ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-20

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匿名ユーザー

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新月の戦いから帰ってきて数日。
康一はその間も使い魔としてアンリエッタに付き従い、日々を送っていた。
一見平穏無事に見えるが、水面下ではマザリーニらが敵の情報集めにあくせくしている。

しかし敵は未だにしっぽも見せずに、上手く隠れているらしい。
まだまだ調査には時間が掛かりそうというのが現状であった。
大きく繋がりがありそうな「書類」の件についても同様である。

「でも少しゆっくり出来るっていうのも悪くはないですね」
「ええ、本当に」
城中庭の木陰で康一とアンリエッタは涼んでいた。
その横にはお茶の入った水筒が置かれ、食べかけの菓子もある。

木陰に緩やかな風が吹き、まさに優雅な一時を送る二人。
康一にとっては異世界に突然来てから、使い魔になったり、戦ったり、いろんなことがありすぎた。
それだけのことをやっても、まだ十日程度という密度の濃さ。
こんなゆっくりした、ひと時があってもバチは当たらないだろうと思う。

ゴロン、と寝転がって快晴を仰ぐ康一。
「あー。気持ちよくって、このまま寝ちゃいそうです」
クスクス、とアンリエッタが忍び笑いを漏らす。
「どうせなら今日一日、康一さんはここでお休みしていますか?」

ガバッ、と康一は起き上がり、慌てて言った。
「さすがに、そういうわけにはいかないですよ。使い魔の仕事もありますし。
何よりアンリエッタさんを一人にしておくと、また危ないこともあるかもしれませんから」
アンリエッタ暗殺未遂の事件は、すでに城下町でも噂になるほど広まっていた。

そのショッキングな出来事。
国の象徴とも言えるアンリエッタの身を狙う事件に、人々は皆噂しあった。
誰が命を狙ったのか、この国の貴族か、外国の暗殺者か、本当にそんなことがあったのか。
様々な噂が飛び交う中に、アンリエッタの召喚した平民の少年が命を守ったなどという、
人の興味を引かぬ、作り話のような噂は埋もれていった。

「そうですね。とても心強いです」
だが真実はここにある。アンリエッタは本当に心からそう思った。
康一と、自分の使い魔と一緒にいると、自分自身も一緒に強くなれる。
そんな気がする。

「それで今日の予定は何なんです?」
「後は数日後のパーティードレスの手直しが入っていますね」
「パーティーですか?」
「ええ、あまり大きなものではありませんが数日後に舞踏会を城で開催する予定となっています」

そういえば何だか城の中が少し慌しかったような気がする。
康一の城で生活した時間は短いものだが、それぐらいは雰囲気が読めるようになっていた。
「でも舞踏会のときって僕はどうしてましょうか。さすがに傍に引っ付いてるわけにはいかないですよね」

一国の姫様が参加するような舞踏会なら、お偉いさんもたくさん来るのだろう。
そんな中でアンリエッタの傍にずっと立っている訳にはゆくまい。
舞踏会でろくに来賓と話が出来なくなりそうだし、邪魔なだけだ。

アンリエッタは少し考えこむような仕草を見せる。
「その辺りはマザリーニ卿とお話ししてみましょう。では参りましょうか」
立ち上がって歩き出すアンリエッタに、地面の水筒を掴んで食べかけの菓子を口の中に放り込んだ康一が続いた。

城の中を共に進むアンリエッタと康一に、傍を過ぎ行く者が礼をとる。
アンリエッタと一緒にいると康一まで礼をされる格好となり、ハッキリ言ってこそばゆい。
もちろんアンリエッタがいなければ礼をとられることもないのだが、それは無理な相談だった。

この世界に来てから康一は殆んどアンリエッタと共に過ごしてきた。
食事も一緒、歩くのも一緒、寝るのだって一緒だった。(もちろんアンリエッタがベッド、康一は床)
離れていたのは数日前の夜の戦いのときぐらいだ。
二人とも気が合うようで仲だって良好だし、まさに一心同体の主従であると言える。

そんな二人の仲は、僅かな間に城の者たちにも知れ渡っていた。
城の貴族は特に何も言いはしないが、あまり面白いと言う訳ではない様子だ。
平民がアンリエッタと気安く話をするなど持っての他。だが平民だろうと使い魔ではそうもいかない。
使い魔とメイジは一心同体であるし、召喚されたその日に賊から姫を守りきったと言う実績もある。
それにアンリエッタ自身が康一を信頼しているし、何も言うことは出来なかった。

一方、城に奉公する平民からの評判は悪くはない感じだ。
人当たりはいいし、特に偉ぶる素振りもない、人並みに挨拶も礼も言える。
普通の少年が突然魔法で召喚されてしまって、むしろ城の平民たちとしては同情的な要素もある。
それにメイジを一人で倒したというのも大きい。

普通の平民より貴族を見る機会の多い者たち故、その恐ろしさはよく知っている。
なのに平民の少年はメイジに立ち向かい、これを倒した。
貴族の面白くない様子とあいまって、これほど痛快なことは今だかつてなかっただろう。
それほど康一のことは城内の噂となっていた。
もちろん本人は噂に気付くわけもなく、ノンビリしたものだが。

アンリエッタが目指す仕立て部屋に向かって歩く二人。
そんなノンビリと歩く二人の前に、廊下の影から見慣れた者が現れた。
「あれ、アニエスさんじゃあないですか」
仕立て部屋の前で待ち構えていたのは簡素な服に身を包んだアニエスであった。

「姫さま、お待ちしておりました」
まずは頭を下げて、臣下の礼をとるアニエス。
「アニエス殿、一体何故こちらに?」
軍人であるアニエスが、こんな城の中の仕立て部屋前でアンリエッタを待っていたのか。
ハッキリ言って縁のない場所であることは間違いない。

「はっ、マザリーニ枢機卿から姫さまがドレスの手直しをする際の守りを任されました。
さすがに彼では、手直し中に傍にいるのは難しいかということで」
彼とは、もちろんアニエスの視線の先の康一だ。

仕立てられた新しいドレスに、これからアンリエッタが袖を通す。
その際、当然ながら今着ている服は脱ぎさってからドレスを着るわけで。
服を脱ぐということは、その服の下が見えてしまうわけで。
純情派高校生にはチト刺激が強すぎる展開になること請け合いである。

そこまで康一は話の意味を汲み取ったとき、ハッとアンリエッタを見た。
ジーッ、と何か恥じらいを感じさせるような、康一さんは違いますよね、と言っているような眼差しを康一へと向けるアンリエッタ。
視線が康一を貫き、冷汗だらだら、心臓バクバク。
そんな康一を見つめるアニエスが、ニヤリと笑った。

アンリエッタには背後になっていて気付かないようだが、確かにSの笑みを浮かべるアニエスがそこにあった。
康一は悟る。アニエスはこんな状況になることを見越して言ったのだと。
幾ら康一に度胸があっても、こんな状況の度胸は持ち合わせていない。持っていたくもない。
そんなイジメをアンリエッタに悟られぬよう、表情を変えずに神経を尖らせる。

「どうかしたのか、コーイチ?冷汗かいてるし、顔色も悪いような気がするんだが」
アニエスは普段の鉄面皮に戻って、内心とてつもなく楽しみながら言った。
「いえ、そんなことないと思いますけど。アニエスさん目が悪くなったんじゃあないですか?」
しかし康一も意地で応戦。鋭くアニエスの目を見据えて言う。

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

空気が何故か重苦しくなってきたのを感じるアンリエッタ。
しかしその理由が分からずに辺りを見回すが何もない。
だが何かさらに重苦しくなってきたのを肌で感じとる。

「あの、コーイチさん?何か異様な雰囲気がするのですが……」
何かが起きているような気がしてならないアンリエッタが康一に尋ねる。
「大丈夫ですよ。大したことは何もありません」
つれない返事を返す康一の頭の中は、どうやってアニエスをやり込めるかで一杯だ。

アニエスも康一がここまで粘ってくるとは予想外だった。
早めに康一が折れるだろうと予想していたのだが、これは少々厄介な相手である。
一体どうするかと両者が考える隙に、突然に予想外の言葉がアンリエッタの口から出てきた。

「そうですわ、ドレスを作りましょうっ!」
まさしく名案だ、とばかりに明るく響いたアンリエッタの声。
は?といった顔でアンリエッタを見る康一とアニエス。
確かにここは仕立て部屋だが、今回はドレスの手直しをするだけで作る予定ではないはずなのだが。

「さぁ、アニエス殿。早くいらっしゃってください」
アンリエッタはサッとアニエスの手を取って引っ張った。
「いや、いえ、あの姫さま、話がよく分からないのですが……」
申し訳なさそうにアニエスが手を引く理由を聞く。

「ああ、そうでしたね。少々急ぎすぎました。
この前、任務を与える際にわたくしの仕草を真似て貰う為、ドレスを着て訓練して頂いたでしょう」
アニエスは途轍もなく嫌な予感がした。
任務がなければ、今すぐにでも逃げ出したいような衝動に駆られる。

「ドレスで着飾ったアニエス殿、スラリとしていてとてもお綺麗でしたわ。
それで申し訳ないことに、まだアニエス殿には任務の報酬を渡しておりませんでした。
危険な任務の報酬としては些か少ないかもしれませんが、わたくしからアニエス殿にドレスを送らせていただきます」
まさに名案といった雰囲気のアンリエッタ。
まさにこれからが本当の地獄だ、といった雰囲気のアニエス。

今すぐ逃げ出してもおかしくない精神状態だが、不幸なことに任務を達成せんとする軍人の心が押しとどめる。
説明は済んだと言わんばかりに、アンリエッタはアニエスの手を引いて仕立て部屋へと歩を進める。
「いえっ、姫さまっ!結構です、褒美などを求めてやったわけではありませぬっ」
「忠誠には報いるものがなくてはなりません。どうかわたくしに忠誠への報いをさせてください」

軍人としてアニエスは姫の手を振り払うわけにもいかず、康一に目でSOSの要請を行う。
さすがに可哀想かなと思う康一は少し同情して、こう言った。
「ホント………名案ですね。僕もドレス楽しみにしてますよ、アニエスさん」

もちろん同情しただけだった。うらみは忘れていない。
ニヤリと先ほどのアニエスと同じような笑みを浮かべて、容赦なく地獄へ叩き落す康一。
一気に地獄へ叩き込まれたアニエスは絶望感を漂わせ、一縷の望みを掛けて辺りを見渡す。

しかし周りには誰もいない。望みは何処にもない。
手を引かれて断ることも出来ずに、アニエスは仕立て部屋へと引き込まれて行った。
「わっ…脱がさないで下さ……やめ…恥ずかしい…きゃあっ……やだ…ぁ………」

康一は暫くヒマなので、残っていた水筒のお茶を飲みながら時間を潰した。
廊下には絶えず、恥ずかしがりやの泣き声が響いていた


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