ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-35

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匿名ユーザー

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「うん……ふわあぁ…」
陽光が顔に当たっているのを感じ、ルイズは身を震えさせた。
眩しさを嫌って、フードを深く被り直す。
「グルル…」
吸血馬が首を動かして日差しを遮ると、ルイズは吸血馬の首に手を回して、たてがみをそっと撫でた。
「…ありがとう、ね、夜になったら出発しましょう」


ラ・ロシェール近くの森から、アルビオンに到達するまで丸一日以上の時間がかかっている。
竜の遺骸を身に纏い、吸血馬が吸血竜となって空を飛んだが、予想以上に時間がかかってしまった。
スヴェルの月夜であればもっと早く到着できたが、アルビオンの接近を待つ余裕はなかった。

アニエスは、ラ・ロシェールから積み荷に紛れてアルビオンに行けば良いのではないかと提案したが、ルイズはそれを断った。

アルビオンがトリステインに侵攻した時のため、また、必要ならば力押しでレコン・キスタを壊滅させるために、吸血馬を連れて行きたかったのだ。

そのため、ルイズと吸血馬は、この近辺に墜落しているであろう竜の遺骸を探した。
レコン・キスタによる革命戦争で傷つき、羽ばたくことの出来なくなった竜が、この近辺に墜落しているという話は既に調べていた。
吸血馬の鼻は、吸血鬼であるルイズよりも更に強い、驚くほど簡単に竜の遺骸は発見できた。

竜の遺骸を食屍鬼にしても良かったが…それはアンリエッタやロングビルとの約束を違えることになる。
結局、吸血馬に融合させて空を飛んだのだが、意外と時間がかかってしまった。

吸血鬼の強靱な体力ならば、アルビオンまでひとっ飛びだろうと思ったが、それが甘かった。
途中で吸血馬が疲れを見せたため、ルイズは自分の血を吸血馬に与えつつ飛んできたのだ。

その上『イリュージョン』を使って敵の目を誤魔化していたので、体力と精神力を二重に消耗してしまい、長時間の休息を余儀なくされた。
ラ・ロシェールを発ってから三日目、ようやくルイズは行動を開始した。

ルイズは移動する前に、吸血馬が脱ぎ捨てた竜の身体を燃やした。
万が一吸血馬の血液が残っていたら、竜の食屍鬼になってしまう。
竜の身体から水分を気化させて乾燥させ、念入りにこれを燃やした。

それが終わると、ルイズは上空から見た景色を思い出しながら、サウスゴータの方角へと歩き出した。
途中で、背中のデルフリンガーを鞘から取り出し、話しかける。
「デルフ、人間の心ってどれくらい読める?」
『心?』
「そうよ、私を吸血鬼だと見抜いたでしょう?それを利用して、シティオブサウスゴータを調査したいのよ」
『おでれーた、おめえ俺をそんなことに使う気かよ』
「そんなこととは何よ、住民を片っ端から食屍鬼にして、洗いざらい喋って貰おうかしら」
『やる気もねえのにそんな物騒なこと言うなよ』
「あんたやっぱり心読めるんじゃない」
『けっ』
「素直じゃないわね」
『そりゃオメーだよ!』
そんな二人のやりとりを笑うかのように、吸血馬がぶるるると鼻息を出した。

森の中を通ってサウスゴータまで進むには、さすがのルイズでも少し困難だった。
アルビオンは森林資源が豊富であり、管理されている森が少なからずあるからだ。
髪の毛をセンサー代わりにして周囲の風の動きを読み、人間の臭いを避けながら歩いていくと、予想したよりも時間がかかってしまった。
日付が四日目にさしかかるところで、ようやくサウスゴータの街が見えた。
「ここで待って…ごめんね、後で牛とか、オークを狩ってくるから、お腹がすいたのは我慢してね」
人里が近いこともあって、吸血馬は無言のまま、ルイズの頬にすり寄った。
ルイズは優しく吸血馬を撫でると、デルフリンガーを背負い、フードを深く被り直してから、サウスゴータへと足を進めた。

サウスゴータの街はひっそりと静まりかえっていた。
首都に比べると確かに小さいが、それにしても地方都市である以上、それなりに人の出入りがあって呵るべきだろう。
だが、窓から漏れる灯は極端に少ない、裏通りから表通りを見ても、まるで灯がともっていないのだ。
「…人の気配はある…」
一軒一軒、石造りの家に髪の毛を這わし、時には窓から中の様子を確認していく。
この街には確かに人間がいる、しかし、まるで生活の気配がしない。
昼間に来るべきだったか?と考えを巡らしていると、表通りを歩く足音が聞こえてきた。
裏通りの暗がりに隠れると、ほどなくして兵士が前を横切っていった。
「一応、見回りはされてるのね…」
裏通りから空を見上げると、細長い夜空が広がっている。
屋根の上から街を一望できれば…と考えたが、吸血鬼の脚力で跳躍すると、地面と屋根を破壊しかねない。
『レビテーション』でも使えれば、屋根の上に乗ることも可能だが、ルイズはレビテーションを成功させた覚えがない。
どうしたものかと考えた所で、ルイズは『アンロック』を思い出した。
『ロック』も『アンロック』も成功させたことはないが、よく考えてみれば、魔法で鍵を開ける必要はないのだ。
ルイズは手近な家の裏口に近寄ると、髪の毛をしゅるしゅると伸ばした。
扉の隙間から中に侵入して、気配を探る。
「…誰もいないわね」
空き家なのを確認すると、髪の毛を触手のように動かして、内側から鍵を開けた。
中に入り、扉を閉めると、ルイズはふぅとため息をついた。
「アンロックなんて使う必要ないじゃない、どうしていままで気づかなかったのかな、私」
少し身体を休めようと、ルイズは床に座り込み、デルフリンガーを床に置いた。
『なあ嬢ちゃん、この街の気配、静かすぎねえか?』
「ええ、静かすぎるわ…心当たりある?」
『無いと言えば無いけど、あると言えばある』
「どっちよ、いいから言ってみて」
『おめー、イリュージョンが使えるなら、別の虚無も使えるんじゃねーか?こんな時のためにブリミルは準備してあるはずだぜ』

デルフの言葉に、ルイズがうっ、とうなった。
「…あー…それなんだけど、始祖の祈祷書、トリステインに置いて来ちゃった」
『うわ、駄目だね、八方ふさがり。嬢ちゃん以外と迂闊だね』
「デルフ、折るわよ。…でも、始祖の祈祷書があっても無理よ、『エクスプロージョン』『ディスペルマジック』『イリュージョン』…ルーンが浮き出たのはそこまでだもの」
『他のはまだ見られねえのか?』
「記憶の操作らしき項目は見えたわ、でも、ルーンまでは浮きでなかった…あれが使えればもっと便利なんでしょうけど、今は無理よ」
そう言って、ルイズは顎に手を突いた。
これからどうすべきかと考えていると、扉の隙間から外に出していた髪の毛に、違和感を感じた。
ルイズは、すかさず地面に耳を当てて、音を探る。
すると、何か重い物を背負って歩くような、足音が伝わってきた。
『何やってんだ?』
「…男性、30代…筋肉質、背負っている物は…樽?おそらく水か…何かね」
足音は、ルイズの侵入した家からほど近い家に入っていった。
「北に四件先ね、デルフ、行くわよ」
『あいよ』
ルイズはデルフリンガーを背負うと、空き家を出て、足音の入っていった家に近づいた。
窓から光は漏れていない、が、他の家と違ってこの家は意図的に光を漏らしていないようだった。
窓から中を覗くと、カーテンの奥に木板がはめ込まれているのが見えるのだ。
壁に耳を当て、中の音を聞こうとしたが、おかしなことに何の音も聞こえてこない。
不自然なほどの静かさは、ルイズの脳裏に『サイレント』を思い起こさせた。
『サイレント』は空気の膜を作って、空気の振動を押さえる魔法だが、それを破る方法はすでに考えついている。

ルイズは前髪を一本つまむと、長くそれを引き延ばして、抜いた。
片方を扉の隙間に差し込み、反対側を自分の耳に差し込んで、内部の音を拾う。


『明日の分の水……』『このままでは……』『……メイジが足りな……』『…洗脳……』『…皇太子』『……亡命…』『…鉄仮面…』

「…当たりよ、大当たり」
ルイズは小声で呟いた。
髪の毛を引き戻して扉から離れ、家の周囲を見て回った。
見た感じでは平均的な一軒家、片方から攻め込まれたら逃げ道はなさそうだ。
ルイズは入り口の前に立つと、扉の隙間から髪の毛を差し込んで、扉の鍵を開けた。


「こんばんは」
がちゃり、と扉が開けられ、突然入り込んできた何者かに驚き、家の中にいた男達は慌てて席を立った。
すかさず何人かが武器を構えたが、この場の長らしき商人風の男がそれを制止した。
「よせ、お前ら」
「し、しかし…」
商人風の中年男性と、その配下らしき男が三名、計四名がルイズを見る。
ルイズは扉を閉めると、改めてフードを外して、挨拶をした。
「はじめまして。私は『石仮面』…あなた方を王党派を見込んで、相談があるのだけれど…」
ルイズの自己紹介に、男達が驚いた。
「…石仮面だって?…まさか、あんたが、ニューカッスルから巨馬に乗って脱出した『鉄仮面』なのか?」
商人風の男が、ルイズをまじまじと見た。
まだ幼さの残る顔立ちに、赤茶色の髪の毛、背中には長剣を背負うその姿が、まさに噂通りの姿だった。
「ええ、ここじゃ『鉄仮面』って噂されてるみたいだけど」
「証拠はあるのか?」
ルイズはフードの中に右手を入れて、胸の中に指を差し込んだ。
ウェールズから渡された『風のルビー』は、肋骨の裏側に隠してあるのだ。
風のルビーを見せると、張りつめていた雰囲気は一転した。
「おお…まさしく、それは風のルビー、では、ウェールズ様はご存命なのか!?」
商人風の男が、思わずルイズへと近寄る。
「風のルビーを知っているの?…でも貴方、メイジは見えないわね」
ルイズは疑問を口に出した。
風のルビーは王家に伝わる重大な宝物だが、風のルビーが宝物だと知っている人はそれほど多くない。
親衛隊レベルでなければ風のルビーなど気にも留めないはずだ。

「私は財務監督官の元で、執事として働いていた。宝物のことなら一通り頭に入っている。だが、今はしがない商人ですよ」
「財務監督官?」
ふと、ロングビルの話を思い出す。
確かロングビルの親は、財務監督官に仕えていたはずだ。
考えてみればマチルダ・オブ・サウスゴータという名前もこの土地の名前に一致する。
この男は、ロングビルのことを知っているのだろうか?
「さるお方からの手紙で貴方のことを知らされていた。風のルビーを持つ傭兵が現れたら、力になってくれと」
「…なんだ、じゃあフー…。マチルダから聞かされてたのね」
「私らで力になれるなら、いくらでも力を貸しましょう。…おいお前ら、周囲を確認しろ。石仮面さん、細かい話は奥でしましょう、新鮮な『水』もありますから」

そうして、若い男達は見張りにつき、ルイズと商人風の男は奥の部屋へと入っていった。
奥の部屋で席に着いたルイズは、樽からコップに汲まれた水を見て、首をかしげた。
「いくつか聞きたいのだけれど…まずこの町の静けさ、それと、さっき運んでた水の事」
商人風の男がルイズと向かい合うように席に座り、自分のコップに注がれた水を飲み干してから、静かに話し出した。
「水と、この街の静けさは無関係じゃありません、この街の地下には、サウスゴータの森から繋がる水脈があり、街の人間はその水を井戸からくみ上げて飲んでいます」
「井戸水?」
「ええ、私の後ろにある樽は、別の街に住んでいるメイジ様から、定期的に分けて貰ったものです。この町の水はとても飲めません」
「なるほど、心を奪う毒でも井戸に混入されたのかしらね」
「…おそらくそうでしょう。私らは毒が混入されたと思われる日、山奥から帰ってきたら誰もかれもが目がうつろでした。しかも皆貴族派に寝返っており…」
「…………毒の種類は?」
「かいもく、見当がつきません。水を分けて下さるメイジ様も、ディティクト・マジックで調べきれないと仰ってました」

『あ』
突然、デルフが声を出した。
商人風の男は驚き、ガタン、と机に脚をぶつけた。

「…!?だ、誰の声だ?」
「落ち着いて、今の声は、こいつよ」
ルイズはデルフリンガーを背中から外すと、テーブルの上に置いた。
『いやー思い出した思い出した、ブリミルもあれには苦戦したんだよなあ』
声に遭わせて、刀身がカタカタと揺れる。
その様子を見て商人風の男も驚いたのか、まじまじとデルフリンガーを見つめた。
「い、インテリジェンスソード?」
『おうよ、インテリジェンスソードのデルフリンガー様だ』
「いや、こいつは、また、驚きました」
男は椅子に座り直して、デルフリンガーとルイズを交互に見つめた。

「デルフ、思い出したってどういうこと?」
『ああ、心を操る先住魔法だ、『水』系統よりずっと強力な奴よ、死体だって蘇らせて、自由に操っちまうんだ。街一つぐらいの人間を操るのだって不可能じゃないぜ』
「先住魔法…!」
先住魔法と聞いて、男が驚く。
始祖ブリミルが降臨する以前から、主にエルフ達や亜人種によって使われてた魔法、それを先住魔法と呼んでいる。
貴族の用いる魔法と違い、杖を必要としない上、非常に強力だと言われているのだ。
そんなものが敵に回ったとしたら、いくらなんでも分が悪い。
だが、ルイズはそんなことを気にする様子もなく、デルフリンガーに質問した。
「エルフ?」
『いや違うね、あいつらなら回りくどい事はしねえよ、第一人間同士を争わせるなんてのは人間のやることだね』
「耳が痛いわ…水系統の秘薬、もしくはマジックアイテムの線は?」
『そこまでは判んねえ、でも、可能性はあるんじゃねーの?』

ふと、ルイズが顔を上げると、商人風の男が何かを考え込んでいた。
その様子は尋常ではない、どこか冷や汗というか、脂汗も浮かんでいた。
「………何か、心当たりでも?」
「え。い、いや…その」

男は、しばらくばつの悪そうに顔を逸らし、何かを考え込んでいたが、意を決したのかルイズに向き直った。

「…実は、一つだけ心当たりがあります。アルビオン王家にはいくつもの秘宝が伝わっていましたが、水に関する秘宝が一つだけ、あります」
「それは?」
「『アンドバリの指輪』と呼ばれるもので、先住の水の力が込められております。どんなに深い傷を負ってもたちどころに治癒してしまうとか…」
『そいつだな。強力な水の精霊の力があれば、死んだ人間だって操れらあ』
「死んだ人間だって操れる…なるほどね」
「叛徒共の首領、クロムウェルは『虚無』を操り、死者を蘇らせると聞きます。それも実はアンドバリの指輪の力だと考えれば、納得できます」

そこで会話がとぎれ、重い沈黙が、部屋を支配した。

「…これ以上は、話せない?」
ルイズの問いにも、男は答えない。
時間にして一分、しかし男にとっては一時間にも二時間にも感じられる時間。
ルイズは男の眼をじっと見つめていた、何の感情を込めるわけでもない、ただ、その行動をすべて見逃さないつもりでじっと見ていた。
言いしれぬ恐怖を感じた男は、重く閉じられていた口を、静かに開いた。

「…マチルダ様から、どの程度内情をお聞きになられましたか?」
ルイズは視線を外さずに答える。
「彼女からは、仕送りをしているとしか聞かされてないわ。ウェールズ様からは、粛正に乳母と教育係が巻き添えになったところまで聞いたけど」
「…わかりました、すべてお話ししましょう。ですがこの事は絶対に…」
「判っているわ、他言するつもりはないもの」

男は居住まいを正して、大きく息を吸い込むと、静かに語り出した。

「実は、そのアンドバリの指輪を、あるお方が所持しているのです」
「あるお方?」
「はい、大公閣下の忘れ形見、ティファニア様です」
「なるほどね…マチルダの仕送りは、その…ティファニアって人に送られてるのね?」
「今は森の奥で、小さな孤児院を開いております。私どもはマチルダ様から送られてくる金貨、物資、食料などをティファニア様に届けるため、この町に留まっているのです」

ルイズはわざとらしく考え込むような仕草をしてから、意地の悪そうに口元をゆがめ、問うた。
「その人がアンドバリの指輪を使ったとは、考えられないの?」

「そ、それは絶対にあり得ません!確かに、アンドバリの指輪を使うことはできますが、人里には降りてこられない理由があるのです」
「…どんな理由よ」
「順を追ってお話し致します。そもそもアンドバリの指輪は、国宝ではありましたが、使い道の判らぬままでした。
 しかし大公閣下の奥様…公には出来ぬお方でしたが、その方が使い方をご存じだったのです。
 お美しい方でした。そして、争いを好まぬお方でした……
 ジェームズ一世陛下から差し向けられた衛兵の魔法に、一切抵抗することなく、魔法の凶刃に倒れたのです。
あの時、奥様の遺体にすがるティファニア様の姿は、今でも目に焼き付いております」

「どうして粛正なんかされたの?貴方の口ぶりからすると、とても国宝を横流ししたとか…そんな人には聞こえないわ」
「ジェームズ一世陛下には、国宝の横流しなどより、もっと重大な、恐るべき事として、映ったのでしょう。彼らの狙いは奥様と、一人娘のティファニア様だったのです」
「なんで一国の王様が、妾と娘を殺す必要があるのよ、王位継承権でも争ったの?」
「確かに、王位継承権の争いに巻き込まれたら、王弟であらせられる大公閣下の娘、ティファニア様の存在も白日の下に晒されてしまったでしょう」
「…わからない、判らないわ。殺してまで存在を秘匿する必要があるなんて…」

「始祖ブリミルは、ハルケギニアに降臨されましたが、エルフに聖地を奪われました。始祖ブリミルの血を色濃く継ぐ王家と、エルフとの間に子が生まれたと知られたら、一大事です」

「…………ちょっと待って。今、なんて?」
「大公閣下の奥様は…その、エルフ…でございました、つまり、大公閣下の遺児、ティファニア様は…」

「………」
「………」

『…おでれーた』

沈黙の流れる一室に、デルフリンガーの声が、小さく響いた。




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