ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-24

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「おう、聞いたぜ兄ちゃん!貴族にケンカ売ろうなんて、大した度胸じゃねえか」
 育郎をモット伯の所にまで案内するよう命じられた、如何にもベテランといった容貌の衛兵が、感心したように話しかけてくる。
「しかも女の為だって?あのおっさん、俺らも呆れるほどのドスケベだからな。
 そりゃ兄ちゃん、押しかけてきて正解だぜ」
「んなに酷えのか、モット伯てぇのは?」
「あん?こりゃインテリジェンスソードか?変わったもん持ってるな兄ちゃん……」
 育郎の背中のデルフをじろじろ見る。
「にしても……ほかに剣はなかったのか?ボロすぎるだろ、錆びも浮いちまってるし」
「……こう見えてもいい奴なんです」
「相棒、ボロって言われた事のフォローにはなってねえぞ」
「え?いや……」
「おもしれえ奴らだな……なあ、兄ちゃん」
 それまでどこか楽しげだった衛兵の顔が、唐突に真剣なものに変わる。
「相手は貴族だ。俺ら見てえなベテランならともかく、兄ちゃんじゃ勝ち目はねえ」
「相棒を舐めんじゃねえぞ!おめえなんぞ相棒に掛かれば一撃でメコッ!だぜ!」
「おーおーそりゃすげえ。けどな威勢はいいが、モット伯はトライアングルだ。
 どんだけ兄ちゃんが凄くても、まともにやりゃ相手にならねえ……
 なあ兄ちゃん、あのおっさんが本気になる前にとっとと降参しちまいな」
「……すいません」
「そうかい……おっと、もうついちまったな。まあ、死なない程度にがんばんな」
 そう言って育郎の肩を叩く。



「よう、どうだったいあの坊や?」
 持ち場に戻った衛兵に同僚が声をかける。
「そういやお前まだ賭けてなかったよな?どっちにする、あの坊やが死ぬ方か?」
「……あの兄ちゃんが勝つほうに賭ける」
「おいおい、正気か?穴ねらいにも程があるぞ」
「うるせぇ……」
 そう小さくつぶやいて自分の手を、育郎の肩に触れてから、震えが止まらない手をじっと見つめる。
「あの兄ちゃん……なにもんだ?」



「しかしミス・ロングビル、何故食堂で決闘を?しかも人払いまでさせて」
 モット伯の疑問に、それを提案したミス・ロングビルが答える。
「もう暗いですし、外では貴方の勇ましい姿がよく見えないじゃありませんか?
 それに……そんな素敵なモット伯、他の人にはみせたくありませんわ」
「いや、そんなことを言われるとてれますなぁ。はっはっはっ!」

 んなわけないだろ、このスカタン!ったく、男って奴は……

 人払いをさせたのは、育郎の勝利を3人だけの秘密にする事により、モット伯の弱みを握る為である。わざわざ食堂で決闘するように言ったのも、外の衛兵に決闘の様子を知られないためである。

 それにしてもいい気なもんだね……
 ま、下手すりゃ死ぬなんて事、今のこいつにはわかんないからしょうがないか。

 育郎は何があっても人間の姿のまま戦おうとするのは間違いない。
 しかし、それゆえにモット伯が勝利を収めるほどの傷を負わせた時、『バオー』の力はモット伯の命を確実に奪う事だろう。
 もしそうなってしまった時は……



「こ、これは!?僕はこの人を……」
 モット伯の遺体を前に呆然とする育郎に、ミス・ロングビルがすがりつく。
「育郎君……逃げましょう!」
「し、しかし……!」
「ここで貴方が捕まれば、ミス・ヴァリエールまで!」
「わ、わかりました……」

「どうでした?」
 安宿の部屋の中、帰ってきたミス・ロングビルに育郎が心配そうな声をかける。
「……これを」
 ミス・ロングビルが差し出したのは、育郎の顔が書かれた手配書だった。
「話では、他の国にまで手配書は回ってるそうです」
「ロングビルさん……すいません、僕のせいで……
 もう十分です、後は僕一人でなんとかしますから」
「良いんです……私がイクロー君に頼んだんですから……それに、貴方と一緒なら……」
「ロングビルさん……」

「そんな!?身体を売るなんて……」
「でも、もうお金が……」
「僕に……僕に出来る事はないんですか!?」
「手配書が回ってる貴方に、真っ当な仕事なんて……」
「それでも、貴方にそんな事をさせるよりは……!」

 この後、土くれのフーケに無敵の青い魔人が付き従うようになった。
 二人は数々の貴族のお宝を盗み出し、末永く幸せに暮らしたとさ。



 なーんて感じで……ふふふ、完璧な計画ね。
 もし失敗しても男……じゃなくてパートナーゲット!

 心の中でほくそえむミス・ロングビル(婚期が気になる23歳)であった。



「ふむ、やっと来たようですな。ミス・ロングビル?」
「あ、はい」
 楽しい妄想を中断させ、食堂に入ってきた育郎を見る。

 頑張りなさいよ坊や。
……むしろ頑張らなくてもいか

「さて、私と決闘を行うと言う名誉を得たのを、光栄に思うが良い平民よ」
 尊大な態度でモット伯は告げる。
「……約束して下さい、もし僕が勝ったらシエスタさんを」
「わかっておる。もっとも、『もし』等起こらないだろうがな!」
 そう言ってモット伯は杖を引き抜いた。
 育郎もデルフリンガーを鞘から抜き放つ。
「ではゆくぞ!私の二つ名は『波濤』のモット、その力をとくと見るが良い!」
 叫ぶモット伯が杖を振りあげ、呪文を唱える。
 そして呪文が完成し、杖を振り下ろした次の瞬間、渇いた音と供にその手から杖が弾き飛ばされた。
「馬鹿な!」
 十分距離はとっていたはずなのに、育郎は驚くべき瞬発力を持って、モット伯の呪文が完成する前にその手の杖を叩き落したのだ!
 うまくいった……

 安堵する育郎。しかしそれと裏腹に、彼の剣は

「ちょおおおおおおおおおおお!相棒おおおおおおおおお!!!!」
「で、デルフ?ど、どうかしたのか!?」



 どうかしたのかじゃねー!
 これじゃ俺のビックリドッキリ能力がわからねえじゃねーか!?
 考えろ……考えるんだデルフリンガー!
 何とかしてもう一度このおっさんと、相棒を戦わせるんだ!

「いや、その……あのな相棒、こりゃちょっと卑怯じゃねえか?」
「え?」
 その言葉に困惑する育郎。
「えーと、あれだ。別にいいんだけど、こりゃ決闘だぜ?
 あのおっさんが納得しなかったら、約束を反故にされちまうかもなーって」
 その言葉に、呆然としていたモット伯が我に返る。
「そ、そうだ!このような勝負無効だ!」
「な!ほら、あのおっさんもああ言ってるだろ?」
「う、うん……そ、そうなのかな?」
 そんな事言わなければ、そのまますんだのでは?
 とは思ったが、言われてみればそんな気がしてくる。
「あの……イクロー君、私がなんとかモット伯に話をつけてきますので」
 ミス・ロングビルが、小声で育郎に語りかける。
「ロングビルさん……すいません。お願いします……」
「いえ、いいんですよ」
 そう言って、今度はモット伯に近づき小声で話しかける。
「モット伯……」
「い、いや違うんだミス・ロングビル!こ、これはその、油断して……
 こ、この勝負は無効ということで……」
「ええ、でもあの平民は自分が勝ったと思ってますし……
 やりかたは少しあれですが、この決闘は彼の勝ちといっても間違いでは……」
 その言葉にモット伯が焦る。決闘に立ち会ったメイジがそう判断したなら、自分にはどうにもならない。そして平民に負けた等と知られれば、王宮勅使の自分の立場が危うくなるのは間違いない。

「な、なんとかもう一度決闘をやりなおせないか!?」
「しかし……決闘は神聖なものですし……相手がその申し出を受ければ別ですが……」
「な、なら負けてもあのメイドは解雇すると約束する!」
「それだけでは……やはり相応の物をお渡しになられないと……」
「む……で、ではあの者に勝てばさらに褒美を取らせると」
「モット伯のコレクション」
「へ!?」
 ミス・ロングビルの言葉に、思わず呆けた声をあげてしまう。
「……下手をすれば命をとられるかもと考えているでしょうから、それぐらいのエサをぶらさげないと、あの平民も納得しないのでは?」
「……わ、わかった。私のコレクションの一つを、勝ったらくれてやると伝えてくれ」
 モット伯は、渋々その提案を受けいれた。

「駄目でしたか……」
「すいません……私の力が足りないばかりに……」
「ねーちゃんは良くやったって!大丈夫!相棒なら絶対うまくやるって!」
 もちろんモット伯との取引の事は、カケラも話さないミス・ロングビルであった。


 こうして、各人のこすっからい打算と欲望が渦巻く中、育郎とモット伯の
 決闘第2ラウンドが行われる事になったのであった。




23<         目次
+ タグ編集
  • タグ:
  • バオー
  • 橋沢育郎

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー