「これが『竜の羽衣』なのね」
「はい。これがそうです」
「でもこんなのがどうやったら飛ぶのかしら?この翼じゃ羽ばたけないだろうし」
「ええ。村の人もそう言ってます」
ルイズとシエスタのそんな会話を聞きながら、私は『竜の羽衣』を穴が開くほど凝視していた。
目が乾くことなど気にならない。
もしかしたら今自分は呼吸などしていないかもしれない。
それほどまでに『竜の羽衣』を見ることに集中していた。
「どうですヨシカゲさ……ん?ヨシカゲさん?どうしたんですか?そんなに目を見開いて?」
「そういえば一言もしゃべってないわね。どうしたの?」
ルイズたちの心配をよそに私は一歩足を踏み出し、注連縄で飾られた『竜の羽衣』に近づく。
「おいおい、こりゃマジかよ……。驚く驚かねえの問題じゃないぞ。夢じゃないよな?本当にそうなのか?」
「ヨシカゲ?」
「ヨシカゲさん?」
一歩、また一歩と『竜の羽衣』近づくたび、そこにあることがはっきりしてくる。
だがまだ信じられない。
自分の手で触れてみなければ信じることなどできはしない。
この世界にロッケトランチャーがあったことにも驚いたがこれは度が違いすぎる。
「なあ、シエスタ。これ触っていいのか?できれば触らしてほしいんだが」
「は、はい。問題ないですけど」
急かす心を理性で宥め、震える手で手袋を外しにかかる。
もちろん直に『竜の羽衣』触るため。
しかし手が震えていてはなかなか外せないのは当たり前で何度も外すのに失敗してしまう。
そのあとさらに数度の失敗を重ね、ようやく右手の手袋を外すことに成功した。
そしてついに『竜の羽衣』私の手が触れた。
すると剣を手にとった時のように、銃を手にとった時のように、体が軽くなる。
予測はしていた。
『ガンダールヴ』のルーンは武器であればどんなものにでも発揮されるのだから。
『竜の羽衣』は戦争のために作られたものだ。
武器でないはずがない。
触っていると『竜の羽衣』の中の構造、操縦法が頭の中に流れ込み、それを何の違和感もなく理解する。
それと同時に興奮が自分の体を駆け巡り始める。
「凄い、こりゃまったく凄いぞ!間違いない!本物だ!」
「ヨ、ヨシカゲ!?どうしたのそんな興奮して?」
「ヨシカゲさん、それのこと知ってるんですか!?」
そんな質問が聞こえ、シエスタのほうを振り向く。
今の私の顔は、おそらく今まで他人には見せたことのない表情だろう。
しかしそんなものは気にならない。
それほど気分が高揚している。
「知ってるも何も、昔俺の国で使われてたもんだ。有名なものだし知らないわけがない!」
「嘘!?ヨシカゲさんの国で!?」
「たしかヨシカゲの国って、ニホンとかいう国よね?」
「ああ、その通りだ。これは『竜の羽衣』何て名前じゃない!『零式艦上戦闘機』、通称ゼロ戦だ!」
そう、寺院にあったものは第二次世界大戦初期において世界最優秀機であったゼロ戦であった。
ロケットランチャーがあるのだからほかにも元の世界から来たものがあるだろうとは思っていた。
だが、こんなものが来ているだなんて信じられるだろうか。
しかも完璧な状態でだ。
しかし、現にここに存在している。自分の存在を私に刻み付けるかのようにそこに存在しているのだ。
「へえ、これがヨシカゲの国の道具なのね。これで一体何ができるの?まさかシエスタのひいおじいさんが言ってたみたいに空が飛べるとか?」
「ああ。これを使えば平民ですら空を飛ぶことができる。これは空を制するために作られたんだ。空ぐらい飛べなくてどうする」
「えっ!ホントにこれで飛べるの!?信じられない……」
ルイズがそりゃもうこれでもかというほど信じられないといった感じで声を上げる。
そりゃそうか。
この世界において科学は一般ではないどころか確立すらされていない。
そんな時代の人間にこんなカヌーの両側に板をつけたような物体が空を飛ぶだなんて言っても信じられるわけがない。
「まさかこれがヨシカゲさんの言ってた飛行機なんですか!?」
「そうだ。これが飛行機だ。旧式だけどな」
「本当にひいおじいちゃんは空を飛んできたんだ」
そう呟くとシエスタは何か考え込み始める。
「私のひいおじいちゃんがヨシカゲさんの国のものに乗ってきたということは」
シエスタがそう言うとルイズが何かに気づいたような顔をする。
まあ、すこし考えればわかることだな。
「その通りだ。シエスタのひいじいさんと俺は同じ国の生まれのようだな。つまりシエスタには日本人の血が流れているということか。
たとえば、シエスタは髪や瞳がひいじいさん似だと言われたことはないか?」
「は、はい!でもどうしてそれを?ひいおじいちゃんを見たことがあるんですか?」
「違う。黒髪に黒い瞳は私の国の民族的特長だからだ」
「これがヨシカゲさんの国の人の特徴……」
シエスタは自分の髪の毛をいじりながらそう呟いた。
すこし頬が朱に染まっているような気がするが気のせいだろうか?
「これで空が飛べるんなら、どうしてシエスタのひいおじいさんは皆の前で飛んで見せなかったの?」
ルイズは納得いかないという風な顔でそう言ってきた。
たしかにそうだな。
ルーンの力で中の構造はわかっているがどこも壊れている場所はない。
だとすると……
燃料タンクの場所へ行き、そこのコックを開いてみる。
案の定タンクの中は空っぽだった。
「ガス欠だな。だから飛べなかったんだ。燃料がなければこれは空を飛ぶことはできない」
「燃料?」
「ゼロ戦の食い物だと思えばいい。腹が減って空に登れなかったのさ」
しかし燃料がないのか。
この世界で燃料が手に入るわけがない。
そもそも燃料が手に入ったとして、これは私のものじゃない。
私の自由にはできない。
……なんてことだ。
そこまで行き着くと高ぶっていた気持ちが少しずつ収まってきた。
せっかくこんだけ凄いものを発見したのにどうにもできないなんてそんなのありかよ。
そうだ、
「シエスタ、ほかにひいじいさんの遺品はないのか?あれば見せてほしいんだけど」
なにか有益なものをゼロ戦と一緒にこっちに持ってきているかもしれない。
いいものがあれば交渉しだいでもらえるかもしれない。
「父なら持ってると思います。聞いてみましょうか?」
「ああ。頼む」
そういえば燃料を作れそうなのがいるな。
コルベールだ。あいつなら時間がかかるかもしれないが作れるかもしれない。
頼まなくても自分から嬉々として作ってくれそうだし。
でも、ゼロ戦が手に入らなければ意味がない話だ。
後ろ髪を引かれつつ、私たちはシエスタの家に戻ることになった。
「はい。これがそうです」
「でもこんなのがどうやったら飛ぶのかしら?この翼じゃ羽ばたけないだろうし」
「ええ。村の人もそう言ってます」
ルイズとシエスタのそんな会話を聞きながら、私は『竜の羽衣』を穴が開くほど凝視していた。
目が乾くことなど気にならない。
もしかしたら今自分は呼吸などしていないかもしれない。
それほどまでに『竜の羽衣』を見ることに集中していた。
「どうですヨシカゲさ……ん?ヨシカゲさん?どうしたんですか?そんなに目を見開いて?」
「そういえば一言もしゃべってないわね。どうしたの?」
ルイズたちの心配をよそに私は一歩足を踏み出し、注連縄で飾られた『竜の羽衣』に近づく。
「おいおい、こりゃマジかよ……。驚く驚かねえの問題じゃないぞ。夢じゃないよな?本当にそうなのか?」
「ヨシカゲ?」
「ヨシカゲさん?」
一歩、また一歩と『竜の羽衣』近づくたび、そこにあることがはっきりしてくる。
だがまだ信じられない。
自分の手で触れてみなければ信じることなどできはしない。
この世界にロッケトランチャーがあったことにも驚いたがこれは度が違いすぎる。
「なあ、シエスタ。これ触っていいのか?できれば触らしてほしいんだが」
「は、はい。問題ないですけど」
急かす心を理性で宥め、震える手で手袋を外しにかかる。
もちろん直に『竜の羽衣』触るため。
しかし手が震えていてはなかなか外せないのは当たり前で何度も外すのに失敗してしまう。
そのあとさらに数度の失敗を重ね、ようやく右手の手袋を外すことに成功した。
そしてついに『竜の羽衣』私の手が触れた。
すると剣を手にとった時のように、銃を手にとった時のように、体が軽くなる。
予測はしていた。
『ガンダールヴ』のルーンは武器であればどんなものにでも発揮されるのだから。
『竜の羽衣』は戦争のために作られたものだ。
武器でないはずがない。
触っていると『竜の羽衣』の中の構造、操縦法が頭の中に流れ込み、それを何の違和感もなく理解する。
それと同時に興奮が自分の体を駆け巡り始める。
「凄い、こりゃまったく凄いぞ!間違いない!本物だ!」
「ヨ、ヨシカゲ!?どうしたのそんな興奮して?」
「ヨシカゲさん、それのこと知ってるんですか!?」
そんな質問が聞こえ、シエスタのほうを振り向く。
今の私の顔は、おそらく今まで他人には見せたことのない表情だろう。
しかしそんなものは気にならない。
それほど気分が高揚している。
「知ってるも何も、昔俺の国で使われてたもんだ。有名なものだし知らないわけがない!」
「嘘!?ヨシカゲさんの国で!?」
「たしかヨシカゲの国って、ニホンとかいう国よね?」
「ああ、その通りだ。これは『竜の羽衣』何て名前じゃない!『零式艦上戦闘機』、通称ゼロ戦だ!」
そう、寺院にあったものは第二次世界大戦初期において世界最優秀機であったゼロ戦であった。
ロケットランチャーがあるのだからほかにも元の世界から来たものがあるだろうとは思っていた。
だが、こんなものが来ているだなんて信じられるだろうか。
しかも完璧な状態でだ。
しかし、現にここに存在している。自分の存在を私に刻み付けるかのようにそこに存在しているのだ。
「へえ、これがヨシカゲの国の道具なのね。これで一体何ができるの?まさかシエスタのひいおじいさんが言ってたみたいに空が飛べるとか?」
「ああ。これを使えば平民ですら空を飛ぶことができる。これは空を制するために作られたんだ。空ぐらい飛べなくてどうする」
「えっ!ホントにこれで飛べるの!?信じられない……」
ルイズがそりゃもうこれでもかというほど信じられないといった感じで声を上げる。
そりゃそうか。
この世界において科学は一般ではないどころか確立すらされていない。
そんな時代の人間にこんなカヌーの両側に板をつけたような物体が空を飛ぶだなんて言っても信じられるわけがない。
「まさかこれがヨシカゲさんの言ってた飛行機なんですか!?」
「そうだ。これが飛行機だ。旧式だけどな」
「本当にひいおじいちゃんは空を飛んできたんだ」
そう呟くとシエスタは何か考え込み始める。
「私のひいおじいちゃんがヨシカゲさんの国のものに乗ってきたということは」
シエスタがそう言うとルイズが何かに気づいたような顔をする。
まあ、すこし考えればわかることだな。
「その通りだ。シエスタのひいじいさんと俺は同じ国の生まれのようだな。つまりシエスタには日本人の血が流れているということか。
たとえば、シエスタは髪や瞳がひいじいさん似だと言われたことはないか?」
「は、はい!でもどうしてそれを?ひいおじいちゃんを見たことがあるんですか?」
「違う。黒髪に黒い瞳は私の国の民族的特長だからだ」
「これがヨシカゲさんの国の人の特徴……」
シエスタは自分の髪の毛をいじりながらそう呟いた。
すこし頬が朱に染まっているような気がするが気のせいだろうか?
「これで空が飛べるんなら、どうしてシエスタのひいおじいさんは皆の前で飛んで見せなかったの?」
ルイズは納得いかないという風な顔でそう言ってきた。
たしかにそうだな。
ルーンの力で中の構造はわかっているがどこも壊れている場所はない。
だとすると……
燃料タンクの場所へ行き、そこのコックを開いてみる。
案の定タンクの中は空っぽだった。
「ガス欠だな。だから飛べなかったんだ。燃料がなければこれは空を飛ぶことはできない」
「燃料?」
「ゼロ戦の食い物だと思えばいい。腹が減って空に登れなかったのさ」
しかし燃料がないのか。
この世界で燃料が手に入るわけがない。
そもそも燃料が手に入ったとして、これは私のものじゃない。
私の自由にはできない。
……なんてことだ。
そこまで行き着くと高ぶっていた気持ちが少しずつ収まってきた。
せっかくこんだけ凄いものを発見したのにどうにもできないなんてそんなのありかよ。
そうだ、
「シエスタ、ほかにひいじいさんの遺品はないのか?あれば見せてほしいんだけど」
なにか有益なものをゼロ戦と一緒にこっちに持ってきているかもしれない。
いいものがあれば交渉しだいでもらえるかもしれない。
「父なら持ってると思います。聞いてみましょうか?」
「ああ。頼む」
そういえば燃料を作れそうなのがいるな。
コルベールだ。あいつなら時間がかかるかもしれないが作れるかもしれない。
頼まなくても自分から嬉々として作ってくれそうだし。
でも、ゼロ戦が手に入らなければ意味がない話だ。
後ろ髪を引かれつつ、私たちはシエスタの家に戻ることになった。