ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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――1943年、1月20日

北緯48度42分、東経44度31分。
過去にツァリーツィン、後にはヴォルゴグラードと呼ばれるその場所は、この日、地獄だった。
より正確に言うならば、この日もまた、ドイツ軍人にとっての地獄だった。
ドイツ軍がこの都市に突入したのは、昨年の9月。しかし戦闘は際限ない市街地戦にもつれ込み、
完全占領がならないままソ連軍の増援が到着。勢いを盛り返したソ連軍は都市北方の守備に当たっていた
ルーマニア軍を蹴散らし、都市攻略に当たっていたドイツ第6軍および枢軸軍将兵23万び対する包囲網を
形成した。
包囲の輪が完全に閉じられたのは、11月の終わり。マンシュタイン元帥が指揮する解囲作戦も
失敗に終わり、以来補給はまれに飛来する空軍機からパラシュートで落とされる僅かな物資のみ。
弾薬、燃料、食料、衣料品、暖をとるための薪さえもが致命的までに不足。
敵との戦闘によるのとほぼ同数の命が、飢えとロシアの冬に負けて消えた。

だがそれでも、全てのドイツ軍人が絶望を抱いていたというわけではなかった。

「そう、ドイツ軍人は諦めない!!」

都市西方第43防御陣地、雪原を掘ってできた塹壕の中で、男はきっぱりと言い放った。
右手には、重機関砲――サブマシンガンでも軽機関銃でもなく、陣地に固定しての運用を前提に設計された
重機関砲――を、抱えるようにして持っている。

「それがロシアの極寒であろうと、ボルシェヴィキの軍勢であろうと、
我々ゲルマン民族が屈することは許されない!」

壕に伏せた、兵士たちが頷く。外からはT-34中戦車の駆動音が聞こえてくる。
それに覆いかぶさる、銃声とロシア語による罵声。ウォッカで恐怖を麻痺させた、ソ連軍の跨乗歩兵だ。
声の大きさからして恐らく、大隊規模の部隊だろう。

「私が先行する。ドノヴァン、お前は中隊を率いて続け」
「しかし、大佐……」
「他に手がない。我が第494機械化歩兵連隊も、満足に戦えるのはもう本部直属中隊のみだ。
ならば現時点で連隊が保有する最強戦力であるこの『私』が、先行して道を作るのが筋というものだろう。
それともお前は、この私が死ぬとでも思うのか?」

ニヤリ、と笑う『大佐』に、ドノヴァンと呼ばれた男は慌てて首を横に振る。
ナチス科学力の結晶である『大佐』の不死身ぶりは、この場にいる誰もが、
それどころか塹壕の外に迫るソ連兵さえもがよく知っている。

「そうだ、ならばなにも問題はない。
共産主義を信じる狂人であろうと敵はあくまでも人間だ、吸血鬼を倒すよりは遥かに容易い仕事だろう」

空いていた左腕で、『大佐』は自身の胸を叩く。響き渡る金属音。
軍服と防寒着で着膨れした部下たちが、その言葉に肩を震わせて笑う。

「さて、それでは……征くか!」

敵兵の位置を確認し、『大佐』は塹壕から文字通り『跳び出した』。

ドイツ軍による(あるいは一人のドイツ軍人による)逆襲に、ソ連兵は浮き足立った。
それは彼等が劣等民族だからでも、彼等の錬度が低いからでもなかった。
彼等はここ数日の戦闘を通して学んでいた――あれが、『何』であるかを。
一面を雪で覆われた純白の地表に、現れた一粒の染み。塹壕から飛び出たその影は、瞬く間に人の姿を取る。
人であるならばありえない歩幅で、一歩一歩こちらに近づいてくる。

「目標、前方の『化け物』! 総員、撃ッ!!」

戦車から降りたソ連兵が、持っていた銃を影に向ける。
発射される、無数の銃弾。命中――そして、金属音。
当たった小銃弾はその全てが、まるで厚い鉄板を撃ったかのごとく、あさっての方向に跳ね返される。
しかし撃った彼等ももう、そんなことには驚かない。
前日までの戦いでこの『化け物』に小銃弾が通じないことは、既に確認済みである。

「足を止めろ、足を!」
「来る来る来る来る、来た来た来た来た!」
「こんな豆鉄砲じゃ通用しねえ! でっかいので狙え、戦車砲だ!」
「や、やってますよ! でも、こんなスピードで動く人間と同じ大きさの目標なんて」

錯綜する命令、挙がる悲鳴。その間にも『化け物』と呼ばれた男は、一歩平均約5mの歩幅で
ソ連軍に向けて近づいていく。
前に、前に、前に、前に――ソ連戦車大隊の、戦車部隊の只中に。

『化け物』の、右手が挙がる。
握られた重機関砲の引き金が弾かれ、一分間に600発の鉄甲弾がソ連歩兵をなぎ倒す。
『化け物』の、左拳が唸る。
殴りつけられたT-34中戦車が、横転して搭載弾薬を誘爆させる。
『化け物』の、右眼が光る。
睨まれた戦車の砲塔が、中間部から斜めに滑り落ちる
――あたかも『剣術の達人に両断された孟宗竹がそうする』ように。

壊乱する、ソ連軍。ドイツ軍にとっての地獄のはずのこの場所が、今この時はソ連軍に向けて牙を剥く。
遅れてたどり着いた、ドイツ軍の連隊直属中隊。
それを率いるドノヴァンは、全力で走ってきたにもかかわらず息の一つも吐いていない
(彼が走ってきた雪原には、何故か足跡がついていない――まあこの状況では、何の意味も持たなかったが)。
ドイツ軍中隊の参入で、戦場の帰趨は決定付けられた。
いつも通りの、勝利。圧倒的な、勝利。
絶望的な状況下において、第6軍全体に希望を抱かせる勝利……に、なると誰もが思っていた。


「ち、畜生が、俺の戦車大隊が全滅しちまった……と、本来ならば歯軋りして悔しがるところなんでしょが、
 残念ながらこれもまた、我らが偉大なるソ連軍の作戦範囲内なんでっせ」

半壊した指揮官型中戦車の中で、ソ連軍部隊指揮官はぶつけた額の血を拭った。

「こちらクサケヌ、こちらクサケヌ、司令部、応答してくだせえ」

そのソ連軍将校は、無線機を上げると囁くように言う。
気付かれないよう、声のボリュームを出来る限り落としている。

『こちら司令部、どうした、同士クサケヌ?』
「は、やりました。命令どおりあの『化け物』を、ポイント2589―8947に固定しました」
『おお、そうか、やったか! すばらしいぞ、同士クサケヌ! 二階級特進ものの功績だぞ!』
「え、えへへー、そうっすか?」
『そうだとも! これでお前も約束どおり大尉から中佐に昇格だ。ところで、預けた大隊はどうした?』
「え、それは、へへ……ちょっと、ほとんど全滅しちゃいまして」
『なんだと! そうか、それは…………残念だ』

無線の向こうの司令官の声が、スゥと、音を立てたように冷たく変わった。

「あ、いやでも、命令に逆らってはいませんぜ。
 どんな犠牲を払ってでも、あの化け物を足止めしたって言ったじゃないっすか。
 今あいつは戦闘の後処理をしてやすから、当分ここをはなれやせんぜ。
 それであっしは次に、何をすればいいんで?」
『いや、もう貴様は何もする必要はない。今そのポイントに、第253特別砲兵連隊が狙いをつけている。
 その『化け物』の後の始末は、こちらでつける』
「特別砲兵ってあの、督戦隊の!? じゃ、じゃああっしたちはこれから一体どうすればいいんで?」
『言ったはずだぞ、何もする必要はない、と』
「え、でも特別砲兵の火力じゃああっしたちまで『化け物』と一緒に……」
『我がソ連陸軍には、戦車一個大隊をむざむざ全滅させるような無能な指揮官は必要ない、
 全滅させられる大隊構成員もだ。同士スターリンも、私と同じようにお考えになるはずだ』
「冗談きついですぜ、ダンナ。だってさっきは中佐にしてくれるって約束を」
『もちろん、私は約束は守る。喜べクサケヌ、本来なら軍事細分で銃殺のはずだが、
 私はお前を戦死として取り扱ってやる。
 お前は知らなかったかもしれないが、戦死者は二階級を特進することが出来るのだ!!』
「そ、そんなー」

悲鳴をあげるクサケヌが持つ無線通信機の向こう側で、複数のロケットの発射音が轟いた。


負傷したドイツ兵が、仲間に肩を支えられ塹壕へと戻る。
ドノヴァンたちが、降伏した敵兵を拘束し一人ひとりから名前を聞きだす。
その傍らで、味方からは『大佐』、敵からは『化け物』と呼ばれているそのドイツ軍人は、
これからのことについて考えていた。
いくら虚勢を張ってみても、いくら自分の部隊が勝利を積み重ねようとも、
ここの戦場におけるドイツ軍の劣勢が覆しようのないものであることは、男も感じ取っていた。
だがそれと、この戦争自体の帰趨とはまったく別の話だ。
枢軸国は、ドイツ第三帝国は、優秀なゲルマン民族は最終的に必ず勝利する。
そしてその勝利にたどり着くまで、戦争はまだまだ続く。長い戦争を戦い抜くためには、
戦力は出来る限り温存しなくてはならない。内側からの解囲作戦を軍上層部に提案してみるべきか……
そこまで考えた男の耳が、不意に異変を感知した。

「!! 総員、退避!!! スターリンのオルガンが来るぞー!!!」

感じた異変を、部下に知らせる。
スターリンのオルガン――ソ連側がカチューシャと呼ぶ、面攻撃用のロケット兵器である。
男の命令で、捕虜を放り出し四方に散るドイツ兵――それを幾人かのソ連兵はチャンスと捕らえた。

『グゥォォオオオン!!!』

擱坐していたかに見えたT-34が、突如息を吹き返す。

「ちぃぃ!」

目の前に迫ったそれを、男は両手で押さえて止める……だが!
誤算――雪で滑って踏ん張りが利かない。
ロケットの飛来音は、意識しなくても聞こえるほどに近づいてきている。

「ヌゥウ……ウウゥゥゥウウン!!!」

強引に、持ち上げる――キャタピラの片側を浮かせ、戦車をスリップさせる! 
常人には、いや、常人でなくても絶対に不可能な行動! 
だが! その行動のタイムロスが、男に脱出の隙を失わせる。そしてカチューシャロケットが……着弾。

半径数百メートルに、連鎖して起こる爆発。
吹き飛ぶ、雪。
巻き上がる、炎。
立ち込める、煙と霧。
それが晴れた後に残るのは、
かつて戦車だった鉄屑と、
かつて人間だった肉片だけだった。



『ルドル・フォン・シュトロハイムはJoJoに再会することなく
1943年のスターリングラード戦線で誇り高きドイツ軍人として名誉の戦死をとげる』


『第2部 end…………?』













NO! NO! NO! NO! NO!




「ま……まだ勝てん! 今の俺の装備では、今のドイツの科学では……
 ボルシェヴィキの糞どもをロシアの地から駆逐することはまだ…………ん? 月が、、、二つ!!??」

『第2.5部 バルド・フォン・シュトロハイム――ハルケギニアのドイツ軍人 
                                  started!』


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