ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は穏やかに過ごしたい外伝『バッカスの歌』

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匿名ユーザー

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小瓶の中の鮮やかな紫色の香水。机の上に置かれたその香水を見やる。わたしが自分のために作った香水。
見た目の鮮やかさに匂い、全てを自分にあわせて作ったまさに特製の香水だ。
今まで作った香水の中で一番気に入っていて、自分のために作ったものなので当然売りに出したことも無い。
この特製の香水を作るのには、随分と試行錯誤したものだと、香水を見ながら思い出に浸る。苦労したが、その苦労すら楽しかった。
できた時の喜びは今まで作ってきたどの香水より大きかった。思い出しただけでも、自分によく作ったと褒めてあげたくなる。
そして今、自分はこの香水に並び匹敵するような香水を作ろうとしている。どうしても作らなければならないと思っている。
机の上に置いてあった香水をしまうと、代わりに香水を作るための材料を取り出す。そして無残に短くなってしまった髪を軽くなで上げる。
自慢だったこの髪も、今ではまるで男の髪のような短さだ。
「ギーシュ……」
思いの人の名前を呟きながら香水作りに取り掛かる。大丈夫。自分ならきっと作ることができる。わたしはモンモランシー。『香水』のモンモランシーだから。

使い魔は穏やかに過ごしたい外伝『バッカスの歌』

ギーシュと付き合っていた頃、自分はいつもイライラしていたと思う。並んで街を歩けば自分以外の女を見つめる。酒場で給仕の娘を口説く。
デートの約束を忘れ、他所の女の子のために花を摘みに行く。なんとう浮気性だろうか。わたしという彼女がいながら。イライラするのも当然だ。
しかし、わたしは耐えた。イライラしながらもギーシュの浮気性を耐えた。何故なら、本当に浮気をしたことはなかったからだ。
表面上そんな浮気性を演じていて、心の中ではわたしだけを愛しているに違いないと信じていていた。浮気性に心配を持っていたため、そう信じたかった。
……そして、そんな自分の思いは裏切られた。
春の使い魔召喚の儀式の次の日、昼食の席で騒ぎがあった。別に騒ぎなんてよくあることで気にすることはない。ただ、その日の騒ぎはわたしにも関係があった。
「おお?その香水は、もしやモンモランシーの香水じゃないか?」
自分の名前が出たことに驚き、騒がれている方向を見ると、そこにいたのはギーシュとその友達、そしてゼロのルイズの使い魔だった。
「そうだ!その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
ギーシュのすぐ横にはたしかにわたし特製の香水が置かれていた。わたしが自分の手でギーシュにプレゼントしたのだ。見間違えるはずが無い。
「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモランシーとつきあっている。そうだな?」
その問いをギーシュは、
「違う」
否定した。何故否定するのだろうか?香水が自分とつきあっている決定的な証拠になるじゃない!肯定できない何かがあるの?
もしかしてそれは、わたしが懸念していることなんじゃ……
「いいかい?彼女の名誉のために言っておくが……」
ギーシュが何かを言おうとしたとき、栗色の髪をした一年生が彼の元へ来た。そしてそれを確認した時、わたしは自分の懸念が的中していたことを理解した。

「ギーシュさま……。やはり、ミス・モンモランシーと……」
一年生はボロボロと泣きながらギーシュに喋りかける。
「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」
ギーシュの言葉に耳を傾けもせず、一年生はギーシュの頬を引っ叩く。
「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ!さようなら!」
一年生が去っていくのを見つめながら、自分も立ち上がる。そしてギーシュの元へ向かう。ギーシュがこちらに気がついたのわたしの方を振り向く。
ギーシュの顔にはきれいな赤い手形がついている。
少し前からギーシュの様子がおかしいとは思っていた。急に予定をキャンセルしたり、何か隠れてコソコソしたりと。もしかしたら浮気かもしれないと懸念していた。
きっとそうじゃないと、ギーシュは浮気なんかしてないって信じていた。信じるしかなった。でも、ギーシュは浮気をしていた。ギーシュはわたしを裏切った!
ギーシュの席に辿り着く。体に段々と熱が篭っていくのを感じる。
「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」
「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね」
何も感情を込めずに、浮気したという事実を自分に確認させるように呟く。
「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれよ、僕まで悲しくなるじゃないか!」
顔には出していないつもりだったけど、どうやら自分が思っている以上に怒りを感じているらしく、無意識に顔に出ていたようだ。
その事実を確認しながら、机の上の香水を手に取る。そして、中に入っている香水をギーシュの頭の上からかける。
この香水は、付き合い始めた頃にギーシュに渡したものだ。あのときギーシュは自分のことを『愛してる』と言って、キスをした。
でも、全部嘘だった。ギーシュはわたしを愛していなかった。ギーシュは女であれば、誰でもよかったのだ!
香水が小瓶から流れ出るにつれ、さらに怒りが高まっていく。自分の中のギーシュへの思いが全部怒りに変わっていく。小瓶の中身は無くなり、怒りは頂点に達していた。
わたしのこと『愛してる』って言ったのに。『愛してる』って言ったのに!!
「うそつき!」
全ての思いをその一言に込め、わたしはその場を駆け足で立ち去った。そして、そのまま自分の部屋へと走り駆け込むと、鍵にロックをかけた。
その瞬間、それで全ての力を使い果たしてしまったかの如く、その場に座り込む。既にギーシュへの怒りなど無くなっていた。
その代わり、浮かび上がってきたのは悲しみだった。さっきの一年生のように、あるいはそれ以上に涙が溢れ出してくる。
あるのはギーシュへの怒りだけだったはずなのに、どうしてこんなに悲しんでいるのか?どうしてこんなに涙が溢れ出てくるのか?わたしは何を悲しんでいるのか?
わからない。わからないけど、悲しい。涙が止まらない。何もわからないまま、わたしはずっと泣き続けた。涙が止まったのは深夜になってからだった。

次の日、ギーシュがゼロのルイズの使い魔と決闘をして、逆にギーシュが負けたことを知った。
聞いた話によれば手に穴が開いて、杖を折られ、顔を踏みつけられるなど、相当足蹴にされたらしい。わたしはそれを聞いて、何も思わなかった。
いい気味だとか、大丈夫だろうかとか、そのようなことを何も思わなかった。ただ、ギーシュが足蹴にされたことをありのまま受け止めた。
それを実感したとき、自分はもうギーシュのことを好きでも嫌いでもなく、なんとも思っていないということを理解した。


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