腕が私の腕を掴む。
腕が私の足を掴む。
腕が私の肩を掴む。
腕が私の太腿を掴む。
腕が私のわき腹を掴む。
腕が私の顔を掴む。
「やめろ!離せ!離せ!」
腕が私を後ろへ引きずり込もうとする。
「何だよこれ!一体なにがどうなってんだ!お前らは一体誰何だ!」
無我夢中でそう叫ぶとほんの一瞬だけ、拘束が緩まる。
今だ!
その隙を見逃すわけもなく全身全霊の力を込めて腕を振りほどく。
そしてまた腕に掴まれる前にそのまま前へと駆け出した。
腕が私の足を掴む。
腕が私の肩を掴む。
腕が私の太腿を掴む。
腕が私のわき腹を掴む。
腕が私の顔を掴む。
「やめろ!離せ!離せ!」
腕が私を後ろへ引きずり込もうとする。
「何だよこれ!一体なにがどうなってんだ!お前らは一体誰何だ!」
無我夢中でそう叫ぶとほんの一瞬だけ、拘束が緩まる。
今だ!
その隙を見逃すわけもなく全身全霊の力を込めて腕を振りほどく。
そしてまた腕に掴まれる前にそのまま前へと駆け出した。
それからどれだけ走っただろうか。
腕に掴まれないようとにかく無我夢中で走ったので覚えてはいない。
しかし相当走ったはずだ。
もう足は疲れてガクガクしているし、汗は滝のように流れ落ちている。
それでも足は止めない。
止めることはできない。
何故ならあの腕どもは私を追ってきているからだ。
私には分かるのだ。後ろからはなにも音はしないし、気配も無い。
だが追ってきているのが分かるのだ。
今度掴まれたら私はあの腕から逃げ出すことはできない。
あの腕は絶対なのだ。
私が太刀打ちできるような相手ではない!
私の本能が叫びをあげる。
あれに引き吊りこまれれば命尽きると!
既に限界の足を必死に前へと動かす。
逃げなければ!
どんな無様な格好になっても構わない。とにかく逃げなければ!
「なんで私がこんな目にあわなければいけないんだっ!私は『幸福』辿り着きたいだけなのに!」
自分を奮い立たせるかのように叫びあげる。
もう限界なのに走りながらこんなことを叫ぶのはバカなことだが、気落ちするよりはいい。
肉体を動かすのは精神だ。
強い精神力さえあれば体はまだ動く!
走れ!走れ!走れ!走れ!
生きるために!
走れ!走れ!走れ!走れ!
生き延びるために!
走れ!走れ!走れ!走れ!
『幸福』になるためにとにかく前へ!
そして走っていると目の前に人影が見えた。
私にはその人影がとてつもなく力強い光に見えた。
その光とは希望だった。
あの人なら私を助けてくれるに違いない!
たった一人で走り続けていたからか、ただそこに人がいるというだけでそれが希望に見えてしまう。
その人が私を助けてくれると思ってしまう。
そんな自分に驚きながらもその人影の方向へ真っ直ぐ向かう。
「助けてくれ!」
私の言葉を聞いたのかその人影がぴたりと立ち止まる。
「助けてくれ!私を助けてくれ!」
その人影がこちらを振り向く。
「あら、どうしたの?」
その人影は女だった。
ショートヘアーにカチューシャをつけ前髪を後ろに流し、首には握手をかたどったチョーカーをつけ、ワンピースを着ている。
「助けてくれ!追われてるんだ!」
「そう。それは大変ね。でも……」
女は目の前まで辿り着いた私を突然後ろに押す。
体力なんてもうとうに限界だったので呆気なく私は後ろに倒れてしまった。
「あ、な、なにをする!?」
「あなたが『吉良吉影』だから追われているのよ」
「なにを言っているんだお前は!?」
足から聞こえてくる悲鳴を無視し何とか立ち上がる。
私が吉良吉影だから追われているだと!?そんなバカなことがあってたまるか!
「ほら、そこまで着てるわよ。あなたを追ってるものが」
「ひっ!」
その言葉に私は脅え慌てて走り出そうとする。しかし突然その場に転んでしまう。
足を見てると左足の膝から下が欠けていた。
「なんだとぉおおおおお!」
そのとき視界に女以外の何かを捕らえる。
それは犬だった。その犬は寄り添うように女の足元に座っており、驚いたことに首がぱっくりと裂けていた。
さらにその犬は足を銜えている。
まさか……あの足は!
「くそ!返せ!それは俺の足だぞ!返せ!」
犬は何の反応も示さない。
ただ、私の、噛み砕いた。
その体のありとあらゆる場所を掴まれる。
追いつかれてしまったのだ!
腕は次々と私を掴んでいく。その数は増える一方でこのままでは私は手に埋もれてしまうのではとさえ考えた。
「チクショウッ!チクショウッ!お前ら誰なんだあああああああ!」
満身の力を込め後ろを振り向く。
そこには、何十という顔があり男も女も混在している。
「お前らは誰だなんだよ!」
その言葉を叫びながら顔を掴まれる。
「ここにいるのはみんなあなたに関係ある人ばかりよ」
女の声が耳に聞こえてくる。
体がぎしぎしと軋みをあげる。
「思い出せてもあなたの運命は変わらない」
体が音を立てて砕け散る。
「そしてあなたに『安心』は訪れない。『吉良吉影』にはもう二度と訪れないのよ」
それが私の最後に聞く言葉だった。
腕に掴まれないようとにかく無我夢中で走ったので覚えてはいない。
しかし相当走ったはずだ。
もう足は疲れてガクガクしているし、汗は滝のように流れ落ちている。
それでも足は止めない。
止めることはできない。
何故ならあの腕どもは私を追ってきているからだ。
私には分かるのだ。後ろからはなにも音はしないし、気配も無い。
だが追ってきているのが分かるのだ。
今度掴まれたら私はあの腕から逃げ出すことはできない。
あの腕は絶対なのだ。
私が太刀打ちできるような相手ではない!
私の本能が叫びをあげる。
あれに引き吊りこまれれば命尽きると!
既に限界の足を必死に前へと動かす。
逃げなければ!
どんな無様な格好になっても構わない。とにかく逃げなければ!
「なんで私がこんな目にあわなければいけないんだっ!私は『幸福』辿り着きたいだけなのに!」
自分を奮い立たせるかのように叫びあげる。
もう限界なのに走りながらこんなことを叫ぶのはバカなことだが、気落ちするよりはいい。
肉体を動かすのは精神だ。
強い精神力さえあれば体はまだ動く!
走れ!走れ!走れ!走れ!
生きるために!
走れ!走れ!走れ!走れ!
生き延びるために!
走れ!走れ!走れ!走れ!
『幸福』になるためにとにかく前へ!
そして走っていると目の前に人影が見えた。
私にはその人影がとてつもなく力強い光に見えた。
その光とは希望だった。
あの人なら私を助けてくれるに違いない!
たった一人で走り続けていたからか、ただそこに人がいるというだけでそれが希望に見えてしまう。
その人が私を助けてくれると思ってしまう。
そんな自分に驚きながらもその人影の方向へ真っ直ぐ向かう。
「助けてくれ!」
私の言葉を聞いたのかその人影がぴたりと立ち止まる。
「助けてくれ!私を助けてくれ!」
その人影がこちらを振り向く。
「あら、どうしたの?」
その人影は女だった。
ショートヘアーにカチューシャをつけ前髪を後ろに流し、首には握手をかたどったチョーカーをつけ、ワンピースを着ている。
「助けてくれ!追われてるんだ!」
「そう。それは大変ね。でも……」
女は目の前まで辿り着いた私を突然後ろに押す。
体力なんてもうとうに限界だったので呆気なく私は後ろに倒れてしまった。
「あ、な、なにをする!?」
「あなたが『吉良吉影』だから追われているのよ」
「なにを言っているんだお前は!?」
足から聞こえてくる悲鳴を無視し何とか立ち上がる。
私が吉良吉影だから追われているだと!?そんなバカなことがあってたまるか!
「ほら、そこまで着てるわよ。あなたを追ってるものが」
「ひっ!」
その言葉に私は脅え慌てて走り出そうとする。しかし突然その場に転んでしまう。
足を見てると左足の膝から下が欠けていた。
「なんだとぉおおおおお!」
そのとき視界に女以外の何かを捕らえる。
それは犬だった。その犬は寄り添うように女の足元に座っており、驚いたことに首がぱっくりと裂けていた。
さらにその犬は足を銜えている。
まさか……あの足は!
「くそ!返せ!それは俺の足だぞ!返せ!」
犬は何の反応も示さない。
ただ、私の、噛み砕いた。
その体のありとあらゆる場所を掴まれる。
追いつかれてしまったのだ!
腕は次々と私を掴んでいく。その数は増える一方でこのままでは私は手に埋もれてしまうのではとさえ考えた。
「チクショウッ!チクショウッ!お前ら誰なんだあああああああ!」
満身の力を込め後ろを振り向く。
そこには、何十という顔があり男も女も混在している。
「お前らは誰だなんだよ!」
その言葉を叫びながら顔を掴まれる。
「ここにいるのはみんなあなたに関係ある人ばかりよ」
女の声が耳に聞こえてくる。
体がぎしぎしと軋みをあげる。
「思い出せてもあなたの運命は変わらない」
体が音を立てて砕け散る。
「そしてあなたに『安心』は訪れない。『吉良吉影』にはもう二度と訪れないのよ」
それが私の最後に聞く言葉だった。