ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は天国への扉を静かに開く-7

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
土下座しているシエスタを発見、即座に突撃する。
「シエスタ、シエスタ。何を這い蹲っているんだ」
空気を読まず露伴はシエスタをひっぱり起こす。
「え……あ、ロハンさん……あの、えっと……」
シエスタがロハンと誰かを見比べているが、ロハンは意に介さずに静をシエスタに渡した。
「すまないが赤ん坊を洗ってやってくれないだろうか」
訳がわからないままにシエスタは静を受け取る。
タオルケットの中からの異臭に、全てを察する。
「急ぎで頼むよ、朝に洗った服もそろそろ乾いているだろうからね」
「ちょっと君! 急に割り込んできてなんだ! 彼女はぼくと話しているんだ」
後ろから駆けられた声に、露伴は始めてそれに気付いて振り返る。
が、興味が無さそうにシエスタに向き直る。
そんな露伴の態度に、少年。ギーシュ・ド・グラモンは激昂した。
「どうやら君は貴族に対する礼儀を知らないようだね!」
「尊敬するに値するかどうかはぼく自身が決めさせてもらうよ。少なくとも君は該当しないな。尊敬するに値しない人物に向ける礼儀はあいにく持ち合わせていないんだ」
露伴の言葉に、ギーシュの顔が一瞬にして紅潮する。
「貴様ッ! 突然出てきてなんという言いぐさだ」
「あいにく状況が判らないんでね。シエスタに土下座させた正当な理由があるならともかく」
露伴の言葉に、ギーシュは鼻を鳴らす。
「彼が軽率に香水を拾ってしまったのだよ。そのため二人の女性を傷つけてしまった。その罰を与えていたのだ。わかったらどきたまえ。君には関係ない」
「本当なのか?」
露伴がシエスタに訊くが、シエスタは何も言わずにうなだれるだけ。
「さぁ、わかったのならどくんだ!」

『ヘブンズ・ドアァーーーーー』


露伴がそう叫んだ途端、ギーシュの体が崩れ落ちる。
「読んだ方が早いな、さてさて……」
ギーシュ・ド・グラモン。四男。女好き。薔薇。香水。二股。モンモランシー。ケティ。誤魔化す。
メイド。なすりつけ。ヴェルダンデ。ドット。土。ワルキューレ。青銅。錬金。決闘。
なんだこいつは、二股してたのがばれてその責任をシエスタになすりつけているだけじゃないか。
典型的なクズ男か、しかも女性のためにと言いながらシエスタを貶めている。何が薔薇だ。
使えそうにないな。
こんな奴を主人公にしても人気が出るはずもない………が……ちょっと気になることがある。
ケティは一年生でモンモランシーが同学年の女子か。二股の相手がケティらしいが、付き合ったのは馬で遠乗りした事以外には書いていない。
それ以外はモンモランシー一色。
さすがに露伴は眉を怪訝そうに顰める。
典型的な噛ませ犬タイプだ、主人公としては軽薄すぎて扱えないが、愛すべき脇役としては使えるかもしれない。
元の世界にもいた、玉美や間田のようなタイプとして活かせるだろう。
把握した、まぁ予想通りギーシュの言いがかりだ。
………そう言えば決闘とあったな。面白い………古式伝統のある決闘、中世ヨーロッパ辺りでは当たり前にあった風習だったか。
ぜひ体験してみよう。そうだな………ギーシュを適当に挑発してみようか。
この記憶から判断するに、挑発されたら答えずにはいられない、典型的なクソガキだからな。
ルイズのように貴族の対面にこだわるタイプだろう。
それに、錬金とワルキューレ、それに青銅を実際に見てみたい。
見てみよう。


露伴にお願いされて、シエスタはその腕に静を抱いていた。
漂ってくる異臭に顔をしかめることなく、ただ呆然と、ふらふらと。
「………と………ちょっと………」
「はっ、はいぃっ!?」
突然呼びかけられてシエスタは心臓が飛び上がるような気持ちだった。
目の前には、キュルケがいた。
「み、ミス・ツェルプストー。も、申し訳ありません、考え事をしていたもので………」
貴族を無視なんてしたら打ち首どころじゃないところだが、それよりキュルケには重要なことがあったのでさらっと流した。
「ルイズ知らない?」
「は……ミス・ヴァリエールですか? 存じ上げませんが」
「ふぅん………そう、じゃぁ見落としたのね」
そう言ってキュルケは立ち去ろうとしたが、何か思うところがあったのかピタリと足を止めた。
「ところであんた、その手何?」
「えっ?」
何って、静のことだろうか。
シエスタが視線を下に降ろすと、その腕の中には何もない。
「!!!!!!?????」
シエスタの目が驚愕に見開かれる。
そう、キュルケはシエスタが何かを抱いているような腕の形をしていたから不思議に思ったのだ。
しかしすぐに興味が無くなったようでその場を後にした。熱しやすく冷めやすい性格である。
そして一人残されたシエスタはその腕の中の重みをそっと確かめる。
『いる』
見えないけれど。確かにその腕の中にいる。
「きゃ………は………ぶ……あ……だー」
「メイジ………こんな赤ちゃんが………?」


「諸君! 決闘だ!」
露伴の思惑通り、適当に煽ったら激昂してギーシュは決闘を仕掛けてきた。
場所はヴェストリの広場、娯楽が少ないのだろう、人だかりが出来ている。
さて、青銅のゴーレム、ワルキューレとやらを見せてもらおうか。露伴は心の中でほくそ笑む。
「………何がおかしいんだね?平民君」
どうやら顔に出ていたらしい、ギーシュが不快そうに眉を顰めて言った。
「ふん……自己主張が激しいと思っただけさ」
コレも挑発、所詮相手は子供、この程度の挑発に楽に乗ってくる。
「ぼくの二つ名は青銅。よって青銅のワルキューレがお相手する。メイジを相手に無礼を働いたんだ、異存はないね」
「ああ」と言おうとしたところでルイズの邪魔が入った。
「待ってギーシュ!」
思わぬ邪魔に、露伴の方が眉を顰めた。
「おやコレはコレは。ゼロのルイズじゃないか。君の使い魔をお借りしているよ」
「お願い、謝るから決闘なんてやめてちょうだい!」
「あやまる? 君の使い魔がこうなるようにし向けたんだよ? 最も、君が謝っても彼は謝る様子はないみたいだけどね」
ギーシュの言葉にルイズは振り返り露伴を睨む。
「ロハン。ギーシュに謝って。メイジに平民が勝てるはず無いわ。怪我で済めば良い方なんだから」
「怪我か……それは辛いな、特に利き腕が使えなくなるのは非常に痛い」
露伴の言葉にルイズはパあっと表情を明るくした。
「そ、そうよ、痛いし不便なのよ。だからね、ほら頭を下げて………」

「だ が 断 る」


露伴の明確な拒否の言葉に一同は凍り付く。
「この岸辺露伴の好きなことの一つは。自分で強いと思っている奴に『NO』と断ってやることだ!」
そう言って露伴はルイズの方を軽く、トン。とつついた。
「だからルイズ、余計なことをしないでくれ、ぼくのためにも君は邪魔だ」
ぼくのためにも、と言われてしまってはルイズはもはやどうすることも出来ない。
自分が口を挟むことが露伴の邪魔になるなら、露伴に『協力』することが出来ない。
ふらふらと三歩後じさって、その場にペタリと座り込んだ。
「何……言ってんのよ………平民が………メイジに……勝てるわけが………」
もはや露伴はルイズから視線を外し、ギーシュと相対していた。
「遺言は済んだかい」
「面白いジョークだな」
相変わらずわかりやすい。この程度の挑発で真っ赤になるとは程度がしれる。
ギーシュは薔薇の造花で出来た杖を振り、落ちた花弁から青銅のゴーレムを作り上げる。
フォルムは女性形、鎧を纏った細身の戦乙女。
「最後のチャンスをやろう。両膝を付いて頭を地面にこすりつけるようにして謝るんだ。「薄汚い平民が高貴なるメイジに刃向かってごめんなさい」と。そうすれば勘弁してやらんことも……」
「うるせーな~~~~~~、やってみろ!」
つくづく変わらぬ露伴の態度に、とうとうギーシュはワルキューレを突撃させた。



厨房でお湯をもらって、水場のタライに注ぐ。
そして水と程よく混ぜて人肌ほどの温度に調整する。
赤ちゃんはシエスタの腕の中で嬉しそうに笑っている。
ぺちぺちとシエスタの頬を触ったり、みみたぶをつまんだり頬をすり寄せたりしている。
しかしそんな風に静の世話をしているシエスタは、何処か上の空だった。
気になるのは露伴のこと。自分の不注意でによる貴族からの怒りを全て持って行ってしまった。
ヴェストリの広場ではもう決闘は始まってしまっているだろう。
「あぁ………っ」
どうかご無事で。と願うばかり。
どうか露伴が死ぬ前に、メイジの気が晴れますように。


殴りかかってきたワルキューレの拳を露伴は避けもせずに頬で受ける。
がつん、と重厚な音が広場に響く。
避ける様子もなかった露伴に、ギーシュは得体の知れないモノを感じ、一旦ワルキューレを引かせた。
「……なぜ避けない」
「なぜ下げる………まったく………」
ギーシュの言葉にさらりと応え、露伴は上着のポケットからメモ帳とボールペンを取りだした。
そしてほんの十秒足らずで、そのメモ帳にワルキューレをドシュドシュとスケッチする。
「フォルムはスタンドに近いか……しかしずいぶん軽いな。仗助のCダイヤモンドの方が強い。破壊力はCランクと言ったところか………」
メモに「能力者:ギーシュ」「能力名:ワルキューレ」その他攻撃力やスピードなどの数値がサラサラと書き込んで、またポケットの中に仕舞い込んだ。
「なんの………つもりだい」
「ん? あぁ職業柄こう言うモノは自分の体で体感しないと気が住まない質でね。良い体験をさせてもらった」
さて、と言って露伴はギーシュに向かって無造作に歩み寄った。
「確認も済んだし。そろそろ終わりとしようか」
「くっ」
近づいてくる露伴に、ギーシュは己の最大の数、七体のワルキューレを召喚した。
露伴は頭の中のメモに「ワルキューレは七体まで」と書き込んだ。

学院長室で、遠目の鏡で広場の光景を見ていた二人はどうしたモノか考えあぐねいていた。
「……勝ちましたね」
「勝ってしまったのう……」
「素手でしたね」
「素手じゃったのう」
「ガンダールヴかどうかわかりませんね」
「…………」



露伴はゆっくりとした動作でギーシュに近づき、ギーシュは召喚したワルキューレを突撃させる。
そしてワルキューレの拳が届こうかとしたその瞬間、ソレは何もないところで蹴躓いたようにくるんと回転して吹っ飛んだのだ。
ギーシュも誰も何が起こったのかわからない、突然ワルキューレが空中で回転したようにしか見えなかった。
「どうした。もう終わりか? メイジとはその程度なのか、だとしたら期待はずれも良いところだな」
ふん、と鼻を鳴らされては応えざるを得ない。
残りのワルキューレをまったく同時に攻めさせる。
しかし次のワルキューレは頭を吹き飛ばされ。その頭がギーシュの頭横20サントの位置をかっ飛んでいった。
ぞわっと鳥肌が立ったギーシュにお構いなしで。ワルキューレがポンポンと吹っ飛んでいる。
「………リアリティのある物を書くためには想像力だけじゃダメなのさ。少なからず自分で体験する必要がある」
そう、漫画家としてデビューしている岸辺露伴は、リアリティを追求するため、いろいろな武術を齧っていたのだ。
もちろん本職は漫画家であることは変わりなく。真面目に武術に取り組んでいる人からみれば笑われてしまう程度だが。
それでも、愚直に突っ込んでくるワルキューレを倒すには十分なモノだった。
全てのワルキューレが破壊され、露伴はいまギーシュの正面1mの位置に立っている。
そしてその右手をゆっくり伸ばした。
「ひっ」
みたこともない方法でワルキューレを飛ばす露伴に、ギーシュがおびえを抱くのも仕方ないだろう。
しかし露伴はギーシュに手を下すことなく、その手から薔薇の造花の杖を抜き取って、そっと匂いを嗅ぐ仕草をした。
「どうだい、まだやるか?」
杖を奪われては、メイジはもはや為す術がない。
ギーシュは悔しそうに唇を噛みながら、小さく「まいった」と宣言した。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー