ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

狂信者は諦めない-4

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匿名ユーザー

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神聖不可侵にして絶対無謬たる教皇の謁見室、といえば絢爛にして華美なものと世人は思うかもしれない。
しかし、この聖エイジス三十二世に限って言えば、それは無かった。
どこか雑然とした印象を受ける。
その原因は彼の蔵書にあった。
散らかっている、というよりは単純に数が多すぎる。
周囲を本棚に包囲され、僅かに開いた隙間になんとか身を落ち着けている。

来客へ微笑みを与えながら、いまや教皇となったヴィットーリオは口を開いた。

「ご苦労様でした、エンリコ。 ずいぶんと大変だったそうですね」

己を神に捧げた者のみが浮かべる、あの微笑。
どこまでも慈愛に溢れ、だからこそ生き物としての熱を欠いている。

「ああ、もう少しで死ぬところだった・・・・・・。収穫はあったが、ね」

「成る程、拝聴しましょう」

「聖地に関してだが・・・・・・やはり、君の考えどおりのようだな」

「ほう。と、言うと? 」

「ああ、聖地は間違いなくどこかへと繋がっている」

「・・・・・・それは貴方がいた? 」

「可能性はあるがね」

それからもプッチは自らが得た情報を、語り続けた。
彼が手に入れた奇妙な円盤も交えながら、報告は二時間にも及ぶ。
プッチが語り終えると、ヴィットーリオがひとつ尋ねた。

「そういえば、ジュリオはどうでしたか? 貴方から見て」

孤児院から拾い上げた少年。
この数日の間、気にかかっていた事だった。

「さて、適正はあるのかもしれないな。荒事も、慣れればこなせるかもしれない」

「そうなのですか?」

「ああ、ところで君は一体彼の何をそんなに見込んだのだ?」

突然に引き合わされ、教育を任された。
顔は良い、頭も悪くない。
しかし、そんなことで選んだわけではあるまい。
いや、もしかするとそうなのかもしれないが。

「それが・・・・・・わたくしにも分からないのです」

「ほう・・・・・・」

「確かに目立つ存在ではありましたが・・・・・・」

「成る程。いや、そう悩む事は無い」

プッチはむしろ朗らかにそう告げた。

「君は、そうする事が自然だと思ったのだろう。ならばそれに無理に逆らう必要も無い」

「そうでしょうか」

「そうだとも。彼は、君の目的のために必要な人間なのだろう。だからこそ引き付けられたのだ」

ヴィットーリオは得心したような顔で頷いた。
それを見たプッチは満足そうな顔で続ける。

「それで、ガリアはどうなった」

そう尋ねるプッチに対し、彼の主はすぐには答えなかった。
しばし黙考した後、ようやく言葉を発する。

「確証はありません・・・・・・が、疑いは濃厚です。おそらくガリア王は虚無の担い手なのではないでしょうか」

「ほう、それでは使い魔を召喚している可能性があるな」

虚無の使い魔。
かつて始祖ブリミルに仕えたとされる四名の使い魔は、それぞれが特別な能力を与えられていたという。
あらゆる武器を使いこなしたガンダールヴ。
あらゆる獣を友としたヴィンダールヴ。
誰よりもマジックアイテムの扱いに秀でたミョズニルトルン。
そしてその存在を隠されたもう一人。
かの聖フォルサテも、始祖ブリミルですらその名を記すことはかなわなかった。

「君の考えでは、ブリミルの魔法と同じように、使い魔もまた四つに分けられたとのことだったな」

「ええ、それらしい報告も受けてはいます。奇妙な男が現れたと」

「奇妙な、男」

「はい、判っているのはそれだけなのです。名も素性も不明。しかし、ガリア王の側近くに在るとか」

「ふむ、それではどうにも判断ができないな」

プッチは眉根を寄せる。
腕を組み考え込んだ友人を見て、ヴィットーリオは不意に声を上げた。

「そういえば、もうひとつ判ったことがありました。彼の服装についてです」

「服装?」

「はい、それが世にも奇妙なものだとか。特にその帽子は頭部をこう、すっぽり被う形で・・・・・・それで・・・・・・おや、どうかしましたか?」

「・・・・・・」

答えは無かった。
虚空を睨み、何事かに耐えるようだった。

「エンリコ?・・・・・・エンリコ!」

「・・・・・・聞こえているよ」

ヴィットーリオの声にようやく答えを返した時には、彼はもはやいつものエンリコ・プッチだった。

「どうしたというのですか? 貴方らしくもない」

「いや、なんでもない。・・・・・・それよりも、ガリアにいるもぐら達には連絡は取れるのだろうか?」

「それはできるでしょう、危険はありますが。しかし、何故です?」

「確認したいことがあるのだ。・・・・・・ひょっとするとガリアの問題は片付くかもしれん」

若き教皇はしばし使い魔の顔を見つめた。
ややあって、あくまで静かに言葉を紡ぐ。

「成る程。それならば危険を冒す価値もあるでしょう。・・・・・・それで一体何と伝えれば良いのです?」

「それは・・・・・・」

プッチはいっそ荘厳とすら言える声音で告げた。
それは肉親すら神に捧げる、狂信者の声だった。


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