ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ドロの使い魔-20

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匿名ユーザー

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「貴様・・・一体・・・?」
ワルドが呟く。
“遍在”を壁の中から貫いた腕は、ずるずる不快な音を立てながら全身を現した。

「よお、久し振り・・・うお?」
今殺したはずのワルドが跡形も残らず消滅し、目の前にもう一人ワルドが居る。
しかも何故か足元にルイズが倒れている。
何がなんだかわからねえ。

「なんなんだよ・・・おまえは・・・?
それによお、ルイズはなんで倒れてるんだあ。」
ワルドは歪んだ笑みを浮かべ、距離をとりつつ首を捻った。
「何を言っているんだ、ガンダールヴ。主人の危機が目に映ったのではないのか?
・・・いやそんなことより、貴様こそ何者だ、何処から出てきた?」

ワルドが見えたのが印のせい?・・・なんつう不快な能力だ。

「オレが何者かなんて、こっちが知りたいぐらいだぜ。
それとよお、別にオレはルイズを助けにきたわけじゃねえ。」
セッコはワルドに劣らぬ残忍な笑みを浮かべた。
「何だと!」
「オメーをオレの視界から消すためだああああああああああ!」
猛烈な勢いで跳んできたセッコを、ワルドはまるで羽でも生えているかのように飛び退ってかわす。
「ちっ、相変わらず常識外れの速度だな、ガンダールヴ」
ワルドは軽口を叩きながら神経を集中させた。
「なめてんのか?おっさん。」
ワルドはそれには答えず、杖を振り、呪文を発した。
“ウィンド・ブレイク”の猛烈な風が後方からセッコを襲う。
セッコはそれを振り向きもせずに横に跳んで受け流し、ワルドに向き直った。

「やはりこの規模では当たらんか、やはり多少威力を犠牲にしてでも・・・」
一人で納得したワルドは、後ろに下がりつつ気合を込め、もう一度杖を振った。
部屋の半分を占めるほど巨大な“エア・ハンマー”が弾け、セッコを吹き飛ばす。
「うおあああああ!」

「さすがにこれはかわせまい・・・おや?」
風が収まった後よく見ると、セッコを叩きつけるはずだった壁に穴が空き、当のセッコ自体も何処へ行ったものか見当たらなかった。
いくら自分が優秀なスクウェアだとは言え、エア・ハンマーに石の壁をぶち破る威力があるはずがないし、この程度で“ガンダールヴ”がくたばる訳もない。
「これは一体?」
ワルドの戦士としての本能が警鐘を鳴らす。
これは危険だ。“ガンダールヴの印を持つ何か”は、どこへ行ったのだ?
そういえば、最初こいつは壁の中からいきなり攻撃してきたのではなかったか?
“本体”で索敵するのは危険極まりない。

「ユビキタス・デル・ウィンデ・・・」
一つ・・・二つ・・・三つ・・・四つ・・・本体と合わせて、五体のワルドが周囲に展開された。それらは少しずつ散開しつつ、周囲を警戒する。

「そんな・・・魔法もあるのか・・・うぐぐ・・・やっぱ・・・桟橋では・・・オレが正・・・おああ・・・」
突如、地の底から響くような声が聞こえてきた。
「やはり逃げたわけではなかったか、ガンダールヴ。
しかし、風のユビキタスを、意思と力を持つ[遍在]を展開したからには、僕の負けはない。
五対一、単純な算数の問題だな」

それにしても、一体どこにいるんだ?
五対の目と耳を持ってして、確実に近くにいる敵の正確な位置が判らないなど、そんな馬鹿なことが・・・

「・・・それ・・・は・・・どうかな・・・あ・・・」
再び、低く響く声が聞こえる。五対の耳が、発生源を探った。

「なぬ、床下・・・!?」
どういうことだ、ここは一階だ。
何らかの魔法か?“ガンダールヴ”は杖を持っていたか?
ワルドの感覚では、魔力の流れを特に感じない。
その時。

「き、貴様!」
一体の遍在が、地に足を取られた。
慌てて飛び上がろうとするが、沼に沈むように滑らかに引き込まれているというのに、埋まった部分がまったく動かせない。

「グヒ・・・何匹いようと・・・一対一だ・・・グヘヒホ・・・」

胸の辺りまで“埋まった”ところで、地中から現れた剣が遍在を両断した。

「おでれーた・・・すげーじゃねーか相棒!こりゃ俺様も本気出さなきゃな、頑張って思い出すからちょっと待ってな!」
同時にカタカタカタ、と陽気で不愉快なインテリジェンスソードの声がする。

「まさか本当に地中にいるとは思わなかったぞ、だがそれならそれでこちらにも考えがある!」
言ったものの、ワルドはどう対応したものか考えあぐねていた。
石壁や地面の中を自在に移動し、あまつさえ人を引きずり込むなど、土の先住魔法としか思えない。

・・・そういえば、こいつの鎧は頭を隠すようなスーツ型ではないか。
もしもエルフの戦士、しかも“土”属性だとしたら、これほど“風”である自分にとって厄介な相手もいない。
考えている間にも、“ガンダールヴ”はわずかな床の隆起を伴い、正確に一体を狙ってくる。おそらく目は見えてないというのに、全く迷いがなく、動きが早い。
かわすこと自体はそこまで難しくないのだが、こちらから攻撃するいい方法が思いつかない。
まるで海上で鮫にでも追われている気分だ。
いまだ気絶したままのルイズをちらりと見る。人質を取るか?

現れたときの笑みを思いかえし、考え直す。
あれは“守る”ことより“敵を殺す”ことを優先する者の目だ。
文字通り墓穴を掘りかねない。

逃げて、レコン・キスタ軍に任せるか?
いや駄目だ、ルイズはともかく地中を自在に移動するこいつは、必ず大規模戦闘を逃げ延びるだろう。
その上こいつは現時点で自分を相当嫌っている。
もし討ち漏らそうものなら、鍵も、壁も、どんな警備も役に立たない、史上最悪の暗殺者となって延々と追ってくるに決まっている。
そんなことになっては一生枕を高くして眠れないだけでなく、下手をするとレコン・キスタ幹部全員の命も危ない。
それ以上に、自分がまだ傷ついてもいないのに敵を放置して逃げるなど、このジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドのプライドが許さない。
なんとか今ここで仕留めなければ。

くくく・・・逃げねえんだなあ、おっさんよお。そのプライドが命取りだぜ。
さて、どうやってグチャグチャに潰してやろうかなあ。


う・・・?

「う・・・うおあああ?」
「どうした相棒!」
「なんだ?!なんでだッ?!」
「おい!」
「お・・・音がよお・・・地上の音が突然聞こえなくなった・・・ぐあ・・・」

ダメだ、一旦出るしかねえ!

「オメー何をしたああああ!」
仕方なく地上に出てきたセッコに、それが判っていたかのように準備されていた“ウィンド・ブレイク”が激突した。
圧迫にセッコの体が悲鳴を上げる。
「うぎああああ!」
少し手前で、ワルド“達”が残忍な笑みを浮かべている。
「やはり、音だったか」
「ぐぐ・・・何を・・・」
「なあに、ちょっとここらの床に[サイレント]をかけさせてもらっただけさ。
だが、効果覿面のようだな、ガンダールヴ!僕の場所がわからなければ、地中を進む能力は役に立つまい」

なんてこった、魔法ってなんでもありかよ畜生。
うう、なんか前もこんなことがあった気がするぜ・・・

「一体は不覚を取ったがまだまだ四対一だ、ゆっくりと始末してやる!」
「うわあああ、来んじゃねー!」
セッコは“ウィンド・ブレイク”や“エア・カッター”を何とかかわしながら転げまわった。

「無様だな、ガンダールヴ」
くくく、と笑いつつワルドが優雅に跳ねる。

ちょっと作戦が成功したからってナメやがって、オレはこんなところで死にたくねえ・・・
そんな時、デルフリンガーが叫んだ。
「おい、やっと思い出したぞガンダールヴ!」
「なんだデルフリンガー、黙ってろよお!」
「いや懐かしいねえ、そうだよ、ガンダールヴだよなあ」
「何言ってやがんだ!オメーまで混乱してんじゃねえよおおおおおあああ」
そんなことを言っている間にも、エアカッターがセッコの頬をかすめる。
「本当に、嬉しいねえ、こんなんじゃいけねえ!こんな格好じゃな!」
叫ぶなり、デルフリンガーの刀身が光りだす。
「「な、何だ!?」」
セッコとワルドの声が重なった。

光が収まると、デルフリンガーは今まさに砥がれたかのような立派な姿となっていた。
「その桁外れの頑丈さといい、全く不思議な剣だな。とはいえ剣では魔法を受けられまい!」
落ち着きを取り戻したワルドのウィンドブレイクが再び飛んでくる。
「俺を構えろ!」
「何言ってやがんだ、気でも狂ったかあああああ!」
「いいからさっさとしろ!」
あまりの剣幕に、仕方なくセッコは避けずにデルフリンガーを構えた。

「もし痛かったらへし折ってやるからなあ畜生!」

なんと、風がデルフリンガーに吸い込まれていく。
「見たか、これがほんとの俺の姿さ相棒!6000年が長すぎて、すっかり忘れてたぜ!」
「そんな大事なこと忘れてんじゃねえぞおおお!」
「言いっこなしだ、相棒だっていろいろ忘れてるじゃねえか!でも、安心しな。
ちゃちな魔法は全部、俺様が吸い込んでやるよ!この[ガンダールヴ]の左腕、デルフリンガー様がな!」

ワルドが興味深そうに剣を見つめた。
「やはり、ただの剣ではなかったか。だが、この状況までは変わるまい!」
四方に散開したワルドは、打撃を交えた絶妙な連携で攻撃してくる。

「おい、もっとなんかねえのかよ、ジリ貧だぜえええ!」
「ないね!」
デルフリンガーが即答する。
「くそ!・・・ん、何だあ?」
再び、視界にセッコの目ではない何かが映った。

「え、セッコじゃない!」
始祖ブリミル像の傍で失神していたルイズが、目を覚まし叫んでいた。

うおっ、これは!これなら音が聞こえなくてもいけるじゃねえか!
「ルイズよお、なんもしなくていいから、しっかり、ワルドを見ろおお!」
「何言ってるんだ相棒!」

襲い来る魔法と突きを無視して、セッコは再び地面に“飛び込んだ”
ワルドが怪訝な顔になる。
「む、なぜまた地中に・・・いくらなんでも物にかかった[サイレント]までは消せまい?」

ヒヒヒ、使い魔って便利だなあ。
よく見えらあ、こりゃ音で探すより快適だぜえ!
「なるほど、そりゃ盲点だったぜガンダールヴ!確かにまだ娘っ子の命は危機だな!」
デルフリンガーが笑うように話す。

「そこだああああ!」
魚のように地面から飛び出してきたセッコは遍在を一体切り裂き、滑るように再び潜った。
ワルドが叫ぶ。
「何故だ!音はもう無いというのに・・・ハッ!」

その直感はさすがというべきか、ワルドは直ちにルイズを“ウィンド・ブレイク”で吹き飛ばした。
したたかに壁にぶつかったルイズがまた気絶する。
地中にいたセッコの視界は当然のように閉ざされた。

「うわああああああ!」
「またなんだ相棒」
「また・・・また見えなくなりやがった・・・」
「そりゃ娘っ子がやべえんじゃねえのか、早く出ねえと相棒もあぶねえぞ!」
うう、なんて最悪な日だ・・・

地上に再び飛び出すと、残り三体となったワルドが冷たい目でセッコを見ていた。
「なんという厄介な奴、だがもう貴様の行動は見切った!」

ワルドは新たに呪文を唱え、杖を青白く光らせた。
「[エア・ニードル]だ。杖自体が魔法の渦の中心、これは吸い込めまい。
・・・そして貴様、剣術は完全に素人だな?早く気づくべきだった。
剣の勝負で、しかも三対一ならいくら早かろうと僕の勝ちさ」

うぎ・・・ぐぐぐ・・・これは・・・やべえ・・・

「あ、が、そばに来るんじゃねーーーー!」

「はは、はははは!大人しく死ねガンダールヴ、不快な土使い!」

「ヒィーーーーーー!よ、寄るなァー!」

壁をぶち破って礼拝堂の外に飛び出し、逃げ回るセッコをワルド達が追いかける。

「少しだけ僕のほうが上手だったというところか?
できることならきみはルイズごと僕の部下にしたかったがね、実に残念だよ!」

言いたい放題言いやがってぐああ・・・
し、仕方ねえ、逃げるしか。うあー、ルイズはどうしよう?

「おい、相棒、何を逃げ回ってんだ」
「見れば判るだろうがよお、潜れねえし、オレは剣は苦手なんだよ・・・」
「落ち着け、相棒は負けねえ」
「どう見たってやべえだろ!」

デルフリンガーがしつこく話しかけてくる。ワルドも追ってくる。
うぜえ、こっちは命があぶねえってのに・・・
「まあ聞けって」
「なんだよぉーーー」
「このデルフリンガー様が見たところ、相棒の本当の力は地中に潜ることでもねえし、よく利く耳と目でもねえ」
「はあ?」
「多分素手でもあれぐらいの奴には負けねえ」
「なんだそりゃ!」

「・・・相棒の本当の強みは、ケタ外れのパワーとスピードだ」
「おあ?」
「今の相棒は得意技を封じられてビビってんだよ、落ち着け!そんな能力使わねえでも!
もし[ガンダールヴ]の力がなかろうとも!心を震わせて!本気を出せば!ワルドのヤロー程度ぶちのめせる!」

「本当かよぉ・・・」
「ああ、このデルフリンガー様が保障してやる。逆に考えるんだ相棒。
[地面に潜れない]んじゃねえ。[潜るまでもねえ]とな!」

その少し前。
礼拝堂の奥で気絶していたルイズの隣の地面がぼこっと盛り上がった。

茶色の生き物が這い出してくる。それに続いてひょこっとギーシュが顔を出した。
「こら!ヴェルダンデ!どこまでおまえは穴を掘る気なんだね!ってええ、ルイズが!ルイズが倒れてる!」
「ちょっとギーシュ、落ち着きなさいよ」
続いてタバサとキュルケが顔を出す。
キュルケはルイズの胸に手を当てた。呼吸はしている。
「命に別状はないみたいね」
ヴェルダンデがルイズの手に体を寄せて鼻をならしている。
「そりゃよかった。そうか、ヴェルダンデは水のルビーの匂いを追いかけていたのか。それにしても、この惨状は一体・・・」
よく見ると、近くに金髪の男も倒れていた。こっちは胸からどす黒い血を流し、事切れている。
「これ・・・もしかして王家の礼装じゃない?本当に何があったの?」
キュルケが呟く。

その時、タバサが二人の服を引っ張った。
「なによ、タバサ?」
「なんだね?」
タバサが破壊された壁の向こう、城の中庭を指差した。
ギーシュとキュルケの声が重なる。
「「何故子爵とセッコが?」」
「あれは、どう見ても殺し合いよね、どっちに加勢すればいいのかしら?」
「様子見」
「ここからじゃよく判らないな、近くに行ってみようか」
タバサがギーシュを杖で殴った。
「危険」
「いてて・・・判ったよ。ん、ヴェルダンデ?その死体に何かあるのかい?」
キュルケが目ざとく何かを見つけた。

「まあ、立派な宝石」

「ほお・・・」
よくわかんねえが、少しだけ、落ち着いたぜ。
確かによお、あんないけすかねえ奴から逃げ回るなんて、ぞっとしねえよなあ。

「どうした、覚悟を決めたか?ガンダールヴ」
ワルドが薄笑いを浮かべ近づいてくる。
ああ、覚悟は決めたぜえ、てめえなんぞに殺されてたまるか。

「おい、デルフリンガーよお。」
「なんだ相棒」
「オレも少し、思い出したぜ。オメー、頑丈さに自信はあるかあ?」
「もちろんだ相棒」
「上等おおおおお!」
ワルドを、殺してやる、グチャグチャに潰してやる、跡形ものこらねえぐらい。
「そうだ!心を震わせろ!」

セッコの体中に力が漲った。
全身に力を込め、能力も全開に・・・隅々まで!
「うげぇまたその力かよ相棒!気持ちわりい!」
「よかったなあ、溶けなくてよ。」
「6000年の時を生きた伝説の剣である俺様をなめんな、うぇっぷ」

「な、何だこれは?!足元が崩れる!」
ワルドが、今日何度目かわからない驚愕の表情を浮かべた。
「ええい、なんだかわからんが死ねガンダールヴ!」
飛び掛ってきたワルド達をじっと見る。確かに、こいつら動きが遅えな。

にやりと笑ったセッコはデルフリンガーを握り締め、思い切り地面に叩き付けた。

石畳に叩きつけられたデルフリンガーが叫ぶ。
「いでえ!おい相棒、敵は前だろ!」
「けけっ、よおく前を見てみろ。」

「おでれーた・・・」
泥水が大量に流れるような音を立てて石畳がうねり、波となってワルド達を弾き飛ばした。
本体の盾となった遍在が、また一体岩に呑まれて消滅する。

「確かによ、潜る必要なんてなかったなあ。」
飛び退きながらワルドが毒づく。
「くそ、こんなことなら昨日のうちにでも殺しておくんだった・・・」
本体で呻きつつも、上空に逃れた最後の遍在はセッコを刺し貫かんと急降下してきた。
「遅えええ、おせえぞおおお!」
セッコはそれを正面から弾き、切り裂いた。デルフリンガーが合いの手を入れる。
「そうだ相棒!おめえは強い!」

「さあ、死ねえ、今すぐ死ね、グヘヒホハァーーーー!」
矢の様に突っ込んできたセッコの斬撃を、あくまで冷静なワルドはそよ風の動きで受け流す。
「実に危なかった。しかしやはり素人、攻撃するときは隙ができるようだな」
ワルドがその一瞬、まさにここしかないというタイミングで突きを繰り出す。
しかしセッコは、剣を手から離し、なんと素手で“エア・ニードル”を纏った杖を弾いた。
その瞬間セッコの左手が空気の振動で削れ、傷口から血が噴き出した。
「ぐぐ・・・いてえ・・・だが、捕えたぜ・・・」
セッコの右手が、ワルドの左手を掴んだ。

「何だ、武器を捨てるとは笑止、いまさら命乞いかね?」
「クヒ、オレは、別に、ヒヒヒ、まあ死ね!」
「こ、これは、ぐああ!」

その瞬間、ワルドの左腕が溶け崩れた。
叫び声を上げながら残った右腕で杖を振り、“フライ”で空へと逃げる。
腕の付け根、肩ギリギリまでが泥状に溶融し、骨まで崩れている。
不思議と痛みが少ないのが更に恐ろしい。
わずかでも退避が遅れていれば、おそらく頭もなかっただろう。

「この閃光がよもや遅れを取るとは・・・なんという・・・ええい、まあウェールズを殺せただけでよしとしよう。
・・・もうすぐここは戦場になる。だが聞け!土使いのガンダールヴ、貴様は必ずこの手で仕留めてやる、さらばだ!」
・・・こいつを殺すまでは、地上では眠れないな。
そんなことを考えながら、ワルドは飛び去った。

「おい、相棒、俺を放り出すなって言ったろ!」
足元でデルフリンガーが喚いている。
「おああ?ああ、すまね。」
「な、やっぱり大丈夫だったろうがよ」
「うぐ、逃がしちまったけどなあ・・・ところでよ、なんか異常に疲れてるつーか、感覚が鈍いつか、なんなんだこれは?オメーのせいか?」

デルフリンガーは、ちょっともったいぶってカタカタ揺れてから口を開いた。
「ああ、相棒、あまり力入れすぎると、[ガンダールヴ]として動ける時間が減るから気をつけろ。その印は、主人の呪文詠唱時間を稼ぐために、あるいは魔法が効果を発揮している間、その防御のための力を供給するもんだからな」
「ふうん、不便だなあ。」
「相棒ぐらいのパワー、スピード、スタミナがあるなら、いざというとき以外はフルパワー出さない方が安定するかもな?」
「うあ・・・ちくしょう、先に言えよお。」
「忘れてたんだよ!そういえば、娘っ子のところに行かなくていいのか?」

「うげえ、忘れてたぜ!」
セッコはひょこひょこと礼拝堂のほうに向かった。

「・・・なあ、何でオメーらがここにいんだあ?」
倒れたルイズのまわりに、ヴェルダンデ達が座り、セッコを見ていた。
「僕らはフーケたちを片付けた後、シルフィードに頑張らせて、さらにヴェルダンデで穴まで掘って追いかけてきたんだよ!」
ギーシュが胸を張って解説する。
「それでなんで場所までわかるんだよ?」
「ヴェルダンデがその、[水のルビー]の匂いを辿って来たのさ。なんせ、とびっきりの宝石好きだからね」
「なんだそりゃ・・・その宝石はそんなにすげえのか?それとも、ヴェルダンデが異常にすげえのかあ?」
誇らしげなギーシュに対してセッコは首を捻った。

キュルケが横から口を挟む。
「多分、その両方ね。そういえば、凄いといえばそこの死体がつけてる指輪も凄そうよ」
そう言って、ウェールズを指差した。
「ん?これは確か[風のルビー]つったけな?こうするとよお。」
セッコはウェールズの指から指輪を取り、ルイズがはめている水のルビーに近づけた。
宝石同士が共鳴し、虹色の光が舞い散る。三人は目を丸くした。ヴェルダンデが更に興奮し、荒い息を吐いている。

「ねえ、じゃあこの死体ってもしかして・・・」
「もしかしなくても殺されたウェールズだろ。」
「「「・・・」」」
「殺されたって一体誰に?それよりあなた何でワルド子爵と戦ってたのよ?」
「いや、おっさんが、ワルドがウェールズを殺して、ルイズを殺しかけたんだぜえ。」
「まさかと思うけど、子爵が裏切り者ってことかい?」
ギーシュが震えた。

「今そう言ったじゃねえか馬鹿。おっと話は後だ、ワルドの話だとそろそろここは戦場になるらしいぜえ。この穴通っていきゃ帰れるんだよな?」
「それはやばいわね、この穴ちょっと長いのよ。急がなきゃ・・・ところで、この[風のルビー]はどうしようかしら?」
「貰っとけ貰っとけ。どうせ置いてっても、敵の誰かの懐に入るだけだあ。
聞く限り、アルビオン王家はそこの死体で断絶らしいしよお。」
セッコ以外の三人が沈痛な表情を浮かべた。

「じゃあ、[トリステイン王国大使]ルイズのポケットにでも入れておこうかしらね」
その時、外から爆音が聞こえてきた。
「急ぐ」
タバサが皆を急かした。
「なあ、タバサよお。シルフィードに五人と一匹も乗れるのかあ?」
「滑空するだけなら。というか無理にでも乗る」

「無理にって・・・まあタバサ、ダメそうなら私がレビテーションで補助するわよ。さあ、急ぎましょ」
「なあギーシュ、ルイズを担げよ。」
ギーシュがあからさまに不満そうな顔でセッコを見た。
「いや、使い魔の君がやることだろ?」
「馬鹿、オレはワルドと戦ってへとへとなんだよ、怪我もしてるし。[レビテーション]だっけ?それ使えるんだろお?」
「わかったわかった、しっかり恩に着たまえよ?」
ギーシュはルイズを引っ張って穴に潜った。続いて、キュルケとタバサが入る。
ヴェルダンデとセッコも穴を塞ぎつつ深く降りていった。


ウェールズ、オメーも脳がマヌケだったなあ。戦争前に見知らぬ他人を信じて殺されるなんてよぉ。
オレみたいに、自分だけを信じとけばよかったのにな。
・・・でもまあ、守るものがある、だっけ?
確かに、仲間がいるってのは便利だし、悪いことじゃねえのかもなあ。

ヴェルダンデが掘った穴は、アルビオン大陸の真下に続いていた。
落ちかけた五人と一匹をシルフィードが何とか受け止める。
風竜はさすがに重いのか多少ふらついてはいるが、魔法学院に向かって羽ばたいた。


風竜の上、ルイズは風を切る音で目を覚ました。

ここは?
爽やかな風が頬を撫でる。
風竜の背びれを背もたれのようにして、ギーシュとキュルケがわたしの肩を支えている。
もっと頭に近い部分にはタバサが座り、前を向いている。
そしてその巨大な杖にはセッコが引っかけられていびきを立てていた。
・・・竜の口に銜えられているあれは何かしら?考えないようにしよう。

ああ、これは夢じゃない。確かにわたしは生きている。
確か、裏切り者のワルドに殺されかけて、気づいた時にはセッコが戦っていたわ。
でもまたすぐに吹き飛ばされて、その後わたしは・・・
そう、あの憧れだった子爵はもう二度と戻ってこない。
それを思うと、ルイズの頬に一筋の涙が伝った。

わたし達が助かったってことは、きっとセッコは勝ったのよね。
でもきっと王軍は負けただろう。ウェールズ皇太子は死んでしまったし。
本当にいろいろなことがあった。ありすぎるぐらい。
王女に伝えなければいけないことも多すぎて、考えると頭が痛くなった。
いいや、今は何も考えないことにしよう。本当に風が気持ちいい。
その時。

「あら、おはよう」
薄目を開けて辺りを伺ったのをキュルケに気づかれたらしい。
「お、おはよう、ツェルプストー」
「何をそんな慌ててるのよ?」
「おおかた、まだ夢だと思っているんじゃあないかな?」
「そんなことないわよ!・・・わたし、助かったのね」
「夢ねえ、なら現実に戻してあげなくちゃね」
そう言って笑ったキュルケはルイズの頬をつねった。

「痛い、痛いって!起きてるって言ってるじゃない!」
ルイズの叫びとキュルケ達の笑い声が何もない空に広がった。

「それにしても、あんたよく生きてたわね」
一転して、キュルケが真面目な顔になった。
「どういうことよ?」
ギーシュが横から答える
「君は首を絞められた後があった。状況的に死んでいてもおかしくなかったよ。
・・・それにしても、セッコは凄いな。少しだけ戦っているのを見たけれど、あの[閃光]ワルド子爵より素早かったぞ。しかも、土属性の魔法を使っていた」

「生きてたんだから素直に喜びなさいよ。それより、そんなの聞いてないわ。
あの馬鹿、まだわたしに何か隠してたのかしら」
「魔法じゃない」
いつの間にかセッコを引き摺りながら傍に来ていたタバサが呟いた。
三人が首をかしげる。
「あれみたいな能力がある。多分それの応用」
タバサがシルフィードに銜えられ、恨めしげにこっちを見ているヴェルダンデを指差した。
ギーシュはなぜかぺこぺことモグラに向かって頭を下げた。

「へえ、すごいわね」
キュルケが感心したように頷く。
タバサは杖からセッコをルイズの膝の上に降ろすと、また前の方に戻って本を広げた。
“レビテーション”が掛かっているらしく、重さはほとんど感じない。

疾風のように空を飛ぶシルフィードのせいで、強い風が頬をなぶる。
斜め上に見えるアルビオン大陸はもうだいぶ小さくなっていた。

膝の上のセッコに視線を移す。
それにしてもいい気なもんよね、こんな気持ちよさそうに眠っちゃって。
おそらく二十歳は超えていると思うのに、その雰囲気は年下の少年のようだ。
その寝顔を見ていると、悲しい出来事で傷ついたルイズの心に温かい何かが満ちた。
きっとこいつが戦いに戻ってきた理由は、ワルドがむかつくとか、イーグル号に乗り遅れたとか、どうせそんな下らない事なんだろう。

でも助けてくれてありがとう、セッコ。あんたは大した奴よ。
無意識にルイズの手がセッコの頭を撫でた。
母親が子供に、子供が子犬にするかのように。


「良おし、よしよし・・・よしよしよし・・・よし・・・」




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