ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-19

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「ぐおおおぉおおぉぉぉ……」
兵士であるアニエスの鍛えられた拳を受けて、悶え転がるしかできない康一。
そんな康一を尻目に、アニエスが状況を説明した。
「コーイチさんの右手のルーンが光って、ミス・タバサの使い魔の風竜と会話したと。そういうことですか、アニエス殿?」
「はっ、その通りでございます」

分かりやすいアニエスの説明で状況を把握したアンリエッタ。
「コーイチさんも、それで間違いないのですね?」
「あぁたたた……ええ、そうなんですよ。
何かこの右手の文字が光って、そしたらシルフィードさんの言葉が分かるようになっちゃったんです」

ようやく復活した康一が右手を差し出して見せ、アンリエッタはその右手のルーンをまじまじと見た。
「そういえばこの文字、ルーンって言うんですか。使い魔の契約の印とか何とか聞きましたけど、一体どういうものなんです?」
自分に刻まれたルーンのことを、あまり詳しくは知らない康一が聞いた。

その疑問にアンリエッタが答える。
「コーイチさんの言うように、それは使い魔のルーン。
メイジと使い魔が契約を結んだとき、使い魔に刻まれる契約の証です。
あの契約の儀ときに刻まれた…も…の……です。はい」

顔を真っ赤にして、何とか最後まで言い切ったアンリエッタ。
コーイチと契約したとき、ええ、いや、その、唇を合わせたわけで。
そうして恥らうアンリエッタに、康一もそのときのことを思い出す。
突然の出来事で、その後も思い出して恥ずかしがる暇もなかったが、
よぅく考えてみると、康一は異世界のお姫様と契約とはいえ、キス、していたわけで。

フルフルと顔を真っ赤にして震えるアンリエッタ。
アンリエッタほどではないが、こちらも顔を赤くして不自然に視線をキョロキョロさせている康一。
この場にノリのイイ者がいれば、はやし立てるところだろうが、この場にそんな人間は存在しなかった。

アニエスは何となく生暖かい目をして二人を見つめ。
タバサは変わらぬ無表情だが、康一を黙ってジーっと見つめる。
ご両人と周りの者達との周囲に、青臭いような、いたたまれないような、殺伐としたような空気が形成されてゆく。
ゴホンッ、オホンッ、とマザリーニが耐え切れずに不自然に咳払いをしたところで、ようやくご両人は我に帰った。

「ああぁ、いえ、そう、契約の証ですっ!それだけですっ」
「そそそ、そうですねッ。それだけですよねッ!」
あははははははは、と乾いた笑いを上げざるを得ない、アンリエッタと康一。
そうでもしなければ、もうなんかマトモに会話が出来そうにないから。

「そ、それで使い魔のルーンですが、たまに使い魔へ特殊な能力を与えることがあります。
例えば猫や鳥などの動物が人の言葉を喋り、理解することが出来るようになったりと」
「そうなんですか?でも僕は動物の言葉を喋るというか、動物の「声」を理解する能力って感じなんですよね。
シルフィードさんの喋ってる声自体は変わってなかったですし」

康一の言葉を聞いて、アニエスが疑問顔になる。
「そうなのか?てっきりわたしは風竜が人の言葉を喋ってるように聞こえてるのかと思ったが」
ふぅむ、と考える康一にアニエスが聞いた。
「そうなんですよ。どっちかって言うと、何となく感情が分かるって言ったほうが正確なのかもしれないです」

「まぁ、まだよく分からん能力だから、色々試してみたほうがよさそうだな」
そうアニエスが言ったところで、タバサが康一に近づき、その右手を手に取った。
「タバサさん、どうかしました?」
「…この紋様、少し調べてみる。同じようなルーンの記録があるかもしれない」

康一の目を上目遣いに見て、そう言ったタバサ。
「いや、でもタバサさん忙しいんじゃあないんですか?
学校だって授業もあるし、ちょくちょく城にも来てもらわなきゃあならないですし」
しかしタバサは、ふるふると首を振った。

「ルーンの記録を調べられるのは、魔法学院にいる私だけ。他の人には出来ない」
確かにそうであった。魔法のことは魔法使いに聞くのが一番。
そして魔法の知識は、この場にいる誰よりもタバサが深いであろう。
この中では魔法学院に籍を置く、この小さなメイジが最適任である。

「うーん……じゃあタバサさんが学校に支障が出ないぐらいで調べてもらえますか?」
自らも日本で学生の身分である康一としては、自分より小さな子に学校で調べ物を頼むというのは、
気分が乗らないのだが、悩んだ末に条件付で頼むことを決めた。

タバサは微妙に間を置いて、こくんと首を縦に振った。
何故か微妙にあった了承する間は、何となく心の中で条件を納得するのに時間が掛かったから、らしい。
タバサ自身、何でそんな葛藤をしたのか分からない。
なぜだろう、とタバサは思った。

タバサがそんな葛藤をしていることなどつゆ知らず、康一は頭を下げた。
「じゃあよろしくお願いします、タバサさん」
「任せて。それと別に一つ聞きたいことがある、あなたの能力のこと」

タバサの一言に注目が集まった。
「説明されたときは時間が無かったから、あまり詳しくは聞けなかった。よければもっと教えて欲しい。」
「確かに、それはわたしも知っておきたいところだ。
これから一緒に行動するのだから、味方の実力は把握しておきたい」
タバサの言葉にアニエスも同調する。

康一としては別にいいかなぁ、と思っているのだが、一応アンリエッタにを確認の意味を込めて見る。
視線の意味を解するアンリエッタも、少し考える素振りをしてから一つ頷く。
「構いません、コーイチさん。あなたが構わないなら、わたくしは反対いたしません」
つまり事実上の許可が出たというわけだ。
マザリーニも同席しているが、彼にも説明をすることに特に問題はない。

康一の顔が自然と引き締まって、その空気がこの場の全員に伝播する。
「そうですね。アンリエッタさんには一応説明しましたけど、確認の意味でもう一度聞いてみてください。
僕の能力、使い手達の間で使われる総称は「スタンド」。
そして僕のスタンド能力の名前は「エコーズ」といいます」

「スタンドは精神、心の才能が形となって現れる能力。
だから一人一人発現する能力は全く違うし、一つとして同じ能力を発現することはあり得ない。
人間が皆、同じ心を持っていることがないようにね」

「やはり魔法とは違うのか?」
アニエスが聞いた。平民のアニエスには魔法の力は感じられないし、それも当然だろう。
「ええ、僕から見れば魔法っていうのは、どっちかって言うと技術に近い感じがするんですよ。
確かに才能も必要でしょうけど四つの系統でしたっけ、それに沿うように使えば大抵のことが出来るようになる「技術」なんです」

康一の言うことにタバサは、確かにそうだ、と思った。
自分達の使う魔法は、先人達が魔法の力を研究して開発されたものだ。
そして今も魔法の研究は続いているし、日々新たな発見もある。
魔法とは過去から受け継いできた、積み上げられた遺産なのだ。

「でもスタンドは違う。精神の「才能」が現れるから、能力はその才能に左右される。
だから人によっては、本人をも傷つけてしまうようなスタンドが発現することもある。
スタンド能力自体が、発現した本人にとって害になってしまう場合もあるんです」

ゴクリ、と皆が息を呑む。緊張感が膨れ上がった。
「まぁ、大体は大丈夫だったりするんですけど」
だが康一が気の抜けたような話方をした途端に空気が和らいだ。
これは康一の性格がなせる技だろう。彼には柔らかい雰囲気がよく似合う。

「それでスタンド能力は個々で全く違うんですど、ある程度規則性があります。
スタンドはスタンドを使える人。「スタンド使い」にしか見ることが出来ない。
だから皆さんは僕のスタンド、エコーズを見ることが出来ない。
見えますか?いま僕の傍にいますよ」

宙に現れたACT1。それを見ようと、一度試したアンリエッタを除いた三人が目を凝らす。
「……おい、本当にオマエの傍にいるのか?影も形も見えんぞ」
「わたしも見えない」
「確かに何もないように見えますがの」
アニエスが不機嫌そうに尋ね、タバサとマザリーニにも見えないようだ。

あはは、と康一は笑いながら、学ランを脱いでACT1に掛ける。
するとどうだろう、宙に浮かぶACT1に学ランを引っ掛けたことで、
スタンドが見えない四人には、魔法も使わず宙に学ランが浮かんでいるように見えることとなる。

「服が、宙に浮かんでいる…」
アニエスが振り向き、タバサに視線を送る。
「魔法の力は感じない」
首を横に振ってタバサが答えた。

康一がACT1を解除して、床に落ちる学ランを宙で掴む。
「まぁ、こんな感じですね。
それでスタンドの説明の続きですけど、スタンドは一人につき一能力。
それより多いことは決してありません」

説明の途中だが、堪らずアニエスが詰め寄った。
「ちょっと待てっ、だがオマエは自分には能力が三つあると説明したじゃあないか。
能力が一人一つだけというのは、どう考えてもおかしいぞ!」

このマヌケッ、と言わんばかりに近くで凄まれて、康一は後ずさりしながら言った。
「いや、今それを説明するところなんですよ。
確かにスタンドは一人一能力、僕のスタンド「エコーズ」は一体だけです」

そう言われて、ますます混乱したようにアニエスが眉をしかめる。
「スタンドは精神が生み出す能力。
だから人が精神的に成長したときなんかに、スタンドが成長することがあるんです。
僕のエコーズもそのタイプ。能力が成長して三種類の形態をとることができるスタンド」

そして康一の能力を思い出したタバサ。
「能力を同時には、使えない………」
「そういうことです。三つの能力を同時に使えないってのは、スタンドが一人一能力(一体)だから。
一つのエコーズを使ってたら、別のエコーズは使うことは出来ない」

「だが状況に合わせて、能力を使い分けられるというのは便利だな。中々応用が利いている」
アニエスが兵士としての思考で感想を述べる。
「はい。スタンドはエネルギーの塊ですから、ある程度の厚みの壁や床なんかを擦り抜けていけます。
僕のスタンドは視聴覚も持ってますから、射程距離の長いエコーズなら偵察もできますね」

自分の能力を活用し尽くす、それがスタンド使いの戦いなのだ。
その思考にはアニエスも共感するものがある。
大抵のメイジは自分の魔法を鼻にかけて、平民の武器など屁とも思っていない。
そこを突くのが剣士である、アニエスの戦い方。

不意を突き一撃で戦闘不能にしてしまえば、メイジと言えども恐れるに足らず。
そういう思考をするヤツは、どんなに弱っちそうでも大抵手ごわいと決まっている。
そして実際、康一は手ごわいヤツだ。
コイツは頼りになりそうだな、とアニエスは思った。

「大体説明しましたけど、後説明してないのは僕の二つ目の能力ぐらいですかね。
それと能力は一つ目から順にACT1・ACT2・ACT3って名前をつけてます。
で、僕のACT2の能力は「擬音」の能力ですね」

これまた康一のとても抽象的な表現で皆、疑問符を浮かべるしかない。
「あー、まぁそれだけじゃあ分からないと思いますから、ちゃんと詳しく説明しますね。
ACT2の能力は擬音の効果を表現する能力です」

しかし、未だにチンプンカンプンな表情は崩れない。
(いやでも、この世界に漫画みたいな、擬音なんて表現があるのかチョット怪しいよなぁ。どうしようか…)
「ええっとですね、例えば料理をするときなんかは、フライパンで食材を焼きますよね?
そのフライパンで食材を焼く音は、どういう音かはわかりますか?」

いきなり何を言い出すのかといった顔をするアニエスだが、一応常識的な範囲で答えた。
「焼く物にもよるだろうが、ドジュウゥゥとか、か?」
「はい、そーです。ACT2の能力はその焼く音とかを実感させる能力なんですよ。
催眠術って知ってるかどうかは知りませんけど、火がついてないローソクとかを人に押し当てても火傷はしない。
でも本当にローソク火がついてるって、心の底から信じさせて押し当てたりすると人は火傷するらしいですよ」

この中で頭の回転がもっとも速いであろうタバサが言った。
「つまり、思い込み?」
「そんな感じですね。人に思い込ませて、音の効果を実感させる能力」

頭を整理するように言葉を吐き出しながら、アニエスが聞く。
「あぁ、つまり、その、能力で焼ける音を人に使ったら、人は火傷すると。そういうことか?」
「もちろん使えるのは熱の音だけじゃあないですよ。
ドヒュウゥゥッ、って突風が吹く音を実感させれば物や人は吹っ飛びますし、
ドッグォンッ、とか爆発する音なら、爆発音の衝撃を与えることができます」

少々沈黙、そして思わずアニエスが呻いた。
「それ、普通に万能じゃあないか?」
呆れたような様子で聞くアニエスに、苦笑しながら康一は答える。

「万能なんかじゃあないですよ。この能力は音を実感させる能力ですから、物理的な暴力じゃあない。
それにACT2はパワーやスピードが高くない、射程距離の長い遠隔操作のスタンドなんです。
人間を気絶させるぐらいの破壊力しかありませんね」

しかし説明を聞いてもアニエスは呆れたままだ。
「スタンドとは随分と恐ろしいものだな……才能のあるものなら誰でも発現する可能性があるわけだし。
もしや、わたしも才能があれば使えるようになるのか?」

うーん、と首を捻って康一が唸る。
「才能があれば、何かのきっかけで発現するかもしれませんね」
康一は「矢」で能力に目覚めたスタンド使いだが、矢のことは黙っておこうと決めた。
この異世界に来てまで矢と関わることはないだろうし、それがアンリエッタや皆を守ることにも繋がる。

「しかしオマエぐらいの年のヤツが随分場慣れしていると思っていたが、
召喚される前は、その、スタンド使いと戦った経験でもあったのか?」
アニエスが鋭く康一の経験を推察した。
「えぇ、まぁ」

「というか、オマエはここに来る前はロバ・アルカリイエに居たと姫様から聞いたが、
そこにはそんなにスタンド使いがいるのか?もしやロバ・アル・カリイエの人間は全員スタンド使いだったりするのか?」
「…ロバ・アル?………あぁッ!いえ、はい。いやッ、そうじゃなくて」

異世界から来ましたなんて言えるわけがないので出身は、この世界の東の果て、
ロバ・アル何とかから来たということにした康一とアンリエッタ。
その世界の事情がよく分からない康一は、アンリエッタに言われたままにしておいた。
が、結構適当に任せていた康一なので、そういうところを突かれて動揺する。
あからさまに怪しいぜ。

「わ、わたくしがコーイチさんに聞いたところによると、能力に目覚めるのは極一部の者だけだそうですが」
慌ててフォローに入るアンリエッタ。
だが何処か声が裏返っており、ますます皆を疑心暗鬼にさせる。
どうにも似たもの同士の主従は隠し事が出来ないタイプのようだ。

「あ、ああ、そうですか。はい。」
聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと悟ったアニエスは、自らこの話題を止める。
(た、助かりましたーっ。ナイスフォローです、アンリエッタさんッ!)
(それほどでもありませんわ)

いや、助かってない。
アイコンタクトで会話しても、気付かないふりをするアニエス。
それを逆に怪しむタバサ。
マザリーニは終始表情を変えない。

こうして王城の新しい朝は過ぎていった。


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