ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-39

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 天守の一角、ウェールズの居室。その窓の外にワルドは立っていた。玉砕戦の前夜と言う事もあり、平素ならいるような警備のメイジもいない。明日に備えて休養を取っているようだが、甘い考えだと嘲笑する。
 そのような考えだからアルビオン王国はレコン・キスタに敗北してしまったのだ。決戦前夜だからとて、暗殺者が入り込むかもと言う考えに至らない時点で、程度が知れるというもの。
 残酷で嗜虐的な笑みをもはや隠すこともせず、フライの魔法を解いて屋根に降りる。
 下を見れば誰の姿も無い。あの使い魔はまんまと逃げおおせはしたが、王子の暗殺を止められはしない。
 まずウェールズを暗殺した後、ルイズを殺し手紙を手に入れればいい。
 ワルドは口の端を吊り上げ、呪文を詠唱する。
 ウインドブレイクの魔法で容易く窓を吹き飛ばし、居室に素早く踏み込みながら次の呪文を既に完成させていた。
 『エア・ニードル』。杖を中心として風を渦巻かせ、杖自体を鋭い刃と変化させる魔法である。
 二つの月の光を背に浴び、ベッドで何も知らず寝ている王子目掛け、二つ名の『閃光』の名の通り稲妻の如き不可避の突きを繰り出し――

 ワルドは、大量の金属球が混ざった爆風をその身で浴びることとなった。

 ちょうど同じ時、ジョセフは天守を見上げ、窓から弾き飛ばされるワルドを悠々と見上げていた。
「やッチッたァーーッッッ!!」
 静かな月夜をつんざく爆音と、年甲斐も無く歓声をあげる老人。
 ジョセフはとっくの昔に手を打っていた。
 ワルドのおおよその策略を看破したジョセフは、パーティから戻る途中のギーシュ達に頼み、ビー玉程度の大きさの金属球を1kgほど錬金してもらったのだ。
 それから三人に、ウェールズへと伝言を頼む。
『アンリエッタ王女からもう一つ渡さなければならないものを預かっている、人目に付くと良くないのでこの時間に礼拝堂に来てもらえないか』と言う体裁で、ウェールズを密かに呼び出していたのだ。
 正にこの時、ウェールズ皇太子は三人の少年少女と共に礼拝堂にいる頃である。約束の時間からはやや遅れ、王子を待ちぼうけさせている不敬の真っ最中ではあるが、命を救う行為であるため、お目こぼしを期待したいところである。
 ウェールズが嘘の伝言で礼拝堂に向かった直後、無人の部屋に忍び込む人物がいた。言わずと知れたジョセフ・ジョースターである。
 ジョセフは密かにベッドにトラップを仕掛けた。
 まずベッドの上の毛布を一枚取り、これに厨房から失敬してきた油を塗り込んで波紋を流す。
 続いて先ほど錬金してもらった金属球、これにも油を満遍なく混ぜこぜ、こちらには反発する波紋をたっぷり流す。
 波紋を流した金属球をしっかり波紋毛布で包み込むことにより、言わば電子レンジで加熱したゆで卵のような代物が出来上がる。こちらは破裂すれば卵の代わりに金属球がはじけ飛ぶ物騒な爆弾であるが。
 これに多少強い衝撃を与えれば、ボンと爆発し――今しがたワルドが吹き飛ばされたような惨状を引き起こすこととなる。
 続いて掛け布団で波紋ゆで卵を包み、人が寝ているように形を整える。月明かりだけではそうはバレない珠玉の造詣は、ジョセフ会心の出来だった。
 最後に窓を閉めて何食わぬ顔で部屋に戻ると、ルイズにハーミットパープルで波紋をちょっと流して起こし、ワルドに結婚を断らせに行く事で裏切り者の本性を暴き出す。自分達はまんまと逃げおおせることで残った一つの目的、ウェールズの暗殺に向かわせたのである。
(王は暗殺してもしなくても大勢に関係が無いというのは、パーティのスピーチからして明白である。となるとワルドがターゲットにするのはウェールズ一人、という解答に辿り着くのは簡単なことだった)
 果たしてワルドは見事ジョセフの術中に落ち、金属球の洗礼を浴びることとなった。
 天守から叩き落されながらも、さすがは魔法衛士隊隊長と言うべきか、空中でフライの魔法を辛うじて唱え、地面に叩きつけられる事態にまでは至らなかった。
 だがしかし、静かな夜に轟いた爆音である。
 精鋭とも呼べるニューカッスル三百の貴族達がおっとり刀(この場合はおっとり杖と称するべきか)で駆け付けて来るのは想像に難くない。
 ワルドは怒りのみで象られた視線でジョセフを見下し、睨み付けた。
「……やったな、やってくれたな、ガンダールヴ!!」
「てめェのやっすい陰謀なぞとうの昔にお見通しじゃわい、我が友イギーの技を参考にした、名付けて『愚者に対する波紋疾走(フールトゥオーバードライブ)』の味はいかがだったかなッ。随分と堪能してくれたようじゃないか、ワ・ル・ド・し・し・ゃ・く・ど・の?」
 クックック、と人を大馬鹿にした笑いでワルドを見上げる。
 自慢の羽帽子もマントも言うに及ばず、ワルド本人も金属球の嵐に巻き込まれかなりの手傷を負っている。
 火薬での爆発には及ばないものの、波紋の爆発で放たれた金属球は人一人に対して十分過ぎるほどの殺傷力を持っている。
 ジョセフとしては、金属球のトラップで仕留める腹積もりであった。
 だが悪運強く生き残られた場合の手段も、既に用意してきている。
 ジョセフは、マヌケな獲物をからかう笑みを崩さぬまま言葉を続ける。
「さァて、と。もーそろそろこの騒ぎを聞きつけたメイジ達がアワ食って押しかけてくる時間じゃな。まさかグリフォン隊元隊長でスクウェアメイジのワルド子爵が、たかが使い魔にコテンパンにのされて尻尾巻いて逃げ帰るとか、そォんなミジメ~ェな結果で帰れるんかなァ!?」
 ジョセフにとって、ここでワルドと対峙したままメイジ達に駆け付けられるのが尤も避けたい事態だった。
 ここでワルドが「この平民が王子の部屋を爆破した」とたった一言言えば、一斉にメイジ達の杖がジョセフに向くことは火を見るより明らかである。貴族と平民の言を貴族がどう判断するか、ジョセフでなくとも想像するのは簡単である。
 だからこその、普段より毒を増した舌鋒であった。
 平素のワルドならばこのような安い挑発に乗りはしなかっただろう。
 だが、散々忌まわしい平民に自分の策略を打ち破られた今、挑発に乗らずにはいられなかった。
「――いいだろう、ガンダールヴ!!」
 ジョセフは、く、と口の端を吊り上げた。
 ワルドは地面に降り立ち、フライの魔法を解いた。
 これまでの様に余裕めかした表情など、ワルドには存在しない。
 ジョセフもまた、同じだった。
 相対した互いの表情を占めるのは、種類は違うものの、純粋な怒りのみ。
 腰に下げていたデルフリンガーを抜刀すれば、右手に錆び付いた大剣、左手に毛布と言ういささか珍妙な様相で構えるジョセフ。
 デルフリンガーはおおよそ無駄だとは判り切っていたものの、とりあえず金具を鳴らして喋った。
「なーあ、そこのボウズよ。今なら、多分まーだ間に合うんじゃねーかなぁ。ここで謝って土下座の一つでもすりゃー、許してもらえるかもしんねーぜー?」
 たかがインテリジェンスソードごときの戯言を聞き入れる必要など、ワルドには存在しない。せめてもの忠告を文字通り黙殺されたデルフは、あーあ、と溜息をついた。
(知ーらね。相棒は自分の右腕が焦がされたことより、貴族の娘っ子が侮辱されたことに怒るタイプなんだよなぁ)
 他人事めいたモノローグはさて置いて、デルフはジョセフからひしひしと伝わり過ぎる心の震えに、ふと思い出した。
「おー、そうだ。思い出したぜ相棒!」
「なんじゃデルフ、こんな時に」
 声そのものは普段と変わらない。だが今もジョセフの心には凄まじい怒りが渦巻いていた。
「そー言や相棒はガンダールヴだったよなぁ」
 軽口を叩きあう一人と一振りをよそに、ワルドは既に呪文を完成させていた。
「そうは言われてるが、どうしたッ?」
「いやぁ、俺は昔、お前に握られてたぜガンダールヴ。だーが忘れてた、六千年も昔のことだったからな!」
 ジョセフが返事する前にワルドのウインドブレイクが襲い来るが、ジョセフは慌てるでもなく左手に構えた毛布を、闘牛に対するマタドールのような鮮やかな動きで振るった。
 本物のマタドールなら向かってくる牛の角を避けるものだが、毛布を振るったガンダールヴは一歩たりとも動いていなかった。
 波紋を流された毛布は、風のハンマーに対抗しうるだけの強度を手に入れており、ウインドブレイクは毛布の一撃に消し飛ばされていた。
「我が師にして我が母、エリザベス・ジョースターの技! 闘牛毛布(マタドールブランケット)ッ!!」
「ひゅー、さすがだな相棒! お前もうちょっと真面目に修行すりゃもっとすげえ戦士になれんだろーに!」
「わしゃ努力が一番嫌いな言葉でその次にガンバルって言葉が嫌いなんじゃよ!」
「いやそれにしたって懐かしいな、泣けるぜ! そうか、なんか前々から懐かしい気がしてたが、相棒がガンダールヴだったか!」
「そうか! 伊達にボロボロに錆びてる訳じゃあないなッ!」
 ジョセフとデルフがなおも軽口のラリーを続けている間、ワルドは間髪入れず次の呪文の詠唱にかかっていた。
 聞き覚えのある『ライトニング・クラウド』の魔法に、ジョセフは内心(アレかッ! さあどうやって避けるッ!)と灰色の脳細胞をフル活動させていた。
「嬉しいじゃねえか! お前ガンダールヴか、うん! そうかそうか、そうだったら話が違う、俺がこんな格好してる場合じゃあないな!」
 叫びを上げた瞬間、デルフリンガーの刀身が輝き出す!
「次は俺の番だぁな! 構えな、相棒!」
 ワルドの『ライトニング・クラウド』が完成した瞬間、ジョセフはデルフの声に反応し、無意識に剣を雷撃にかざしていた。
「無駄だ! 電撃を剣で避けられると思っているのか!」
 だがワルドの叫びもむなしく、電撃はデルフリンガーの刀身に吸い込まれる!
 全ての電撃がデルフリンガーを吸収してしまった時、ジョセフが握っている大剣は錆び付いた古めかしいものではなく、今正に磨ぎ上げられたばかりの様な眩い輝きを放っていた。
「ほうッ! デルフ、なかなかいいカッコじゃないかッ!」
「これが本当の俺の姿さ、相棒! てんで忘れてたが、伝説のガンダールヴにゃ伝説のデルフリンガー様がなくちゃしまらねぇ! 剣が使い魔を! 使い魔が剣を引き立てるッ!
 『ハーモニー』っつーんですかあーっ『力の調和』っつーんですかあーっ、たとえるならサイモンとガーファンクルのデュエット! モンティパイソンの演じるスペイン宗教裁判! 武論尊の原作に対する原哲夫の『北斗の拳』! …つうーっ感じっ、だな!」
「お前よくそんな単語ばっか知っとるな」
「多分な、俺はハルケギニアで有名な組み合わせを言ってるはずなんだわ。相棒の脳みそが相棒のよく知ってる組み合わせに翻訳してるんじゃね?」
「なるほど」
「あれよ。さすがに長いこと生きてて飽き飽きしてたんで、ちょいくらテメエの身体変えたんだよ! 面白いこたーなーんもありゃしねーし、俺に近付く連中はつまらん連中ばっかりだったからな!」
「そこでわしがあの武器屋に寄ったッつーワケか!」
「運命ってのは引力めいたモンでな、まさか使い手に再び握られるとは思ってなかったぜ! こうなってくりゃー話が変わる、ちゃちな魔法は全部この俺が吸い込んでやる! この『ガンダールヴ』の左腕、デルフリンガー様がな!」
 必殺の呪文を吸収した剣に、ワルドは思わず舌打ちを漏らした。
「やはりただの剣ではなかったか……だが攻撃魔法を破っただけでいい気になるな! 何故、風の魔法が最強と呼ばれるのか、その所以を見せてやろう!!」
 ジョセフは片手で剣を構え飛び掛るが、ワルドは素早い身のこなしで剣戟をかわしながら呪文を唱えていく。
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
 呪文が完成すると、ワルドの身体が突然分身していく。
 一、二、三、四体、本体と合わせて五体のワルドがジョセフを取り囲んだ。
「ほう、今更タネの割れた手品を御開帳とはな。もう少し新ネタを用意してもらいたかったモンじゃがな! 『流星の波紋疾走』を初見で避けた時点で、自分の正体バラしとるようなモンじゃないかッ!」
 五体のワルドに取り囲まれながらも、ジョセフの顔には意外さも怒りも全く無い。筋書きも落ちも判っている舞台を自信満々に見せられる時と同じ、呆れた笑みが浮かんでいた。
「ふん、酒場では不意を突かれたが、たかが一体の遍在に貴様は苦戦しただろう? しかもただの分身ではない。風のユビキタス、遍在する風。風の吹くところ、何処と無く彷徨い現れ、その距離は意志の力に比例する!」
「ケッ! 笑わせるなワルドッ! このジョセフ・ジョースターに同じ手を二度も使うこと自体が凡策だという事を身を以って教えてやるッ!」
 左手に靡く毛布を振りかぶり、左足を軸足として回転することで正面に立つワルド達に向かって先制の一撃を放つジョセフ。
「ぬかせっ!!」
 五体のワルドがジョセフの剣と毛布を避け、踊りかかる。更にワルドは一斉に呪文を唱え、杖を青白く光らせる。先程ウェールズ暗殺に用いられるはずだった『エア・ニードル』である。
「杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込むことは出来ぬ!」
 細かく振動する五本の杖を剣と毛布で受け、流す。しかし相手は五体。ジョセフは一人。
 攻撃する間もなくひたすら防御に徹さざるを得ず、デルフはともかく毛布は度重なる風の渦の衝撃に耐え切れずに端から切り刻まれ、少しずつその大きさを減じていく。
 毛布の切れ端は大きなものは地に落ち、小さなものはワルド達の巻き起こす風に吹かれて巻き上がっていた。
「平民にしてはやるではないか。さすがは伝説の使い魔といったところか! だがやはりただの錆び付いた骨董品であるようだな、風の遍在に手も足も出ないようではな!」
 勝ち誇るワルドに、ジョセフは平然と言った。
「あー、ワルドよ。やっぱオマエ、戦い下手じゃわ」
 そう呟いた瞬間、毛布を掴んでいた手の中に隠していたセッケン水の球を、ひょい、と宙に投げた瞬間、ジョセフのコントロールを離れた波紋はセッケン水の球を爆発させた。
 しかし自分の至近距離で炸裂させるモノに殺傷力を持たせるわけには行かない。ただのかんしゃく玉程度の代物でしかなかったのだが。
「むっ!?」
 突如炸裂したセッケン水の爆弾にワルド達が怯んだ瞬間、ジョセフは素早いフットワークで『ワルド達の輪の中央』に入り込んだ。
「目くらましごときでどうにかできると思ったのかガンダールヴ!」
 数瞬の不意を突かれたとは言え、ワルド達にとって致命的な不利を生み出す訳ではなかったどころか、ジョセフは貴重な数瞬を死地に潜り込むに用いただけだった。
 五人は一様に勝ちを確信した邪悪な笑みを浮かべ、一斉に切っ先をジョセフに向けて口走った。
「死ねい、ガンダールヴ!!」
 最もジョセフに近いワルドが、ジョセフを必殺の間合いに捕らえたその時――
(わしだって自分のスタンドが戦闘向きじゃあないことは重々承知しておるッ! ハーミットパープルを放っても必ず相手を捕まえられるわけじゃあないッ……だから逆に考える。避けられないほど隙間無くハーミットパープルを放てばいいんだとな!)
「全開! ハーミットウェブ!!」
 ジョセフの両腕から迸る無数のハーミットパープルが、今正にジョセフに躍りかかろうとした一体のワルドを滅多刺しにし、消し飛ばした!
「何!?」
 驚きの声を上げる間もあらば、茨達はジョセフの周囲を縦横無尽に駆け巡り、ワルド達を捕らえ絡め取る!
「我が友、花京院典明の技ッ! 半径20m隠者の結界ッ!!」
 ジョセフはただ無闇に防戦に回っていた訳ではなく、ましてや何の考えもなくワルド達の輪に入り込んだ訳ではない。隠者の結界を張るための準備を着々と整えていたのである。
 ジョセフが用意した毛布、これはワルドの攻撃を防ぐ為のものではなく、『ワルドに切り刻ませる為』に用意していたッ!
 大樹の踊り場で『流星の波紋疾走』を仮面の男が避けた時から、既にジョセフは『ワルドは何らかの手段を用いて分身している可能性』に辿り着いていた。
 魔法衛士隊隊長が初見で回避すら出来なかった攻撃を避ける為には、あの攻撃を目撃するかもしくは知るかしていなければ避けることは出来ないはず。よってこの状況になれば、ワルドが分身を用いないはずはない、と考えるのは当然のことだった。
 風のメイジであるワルドが風を攻撃に用いる場合、考えられる手段として女神の杵亭で見せたウインド・ブレイクに、分身が使ったライトニング・クラウドの他、カマイタチのような斬撃があるという予測に辿り着くのは簡単。
 もしカマイタチがなくとも、ライトニングクラウドに焼かせればよい、という算段もあった。
 しかしてジョセフの読みは完全に当たり、ワルドはジョセフの求めに応じて毛布を切り刻んだ。
 激しい風の巻き起こる空間で毛布の切れ端は風に浮かんで飛び散る。
 後は『毛布の切れ端』に対し、『手の中に残った毛布の残骸』を媒介としてスタンドパワーと波紋を全開にしてハーミットパープルの追跡を行うことにより、半径20mに波紋ハーミットパープルの結界を張ることに成功したのだ。
 ワルドに直接放つより、空間全てにハーミットパープルを敷き詰めればよりワルド達を捕らえられる可能性は高まる。しかも平民に対する貴族の慢心、油断に加えて、一度も見せていないハーミットパープルを満を持して放つ!
 結果。
 一体のワルドが波紋で吹き飛ばされ、本体含めた四体のワルドはハーミットパープルに捕らえられて身動きの一つすら取れはしない。
「く……っ! 貴様、ガンダールヴ! やはり、先住魔法を使うというのか……!」
 懸命に茨から脱出しようともがくワルド達だが、その度に微弱な波紋が走り抵抗を妨害していた。
「フン、先住魔法? 笑わせるな坊主ッ! これはスタンド……魂を具現化した力ッ! オマエのようにバカヅラ晒して得意満面に自分の手の内何もかもバラすドアホウにこのわしが負けるはずァなかろうがッ!」
 ビシ、と指を突きつけたジョセフは、続いて鼠を嬲る猫のような笑みを見せた。
「さぁーて、どいつが本物か確かめんとなァー? 斬って捨てたら判るよなァ~~~~?」
 ゆらり、と剣を振り上げ――
「これで仕舞いじゃぞワルドッ!!」
「相棒! 右だっ!」
 ワルドへ振り下ろされかけた切っ先が、右から放たれた炎の弾丸へ向きを変え、切り払う!
 見ればニューカッスル城に詰めるメイジ達が駆けつけて来る姿。
(うッわ~~~ァ、もう来たのかッ、せめて後一太刀か二太刀くらい遅れんかッ!!)
 ジョセフの危惧していた事態が、極めて間の悪いタイミングで起こった。
 天守から不穏な爆発が起こり、駆け付けて来れば怪しげな平民とメイジが対峙しているのだ。
 一般的なメイジの思考としては、パーティでも多少紹介を受けたトリステイン魔法衛士隊の隊長に加勢するのは当然過ぎる話である。
 ワルドもまた、この好機を指を咥えて見逃すような愚鈍ではない。
「こいつだっ! ウェールズ皇太子の暗殺を謀って居室を爆破したのはこいつだっ!」
 ウェールズ皇太子暗殺未遂犯の言葉に、アルビオン王国生き残りのメイジ達の杖が、ジョセフに向けられた――!


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