ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ドロの使い魔-13

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匿名ユーザー

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ラ・ロシェールで一番上等な宿、「女神の杵」亭に泊まる事にした一行は、一階の酒場でだらだらしていた。
さすが貴族を相手にするだけあって、隅々まで掃除が行き届き、テーブルは床と同じ一枚岩からの削り出しで輝いている。

そこに、「桟橋」へ乗船の交渉に行っていたワルドとルイズが帰ってきた。
ワルドは席に着くと、困ったように言った。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに・・・」
ルイズは口を尖らせている。ギーシュの瞳が輝いている。セッコは首を捻った。
「なんで隔日なんだあ?アルビオンてのは、そんなに田舎なのかよ。」
ワルドが答える。
「明日の夜は月が重なるだろう?[スヴェル]の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づく。」
ワルドは、まるでこれが完全な答えだ、と言わんばかりの様子だ。

「・・・おあ?」
横でキュルケがなるほどと頷いているものの、セッコには完全に意味不明である。
考えるのをやめた。

「さて、今日はもう寝よう。部屋を取った」
「キュルケとタバサが相部屋だ。そしてギーシュとセッコが相部屋」
ギーシュが怯えた。
「僕とルイズは同室だ」
ま、婚約者ならなあ。

ルイズが反論する。何でだろ?
「そんな、ダメよ!まだ、わたしたち結婚してるわけじゃないじゃない!」
「いや、大事な話があるんだ。二人きりで話したい」
「・・・わかったわ」

「女神の杵」で一番上等な部屋。そこでワインを傾けながらワルドとルイズは話していた。

「姫殿下から預かった手紙は、きちんと持っているかい?」
ルイズはちょっとふくれた。
当たり前よ。もう子供じゃないんですから。
むしろ不安なのは、手紙を書きながら見せたアンリエッタの表情。
あれはもしかして・・・いや間違いないわ・・・
「・・・ええ」
「心配なのかい?無事にアルビオンのウェールズ皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるのかどうか」
「そうね、心配だわ・・・」
「大丈夫だよ。きっとうまくいく。」
「そうね、あなたがいれば、きっと大丈夫よね。で、大事な話って?」
ワルドは何処か遠くを見つめている。
「覚えているかい?あの日の約束。ほら、きみのお屋敷の中庭で・・・」
「いやだ、そんな変な事ばっかリ覚えているのね。」
「そりゃ覚えているさ。君はいっつもお姉さんと魔法の才能を比べられて、デキが悪いなんて言われてた。」
ルイズは恥ずかしそうに俯いた。ワルドは言葉を続ける。
「でも、君は失敗ばかりしていたけれど、誰にもないオーラを持っていた。
それは、きみが、他人にはない特別な力を持っているからさ。僕だって並のメイジじゃない。だからそれがわかる」
ルイズにはなにがなんだかわからない。
「まさか」
「まさかじゃない。たとえば、そう、きみの使い魔・・・」
「セッコがどうかしたの?」
「そうだ。彼の身のこなし、そして武器をつかんだときに、左手に浮かび上がったルーン・・・
あれは、ただのルーンじゃない。伝説の使い魔の印さ」
「伝説・・・?」
「そうさ。あれは、[ガンダールヴ]の印だ。始祖ブリミルが用いたという、伝説の使い魔さ」
ワルドの目が鋭くなった。

「ガンダールヴ?」
「誰もが持てる使い魔じゃない。君はそれだけの力を持ったメイジなんだよ」
「信じられないわ・・・」

ルイズは考え込んでしまった。確かにセッコは不思議だ。
変な格好をしているし、異常に目と耳が鋭いし、素早いし、不思議な力を持っている。
命令には忠実だし、悪い奴には見えないが、幼児のように無邪気で適当で残酷だ。
記憶のことも含めて謎が多すぎる。しかし、いくらなんでも伝説の使い魔とはとても思えない。
そういった神聖なものにしては、馬鹿すぎる。

そしてわたし。どう考えても魔法に関しては落ちこぼれだ。考えたくないけどゼロだ。
ワルドが言うようなことはやはり納得できない。

「きみは偉大なメイジになるだろう。そう、始祖ブリミルのように、
歴史に名を残すような、すばらしいメイジになるに違いない。僕はそう予感している。」
ワルドの表情が熱っぽいものに変わる。
「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」
「え・・・」
いきなりのプロポーズに、ルイズは固まってしまった。
「で、でも・・・」
「ルイズ、僕にはきみが必要なんだ」
「ワルド・・・」
ルイズは俯いた。再びセッコのことが頭に浮かぶ。あんなのでも一応男だし、ワルドと結婚してしまったら側においておくのは問題だろう。

その時、わたしのコントロールを離れたセッコはどうなるだろう?
セッコに信頼されているらしいタバサか、あるいはオールド・オスマン辺りが手綱を握ってくれるかもしれない。
けれど、もしそれがされなかったら?
理由もなく不安感が募る。でも・・・

「どうしたんだい、ルイズ?」
ワルドが心配そうに私を覗き込む。
「あの・・・その・・・わたしまだ・・・」
「急がないよ、僕は」
「いえ、あのそういうわけじゃ・・・」
「いいさ、今返事をくれとは言わない。でも、この旅の間に君の気持ちを傾けてみせる。もう寝ようか、疲れただろう」
ルイズは再び俯いた。
ワルドは優しくて凛々しいし、もちろん憧れだ。でも、まだ早すぎる。
特に何か理由があるわけではない、そんな気がするのだった。

その様子を窓に貼り付いて眺めていたキュルケは呟いた。
「随分と純情ねえ、あのワルドって人。」
てっきり押し倒すとばかり思ったのに、残念。

ワルドとルイズがキュルケに観察されていたその頃。
セッコとギーシュとタバサはそのまま酒場で雑談しつつ食事をしていた。
しかし・・・

「よく、君たちはそんな同じものばかり食べ続けられるねえ、ヒック。」
酒が回ってきたギーシュが辟易とした調子でくだを巻いた。
「そうかなあ。」
「・・・」
甘苦く、なんともいえない匂いが高級酒場の一角に漂っている。
「甘いのもう一皿くれえ。」
「はしばみ草サラダのラ・ロシェール風」
「は、はい。かしこまりました」
ウェイトレスの声もやや引きつっている。

ギーシュは右を見た。
セッコは生地が崩れるほど蜂蜜を塗ったホットケーキを貪っている。
気分が悪くなった。

正面を向く。
タバサがはしばみ草をドレッシングもかけずに頬張っている。
見ただけで口の中が苦くなった。

「もう、勘弁してくれぇ~!!」

翌朝。
目を覚ましたセッコが日課となっているスーツの手入れをしていると、ドアがノックされた。
ギーシュの方を見ると、二日酔いなのか伏せて唸っていた。
仕方なくスーツを着てドアを開ける。

「おはよう、使い魔くん」
ワルドが羽帽子を被って立っていた。
失礼な奴だなあ。部屋の中では帽子を取れよ。
「なんかあったのかあ?」
ワルドはそれには答えず、にっこり笑って言葉を続けた。
「きみは伝説の使い魔[ガンダールヴ]なんだろう?」

なんだこいつ?
「違う。オレはセッコだ」
「いや、そういう意味じゃない。左手のルーンの名前さ。」
「あー。それがどうかしたのかよ?」
そんなにこの印は目立つもんなのか?
確かにスーツの上まで浮き上がってるけど。
面倒なもんなら手袋でもするかなあ。それとも誰かに聞いたのかあ?
いくらなんでも昨日今日でタバサが言うわけがねえ。言ったのがヒゲ校長だとしたら最悪だ。
そんな嫌がらせみたいな事ないと思いてえ。

「僕は歴史と、兵に興味があってね。フーケを尋問したときに、君に興味を抱き、王立図書館で君の事を調べたのさ。
その結果、[ガンダールヴ]にたどり着いた」

・・・手袋決定。今すぐでも欲しい、面倒事なんか大嫌いだ。無かった事にしてえ。

「でだ、あの[土くれ]を捕まえた腕がどのぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」
「てあわせ?」
「つまり、これさ」
ワルドが腰に差した剣と杖のあいのこを引き抜いた。
「今ここでえ?」
「そうだ。この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったんだよ。
中庭に錬兵場があるんだ」
「いや、そういうことじゃねえし」
「ん、ああ、大丈夫だ。寸止めするし、きみの心配したようなことにはならんさ」

本当かよ。まあ体動かすのは好きだけどなあー。
「わかったよお」
「それでこそ男だ」
変な奴だなあ。

セッコとワルドは、今ではただの物置と化している錬兵場で向かい合った。

「昔・・・かのフィ・・・王が・・・」
ワルドが何か歴史的なことを言っているが、セッコには当然理解できない。

「でだ、立ち会いには、介添え人が必要なんでね。もう呼んであるが。」
なんかめんどくさい事になってきた。全力で断るべきだったかなあ。
と、物陰からルイズが現れた。

「セッコ!何やってんの!ワルドは味方なのよ!」
はあ?
「いやちげーし!オレ悪くねえ!向こうからやろうってきたんだって!」
「え、嘘、ワルド?」

ワルドは頷いた。
「彼の実力を、ちょっと試したくなってね」
「もう、そんなバカなことやめて。今は任務中よ!」
「そうだね、でも、貴族というやつは厄介でね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ」
「セッコもやめなさい!」
「ちょっと遊ぶだけだってえ。」
「ああもう、仕方ない人たちね!殺しても殺されても潜ってもダメよ!」

「わかった。」
「ちゃんと加減するから大丈夫だよ。安心して、僕のルイズ」
ワルドは首をかしげた。・・・潜るとは一体?
考えてもわからない。

「では、始めるとするか」
ワルドは腰から杖を抜き身構えた。
セッコは鞘に入ったままの剣を構えた。

「おや、抜かないのかい?」
「加減するつったのはテメーだろお。」
ワルドが電光の様に突きを繰り出す。セッコがそれを力任せに弾き返す。
「たいした怪力だな、だが隙だら・・・うおおおおおっ!」
本来死角のはずの場所へ飛びこんだワルドに、セッコの後ろ蹴りが襲いかかる。

「そうかなあ?」
間一髪で跳び退りワルドが体勢を立て直す。
「やはり、魔法無しでどうにかなる相手ではないか、[ガンダールヴ]よ」
「パワーなら負けねえぜ、多分なあ。」

セッコの単純かつ強力な大振りの攻撃をなんとかかわしつつ呪文を唱える。
これをかわさず受け止めたら、間違いなく杖か腕が折れてしまうだろう。
むしろ、こんな使い方をされて、損傷しない剣の正体の方がワルドには恐ろしかった。昨日見たときは、刃が錆びていたように見えたが。
一体どんな材質に固定化をかければこんな荒っぽい使い方に耐えうるのだろう?
「デル・イル・ソロ・ラ・ウィンデー・・・」
ボンッ!
詠唱が完了し、空気が撥ねた。巨大な空気のハンマーが剣を弾き飛ばし、
セッコ本人をも10メイルほど吹き飛ばして、そこに積んであった樽に叩きつける。樽がガラガラと崩れ落ちた。
ワルドは素早くセッコの剣を踏みつけた。
「勝負あり、だな。きみではルイ・・・」

ドボォッ!
だが、ワルドは最後まで発言することができなかった。
セッコの投げつけた樽が今度はワルドを彼方に吹き飛ばす。杖を取り落とさなかったのは奇跡といっていい。

「思ったよりつええじゃねえか、帽子のおっさんよおおおお。」
セッコがゆっくりと剣を拾い上げ、鞘から抜いた。足元の地面が微妙に沈む。
「すまない、舐めすぎていたようだ。今度は全力で行かせてもらうよ」
起き上がったワルドはセッコから距離をとり低く、低く詠唱を開始した。
「ユビキタス・デル・ウィ・・・」

「いい加減にやめて二人とも!秘密任務を何だと思ってるの!」
その様子を見ていたルイズは、慌てて間に割って入り叫んだ。

「うおあ、冗談、冗談だよおルイズ。」
「失礼、ちょっと興奮してしまった」
二人はなんとか正気を取り戻した。

「俺様には、とてもちょっとした冗談に見えなかったけどな」
抜かれたばかりでその前の状況を理解してないデルフリンガーが呟いた。




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