ないの!?」
「無理」
(は、速過ぎるのねーー)
二人を乗せている以上出せる速度は決まっているが、乗せていなくても付いていけないである事は今、必死こいて飛んでいるシルフィードが一番よく知っている事だ。
タルブ村に接近するにつれ、村から煙が立ち昇り、ほとんどの家は廃墟と化している。
プロシュート自身、目的の為なら無関係の者を巻き込む事は厭わないタイプだが、この場合は別だ。
明らかに、目的も無いのに破壊行為をしている。
まぁ、それが分かっているからこそ、イラ付きが自分にも向かっているのだが。
「なにこれ…ひどい…」
ルイズが眼下の惨状に目を覆うが、今の自分ではどうする事もできないため、それを見る事しかできない。
「兄貴、一騎来るぜ」
「他はどうしたよ?」
「居るとは思うが…まだ分からん」
その竜騎兵を無視しタルブ村上空を旋回するように飛ぶ。
「ちょっと!なんで何もしないのよ!」
ギャーギャー五月蝿いが無視決め込んでいると、ありえない速度の『竜』に驚いたアルビオン竜騎士隊が全騎囲むようにして、こちらに向かってきていた。
囲みを突破し離脱する形で距離を取ると180°反転し速度を飛行可能速度ギリギリに落すと……群れの中に真正面から『突っ込んだ!』
「な…!なにやってんのよあんたはーーーーッ!反転はともかく減速のわけを言いなさいーーーーーー!!」
「ヤベーって!あいつらのブレスを受けたらこいつでも一瞬で燃え尽きちまうぜ!」
機動と運動性能のみを追求し装甲を全て捨てた機体であるゼロ戦が火竜のブレスを受ければそうなる事は容易に予想できる。
「火竜よりオメーのがあぶねーだろ!」
喚きながら首を絞めようとするルイズをスタンドで阻む。
少しばかり連れてこなけりゃあよかったと思ったが、もう手遅れだ。
「だ、だったら頑張りなさぁぁぁい!こんなとこで死んだら恨んでやるんだから!!」
この状況下で墜とされた場合、両名とも死亡確定なのだがあえて突っ込まない。突っ込んだら負けのような気がする。
「ほほほほ、ほら!かか、囲まれたじゃない!ブ、ブレスがくるわ!」
もうこれ以上無いぐらいルイズがテンパっているが、プロシュートにしてみれば風竜ではなく火竜がブレスを吐くという方が『スゴク良かったッ!!』
「弾は補充が利かねぇからな…このブレスが良いんじゃあねーか!
こいつを燃え尽きさせられるぐらいの火力なら、十二分に温まるだろうからよ・・・!」
全騎射程圏内、当然向こうのブレスは届かないがあえて接近した。
「グレイトフル・デッド!」
「ぜ…全滅!?二十騎もの竜騎士がたった三分で…ば、化物か!」
報告を聞いたサー・ジョンストンが喚くが後ろに控えているワルドとしては、この被害は想定済みの事だ。
「やはりガンダールブが出てきましたな」
そんな冷静なワルドを見てプッツンきたのかジョンストンが掴みかかった。
「貴様…!そもそも何故竜騎士隊を預けた貴様がここにいるのだ!臆したか!!」
それを横から見ていたボーウッドが咎めるようにして入ってきたが、矛先がワルドからボーウッドに変わっただけだ。
「何を申すか!竜騎士隊が全滅した責任は貴様にもあるのだぞ!貴様の稚拙な指揮が竜騎士隊の全め…」
喚きながらボーウッドにも掴みかかろうとするが、その途中で言葉が途切れた。
「流れ弾か…ここまで飛んでくるとはな。注意しようではないか子爵」
「ええ、流れ弾ですな」
見るとジョンストンの額に穴が開き、そこから血が吹き出している。
いくら、怪我が魔法で治せるとはいえ、脳に食らえば一発で致命傷だ。
ぬけぬけと言うが、当然流れ弾などではない。
だが、この二人が何もしていない事は回りの船員達が見ている。
「それで、レキシントンの準備は整ったのかね?」
「気付かれないように高度を取りましたので少々手間取りましたが、今終わったようですな」
「偏在か…便利なものだな。しかし、レキシントンを犠牲にする必要があったのかね?」
「私は元魔法衛士隊の隊長ですからな。アンリエッタが出てきている以上、士気は高いでしょうしメイジの比率も多い事はよく知っています」
「士気完全にを打ち砕き、メイジにも止めることができない戦法というわけか…
まぁそれはいいとして、全艦に伝達『司令長官戦死。コレヨリ旗艦艦長ガ指揮ヲ執ル』以上」
一方こちらラ・ロシェールに布陣したトリステイン軍だが、ハッキリ言って手詰まりになっていた。
敵はこちらより数が多い三千、おまけに艦隊砲撃の援護付き。
対してこちらは数は二千だが、アンリエッタが陣頭指揮を取っているため士気は高くメイジの数では有利といえた。
「敵艦隊はまだ見えませんが…砲撃に備えて空気の壁で防ぐように手配はしておきました」
国民からはからっきし人気の無いマザリーニではあるが、この男が居なければトリステインなど国として成り立っているかどうか怪しいものだ。
有能だが、周りから評価されていない。どことなく暗殺チームに通じるものがある。
「しかし…砲撃も完全に防げるわけではないでしょうし
それを耐えたとしても突撃してくるでしょう。とにかく我々には迎え撃つことしか選択肢はありませんな」
「勝ち目は…ありますか?」
勝算など無い戦いだったが、それをここで言うのは兵の士気にも関わる事だし、それをアンリエッタに言うのも憚られた。
「メイジの数では上回っておりますので…五分五分…といったとこでしょうかな」
そうは言うが実際のところ、上空からの長距離砲撃の前ではそれは意味を成さない。
勝ち目は無いが…やれるところまではやると悲壮な決意をした瞬間、騒がしくなった。
竜騎士が一騎近付いてきたのである。
兵が攻撃を仕掛けるが、風に阻まれる。魔法も同じだ。
そして、竜騎士が近付くと、その正体も分かった。
「…ワルド子爵…裏切り者の貴方が今更何の用がおありですか!」
「ふっ…勇敢な事だな。さすがに兵の士気も高い。お飾りながら国民の人気だけはあるとみえる」
「黙りなさい…!ウェールズ様の仇とらせてもらいます!」
「おお…!恐ろしい、恐ろしい!そんな事をされては返すものも返せなくなります」
「返すもの…?」
「元々は王党派の『物』だったが…必要が無くなったので返しておこうと思いましてな」
「一体何を…!?」
「是非受け取っていただきたい。ウェールズも取り返したいと思っていた物をな」
そう言うとワルドが掻き消え風竜がどこかへ飛んでいく。偏在だったという事だ。
「落ち着きなされ。将が取り乱しては、軍は瞬く間に壊走しますぞ」
そう言われてもアンリエッタの心中では色々な疑念が巻き起こっていた。
返すものとは何か。王党派の物でウェールズも取り返したいと思っていた物…
そう考え、空を向くが何かが見えた。
空の大きさから比べれば点のような大きさにすぎなかったが…僅かだが、それが大きくなってきている。
「枢機卿…あれは…?」
そう問われマザリーニも空を見上げる。
瞬間、嫌な予感がした。
そして、その数秒後その予感が的中した事を確信した。
「ア、アルビオンの奴ら…なんという事を…全軍ラ・ロシェールより速やかに離脱!」
「枢機卿…!この後に及んで何を…!」
空を見上げたまま、撤退命令を出したマザリーニに憤りかけるも
顔が尋常じゃなかったので、もう一度空を見上げると、その意味を理解し自身も固まっているマザリーニをユニコーンに乗せ兵と共にラ・ロシェールから逃げる。
「気付いたようだが、もう遅い!」
遥か上空から何か巨大な物がトリステイン軍目掛け落ちてきている。
「『レキシントン』号だッ!!」
落下の微調整を風で行っていたのは当然偏在のワルドだ。
船体にはこれでもかというぐらい火薬が仕込まれている。
それに気付いたトリステイン軍だが、落下により加速した巨大戦艦レキシントンを止める術などありはしない。
文字どおり壊走し逃げ惑う。
「ブッ潰れろぉぉぉぉ!!」
最高に『ハイ!』になった偏在のワルドが地面と激突する20秒ほど前に船体に火を付ける。
そうして船体が燃え上がり、地面に激突すると同時にレキシントンが大爆発を起こした。
「き、旗艦を…こんな事に使うなどとは…!」
アンリエッタとマザリーニは辛うじて爆発から逃れたものの、他はもうスデに壊走していると言ってもいい状態で、被害状況すら分かりはしない。
もちろん、このまま壊走状態のままでは、何もせずに敗北するであろうことは十分に分かっている。
「部隊の再編を…被害状況も確認しなければ」
生き残った将軍と素早く打ち合わせをするが、遥か彼方から下がりに下がった士気にトドメを刺す光景を見る事になった。
「……なんだ…あの船は…」
歴戦の将軍ですら、我を忘れたかのようにその船を凝視している。
その目には、あの巨大戦艦『レキシントン』よりも一、二回り大きく、さらに装甲を金属で覆った艦が空を飛んでいる光景が目に映っていた。
その船からボーウッドがラ・ロシェールを見ている。
『レキシントン号だッ!』作戦には本来乗り気ではなかったが、この船を見た瞬間気が変わった。
装甲を金属で覆い、さらに、あのクロムウェルが連れてきたシェフィールドと呼ばれる女がもたらした技術より格段に上の装備のこの船を。
少し後ろを見る。
そこには、ワルドが召喚した使い魔が鎮座していた。
正直なところ、この船が存在するのが使い魔のおかげだなど未だ半信半疑だ。
確かにジョンストンなどより、余程司令長官らしい佇まいをしている。
船長服を身に纏い、パイプを吸っている姿など、憎たらしいぐらい余裕あり気だ。
これが、人間であればまだ納得できたであろうが…
「『ストレングス』か…確かにレキシントンが玩具に見える船だが…」
そう呟き視線を前に戻す。
その使い魔の正体は広義で見れば『猿』だった。
←To be continued
「君に言われたとおり、樽五本分のガソリンの精製が今、終わったところだよ」
「早いな」
この前ガソリンのサンプルを作ってから数日、それから飛ばせるだけの量を精製する事になったのだが、結構早く出来たのでそれなりに驚いていた。
「それが飛んだ姿を見たくてね…ふふ…ここ数日徹夜続きだったよ」
目の下のくまがスゴイ。
俯き怪しく笑いながら荷台に積んだ樽を浮かしながら運んでいる姿は、なんかもう色んな意味でペリーコロ(危険)さんである。
広場に付きガソリンを入れていると、他の教師からアルビオン宣戦布告を聞いたコルベールがブッ飛んでいた。
「なんですと…!アルビオン軍がタルブ村に!?」
スデに他の教師や生徒達には禁足令が出ているらしい。
「ヤベー状況か?」
「…トリステイン艦隊は司令長官が戦死した上に、残存艦艇も無傷の艦はほとんど無いらしい」
地上戦力も3000対2000で劣っている。
つまり、制空権を抑えられ、蹂躙されるだけという事だ。
「まぁついでだ、あいつに『これ』を見せるっつったからな」
「タ、タルブに行くというのかね!?禁足令が…」
そこまで言って関係無い事に気付いた。
目の前の男は生徒でもなければ貴族でもない。
「ちょ、ちょっと何やってんのよ!」
そこに飛び込んでくるのはルイズだ。
「タルブまで空の散歩だ」
「散歩って…聞いたでしょ!?アルビオン軍が攻めてきたって!!」
「放っといても、そのうちこっちに来んだろーが、それにだ」
「…それに?」
「守んのは性に合わねーんだよ。どうせ相手すんなら打って出た方が早い」
「兄貴の能力じゃここの連中巻き込むしな」
「そういうこった」
必要であれば巻き込むのも躊躇しないが、能力的には敵のド真ん中での能力使用による殲滅が最も適している。
ルイズもグレイトフル・デッドの射程はどのぐらいか聞いていたが、それ以上の射程の大砲でドンパチやっている戦場に行かせる事はできない。
「…こんなのでアルビオン軍に勝てるわけないじゃない!怖くないの…!?死んじゃったらどうするのよ…!!この馬鹿!!」
「怖くねーやつなんていねぇよ。それを上回る『覚悟』を持ってるか持ってねーかってこった。恐怖心を持たないヤツが居たとしたらそいつは、ただの馬鹿だ」
「じゃあ…なんでタルブに行くのよ…!」
泣きそうだが、必死になってこらえる。泣いたところで説教が始まるか、ガン無視されるだけだ。
「言うだろーが、『攻撃は最大の防御』ってな。待ってるだけじゃあ状況が悪くなるだけだ。………こっちだと一応オメーらも仲間なんだからよ」
「あたしとしては『仲間』より『恋人』って言って欲しかったんだけどね」
「な…ッ!何時からそこに居やがった…!」
「おもしろそうな事やってるからさっきからそこに居たんだけど」
よく見るとタバサも隣に居る。
仲間云々の部分はルイズに聞こえない程度の声で言ったつもりだったがしっかりキュルケに聞かれていたらしい。
「ちッ!…時間がねー、オレはもう出るぜ」
「照れなくてもいいじゃない。…あ、でもそんなダーリンも素敵ね」
「レア」
そんなやり取りを見ていたルイズだが、自分も含めて仲間と思っていてくれている事に気付いた。
「…なによ…性に合わないって言ったくせに、結局守るためじゃない」
「ルセーな…あっちに居た時は、オメーらみてーなマンモーニは居ねーんだよ」
ペッシの事はスルーしているが気にしない。
空にペッシが泣き顔で『ひでーや兄貴ィィィ』と言っているような気もしたがこれも無視した。
そう言いながらゼロ戦に乗り込もうとする。
「わ、わたしも、それに乗って行くわ!」
「言っとくが、こいつが墜ちたら死ぬぞ?」
「わたしはあんたのご主人様なのよ!?あんた一人死なせたら…わたしがどうすんのよ!そんなのヤなの!」
ルイズの目をジーっと見る。目は反らさない。
それだけ確認すると、何も言わずゼロ戦に乗り込む。
「な、なによ!こんな時ぐらい言う事聞きなさい!」
しばらくするとゼロ戦の中から破壊音が聞こえ、操縦席から壊れた馬鹿デカイ無線機が放り投げられた。
「ったく…あの時のペッシと同じ目ぇしやがって…言っとくが後ろに席はねーぞ」
組織を離反すると決意した日、マンモーニながら自分達に付いてくると言った弟分と同じような目をしていた。
だからこそペッシと同じようにルイズを連れて行く気になった。
ルイズがゼロ戦に乗り込むと同時に各計器チェック、機銃弾装填確認を行う。
全て良好。旧日本海軍の整備力の高さと固定化の賜物だ。
「ミス・ヴァリエール!…行くな…と言いたいところだが止めても君は行くのだろうから…これだけは言わせて欲しい」
何時に無く真剣な顔のコルベールを見てルイズが操縦席から身を乗り出しそれを見る。
「自分の身を大事にしなさい。わたしから言えるのはそれだけだよ」
「あたし達も『仲間』なんだから付き合うわよ」
キュルケに同意するようにタバサも無言で頷く。
「…ついでだ、纏めて面倒みてやるが、万が一の覚悟ぐらいはてめーでしろよ」
そう言うが、甘くなったなと思う。
イタリアに居た時なら、任務を遂行するためには切り捨てる事も必要だと割り切っていたはずだが
ブチャラティの言う事もここに来て分かるような気はしてきた。
「『任務は遂行する』『弟分も守る』『両方』やらなくちゃあならないのが『兄貴』の辛いところ…ってとこか」
「なんか言った?」
「何も言ってねーよ」
「…嘘ね!」
ルイズが後ろで色々五月蝿いがエンジンをかけそれを無視する。
「兄貴、このままだと距離が足りねぇ、前から誰かに風を吹かせてもらわねぇと」
「オメーに分かんのかは理解できねーが…気がきいたな」
「俺は伝説の武器だからよ、ひっついてりゃあ大概の事は分かるさ」
「自分で伝説とか言ってるヤツが一番危ねーんだよ」
「あ、それ結構傷付いた、ヒデーよ兄貴ィ」
「前を見なさい前をーー」
軽口叩きながらコルベールに風を吹かしてくれるように伝える。
風が吹くと同時にブレーキを踏み込みピッチレバーを合わせる。
ブレーキを弱めフルスロットルにすると、勢い良く加速する。
「ぶぶぶぶぶぶ、ぶつかる!」
「舌ぁ噛むぞ黙ってろ!」
後ろでルイズが辞世の句を頭に浮かび上げているが、壁にぶつかる手前で操縦桿を引き上げると、それに合わせゼロ戦も地を離れた。
「素晴らしい…まるで私の信念が形となったようだ…」
このハゲ、ゼロ戦が飛んだ姿を見てどこぞの軍人が乗り移ったご様子で日食の事はすっかり忘れている。
「なにこれ…ホントに飛んでる!」
「しかも、はえーなこいつ、おもしれえ!」
「そりゃあな」
巡航速度程度でも350キロ以上は叩き出せるゼロ戦だ。
フルスロットルなら524キロまで出せる速力を誇る。
当然、キュルケとタバサを乗せたシルフィードは置いていかれている。
「ちょっと、もうあんな先にいかれてるじゃない!もっと速度出ないの!?」
「無理」
(は、速過ぎるのねーー)
二人を乗せている以上出せる速度は決まっているが、乗せていなくても付いていけないである事は今、必死こいて飛んでいるシルフィードが一番よく知っている事だ。
タルブ村に接近するにつれ、村から煙が立ち昇り、ほとんどの家は廃墟と化している。
プロシュート自身、目的の為なら無関係の者を巻き込む事は厭わないタイプだが、この場合は別だ。
明らかに、目的も無いのに破壊行為をしている。
まぁ、それが分かっているからこそ、イラ付きが自分にも向かっているのだが。
「なにこれ…ひどい…」
ルイズが眼下の惨状に目を覆うが、今の自分ではどうする事もできないため、それを見る事しかできない。
「兄貴、一騎来るぜ」
「他はどうしたよ?」
「居るとは思うが…まだ分からん」
その竜騎兵を無視しタルブ村上空を旋回するように飛ぶ。
「ちょっと!なんで何もしないのよ!」
ギャーギャー五月蝿いが無視決め込んでいると、ありえない速度の『竜』に驚いたアルビオン竜騎士隊が全騎囲むようにして、こちらに向かってきていた。
囲みを突破し離脱する形で距離を取ると180°反転し速度を飛行可能速度ギリギリに落すと……群れの中に真正面から『突っ込んだ!』
「な…!なにやってんのよあんたはーーーーッ!反転はともかく減速のわけを言いなさいーーーーーー!!」
「ヤベーって!あいつらのブレスを受けたらこいつでも一瞬で燃え尽きちまうぜ!」
機動と運動性能のみを追求し装甲を全て捨てた機体であるゼロ戦が火竜のブレスを受ければそうなる事は容易に予想できる。
「火竜よりオメーのがあぶねーだろ!」
喚きながら首を絞めようとするルイズをスタンドで阻む。
少しばかり連れてこなけりゃあよかったと思ったが、もう手遅れだ。
「だ、だったら頑張りなさぁぁぁい!こんなとこで死んだら恨んでやるんだから!!」
この状況下で墜とされた場合、両名とも死亡確定なのだがあえて突っ込まない。突っ込んだら負けのような気がする。
「ほほほほ、ほら!かか、囲まれたじゃない!ブ、ブレスがくるわ!」
もうこれ以上無いぐらいルイズがテンパっているが、プロシュートにしてみれば風竜ではなく火竜がブレスを吐くという方が『スゴク良かったッ!!』
「弾は補充が利かねぇからな…このブレスが良いんじゃあねーか!
こいつを燃え尽きさせられるぐらいの火力なら、十二分に温まるだろうからよ・・・!」
全騎射程圏内、当然向こうのブレスは届かないがあえて接近した。
「グレイトフル・デッド!」
「ぜ…全滅!?二十騎もの竜騎士がたった三分で…ば、化物か!」
報告を聞いたサー・ジョンストンが喚くが後ろに控えているワルドとしては、この被害は想定済みの事だ。
「やはりガンダールブが出てきましたな」
そんな冷静なワルドを見てプッツンきたのかジョンストンが掴みかかった。
「貴様…!そもそも何故竜騎士隊を預けた貴様がここにいるのだ!臆したか!!」
それを横から見ていたボーウッドが咎めるようにして入ってきたが、矛先がワルドからボーウッドに変わっただけだ。
「何を申すか!竜騎士隊が全滅した責任は貴様にもあるのだぞ!貴様の稚拙な指揮が竜騎士隊の全め…」
喚きながらボーウッドにも掴みかかろうとするが、その途中で言葉が途切れた。
「流れ弾か…ここまで飛んでくるとはな。注意しようではないか子爵」
「ええ、流れ弾ですな」
見るとジョンストンの額に穴が開き、そこから血が吹き出している。
いくら、怪我が魔法で治せるとはいえ、脳に食らえば一発で致命傷だ。
ぬけぬけと言うが、当然流れ弾などではない。
だが、この二人が何もしていない事は回りの船員達が見ている。
「それで、レキシントンの準備は整ったのかね?」
「気付かれないように高度を取りましたので少々手間取りましたが、今終わったようですな」
「偏在か…便利なものだな。しかし、レキシントンを犠牲にする必要があったのかね?」
「私は元魔法衛士隊の隊長ですからな。アンリエッタが出てきている以上、士気は高いでしょうしメイジの比率も多い事はよく知っています」
「士気完全にを打ち砕き、メイジにも止めることができない戦法というわけか…
まぁそれはいいとして、全艦に伝達『司令長官戦死。コレヨリ旗艦艦長ガ指揮ヲ執ル』以上」
一方こちらラ・ロシェールに布陣したトリステイン軍だが、ハッキリ言って手詰まりになっていた。
敵はこちらより数が多い三千、おまけに艦隊砲撃の援護付き。
対してこちらは数は二千だが、アンリエッタが陣頭指揮を取っているため士気は高くメイジの数では有利といえた。
「敵艦隊はまだ見えませんが…砲撃に備えて空気の壁で防ぐように手配はしておきました」
国民からはからっきし人気の無いマザリーニではあるが、この男が居なければトリステインなど国として成り立っているかどうか怪しいものだ。
有能だが、周りから評価されていない。どことなく暗殺チームに通じるものがある。
「しかし…砲撃も完全に防げるわけではないでしょうし
それを耐えたとしても突撃してくるでしょう。とにかく我々には迎え撃つことしか選択肢はありませんな」
「勝ち目は…ありますか?」
勝算など無い戦いだったが、それをここで言うのは兵の士気にも関わる事だし、それをアンリエッタに言うのも憚られた。
「メイジの数では上回っておりますので…五分五分…といったとこでしょうかな」
そうは言うが実際のところ、上空からの長距離砲撃の前ではそれは意味を成さない。
勝ち目は無いが…やれるところまではやると悲壮な決意をした瞬間、騒がしくなった。
竜騎士が一騎近付いてきたのである。
兵が攻撃を仕掛けるが、風に阻まれる。魔法も同じだ。
そして、竜騎士が近付くと、その正体も分かった。
「…ワルド子爵…裏切り者の貴方が今更何の用がおありですか!」
「ふっ…勇敢な事だな。さすがに兵の士気も高い。お飾りながら国民の人気だけはあるとみえる」
「黙りなさい…!ウェールズ様の仇とらせてもらいます!」
「おお…!恐ろしい、恐ろしい!そんな事をされては返すものも返せなくなります」
「返すもの…?」
「元々は王党派の『物』だったが…必要が無くなったので返しておこうと思いましてな」
「一体何を…!?」
「是非受け取っていただきたい。ウェールズも取り返したいと思っていた物をな」
そう言うとワルドが掻き消え風竜がどこかへ飛んでいく。偏在だったという事だ。
「落ち着きなされ。将が取り乱しては、軍は瞬く間に壊走しますぞ」
そう言われてもアンリエッタの心中では色々な疑念が巻き起こっていた。
返すものとは何か。王党派の物でウェールズも取り返したいと思っていた物…
そう考え、空を向くが何かが見えた。
空の大きさから比べれば点のような大きさにすぎなかったが…僅かだが、それが大きくなってきている。
「枢機卿…あれは…?」
そう問われマザリーニも空を見上げる。
瞬間、嫌な予感がした。
そして、その数秒後その予感が的中した事を確信した。
「ア、アルビオンの奴ら…なんという事を…全軍ラ・ロシェールより速やかに離脱!」
「枢機卿…!この後に及んで何を…!」
空を見上げたまま、撤退命令を出したマザリーニに憤りかけるも
顔が尋常じゃなかったので、もう一度空を見上げると、その意味を理解し自身も固まっているマザリーニをユニコーンに乗せ兵と共にラ・ロシェールから逃げる。
「気付いたようだが、もう遅い!」
遥か上空から何か巨大な物がトリステイン軍目掛け落ちてきている。
「『レキシントン』号だッ!!」
落下の微調整を風で行っていたのは当然偏在のワルドだ。
船体にはこれでもかというぐらい火薬が仕込まれている。
それに気付いたトリステイン軍だが、落下により加速した巨大戦艦レキシントンを止める術などありはしない。
文字どおり壊走し逃げ惑う。
「ブッ潰れろぉぉぉぉ!!」
最高に『ハイ!』になった偏在のワルドが地面と激突する20秒ほど前に船体に火を付ける。
そうして船体が燃え上がり、地面に激突すると同時にレキシントンが大爆発を起こした。
「き、旗艦を…こんな事に使うなどとは…!」
アンリエッタとマザリーニは辛うじて爆発から逃れたものの、他はもうスデに壊走していると言ってもいい状態で、被害状況すら分かりはしない。
もちろん、このまま壊走状態のままでは、何もせずに敗北するであろうことは十分に分かっている。
「部隊の再編を…被害状況も確認しなければ」
生き残った将軍と素早く打ち合わせをするが、遥か彼方から下がりに下がった士気にトドメを刺す光景を見る事になった。
「……なんだ…あの船は…」
歴戦の将軍ですら、我を忘れたかのようにその船を凝視している。
その目には、あの巨大戦艦『レキシントン』よりも一、二回り大きく、さらに装甲を金属で覆った艦が空を飛んでいる光景が目に映っていた。
その船からボーウッドがラ・ロシェールを見ている。
『レキシントン号だッ!』作戦には本来乗り気ではなかったが、この船を見た瞬間気が変わった。
装甲を金属で覆い、さらに、あのクロムウェルが連れてきたシェフィールドと呼ばれる女がもたらした技術より格段に上の装備のこの船を。
少し後ろを見る。
そこには、ワルドが召喚した使い魔が鎮座していた。
正直なところ、この船が存在するのが使い魔のおかげだなど未だ半信半疑だ。
確かにジョンストンなどより、余程司令長官らしい佇まいをしている。
船長服を身に纏い、パイプを吸っている姿など、憎たらしいぐらい余裕あり気だ。
これが、人間であればまだ納得できたであろうが…
「『ストレングス』か…確かにレキシントンが玩具に見える船だが…」
そう呟き視線を前に戻す。
その使い魔の正体は広義で見れば『猿』だった。
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