「それでバラバラにされたところで目が覚めたんだな?」
「ああ。その通りだ」
デルフに夢の内容を話し終える。
事細かに憶えているからな。できる限り詳細に教えたつもりだ。
そしてデルフの反応は、
「で、その夢でどうして自分を疑うんだ?俺にはさっぱりわからねえよ」
というものだった。
しかし落胆はしなかった。
普通他人の考えなど自分にはわからないものだ。
それは相手にも言えること。自分の考えを説明しなければわかってもらえるはずもない。
だから、説明すればいい。
「そうだな。どう説明したらいいか……」
「頭に思い浮かんだことを言やいいぜ。俺流に解釈するからよ」
ありがたいことだ。
だが変な風に解釈されては困るからちゃんと考えて話そう。
「私が夢の中で出会った女が言った『吉良吉影』。それが原因だと言えるだろう」
「そうか?俺が聞いてる限り何も疑問に思うようなとこはなかったぜ?」
そりゃ他人が聞けばそうだろうな。
「そうだな。確かにおかしくはなかった。私もそのときはおかしいと思わなかった」
夢の中じゃそんなことを思うより恐怖で一杯だったからな。
おかしいのおかしくないだの思う余裕なんてなかった。
「しかし、夢から醒めれば見えてくることもある」
夢の中とは違い、夢から醒めた状態であれば夢の中のようにその状況に流されることはない。
その夢を冷静に客観視することができる。
客観的に見るということはとても大事なことだ。
主観ではわからなかったことがよく見えるからな。
「それじゃあ相棒はどんなことが見えたんだ?」
「私が見たのはその女の眼さ」
「眼?眼がどうしたって言うんだ?」
「あの女の眼は私を見ていなかった」
「は?何言ってんだ?相棒を押し倒して、相棒を見ながらキラヨシカゲって言ったんだろ?相棒のことを見てないわけねえじゃねえか」
その通りだ。
しかし、私の考えはそれよりさらに先にある。
「いや、その女は私を瞳に写していただけで私自身を見ていたわけじゃなかった。彼女が見ていたのは私の向こう側といった感じだった」
眼、眼差しというものは本人が思っているより如実に意識を晒している。
私が見たあの女の眼は私という『吉良吉影』を写してはいなかった。
私を通じてもっと遠く、あるいは近く、そんな場所を見詰めていた。
「あれか?精神的な話しって奴?」
「そうだな。自分では普通だと思っているが、やはり他人からすれば精神的な部類に入るかもな」
「ふーん。まあ、その辺は俺にはよくわからんけどね。だって人間じゃねえし」
確かにそうだな。
もともとデルフだ道具(今では私の相棒だからもともとだ)だからな。
いくら意識を持っていても人間として生きてきたわけじゃないのだから人間とは物の見方、価値観、存在意識が違うのだろう。
いや、それが悪いというわけではない。
むしろそれが……
「相棒?」
「ヘッ!?」
「どうしたいきなり黙っちまってよ」
「え?ああ、なんでもないなんでもない」
「んで、その女が相棒の向こう側を見ていたからってそれがどうしたんだよ?」
デルフが喋りかけてきたことにより意識が現実に引き戻される。
今はそんなことを思っている場合ではない。
話を戻さなければ。
しかし、こんなこと思うようになるなんて最近疲れてるのかねえ俺は。
「いいか、私を見ずに私のことを吉良吉影と言ったということはだ、あの女は私の夢のくせに私を見ていなかったということになる」
「それで?」
「夢というのは現実ではない仮想的な体験を体感する現象だ。さらに見た者の将来に対する希望・願望を指すか、これから起き得る危機を知らせる信号とも言われている」
「へえ、よく知ってるな」
「うるさい。いちいち話の腰を折るな。黙って聞いてろ」
「はいよ」
まったく。
喋るなとは言わないがいちいち喋りかけられると少しうっとおしい。
「さっき言った他にも夢は自分の潜在意識を表すものだとも言われている。意識というのは自分が意識している部分としていない部分がある。
そのしていない部分を潜在意識というんだ。そして普段私たちが自分で意識している部分、顕在意識は氷山にたとえればその一角に過ぎないという」
「氷山?」
「氷山というのは海に浮かぶでっかい氷のことだ。その約9割は水面下にあって水上に出ている氷は極わずかという不思議な不思議な自然現象だ。」
こっちの船は空を飛ぶからな。
海にはどうせ船なんてないんだろ。
だから氷山のことを知らなく当然かもな。
「話を戻すぞ。顕在意識は意識全体の一角に過ぎない。潜在意識がその殆んどの割合を占めているからだ」
「相棒はその潜在意識とやらを夢見たって考えてるのか?」
さすがデルフ。
「その通りだ。私の考えではあの女は私の記憶がなくなる前に関係のあった人物だと思っている。それだけじゃない。私を掴んでバラバラにした者たち全員だ。
そして私の無くした記憶は潜在意識の中にあるんじゃないかと考えている」
出なければおかしいだろう?
私はあんな女見たことがない。
私を掴んだ連中の顔すら一欠けらの覚えがない。
仕事で殺した連中ですらなかった。
「そして女が言った『吉良吉影』というのは記憶を失くす前の私のことなんじゃないだろうか?だから私を見ていなかった」
おそらく、そう何だと思う。
あのとき、あの女が喋った言葉は過去の『吉良吉影』への言葉。
「過去の一切を忘れた奴は過去の自分と同じと言えるのか?いくら少し記憶が残っているからと言っても自分にとってそれがどうでもいいことであれば無いのと一緒だ。
過去の吉良吉影が『吉良吉影』なのは間違いない。本人だからな。だがそれらの全てを忘れた吉良吉影は『吉良吉影』と言えるのだろうか?
ただ吉良吉影を名乗っている別人じゃないのか?」
「……なんていうか、こう、あれだ。相棒は難しいこと考えてんだな~」
私の話を聞き終えたデルフはそう呟いた。
それだけしか呟かなかった。
……真剣に話してその反応かよ。
「ああ。その通りだ」
デルフに夢の内容を話し終える。
事細かに憶えているからな。できる限り詳細に教えたつもりだ。
そしてデルフの反応は、
「で、その夢でどうして自分を疑うんだ?俺にはさっぱりわからねえよ」
というものだった。
しかし落胆はしなかった。
普通他人の考えなど自分にはわからないものだ。
それは相手にも言えること。自分の考えを説明しなければわかってもらえるはずもない。
だから、説明すればいい。
「そうだな。どう説明したらいいか……」
「頭に思い浮かんだことを言やいいぜ。俺流に解釈するからよ」
ありがたいことだ。
だが変な風に解釈されては困るからちゃんと考えて話そう。
「私が夢の中で出会った女が言った『吉良吉影』。それが原因だと言えるだろう」
「そうか?俺が聞いてる限り何も疑問に思うようなとこはなかったぜ?」
そりゃ他人が聞けばそうだろうな。
「そうだな。確かにおかしくはなかった。私もそのときはおかしいと思わなかった」
夢の中じゃそんなことを思うより恐怖で一杯だったからな。
おかしいのおかしくないだの思う余裕なんてなかった。
「しかし、夢から醒めれば見えてくることもある」
夢の中とは違い、夢から醒めた状態であれば夢の中のようにその状況に流されることはない。
その夢を冷静に客観視することができる。
客観的に見るということはとても大事なことだ。
主観ではわからなかったことがよく見えるからな。
「それじゃあ相棒はどんなことが見えたんだ?」
「私が見たのはその女の眼さ」
「眼?眼がどうしたって言うんだ?」
「あの女の眼は私を見ていなかった」
「は?何言ってんだ?相棒を押し倒して、相棒を見ながらキラヨシカゲって言ったんだろ?相棒のことを見てないわけねえじゃねえか」
その通りだ。
しかし、私の考えはそれよりさらに先にある。
「いや、その女は私を瞳に写していただけで私自身を見ていたわけじゃなかった。彼女が見ていたのは私の向こう側といった感じだった」
眼、眼差しというものは本人が思っているより如実に意識を晒している。
私が見たあの女の眼は私という『吉良吉影』を写してはいなかった。
私を通じてもっと遠く、あるいは近く、そんな場所を見詰めていた。
「あれか?精神的な話しって奴?」
「そうだな。自分では普通だと思っているが、やはり他人からすれば精神的な部類に入るかもな」
「ふーん。まあ、その辺は俺にはよくわからんけどね。だって人間じゃねえし」
確かにそうだな。
もともとデルフだ道具(今では私の相棒だからもともとだ)だからな。
いくら意識を持っていても人間として生きてきたわけじゃないのだから人間とは物の見方、価値観、存在意識が違うのだろう。
いや、それが悪いというわけではない。
むしろそれが……
「相棒?」
「ヘッ!?」
「どうしたいきなり黙っちまってよ」
「え?ああ、なんでもないなんでもない」
「んで、その女が相棒の向こう側を見ていたからってそれがどうしたんだよ?」
デルフが喋りかけてきたことにより意識が現実に引き戻される。
今はそんなことを思っている場合ではない。
話を戻さなければ。
しかし、こんなこと思うようになるなんて最近疲れてるのかねえ俺は。
「いいか、私を見ずに私のことを吉良吉影と言ったということはだ、あの女は私の夢のくせに私を見ていなかったということになる」
「それで?」
「夢というのは現実ではない仮想的な体験を体感する現象だ。さらに見た者の将来に対する希望・願望を指すか、これから起き得る危機を知らせる信号とも言われている」
「へえ、よく知ってるな」
「うるさい。いちいち話の腰を折るな。黙って聞いてろ」
「はいよ」
まったく。
喋るなとは言わないがいちいち喋りかけられると少しうっとおしい。
「さっき言った他にも夢は自分の潜在意識を表すものだとも言われている。意識というのは自分が意識している部分としていない部分がある。
そのしていない部分を潜在意識というんだ。そして普段私たちが自分で意識している部分、顕在意識は氷山にたとえればその一角に過ぎないという」
「氷山?」
「氷山というのは海に浮かぶでっかい氷のことだ。その約9割は水面下にあって水上に出ている氷は極わずかという不思議な不思議な自然現象だ。」
こっちの船は空を飛ぶからな。
海にはどうせ船なんてないんだろ。
だから氷山のことを知らなく当然かもな。
「話を戻すぞ。顕在意識は意識全体の一角に過ぎない。潜在意識がその殆んどの割合を占めているからだ」
「相棒はその潜在意識とやらを夢見たって考えてるのか?」
さすがデルフ。
「その通りだ。私の考えではあの女は私の記憶がなくなる前に関係のあった人物だと思っている。それだけじゃない。私を掴んでバラバラにした者たち全員だ。
そして私の無くした記憶は潜在意識の中にあるんじゃないかと考えている」
出なければおかしいだろう?
私はあんな女見たことがない。
私を掴んだ連中の顔すら一欠けらの覚えがない。
仕事で殺した連中ですらなかった。
「そして女が言った『吉良吉影』というのは記憶を失くす前の私のことなんじゃないだろうか?だから私を見ていなかった」
おそらく、そう何だと思う。
あのとき、あの女が喋った言葉は過去の『吉良吉影』への言葉。
「過去の一切を忘れた奴は過去の自分と同じと言えるのか?いくら少し記憶が残っているからと言っても自分にとってそれがどうでもいいことであれば無いのと一緒だ。
過去の吉良吉影が『吉良吉影』なのは間違いない。本人だからな。だがそれらの全てを忘れた吉良吉影は『吉良吉影』と言えるのだろうか?
ただ吉良吉影を名乗っている別人じゃないのか?」
「……なんていうか、こう、あれだ。相棒は難しいこと考えてんだな~」
私の話を聞き終えたデルフはそう呟いた。
それだけしか呟かなかった。
……真剣に話してその反応かよ。