ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

狂信者は諦めない-6

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その日、空条徐倫は主と共に城下町を訪れていた。
さすがは王都というだけあって、トリステイン一の賑わいを見せている。
もっとも、二十一世紀のアメリカ合衆国と比べたなら、それこそドラゴンとトカゲほどの差があった。

「おい、徐倫! 見てみろよ、スゲェーぜ! 漫画だよ漫画!」

なにやら騒いでいる友人に笑みが零れる。
なにやら田舎から来たおのぼりさん、のように見えたのだ。
実際にはむしろ逆なのだが。
父の承太郎が、それと同じようにあちこちのぞき回っているのにいたっては、もはや微笑ましくすら見える。

「ちょっとアナスイ、なんていうか、その・・・・・・歩きにくいわよ」

傍らの女性へ困ったように笑いながら、言う。
女性の名はナルシソ・アナスイ。
豊かといっても良い胸を、徐倫の腕に押し付けながら歩いている。
徐倫が何を言おうと気にせずに、耳元で愛を囁いたり、頭のお団子に手を伸ばしたりしている。

「ちょっと、人の使い魔にべたべたしないでよね」

そんなアナスイに対し文句を言うのは、誰であろうルイズ・ヴァリエールだった。

「全く・・・・・・モンモランシー! あんたどんな教育してるのよ!」

水を向けられた少女は疲れた顔をしていた。
目の下の隈が疲労と心労を物語っている。

「無理言わないで。無理よ、あんなの。・・・・・・何を言ったって聞きやしないんだから」

出会って二日で三件の分解事件を起こした使い魔に対して、モンモランシーは心底弱りきっていた。
犠牲者は三人、全員が貴族。
死者こそでなかったものの、脚やら腕やらがおかしな形にされていた。
売られた喧嘩を買っただけ、とはいうが限度というものがある。
一体どのような結末となるのか、モンモランシーは気が気でなかった。
しかし、彼女はなんの処罰を受けることも無かった。
使い魔も同じく自由にしている。
使い魔がどうやってあんなことを出来たのか、誰にも分からなかったからだというが。
それをアナスイに悟られたのは、迂闊としかいいようがない。
彼女は何を聞かれても知らぬ、存ぜぬ、挙句の果てには勝手にああなった云々。
学園長がそれを認めたというのは不思議、というより不気味だったが。
まったく胃が痛む思いだった。

それにしても、とモンモランシーは思う。
ギーシュは運がよかった。
徐倫とこのアナスイ、そして何といったか・・・・・・そう、タバサが召喚したあの帽子の男。
この三人に喧嘩を売って、殴られるだけで済んだのだから。
多少痛い目は見たようだが・・・・・・良い薬だ、あの位でなければ後悔はすまい。

「ま、まってくれよ、エルメエス」

そこへ、情けない声を上げてふっくらとした少年が駆けてきた。
少年の名はマリコルヌ。
将来有望と、無理をすればいえなくもない十七歳だった。

「お前がノロマなんだよ、太りすぎだぜ。若いうちから糖尿とか、笑えねーよ」

うわあ。
モンモランシーは心中で呻いた。
あんな言いたい放題させているようじゃ主人として失格ね。
そう思う。
それでも自分よりはマシであるが。
なにしろ使い魔から空気のように扱われているのだから。

「あ、あの、モンモランシー」

「ちょっと、アナスイ」

「なあ、徐倫。どうも、承太郎さんに避けられているような気がするんだ。何故だろう?」

荷物持ちをさせられているギーシュを無視したモンモランシーを、これまた無視してアナスイが言う。
それに対し、徐倫は肩をすくめて答える。

「そんなこと無いわよ。それより、あの子。ちょっと泣いてるわよ」

「泣いてなんかない!」

涙声でモンモランシーは叫ぶ。
それをみてギーシュがいいところを見せようと思い立つも、相手はあのアナスイ。
遠まわしに非難するのが精々だった。

「あった!ここよ、ここ!」

そうこうするうちにルイズが声を上げた。
目当ての店を見つけ、使い魔を置いてさっさと入っていく。

「へえ~。すげえな~、ゲームだぜこりゃ」

エルメエスが感嘆する。
武器屋、そう武器屋だった。
小さなナイフから巨大な戦斧にいたるまで、様々な武器が所狭しと並ぶ。
それから少し離れて、承太郎も物珍しそうな顔をしていた。
これまで剣や槍といったものを、実際に手に取る機会には幸運にも恵まれなかった。
それに寄り添うようにして、褐色の美女が立っていた。
甘い声を、承太郎の耳に注ぎ込む。

「ジョリーンにはこういう剣が似合うんじゃないかしら」

そういって装飾のごつごつした、やけに値の張りそうな品を示した。
腕をからめさせたりもしている。
承太郎は何も言わない。
しかし、迷惑そうに離れた。
あまり乱暴にならないよう、腕を振り払う。
命の恩人でもある少女の友人ということであるから、あまり雑なこともできない。

そんな承太郎の前に立つ者がいた。
奇妙な服の女性、アナスイだった。

「承太郎さん、あの時の答えを。俺は徐倫と結婚します。・・・・・・どうか許しを頂きたい」

承太郎は答えない。

「承太郎さん」

「その前に、アナスイ。はっきりさせておきたいことがある。・・・・・・イカレているのはお前なのか、それともわたしなのかということだ」

承太郎はさらに続ける。

「わたしの記憶が正しければ・・・・・・お前は男だったはずだ」

「今でも男です」

そう言うアナスイを見た承太郎は、言語を操る蛙を見たような顔で言う。

「・・・・・・何を言っているのか解らない」

「心は男です、承太郎さん」

「・・・・・・そういうことは訊いていない」

妙に納得している自分が忌々しかった。
性同一性障害。
話には聞いてはいたが。
そこではた、と気付く。
それとこれは別の話だ。
問題は肉体の話であって、精神の方はとりあえず問題としていない。
たしかにあの時は男だったのだが。
いや、本当に男だったのか?
徐倫もエルメエスも特に違和感を感じていないらしい。
ひょっとすると、自分の記憶違いなのだろうか。
わからない、わからない。

「お願いします、承太郎さん。許しを!」

悩む承太郎へアナスイが迫る。

「・・・・・・徐倫が望むのなら、仕方がない」

同性愛というものに、それほど偏見は無いつもりだったのだが、いざ身近になると戸惑いを感じていた。

「それでは駄目なんです、承太郎さん。結婚には、祝福が必要だ」

無理を言うな。
承太郎はそう言いたくてたまらなかった。
必死の思いで娘の下へ駆けつけてみれば、そこには奇妙な男がいて、いまではそれが女になっていた。
訳がわからない。
今までの負い目もあり、娘の意思を尊重したいとは思うものの、そう簡単に納得できるわけもなかった。

事件はその一時間後に訪れた。

奇妙な髪形をした男を見た瞬間、徐倫が狂った。
徐倫だけではない。
アナスイも、承太郎も、エルメエスも同じだった。
少なくとも、ルイズにはそう思われた。
モンモランシーとマリコルヌは溜息をついた。
また面倒ごとを、と思っている。
しかし、承太郎が殴り倒した男が、ロマリアの神官だと知った時は気が遠くなった。
その時キュルケは目立たないよう人ごみに紛れようとしていた。
自分の使い魔を連れて来なくてよかったと思っている。
・・・・・・なんといっても、あれは目立つから。

エンリコ・プッチは目の前が真っ暗になった。
こんなことがあっていいのか。
ジュリオの話になんて乗らなければよかったと、心から後悔した。
あのまま宿に引きこもっていれば、こんなことにはならなかったものを。
三人のスタンド使いがいた。
まだ自分に気付かれてはいない。
このまま気付かれないうちに、立ち去らなくてはならない。
戦っても無駄だからだ。
仮に一撃で承太郎に致命傷を与えたとしても、他の二人にやられる。
ジュリオに目だけでそれを伝えると、直ちに逃走へと移った。
できるかぎり自然に三人に背を向けて、歩き出そうとするその時だった。
ジュリオが体格の良い男にぶつかり、騒ぎが起きてしまう。
そして、

「おい、テメエ! そこの帽子被ったテメエだよ、こっち向け!」

エルメエスの声。
何の反応も見せないよう、必死の努力をした。
そのまま構わず歩き出し――――

「おい、承太郎さん! あいつを見てくれ!」

それが限界だった。
道行く人を押しのけて走り出す。
しかし、駄目だった。
分かっていたことではあったが。

突然に、頭へ衝撃を受けた。
浮遊感とともに、固い何かへ衝突する。
必死の思いで地面に手をついて、その時初めて自分が倒れていることに気が付いた。
再び、今度は顔面に衝撃が来た。
脳を揺らされながらも、懸命に逃れようと走ろうとして、できなかった。

「こちらは通行止めだ」

「じ、承太郎・・・・・・!」

背後には徐倫とエルメエスが迫っていた。
アナスイがいない・・・・・・がそんなことはどうでもよかった。
空条承太郎とスタープラチナ。
比類ない強力と快速、そして精密動作性。
時すら止める、それはまさに反則だった。
戦闘は論外、勝てるはずが無い。
とはいえ、逃げることもできない。
いまから逃げたところで間に合わない。
ありもしない道を、それでも必死で探すプッチを救ったのはジュリオだった。

「我々を、ロマリアの神官と知っての狼藉か!」

ばらすなよ。
プッチは思った。
こいつは潜入という言葉をなんだと思っている。

「オラオラオラオラオラオラァッ!」

承太郎はそれらに一切構わず攻撃を開始した。
身を守ろうと懸命なプッチに、容赦なく拳打の雨を見舞う。
その衝撃を利用して逃走しようにも、徐倫がそれを許さない。
いつのまにか己のスタンドを紐のように解き、プッチの足首へ巻きつけている。
逃亡を封じた上でとどめを刺すつもりなのだとプッチには分かった。

「待ちなさい! 待って!」

それを制したのがルイズだった。

「駄目! アナスイ、駄目!」

モンモランシーもまた必死の形相だ。
ギーシュも同じくアナスイを制止する。

「エ、エルメエス。ちょっと、あの」

マリコルヌは腰が引けていた。
当然、エルメエスの意識に何ら影響を与えない。

「・・・・・・父さん、ちょっと待って。ルイズの話を聞こう」

少女達の訴えを、全く聞いている様子の無い承太郎を、徐倫が抑える。
完全にプッチの動きを封じたという確信があったし、ルイズの声には聞き流せないほど切迫したものだった。
それを見てルイズは安心する。
よかった、なんとかなりそうだわ。

だが、やはりそれは甘すぎる考えだった。
承太郎はルイズとモンモランシーの話を最後まで聞いた上で、それらを完全に無視することに決めた。
殆ど嘆願にすら近い声も、承太郎にはなんの感銘も与えなかったようだ。
ルイズは一秒で決断した。

「ゲルマニアのツェルプストー! 貴女はどう思うのかしら!?」

げえっ。
キュルケはそう思った。
ルイズは自分を道連れにするつもりだ。

「そうね、ミス・ツェルプストー! 貴女の意見を聞きましょう!」

モンモランシーが即座に同調した。
二人の意図を悟ったジュリオもすぐに態度を決める。

「そうだね、ゲルマニアのフォン・ツェルプストー家ご令嬢殿。貴女はどうしたらいいと思う?」

よくわかっていないマリコルヌも話を合わせた。

「えっと、ミス・ツェルプストーはどう思う?」

こ、こいつら。
キュルケは毒づいた。
特にマリコルヌ。
あんたいつもはツェルプストーなんていわないでしょうが。

キュルケは泣きたくなった。
なんでわたしがこんなことに。
ロマリアとは厄介な存在だった。
味方にしても、煩いばかりで役に立たない一方、敵に回すと手に負えない。

この時キュルケの説得が無ければ、この場でプッチは命を散らしていただろう。
そうなれば、後の大乱も起こらなかったに違いなかった。
もっともそれは彼女の責任というわけではない。
だがそれでも、彼女はこの日のことを最後まで後悔することになった。
己が死ぬ最後の時まで、ずっとずっと。
片時も忘れなかった。


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