ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

狂信者は諦めない-3

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匿名ユーザー

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人類の大敵エルフ。
人は言う。
其は邪悪の権化にして、好んで人を喰らい、その骨を工芸品とすると。
しかし、現実の彼らは決してそのような存在ではない。
彼らはむしろ調和を愛し、平穏をこそ望む種族であった。
さらに彼らはいわゆる「人」に比べ、はるかに先進的な社会を築いてもいた。

それは政治体制を比べてみるだけで明らかだった。
エルフ達は自らの経験から、どのような偉大な人物にも自ずと限界があることを学んだ。
独断が真実に辿りつくことはない。
一人の人物に全てを預けることは、自殺を望んでいることに等しい。
それを避けるためには、なるだけ多くの人間がなるだけ多くの議論をし、
その中でより多くの、より確かな真理を得る他ない。
そのための選挙であり、そのために議会がある。
それが彼らの結論だった。
高度な政治体制とそれに見合った「国民」。
共に、現在のハルケギニアの諸王国が望むべくも無いものだった。
そんなエルフ達からしたならば、「人」など野蛮な未開人に過ぎない。

そんな進歩的で、洗練された存在であるエルフ達であるが、今日は様子が違っていた。
道を行き交う彼らの顔からは、彼らが嫌う野蛮さが噴き出していた。
怒号が飛び交い、荒々しい靴音が響き渡る。
剣呑。
そういう他ない。
彼らは目を剥き、歯を軋らせて何かを探していた。

「物騒なことだ。・・・・・・お前もそう思わないか、ジュリオ」

街道を離れ、茂みに身を潜めつつ、エンリコ・プッチはそう傍らの少年に声を掛けた。

「・・・・・・」

少年、ジュリオ・チェザーレは言葉も無い。
怯えているのだった。
無理もない、といえよう。
彼らは敵地に孤立していた。
そのうえ、人類の支配領域まで十キロといったところで追い詰められてもいた。
敵はエルフ、人類の天敵エルフ。
一人や二人ではない。
敵は少なく見ても中隊規模。
怒り狂ったエルフが一個中隊。
この二日間、飲まず喰わずで駆け通しだった。
既に体力、気力共に限界に達している。
幾度かの戦闘でエルフの恐ろしさを思い知ってもいた。

「・・・・・・もう駄目です。いくら貴方でも、もう・・・・・・」

喘ぐように少年は呟いた。
教皇に仕えたことに後悔はない。
彼に拾い上げられて初めて、自分は人間になれた。
だから、彼のために死ぬことすら受け入れなければならない。
その覚悟はしていたつもりだった。
しかし、いまやそれらは残らず吹き飛んでいる。
初めての窮地、初めての恐怖。
いまや彼は、彼が唯一確かと思っている存在に縋る他なかった。

「歩くのが嫌だというなら、置いていってもいいんだがな」

彼の師にして同僚たるエンリコ・プッチは、普段とまるで変わるところがなかった。
確かな知性に強固な意志。
彼の目標はこの窮地にあってなお動じていない。

「どうすれば、どうすれば貴方のようになれるんです」

羨望とともにジュリオを尋ねる。
どれ程の研鑽を積めば彼のようになれるのか。
まるで空を仰ぎ見るような、どうしようもない違いを感じる。
いつになれば、自分も彼の領域に足を踏み入れられるのか、想像も出来なかった。

「・・・・・・あらゆる困難は、克服されるべき試練なのだ。試練を超えた先にこそ幸福は・・・・・・」

その先を言うことはできなかった。
ついに二人は敵に発見されたのだ。
身をかわすのが僅かでも遅れたなら、それまでだったかもしれなかった。
敵は二人。
二人とも同じような背格好で、二人とも同じように激怒していた。

「・・・・・・見つけたぞ、人間」

一人が口を開いた。
一人は何も言わない。
ただ目を血走らせて、奥歯を砕けんばかりに噛み締めていた。

「ああ、お前達には見覚えがある。確か、・・・・・・そうユースフに、ボードゥアンだったか」

嬲るように続ける。

「そうだ、ユースフ。彼女は元気だろうか?」

乾いた音が響いた、奥歯の砕けた音だった。

「貴様・・・・・・貴様」

嘆きと怒り。
余りの憤激に、仲間を呼ぶことすらできない。
呼ぶつもりも無かったが。
この敵は、自ら手を下さねば収まらない。
もっとも、それを敵に悟られたことは致命的だった。
プッチに安心を与えてしまったのだから。

「元気なはずも無いか。・・・・・・これが無くてはな」

そういって懐から鈍く輝く円盤を取り出した。
まるで見せ付けるかのように掲げてみせる。

「これは夫人の記憶を形にしたものだ。記憶を無くした人間は木偶と同じ。・・・・・・逆に言うならばこれさえあれば彼女は再生する、な」

「・・・・・・ッ! ユースフ、アレには傷をつける・・・・・・ッ」

それが二人の最期だった。
音もなく忍び寄った何かが、何もかもを奪っていく。

「・・・・・・さて、お前達にはまだ用がある。 エルフに魔法を使って攻撃しろ、死ぬまで戦え」

再び敵に発見されるまでいくらか時はあるはずだった。
奪った記憶から敵の最も手薄な部分を探し出す。
さらに同士討ちにより敵の動揺も期待できる。

「ジュリオ、急げ。逃げるぞ」

どうやら無事らしい少年を見遣る。
いまだ怯えを浮かべた顔に、見え隠れする戦意。
果たしてものになるのかどうか、プッチには分からなかった。


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