ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
       使い魔は手に入れたい  Le Theatre du Grand Guignol

「隣、座ってもいいかしら」
目深に被っていた帽子を上げ、声のしたほうを見上げてみる。
そこには利発そうな顔立ちをした女が立っていた。
年齢はおそらく17か18ぐらいだろう。
髪はショートヘアーで、カチューシャをつけ前髪を後ろに流している。
首には握手をイメージした形のチョーカーを身につけていた。
顔も整っていて結構好みのタイプだ。
そんな女が私の隣に座りたいと言っているのだ。
拒む理由があるだろうか。
いや、あるわけがない。
「どうぞ」
「ありがとう」
女は私に一礼すると隣に座った。
なかなか礼儀正しい女性だ。
そういった女の方が好感を持てる。
しかし……私はどうもこの女を知っているような気がする。
どこかで見たのか?
だとしたらどこで見たのだろう?
思い出せないな。
必死に頭の中で探しながら、ふと天井を仰ぎ見る。
そこに広がっていたのは、豪華な装飾が施された高く広い天井だった。
視線を戻すと、そこには椅子が何列にも並んでおり、その先には天幕が下げられた舞台がある。
そう、ここは劇場だった。
一体何故私がこんな場所にいるのかは見当もつかない。
しかし、ここがどこだかは既にわかっている。
ここは夢の中だ。
でなければ私がこんなところにいるはずがない。
「ポッキー食べます?」
隣にいた女が私に箱を差し出してきている。
どこからどう見てもお店で売られているお菓子のポッキーだった。
「まだ始まらないから暇でしょう?」
「ああ、ありがとう」
箱からポッキーを一本抜き取る。
しかし、さっきの言葉からするとこの女はここでなにを演じられるか知っているのか。
当たり前か。
夢の中の住人が知らなくてどうする。
なら話は早い。彼女に何が演じられるのか聞いておこう。
「君はここで何が演じられるか知っているんだろ?だったら教えてくれないか?」
「ええ。いいわよ」
彼女は私の問いに疑問を挟むことなく了承してくれた。
さすが夢だ。
普通なにを演じるか知らずにこんな場所に来るわけがないのにな。
「グラン・ギニョル座って知ってる?19世紀末のパリにあった劇場のことなんだけど」
「いや、知らないな」
グラン・ギニョル座?記憶にないな。
自分がすっぽり忘れているだけだろうか?
「もともとギニョルっていうのは、公園の片隅で子供たちのために演じられる人形劇だったの」
「人形劇?」
「そうそう。ストーリーが単純なのね」
「それで、その人形劇がどうしたんだ?こんな馬鹿でかい舞台で人形劇でもするのか?グラン・ギニョル座って言うくらいだから人形劇なんだろ?」
舞台は天幕が下りてはいるが、その大きさはわかる。
どう見ても人間が演じるための舞台だ。
こんなところで人形劇なんてするわけがない。
「グラン・ギニョル座は猟奇劇専門の劇場のことで、残酷劇、恐怖劇が行われていたの。それだけでも大きな特徴なんだけど他にも特徴があるわ」
「恐怖劇の他にどんな特徴があるって言うんだ?それぐらいしかないと思うけど」
「グラン・ギニョルっていうのは直訳すると『大きな人形』の意味なの。転じて人形劇を指す言葉でもあるんだけどこの場合『大きな人形』のほうを意識して」
「大きな人形?まさか等身大の人形を使うのか?」
「いいえ。そうじゃなくて人形の代わりに人間を使ってたの。人間が演じる普通の劇だけど、グラン・ギニョルだから人形が人間の代わりに演じる劇。
そして、人間が人形の代わりにグランギニョルを演じる劇場、それがグラン・ギニョル座なの」
「じゃあここで行われるのは人形を演じる人間が演じる恐怖劇ってことでいいのか?」
「それであってるわ」
やれやれ、なんなんだこの夢は?
本当に変な夢だ。
別に恐怖劇なんて見たくはないのだが……
「今日の演目は……、『日常に潜む男』。ここオリジナルの作品で見に来る人は多いわ」
「へえ」
さっき女から聞いたことをなんとか思い出そうとするが全く思い出せない。
まあ、仕方ないだろう。
思い出せないことぐらいあるさ。
きっとどこかでちょろっと聞いた程度の知識だろう。
そう思い、私はまた帽子を目深に被った。
暫らく時間が過ぎると、少しずつ人の声がし始めた。
おそらく客がどんどん増えてきているのだろう。
隣の女もそうだが、よく恐怖劇なんて見に来るものだ。
そういったものたちはよほど物好きなのだろう。
そう思っていると肩を揺さぶられる。
「起きたほうがいいわよ。もうすぐ始まるから」
帽子を上げた私に女がそう言ってくる。
どうやら眠っているものと勘違いされたらしい。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!
私が彼女に声をかけようとしたとき、突然そんな音がなった。
これは、
「開幕のベルね。始まるみたい」
そうか。
ついに始まるのか。
恐怖劇なんて見たくもないが、夢なのだから仕方が無い。
舞台の天幕が上がっていく。
舞台には、中肉中背で特に特徴もない男が一人立っていた。
私はその男を知っているような気がしたがまったく思い出せなかった。
本当によく知っている気がしたのだけれど……
「始まったわね」
彼女の言葉と共に、男は動き出した。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー