「そんなわけで制服はシエスタというメイドが受けとりに行ってくれている」
ブチャラティがルイズの部屋で、主人に報告をしていた。
彼女は不満そうだ。リスがどんぐりをほうばるように、両頬に空気を溜め込んでいる。
「あんたたちっていつもそう。勝手に自分たちで決めちゃって。私のことなんか全然考えていないんだわ」
部屋を移す時だってそう。いつもいつも事後報告。
ブチャラティはあせって弁明を始めていた。
さすがにあの店に一人ではいるのは抵抗があるんだよ。と。
そういえば、ブチャラティは服を注文するとき、店長の人に『パンティーあげちゃうッ!』
と、妙なナンパをされていたっけ。
ルイズは笑いをこらえながら彼を許そうと思ったが、次の言葉がそれを取り消した。
「それに君が幼いとはいえ、男女が一緒の部屋に寝泊りするのはまずい」
「幼いって失礼ね!私は十六歳よ!」
ブチャラティは驚愕した。アバ茶を勧められたジョルノの気持ちを理解したと思った。
「なんだと!俺はてっきり十二歳くらいかと…」
「まあ、あなたのような三十近いオジサマにはそのくらいの年齢にみえるのかしら?」
妖艶な笑いを浮かべながらしゃべり続けるルイズ。
目の輝きは獲物を狙う隼のそれであった。
「それにしても、ジョルノやトリッシュよりも一歳も年上だというのか」
「トリッシュってだ~れ? どう考えても女の人の名前よね?」
「別にいいだろう。いわなくても」
「いえ、言いなさい!メイジは使い魔のすべてを知る決まりなのよ!」
その決まりは私が今作ったけれど。
「それなら言っておこう。俺は二十歳だ」
「…え? あるェ~?」(・3・)
ブチャラティがルイズの部屋で、主人に報告をしていた。
彼女は不満そうだ。リスがどんぐりをほうばるように、両頬に空気を溜め込んでいる。
「あんたたちっていつもそう。勝手に自分たちで決めちゃって。私のことなんか全然考えていないんだわ」
部屋を移す時だってそう。いつもいつも事後報告。
ブチャラティはあせって弁明を始めていた。
さすがにあの店に一人ではいるのは抵抗があるんだよ。と。
そういえば、ブチャラティは服を注文するとき、店長の人に『パンティーあげちゃうッ!』
と、妙なナンパをされていたっけ。
ルイズは笑いをこらえながら彼を許そうと思ったが、次の言葉がそれを取り消した。
「それに君が幼いとはいえ、男女が一緒の部屋に寝泊りするのはまずい」
「幼いって失礼ね!私は十六歳よ!」
ブチャラティは驚愕した。アバ茶を勧められたジョルノの気持ちを理解したと思った。
「なんだと!俺はてっきり十二歳くらいかと…」
「まあ、あなたのような三十近いオジサマにはそのくらいの年齢にみえるのかしら?」
妖艶な笑いを浮かべながらしゃべり続けるルイズ。
目の輝きは獲物を狙う隼のそれであった。
「それにしても、ジョルノやトリッシュよりも一歳も年上だというのか」
「トリッシュってだ~れ? どう考えても女の人の名前よね?」
「別にいいだろう。いわなくても」
「いえ、言いなさい!メイジは使い魔のすべてを知る決まりなのよ!」
その決まりは私が今作ったけれど。
「それなら言っておこう。俺は二十歳だ」
「…え? あるェ~?」(・3・)
そのとき、閉じているドアの向こうから大声がした。
「あなたがた、イチャイチャするのは結構ですけれど、私のノックの音ぐらい気づいてく
ださらないのかしら?」
キュルケの声だ。
「あなたがた、イチャイチャするのは結構ですけれど、私のノックの音ぐらい気づいてく
ださらないのかしら?」
キュルケの声だ。
気まずい。非常に気まずい。ブチャラティは居心地の悪さを感じていた。
熱くもないのに冷や汗がたれる。
「それにしても、ダーリンが二十歳だとは私も思わなかったわ。ごめんなさい、もう少し年が離れていると思っていたわ」
十八歳と二十歳のカップルなんて素敵だと思わない?
キュルケがシナをかけている。
「あんた何の用よ。人の使い魔に手を出すなんて話、聞いたこともないわ」
いきなり目の前で、知り合いの男にあからさまに言い寄っている女を見たら誰でも引くであろう。ルイズだってそうだ。
「あら、いいじゃないルイズ。ゲルマニアではこの程度は挨拶のうちよ。それにダーリンみたいに素敵な使い魔を召喚した話なんてのも聞いたことがないわね」
「ここにはいない……」
第三者の声がキュルケの後ろで発せられる。タバサであった。
「キュルケ。本題」
わかったわよ。キュルケはふざけた笑顔を改めてブチャラティたちに向き直った。
「あなた達に質問があるの」
「ダーリンとミスタ・露伴、『スタンド』でしたか? なにやら特殊な能力をお持ちとか」
「それについて詳細を教えてはいただけないでしょうか」
キュルケは先ほどとは打って変わった完璧な礼儀作法でブチャラティに尋ねた。
「基本的なことはギーシュとの決闘のときに教えたが、まあいい。『スタンド』に関しては君達も知っていたほうがいいだろう」
スタンド使いは引かれあう。ブチャラティたちといる限り、他のスタンド使いと遭遇する可能性は飛躍的に高くなる。
そしてそのスタンド使いは凶悪でない保障はどこにもないのだ。
「いいだろう。俺固有の能力は皆知っていると思う。が、ロハンの能力を教えるのは彼の許可が要るな。彼の能力は皆に知られると、戦いになった場合かなり不利になる」
熱くもないのに冷や汗がたれる。
「それにしても、ダーリンが二十歳だとは私も思わなかったわ。ごめんなさい、もう少し年が離れていると思っていたわ」
十八歳と二十歳のカップルなんて素敵だと思わない?
キュルケがシナをかけている。
「あんた何の用よ。人の使い魔に手を出すなんて話、聞いたこともないわ」
いきなり目の前で、知り合いの男にあからさまに言い寄っている女を見たら誰でも引くであろう。ルイズだってそうだ。
「あら、いいじゃないルイズ。ゲルマニアではこの程度は挨拶のうちよ。それにダーリンみたいに素敵な使い魔を召喚した話なんてのも聞いたことがないわね」
「ここにはいない……」
第三者の声がキュルケの後ろで発せられる。タバサであった。
「キュルケ。本題」
わかったわよ。キュルケはふざけた笑顔を改めてブチャラティたちに向き直った。
「あなた達に質問があるの」
「ダーリンとミスタ・露伴、『スタンド』でしたか? なにやら特殊な能力をお持ちとか」
「それについて詳細を教えてはいただけないでしょうか」
キュルケは先ほどとは打って変わった完璧な礼儀作法でブチャラティに尋ねた。
「基本的なことはギーシュとの決闘のときに教えたが、まあいい。『スタンド』に関しては君達も知っていたほうがいいだろう」
スタンド使いは引かれあう。ブチャラティたちといる限り、他のスタンド使いと遭遇する可能性は飛躍的に高くなる。
そしてそのスタンド使いは凶悪でない保障はどこにもないのだ。
「いいだろう。俺固有の能力は皆知っていると思う。が、ロハンの能力を教えるのは彼の許可が要るな。彼の能力は皆に知られると、戦いになった場合かなり不利になる」
スタンドの説明は露伴の部屋で行われた。まず、ブチャラティが基本的な事を話す。
その途中で、キュルケたち三人はスタンドの基本的なことについて聞くことができた。
まず、スタンドは一人一能力であること。
「つまり、ギーシュが魔法を全然使えなくて、ワルキューレを一体しか呼び出せないようなもの?」
ルイズが自分にわかりやすい表現で聞いてくる。
「まあ、そういうことになるな」
タイプにもよるが、スタンドが受けた攻撃は本体にも同じ効果を受けること。
「……スタンドって、すごく弱くない?」
「いや、そうでもない」
「今のたとえならば、ワルキューレからすべてを老化するガスが噴出していたらどうだ?」
「それにだ。殴ったものを柔らかくする能力なら、おそらく固定化の魔法をかけられているものでもやわらかくすることができるだろう」
「恐ろしいわね」
キュルケが身震いをした。
一同はギーシュの決闘騒ぎのときの、スティッキー・フィンガーズのすばやさをおもいだしていた。
ブチャラティが続ける。おれ自身が体験したことだが、なんとも表現しにくいな。
「時を『吹っ飛ばす』能力なんてのもあったな」
彼を取り巻いているもの全員が首をかしげた。
「そうだな……たとえばだ。タバサ、君が牛乳を飲もうとしてコップを持ち、まさに飲もうとしているところを想像してくれ」
「そのときに俺がその『能力』を発揮したとする」
「そうすると、タバサは、俺が『能力』を使わなかったであろう動作、この場合はコップに口をつけ中のものを飲む、といういう動作を続ける。本人の自覚なしに」
「その途中、意識をはっきりと保っているのは発動した俺自身だけだ。だから、君がミルクを飲んでいる途中にミルクカップをほかのものと入れ替えたり、毒をミルクに仕込んでも君は意識せずのみ続けるわけだ」
「なんてこと」
タバサが嫌悪感に身を震わせる。
その途中で、キュルケたち三人はスタンドの基本的なことについて聞くことができた。
まず、スタンドは一人一能力であること。
「つまり、ギーシュが魔法を全然使えなくて、ワルキューレを一体しか呼び出せないようなもの?」
ルイズが自分にわかりやすい表現で聞いてくる。
「まあ、そういうことになるな」
タイプにもよるが、スタンドが受けた攻撃は本体にも同じ効果を受けること。
「……スタンドって、すごく弱くない?」
「いや、そうでもない」
「今のたとえならば、ワルキューレからすべてを老化するガスが噴出していたらどうだ?」
「それにだ。殴ったものを柔らかくする能力なら、おそらく固定化の魔法をかけられているものでもやわらかくすることができるだろう」
「恐ろしいわね」
キュルケが身震いをした。
一同はギーシュの決闘騒ぎのときの、スティッキー・フィンガーズのすばやさをおもいだしていた。
ブチャラティが続ける。おれ自身が体験したことだが、なんとも表現しにくいな。
「時を『吹っ飛ばす』能力なんてのもあったな」
彼を取り巻いているもの全員が首をかしげた。
「そうだな……たとえばだ。タバサ、君が牛乳を飲もうとしてコップを持ち、まさに飲もうとしているところを想像してくれ」
「そのときに俺がその『能力』を発揮したとする」
「そうすると、タバサは、俺が『能力』を使わなかったであろう動作、この場合はコップに口をつけ中のものを飲む、といういう動作を続ける。本人の自覚なしに」
「その途中、意識をはっきりと保っているのは発動した俺自身だけだ。だから、君がミルクを飲んでいる途中にミルクカップをほかのものと入れ替えたり、毒をミルクに仕込んでも君は意識せずのみ続けるわけだ」
「なんてこと」
タバサが嫌悪感に身を震わせる。
露伴はいやいやながら自分の能力について説明した。
「僕の能力は人を『本』にして、記憶を読む。また、その本に何かを書き込むことで、人をある程度操ることも可能だ」」
「土くれのフーケには、『タバサ達を攻撃できない』と書いた。だからタバサに害意を持っていた彼女は動けなくなったのさ」
「その『書く』能力」
「どの程度までできるの」
「例えば、重病人をなおせる?」
タバサが特定の人物を頭に描きながら露伴に尋ねる。
必死な様子が目の色からも読み取れた。
「…いや、君の言う『重病』程度にもよると思うが…僕の『天国の扉』は、基本的に記憶を読むことだからな。何かを書き込むのはおまけみたいなモンだ」
「だから、本人が努力すればできるような…例えば『外国語が話せるようになる』とかなら大丈夫だが、君の話のケースだと難しいな」
「本人の抵抗力が弱ったせいで重病になったのなら治ると思うが……不治の病や、他人の呪いやスタンド攻撃の効果を解除するのは難しいといえる。
『特殊な毒を盛られた場合』なんてのも後者だろうな。ま、実際試してみる価値はあると思うが……」
「そう」
タバサはある決心をした。可能性はあるのだ。試さない理由はない。
「僕の能力は人を『本』にして、記憶を読む。また、その本に何かを書き込むことで、人をある程度操ることも可能だ」」
「土くれのフーケには、『タバサ達を攻撃できない』と書いた。だからタバサに害意を持っていた彼女は動けなくなったのさ」
「その『書く』能力」
「どの程度までできるの」
「例えば、重病人をなおせる?」
タバサが特定の人物を頭に描きながら露伴に尋ねる。
必死な様子が目の色からも読み取れた。
「…いや、君の言う『重病』程度にもよると思うが…僕の『天国の扉』は、基本的に記憶を読むことだからな。何かを書き込むのはおまけみたいなモンだ」
「だから、本人が努力すればできるような…例えば『外国語が話せるようになる』とかなら大丈夫だが、君の話のケースだと難しいな」
「本人の抵抗力が弱ったせいで重病になったのなら治ると思うが……不治の病や、他人の呪いやスタンド攻撃の効果を解除するのは難しいといえる。
『特殊な毒を盛られた場合』なんてのも後者だろうな。ま、実際試してみる価値はあると思うが……」
「そう」
タバサはある決心をした。可能性はあるのだ。試さない理由はない。
件の会話から三日後。
岸辺露伴は彼女と二人でガリア国境を越えていた。
彼らは旧オルレアン家の屋敷に到着し、オルレアン王弟妃に謁見を申し出た。
シルフィードに乗っているので、一両日中に学院に帰還できる。
「もう一度いうが、僕がヘブンズドアーを発現する、ということはだ」
ペルスランと名乗る老執事の立会いの元、王弟妃の前にいる。
露伴が確認する。彼の能力は対象の人物の記憶を読む事でもある。それでもいいのか。と。
「うん、大丈夫。平気」
彼女は大きく深呼吸し、震える声で返事をした。
露伴が王弟妃を『本』にする。
しばらく何かを書いていたが、ため息をついて振り返った。
「すまない」
無理だった。この毒、まさか書き込む文字にまで干渉するとは。
「そう」
絶望を隠さずに彼女が応じた。
「だが、無駄ではなかった」
「何故? 」
「君の母さんは飲んだ毒のことを知っていた。それによると、彼女が飲んだ毒の名は、『ノイエ・シャンツェ』とハルケギニアでいわれている物だ。エルフがつくったもので…ここからが重要だが…『解毒薬』が存在する」
おお。執事が歓喜の表情に包まれた。涙を浮かべている。
「それは高い能力を持つエルフにしか作れないものだが、それを飲めば、正気になるはずだと彼女の記憶に書いてあった」
「だがな、解毒薬を手に入れるのは大変難しいだろう」
実際彼女は……正気に戻れないことを覚悟していた。
「すまない。役に立てなかった」
彼女は頭を振る。目は力に満ちていた。
「一歩前進」
「ロハン」
「何だい?」
「ありがとう」
岸辺露伴は彼女と二人でガリア国境を越えていた。
彼らは旧オルレアン家の屋敷に到着し、オルレアン王弟妃に謁見を申し出た。
シルフィードに乗っているので、一両日中に学院に帰還できる。
「もう一度いうが、僕がヘブンズドアーを発現する、ということはだ」
ペルスランと名乗る老執事の立会いの元、王弟妃の前にいる。
露伴が確認する。彼の能力は対象の人物の記憶を読む事でもある。それでもいいのか。と。
「うん、大丈夫。平気」
彼女は大きく深呼吸し、震える声で返事をした。
露伴が王弟妃を『本』にする。
しばらく何かを書いていたが、ため息をついて振り返った。
「すまない」
無理だった。この毒、まさか書き込む文字にまで干渉するとは。
「そう」
絶望を隠さずに彼女が応じた。
「だが、無駄ではなかった」
「何故? 」
「君の母さんは飲んだ毒のことを知っていた。それによると、彼女が飲んだ毒の名は、『ノイエ・シャンツェ』とハルケギニアでいわれている物だ。エルフがつくったもので…ここからが重要だが…『解毒薬』が存在する」
おお。執事が歓喜の表情に包まれた。涙を浮かべている。
「それは高い能力を持つエルフにしか作れないものだが、それを飲めば、正気になるはずだと彼女の記憶に書いてあった」
「だがな、解毒薬を手に入れるのは大変難しいだろう」
実際彼女は……正気に戻れないことを覚悟していた。
「すまない。役に立てなかった」
彼女は頭を振る。目は力に満ちていた。
「一歩前進」
「ロハン」
「何だい?」
「ありがとう」
ルイズはブチャラティとともに露伴の部屋にいた。
「で、タバサの用事ってなんだったのよ?」
もはや日は暮れている。そろそろ就寝の時間だ。
あらかじめ断った後で行動したので、彼女の機嫌は損ねてはいないようだ。
「いや、彼女の家庭にかかわる問題だった」
そうなの。ルイズは素直にうなずいた。そのような事に無用な興味を持つほどには野暮ではなかった。そのような意味では、彼女は完璧な貴族であった。
「それより僕は夜食を食べたいんだ。君たちもどうだい?」
そういいながら、露伴は床においてあるデルフリンガーを手に持ち、鞘を引き抜いた。
「聞いてくれよォー!ブチャラティィィィ!」
「ロハンの野郎、俺様でサラミだのハムだの切らせるんだぜ!」
「奴に何とかいってくれよォォォ!」
「ロハン……なにやってんだ…感染症とかの事を考えろ」
「うん。そうそう…ってヒデェ!」
「で、タバサの用事ってなんだったのよ?」
もはや日は暮れている。そろそろ就寝の時間だ。
あらかじめ断った後で行動したので、彼女の機嫌は損ねてはいないようだ。
「いや、彼女の家庭にかかわる問題だった」
そうなの。ルイズは素直にうなずいた。そのような事に無用な興味を持つほどには野暮ではなかった。そのような意味では、彼女は完璧な貴族であった。
「それより僕は夜食を食べたいんだ。君たちもどうだい?」
そういいながら、露伴は床においてあるデルフリンガーを手に持ち、鞘を引き抜いた。
「聞いてくれよォー!ブチャラティィィィ!」
「ロハンの野郎、俺様でサラミだのハムだの切らせるんだぜ!」
「奴に何とかいってくれよォォォ!」
「ロハン……なにやってんだ…感染症とかの事を考えろ」
「うん。そうそう…ってヒデェ!」