神聖不可侵にして絶対無謬たる教皇の謁見室、といえば絢爛にして華美なものと世人は思うかもしれない。
しかし、この聖エイジス三十二世に限って言えば、それは無かった。
どこか雑然とした印象を受ける。
その原因は彼の蔵書にあった。
散らかっている、というよりは単純に数が多すぎる。
周囲を本棚に包囲され、僅かに開いた隙間になんとか身を落ち着けている。
しかし、この聖エイジス三十二世に限って言えば、それは無かった。
どこか雑然とした印象を受ける。
その原因は彼の蔵書にあった。
散らかっている、というよりは単純に数が多すぎる。
周囲を本棚に包囲され、僅かに開いた隙間になんとか身を落ち着けている。
来客へ微笑みを与えながら、いまや教皇となったヴィットーリオは口を開いた。
「ご苦労様でした、エンリコ。 ずいぶんと大変だったそうですね」
己を神に捧げた者のみが浮かべる、あの微笑。
どこまでも慈愛に溢れ、だからこそ生き物としての熱を欠いている。
どこまでも慈愛に溢れ、だからこそ生き物としての熱を欠いている。
「ああ、もう少しで死ぬところだった・・・・・・。収穫はあったが、ね」
「成る程、拝聴しましょう」
「聖地に関してだが・・・・・・やはり、君の考えどおりのようだな」
「ほう。と、言うと? 」
「ああ、聖地は間違いなくどこかへと繋がっている」
「・・・・・・それは貴方がいた? 」
「可能性はあるがね」
それからもプッチは自らが得た情報を、語り続けた。
彼が手に入れた奇妙な円盤も交えながら、報告は二時間にも及ぶ。
プッチが語り終えると、ヴィットーリオがひとつ尋ねた。
彼が手に入れた奇妙な円盤も交えながら、報告は二時間にも及ぶ。
プッチが語り終えると、ヴィットーリオがひとつ尋ねた。
「そういえば、ジュリオはどうでしたか? 貴方から見て」
孤児院から拾い上げた少年。
この数日の間、気にかかっていた事だった。
この数日の間、気にかかっていた事だった。
「さて、適正はあるのかもしれないな。荒事も、慣れればこなせるかもしれない」
「そうなのですか?」
「ああ、ところで君は一体彼の何をそんなに見込んだのだ?」
突然に引き合わされ、教育を任された。
顔は良い、頭も悪くない。
しかし、そんなことで選んだわけではあるまい。
いや、もしかするとそうなのかもしれないが。
顔は良い、頭も悪くない。
しかし、そんなことで選んだわけではあるまい。
いや、もしかするとそうなのかもしれないが。
「それが・・・・・・わたくしにも分からないのです」
「ほう・・・・・・」
「確かに目立つ存在ではありましたが・・・・・・」
「成る程。いや、そう悩む事は無い」
プッチはむしろ朗らかにそう告げた。
「君は、そうする事が自然だと思ったのだろう。ならばそれに無理に逆らう必要も無い」
「そうでしょうか」
「そうだとも。彼は、君の目的のために必要な人間なのだろう。だからこそ引き付けられたのだ」
ヴィットーリオは得心したような顔で頷いた。
それを見たプッチは満足そうな顔で続ける。
それを見たプッチは満足そうな顔で続ける。
「それで、ガリアはどうなった」
そう尋ねるプッチに対し、彼の主はすぐには答えなかった。
しばし黙考した後、ようやく言葉を発する。
しばし黙考した後、ようやく言葉を発する。
「確証はありません・・・・・・が、疑いは濃厚です。おそらくガリア王は虚無の担い手なのではないでしょうか」
「ほう、それでは使い魔を召喚している可能性があるな」
虚無の使い魔。
かつて始祖ブリミルに仕えたとされる四名の使い魔は、それぞれが特別な能力を与えられていたという。
あらゆる武器を使いこなしたガンダールヴ。
あらゆる獣を友としたヴィンダールヴ。
誰よりもマジックアイテムの扱いに秀でたミョズニルトルン。
そしてその存在を隠されたもう一人。
かの聖フォルサテも、始祖ブリミルですらその名を記すことはかなわなかった。
かつて始祖ブリミルに仕えたとされる四名の使い魔は、それぞれが特別な能力を与えられていたという。
あらゆる武器を使いこなしたガンダールヴ。
あらゆる獣を友としたヴィンダールヴ。
誰よりもマジックアイテムの扱いに秀でたミョズニルトルン。
そしてその存在を隠されたもう一人。
かの聖フォルサテも、始祖ブリミルですらその名を記すことはかなわなかった。
「君の考えでは、ブリミルの魔法と同じように、使い魔もまた四つに分けられたとのことだったな」
「ええ、それらしい報告も受けてはいます。奇妙な男が現れたと」
「奇妙な、男」
「はい、判っているのはそれだけなのです。名も素性も不明。しかし、ガリア王の側近くに在るとか」
「ふむ、それではどうにも判断ができないな」
プッチは眉根を寄せる。
腕を組み考え込んだ友人を見て、ヴィットーリオは不意に声を上げた。
腕を組み考え込んだ友人を見て、ヴィットーリオは不意に声を上げた。
「そういえば、もうひとつ判ったことがありました。彼の服装についてです」
「服装?」
「はい、それが世にも奇妙なものだとか。特にその帽子は頭部をこう、すっぽり被う形で・・・・・・それで・・・・・・おや、どうかしましたか?」
「・・・・・・」
答えは無かった。
虚空を睨み、何事かに耐えるようだった。
虚空を睨み、何事かに耐えるようだった。
「エンリコ?・・・・・・エンリコ!」
「・・・・・・聞こえているよ」
ヴィットーリオの声にようやく答えを返した時には、彼はもはやいつものエンリコ・プッチだった。
「どうしたというのですか? 貴方らしくもない」
「いや、なんでもない。・・・・・・それよりも、ガリアにいるもぐら達には連絡は取れるのだろうか?」
「それはできるでしょう、危険はありますが。しかし、何故です?」
「確認したいことがあるのだ。・・・・・・ひょっとするとガリアの問題は片付くかもしれん」
若き教皇はしばし使い魔の顔を見つめた。
ややあって、あくまで静かに言葉を紡ぐ。
ややあって、あくまで静かに言葉を紡ぐ。
「成る程。それならば危険を冒す価値もあるでしょう。・・・・・・それで一体何と伝えれば良いのです?」
「それは・・・・・・」
プッチはいっそ荘厳とすら言える声音で告げた。
それは肉親すら神に捧げる、狂信者の声だった。
それは肉親すら神に捧げる、狂信者の声だった。