ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

狂信者は諦めない 番外-2

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匿名ユーザー

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それは風の強い夜だった。

タバサは自室で本を読んでいた。
大きなソファ、承太郎の寝台にもなるそれへ腰掛けている。
いかに使い魔とはいえ、異性と同じ部屋で寝起きする、という事には抵抗を感じそうなものだが、このタバサにそれはなかった。
自分を女と思っていない、ということもあるが、なんといっても承太郎にそういう部分を見出すことが出来なかったからだ。
とはいえ、娘がいるのだから、当然そういった面もあるはずなのだが。
どうにも想像が出来ない。
あの徐倫にしても、本当に普通の方法で生まれたのだろうか。
なんというか、木の股から生まれたとか、そんなんじゃなかろうか。
そんな失礼なことを考えている。

それにしても、とタバサは思う。
ギトー教師に招かれるとは、承太郎のどこが気に入ったのか。
あの陰気な男は、誰に対しても冷淡に接することで有名なのだが。
まあいいか、とすぐに考えるのをやめた。
こうして一人で本を読むのもいいものだ。

タバサは知らなかった。
だからこそ、特に気にすることも無かったのだ。
ギトーという人間について、良く知っていれば事情は変わっていただろう。
彼が近衛を追われる原因となった、その性癖についてである。

承太郎は、いまだかつて経験の無い窮地に陥っていた。
彼はまだそのことに気が付いていない。
むりやり書類運びを手伝わされたかと思えば、強引に部屋に招待されていた。
この男は、一体何を考えているのか。
薄気味悪いとは思ったのだが、珍しい本があると言われてついてきてしまったのが悪かった。




部屋に着くなり、ギトーは承太郎へワインを勧めた。
無論、ただのワインではない。
いけない薬が混ぜ込んである、いけないワインだったのだ。
承太郎としてはさっさと本を見せてもらった後で、すぐに引き上げるつもりだったのだが、熱心な勧めに仕方なく口をつけた。
それが良くなかった。




疾風のギトー。
近衛に属していた頃の彼は快活で優秀、非の打ち所の無い好人物だった。
王室への忠誠心は人一倍、メイジとしてもまず一流と呼んで差し支えない、そう語られていた。
しかし、そんな彼には決して表沙汰には出来ない一面があったのだ。
彼には若く、美しく、そして逞しい男たちに、決して口には出来ないような事をしていた。
一体何人の男たちが彼の毒牙にかかったのか、は今もって分かっていない。
ただ一つ分かっているのは、彼の好みについてだった。
ギトーは、身長が185サント未満の者には決して手を出さなかったのだ。
魔法学園へと追いやられた彼が、元の快活さを失ってしまったのはこのためだった。
何しろ、学園の生徒たちはみな発展途上であり、彼の好みからは程遠かったのだから。


本を読み始めてどれ程の時間が経ったか、承太郎は不意に強い眠気を感じた。
唐突な睡魔。
余りにも不自然だった。







「ぬ・・・・・・う」


承太郎の呻きに答えるように、ギトーは言った。

「ふふふ・・・・・・少し時間がかかったが、ようやく効いてきたね」

その声に危険を感じた承太郎は、転がるようにして扉へと向かう。

「無駄だよ・・・・・・開きはしない」

その言葉どおり、扉には「ロック」がかけられていた。
もっとも、予想していなかったわけでもない。
承太郎は扉を背に、寄りかかるようにして敵と対峙した。

「・・・・・・なんのつもりだ」

唇を噛み切って眠気に対抗する承太郎へ、ギトーは静かに語りかける。

「君がいけないのだよ。ホイホイついてきてしまって」

そういってシャツを脱ぎ捨てたギトー。
鍛え上げられた上半身を、承太郎へ見せ付けるように晒している。
彼は自らの性癖に関して、なんら恥じるところは無い。
かつての行いについて、後悔もしていなかった。
唯一後悔していることがあるとすれば、それは自分のしたことが明るみになってしまったことだった。
いや、明るみになったわけではない。
彼の余りに破廉恥な行いは、あらゆる貴族の手によって徹底的に隠蔽されたのだ。
彼がいまだに生を得ているのは、とある有力貴族の力添えあってのことだった。
高等法院長リッシュモン。
彼が一体なぜギトーを助けたのか、それは誰にも分からない。
しかし、この事が様々な憶測を呼ぶことになったのは確かなことだった。












「貴様・・・・・・一体」

苦しげな承太郎へ、ズボンを脱ぎながら迫る。
風の奥儀たる偏在を駆使して、三方から彼を追い詰める。

「本来は薬など・・・・・・本意ではないのだよ」

息を荒げながら迫るギトーを見据えながら、承太郎は初めての恐怖を感じていた。
敵意を向けられることには慣れている。
殺意を向けられたこととて一再ではない。
しかし、しかしだ。
このような、濁りきった、気色の悪い目を向けられたことは初めてだった。
彼はいまだにギトーの狙いが分からない。
自分を殺すつもりなら、そういった薬を使うはず。
そもそもなぜ服を脱いでいるのか、全く分からない。
分からないながらも、自分が途方も無い危地に立たされていることは分かっていた。

「そんなに怖がる事は無いよ・・・・・・ほら、こいつを見てくれ」

そう言って、ギトーは下着に手を



掛けることは出来なかった。



ギトーは二つの失敗を犯していた。
一つは承太郎のスタンド能力。
その限界について大きく見誤っていたのだ。
己の魔法に自信を持っていたことが仇となった。

空条承太郎のスタープラチナ。
それは最も完成されたスタンド能力。

「スタープラチナ ザ・ワールド・・・・・・!」

その瞬間、何もかもが動きを止めた。
風は止み、雨粒は地面を叩かない。
ギトーも同じだった。
彼は自分に何が起きたのか、ついに気付くことは無かった。

「・・・・・・どこだ、どこへ行った・・・・・・?」

呻き声すら洩らさず失神したギトーへ、承太郎は一瞥を与えることも無かった。
靄のかかったような脳を叱咤しながら、どこかへ消えた二人を探している。
しかし、見つかるはずもない。
それでも彼は、砂漠に蜃気楼を見た旅人のように、消え失せた偏在を探した。
どこかへ姿を隠された、そう思っている。

「ぬ、う・・・・・・オラァッ!」

どれ程探したか、承太郎は追求を諦めた。
敵を見失った以上、一刻も早く逃げ出さなければならない。
必死の思いで扉を破壊し、外へと転げ出る。
縺れる足を叱りつけながら、歩き出した。

自室に戻るわけにはいかない。
ともすれば断線しようとする意識を、すんでのところで繋ぎとめる。
今戻ったならば、タバサまでが危険に晒される。
それは避けなければならない。
どこか別な場所で、敵を迎え打たなければ、迎えう、迎えな・・・・・・



その先を彼は承太郎は覚えていない。
ふと気が付くと、彼はいつの間にか医務室に横たわっていた。

「うう、む」

「ああ、気が付いたかね」

突然の声に、承太郎は過剰な反応を見せた。
すなわち、声のした方向へなんの遠慮も無い一撃を見舞おうとしたのだ。

「・・・・・・お前は」

「気分はどうだね」

声の主は誰であろう、コルベールだった。
拳が顔面と衝突する一瞬前に、承太郎はスタンドの動きを止めることに成功した。

すっかり夜も更けて、人の居なくなった医務室に二人はいた。

「何かよく分からないが、世話になったようだな」

承太郎の言葉に対し、コルベールの態度ははっきりとしないものだった。

「いや・・・・・・なに、その・・・・・・大したことではないがね」

何か気まずそうな、申し訳なさそうな。
そんな表情をしている。

「その・・・・・・ミスタ。何か・・・・・・そう、変わったことはなかったかね?」

そう、おかしなことを聞くコルベールに対し、承太郎は怪訝そうな顔をして言った。

「変わったこと・・・・・・何故そんなことを聞く?」

コルベールは暫くしどろもどろになり、やがて覚悟を決めたように言った。

「ミスタ・ギトーは、その、特殊な趣味をしていてね・・・・・・学園長も私も警戒していたのだ」

「それは・・・・・・」

「それでだね学園長からこのことを聞いて私はすぐに駆けつけたのだどうやらすんでのところで間に合わなかったようだ」

凄まじい勢いでまくし立てるコルベールを、片手を上げて制する。

「事情は分かった」

「そ、そうかね」

目を泳がせているコルベールへ、承太郎は告げた。

「急に襲い掛かってきたんでな、叩きのめした・・・・・・が問題は無いんだな?」

それを聞いたコルベールは目を輝かせた。

「勿論だ、問題ないとも。いや、済まなかったね。これは、学園長から・・・・・・ほんの気持だよ」

麻袋のずっしりとした重さを確かめた承太郎は、特にこだわることなくそれを受け取った。
苦笑を浮かべながら立ち上がる。
ふと、窓の方を見ると空が白み始めていた。
雨はもうすっかり上がっている。
部屋へ戻っても、まだ少女は目を覚ましていないだろう。
さて、ひとつ散歩でもして帰ろうか。

「いや、しかし若くて男前、というのは良いことばかりではないのだね」

コルベールの声に、さも心外そうに答えた。

「わたしはもう四十一だがな」

「な、なんだって!? 嘘だろう!?」

コルベールが驚愕するのも無理はない。
ギトーの眼力をもってすら見抜くことはできなかったのだから。

疾風のギトー。
彼の失敗は二つある。
空条承太郎、当年とって四十一歳。
ギトーが生まれて初めて犯した大失敗だった。


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