ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

1 タルブ村の初夏 前編

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1 タルブ村の初夏

 麦畑を黄金色に彩る麦穂は、その頭につけた実の重みによって大きくしな垂れ、風に揺れて波模様を作り出す。土のメイジの手によって調整された土壌は今年も豊かな実りを人々に齎しているようで、畦道を行く農夫の表情はどれも明るいものだ。刈り入れには少し早いが、このままなら今年も豊作になるだろうと、農業に関わらない人間にも見て取れた。
 日を追うごとに強くなる日差しの下、都市部から寄り合い馬車がいくつも田舎町へ向かう姿が確認できる。一足早く夏期休暇を手にした出稼ぎの人々が、麦の収穫のために一斉に帰省を始めているのだ。
 普段は閑散とした様相のタルブ村も、この時期には人が溢れ、雑踏が埋め尽くすようになる。
 朝の早い時間に到着する馬車から降りる人影は疎らでも、日中の馬車の中身は過剰に詰め込まれて溢れかえることだろう。そんな、村の入り口での光景は、これから三週間ほど続くことになる。
 最終的には、村の人口は夏の間だけ三倍から四倍にまで膨れ上がるだろう。刈り入れが完了して、その取引が終わるまで、人々は大地の恵みを讃えて祭り騒ぎを起こすのだ。
 その光景こそ、ハルケギニアに夏が訪れた証であった。

 テーブルの上に積まれた手紙の山を崩して、青年が一通の手紙を開き、その内容に苦々しく表情を変える。
 あまり面白い内容ではなかったらしい。読み進めるたび、眉間に走る皺が深くなっている。
 文章の折を見て視線を逸らし、何か考えたかと思うと、また手紙に目を向ける。そんなことを何度か続けた後、青年は読んでいた手紙を閉じて深く息を吐いた。
「これで、やっと半分か……」
 うんざりしたような声で呟くと、手紙の山の横に置かれた木杯を手の取って、中のエール酒を飲み干す。トリステインではワインが飲まれることが多いが、値段はどうしても麦を発酵させたエールよりも高くなる。そんなわけで、民間や貧乏軍人などには、ワインよりもエール酒が好まれる傾向にあった。
「苦い」
 とはいえ、特に貧乏だった経験も無い青年カステルモールは、その味に馴染めずに顔を顰めてしまう。
 カステルモールの最終経歴は、ガリア王国東薔薇花壇騎士の団長だ。騎士団の団長を勤めるような人間がそうそう貧乏であるはずも無く、エール酒とは新人時代を除けば接点は無かった。

 だが、仕事を干された今、無為な出費は避けなければならない。仕える主は居ても、収入は無いのだから。
「はぁ、貧しいというのはこんなにも辛いことなのか……」
「溜め息を吐きたいのはこっちの方だよ」
 カステルモールの居る“緑の苔”亭の女店主が、店の奥から頭を手で押さえてトボトボと歩いてきた。なぜかちょっと涙目である。
「なんだ、娘さんと喧嘩でもしたのか?」
 ほんの三十分ほど前か。エール酒を注文したのとほぼ同時に店の羽扉を開けて現れた黒髪の少女の姿を思い出して、カステルモールは不思議そうに店主の顔を見る。
 妙に情けない顔をしていた。
「叱られた」
「……なぜ?」
「ちょっと事情があってね……、暫く音信不通にしてたのが悪かったみたい。あと、この店の現状かなあ」
 そう言って、店主は店の中を見回す。
 積もった埃に油汚れ、苔、カビ、虫などなど。およそ飲食店とは思えないものが目立っている。店の端っこでは、針金のような足を持った生き物がゴキブリを捕食しているシーンがダイナミックに放送されているのだから、酷いというレベルではない。
 最近、店の中を掃除しろと客から忠告されてばかりなのだが、虫嫌いは克服できず、結局そのままになっている。完全放置だ。
「なるほど、これは……、うん、確かに危険だな」
 今頃気が付いたかのように、カステルモールは店の中を注意深く観察し始めた。
 軍の兵舎の中には似たような状況の部屋がいくつもあったので、あまり気にしていなかったのだ。というか、この程度で気にしていたら血と汗と泥水に塗れる軍人なんて務まらない。戦場で死体に群がる虫の大群を目にしていれば、“緑の苔”亭の虫占拠率なんて許容範囲である。
 しかし、当然ながらそんな人間なんて少数であるため、店の中にはカステルモール以外の客は一人も居なかった。
「虫だけなんとかするから、掃除は自分でやれって言われた」
「やれば良いじゃないか」
 店の店主なのだから自分でやるのは当然だろう、と思うのだが、彼女はそうは思わなかったようだ。

 ぐったりと上体をカウンターテーブルの上に乗せると、面倒臭そうに口を開く。
「あんた、代わってくれない?」
 いきなりの代役発言。叱られたばかりだとうのに、なんというダメ人間か。
 なんでこんな人物が店なんて開いているのか、カステルモールは不思議で仕方が無かった。
「断る」
「バイト代は出すよ」
「うっ……!?」
 思わず、カステルモールは財布の入ったポケットを押さえた。
 蓄えはそれなりにあるからすぐに困窮するということはないだろうが、油断をすれば一年を待たずに食事も出来なくなるだろう。団長時代は高給取りで蓄えも多い方だったが、今は国が負担してくれた風竜の食費を自費で賄わなければならない。人間の十倍以上食べる風竜を養うのは、簡単ではないのだ。
 だが、こんなダメ人間の下で働くことは、元騎士団長のプライドが許さなかった。
 過去に囚われ、転職を失敗する人間にありがちなパターンである。しかし、それを指摘する人間はここには居ないし、こんなところに転職しても、恐らくは人生を棒に振るだけだろう。
「ぬううぅぅ……」
「掃除するだけだよ?今日一日、ちょっと頑張るだけでいいからさ」
 顔を寄せ、口元をカステルモールの耳元に近づける。
 暖かい吐息に混じった甘い誘惑が、カステルモールの心を揺さぶっていた。
「奮発するし、それなりにサービスもするからさ……、ね?」
 娘にも遺伝している大きな胸を前面に押し出し、挑発する。襟元から覗く張りのある脂肪の塊は、服に押されて柔らかく変形していた。年を経てなお失われていない美貌は、男を惑わすのに十分な威力を誇っているようだ。
 だが、対するカステルモールも、若くして騎士団長となっただけあり、その手の誘いは無数に経験している。
 女を利用した誘惑は、むしろカステルモールの気持ちを醒めさせていた。
「いや、やはり私は……」
「ママ!なにやってるの!!」
 断ろうとするカステルモールを遮って、若い女性の声が店主の背後で上がった。
「うぇ、ジェシカ!?」
「なにが、うぇ、よ。お客さんで遊んでないで、ちゃんと掃除してよね!虫は燻して何とかしてあげたから、後はママのお仕事よ!」
「い、燻してって、それで全部追い払えたわけじゃ……」
「ちょっとくらいは我慢する!ほら、行った行った!」
 母の肩を掴んで店の奥へと押し出したジェシカは、恨めしげに自分を見る未だ若々しい母の両手に雑巾の入ったバケツと箒を掴ませ、強引に戦場へと送り出した。
「ジェシカの意地悪」
「バカ言ってないで、仕事しなさい!まったく……」
 両腕を大きな胸の下で組んで、ジェシカは疲れたように肩を落とす。
「昔はあんなじゃなかったのに……」
 記憶にある母の姿は、気は強くとも優しく、柔らかい雰囲気の真面目な人だった。だというのに、久しぶりに再会してみれば面倒臭がりで我が侭でぐうたらな、ダメ人間まっしぐらに変わっていたのである。数年ぶりの感動の再会も、いろんな意味で台無しだ。
 視線の先には、店の奥にある厨房で床に溜まった埃を箒で掃きながら、時折顔を出す虫に悲鳴を上げる姿がある。キャアキャア言いながら箒で虫を潰しているところは昔の母の面影が見えるが、ぐったりと体を曲げて溜め息を吐く姿は記憶のものとは一致しなかった。
 たった数年の歳月が、連続する思い出の中に失われた空白を作っていることを自覚させられる。
 胸に去来する寂しい感情に、ジェシカはむず痒い気持ちを湧き立たせていた。
「もう……、世話の焼ける母親なんだから」
 やはり一人では難しいだろうと、ジェシカは袖をまくって歩き出す。
「ママ、あたしも手つだ……」
「……ぇぇぇええぇぇええぇえん!ひ、ひっく……、ふえええぇぇえぇえええぇぇぇえん」
 唐突に、店の外から子供の泣き声が聞こえてきた。
 徐々に近づいてくる泣き声にジェシカとカステルモールの視線が、戸口へと向けられる。
 子供の泣き声など、特に珍しいものではない。タルブの村にだって子供はたくさん居るのだから、一日に数回は泣き声を聞くこともある。
 だから、気を向けたのは泣き声そのものではない。その泣き声に重なって、奇妙な笑い声が聞こえていたのだ。
 はっきりと“緑の苔”亭に向かって近づく泣き声と笑い声が店の前で立ち止まり、玄関口の羽扉に夏の日差しを遮る影を作り出した。

「お兄ちゃんのばかああああぁぁぁぁぁっ!!」
「ヒーッヒッヒッヒッヒ!いや、悪かった、悪かったから、耳元で騒ぐなって。な?まあそう気にしなくても良いじゃねえか。誰しも通る道だ。恥ずかしいことはねえよ……、ぶっ、ヒッヒヒヒ、ウヒャッヒャヒャヒャヒャ!」
 胸に抱き上げられた白い布の塊から伸びる小さな手が、腹に手を当てて笑うホル・ホースの頬を殴りつける。それを気に留める様子も無く、ホル・ホースは店内を見回してジェシカとカステルモールの姿を見つけると、よっ、と手を上げた。
「邪魔するぜ」
「邪魔するなら帰りな」
 鋭い声が、店の奥から飛び出す。
 虫相手にちょっと涙目になっている店主が、箒を片手にホル・ホースを睨んでいた。
「ツケを払うなら入れてやる。払わないなら金が用意出来るまで来るな!」
「ちょ、ちょっと、ママ!?」
 閑古鳥の無く店に来てくれた客に対して追い出すような発言に、ジェシカは戸惑う。
 だが、相手はそれを気にした様子も無く、勝手に店の中に入り込んでカステルモールの座る席の隣に腰を下ろした。
「ケチ臭い事言うなよ。オレとお前の仲じゃねへブッ!?」
「なによ、その親密そうな発言は!浮気なんて許さないわよ!」
 膝の上に乗せられた白い塊、もとい、エルザの拳がホル・ホースの顎先を打ち抜いた。
 ホル・ホースの言葉はそういう意味でのものではないことくらい、エルザにだって分かっている。だが、自分以外の女とホル・ホースが親密そうにするのは、なんだか許せないのだ。
 微妙な女心である。
「とりあえず、ママは掃除をお願い。お客さんの相手は、あたしがするから」
「で、でも、アレは食い逃げと同じよ?ツケなんて、絶対払う気無いんだから……」
「いいから、ここはあたしにまかせて、ママは虫と戦ってなさい」
「あっ、待って!まだ心の準備が……」
 肩を押して、ジェシカは母を厨房に放り込む。程無くしてまた悲鳴が上がり始めるが、それも今更だろうと、聞こえない振りをした。
「唐突に賑やかになった気がするけど、とりあえずいらっしゃい。あんた、確かあたしの店に来た便利屋さんでしょ?久しぶりだね」

 商売柄、人の顔を覚えるのは得意だったが、母が生きていることを伝えに来てくれたという事実や特徴的な外見から、ホル・ホースとエルザの姿は、特に記憶に強く残っていた。
 自分もハルケギニアでは少し特殊な顔立ちをしていることもあって、向こうも覚えているだろうと、曖昧な期待から声をかけたのだが、ホル・ホースたちの反応は期待したものとちょっと違っていた。
「ん?ああっ、オカマの娘か!?」
「ぴっちりタイツの、くねくねした変態親父のことね!」
「そっちを思い出すんじゃない!!」
 確かに印象に残るのは父の姿だろうが、せめて普通に覚えていて欲しかった。
 艶のある黒髪、母譲りの整った顔と大きな胸、そして、商売で覚えた色気を含んだ瞳。男なら一度会ったら忘れられないだろうと自負するそんな魅力は、鍛え上げられた筋肉と変態的性質に敗北したらしい。
 女としてのプライドが深く傷ついて痛む胸を押さえて、ジェシカは視線をエルザに向ける。
「心の底からイヤだけど、事実だから認めるわ。でも、それは今は置いといて、そっちのエルザちゃん、だっけ。なんで泣いてるの?っていうか、泣いてたの?」
 先ほどは大声で泣いていたが、今はすっかり鳴りを潜めている。それでも、目は充血しているし、目元は何度も擦ったせいか赤く腫れ上がっていた。まだ、はっきりと涙の跡が残っているところを見ると、泣いていたことは嘘でもなんでもない、正真正銘の事実のはずだった。
「あー、そうそう、忘れてた。悪いが、お湯と体を拭く布を貸してくれねえか?ちょーっと人様には言えないレディの屈辱の後始末を……、っくっくっく、ヒ、ヒヒヒヒ、イヒッ!イヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
「笑うなあああぁぁぁぁぁああぁぁあっ!!」
 テーブルを叩いて笑うホル・ホースの頬をエルザの両手が掴み引っ張る。顔を真っ赤にしているところを見ると、人に聞かれたくない、酷く恥ずかしいことなのだろう。ここに来て泣き止んだのも、聞かれたくなかったからかも知れない。
 隣の騒がしさうんざりしつつ手紙を再び読み始めるカステルモールを横目に、ジェシカはこめかみを指先でポリポリと掻くと、わかった、と一言残してお湯と適当な布を探しに店の奥へと消えていった。
「んへ、ほまへはなひふぉみへんだ?」
「きちんと言葉を喋れ。何を言っているのかわからん」

 両頬を掴むエルザの手を引き剥がして、ホル・ホースは改めてカステルモールに尋ねる。
「なに見てんだ、って聞いたんだ」
 顔を赤くして叩いてくるエルザの相手を適当にしつつ、視線をテーブルの上に山となっている手紙に向ける。
「見れば分かるだろう」
「んなもん当たり前だ。オレが聞いてるのは内容だよ、内容」
 手紙があるのだから、見ているものは手紙に決まっている。そんなことを一々確認するなというカステルモールの邪魔臭そうなものを見る視線を受け流して、ホル・ホースはエルザの頭をぺしぺしと叩きながらカステルモールの手元を覗き込んだ。
 むー!と声を上げるエルザに、そんな存外な扱いでいいのかと疑問に思いつつ、カステルモールは手紙の裏をホル・ホースに向けて文面を隠す。
「プライベートなものだ。気にするほどのものでもない」
 なら見せてもいいじゃねえか、と屁理屈を捏ねるホル・ホースに、あくまでも内容を見せまいとするカステルモール。
 そんな行動に、ホル・ホースはヒヒと笑って問いかけた。
「ガリアの動向でも探ってんのか?」
 カステルモールの表情が凍りつく。
「……なぜ、分かった」
 誰にも話してはいないし、中身を見られたことも無いはずだった。
 指摘された通り、積まれた手紙はガリアに居るオルレアン派の仲間が送ってくれた、ガリアの内情を記したものだ。
 外部に出たカステルモールを情報の集結点に見立て、ジョゼフ側とオルレアン派側の両方の全体像を把握する。カステルモールは、そういう役割を担っていた。
「分からない方がどうかしてるぜ。国家反逆罪で国外追放食らったやつが、その原因の傍にいるんだ。そりゃつまり、まだ諦めてねえってことだろうが。違うか?」
 当然のことのように言うホル・ホースに、カステルモールは、なるほど、と呟いて手紙の山を適当に崩した。
 暗号によって通常の手紙と見分けのつかないそれらも、自分という目印が在っては偽装の意味がないようだ。
 言われるまで、そんな簡単なことにも気付かなかったことを少し苦々しく思いながら、新しい情報交換の方法を考えなければならないと頭を抱える。

 手紙以外となると、どんな方法があるのだろうか。そんなことを考えながら、積み上がった手紙の山に視線を向けていると、ふと、その中に埋もれた一通の手紙に違和感を感じた。
 差出人の部分が、なぜか潰れて見えない事に気付いたのだ。
「ま、オレが分かるくらいだから、あのジョゼフのオッサンが理解してねえはずはねえだろうなあ。もしかしたら、あのオッサンが手紙の一通くらい、遊びで混ぜてるかも知れねえぜ?」
 本人はそんなつもりはないのだろうが、もしかすれば、核心を突いているのかも知れない。
 まさか、とは思いつつも、嫌な予感がカステルモールの胸を埋め尽くす。実際、差出人の潰れた手紙を手に取ると、胸の中の嫌な感覚が大きく広がった気がした。
「バカな、いや、そんなはずは……」
 封蝋の接着部をナイフで削ぎ、封を開ける。
 一枚だけ入っていた紙。それに目を通した瞬間、カステルモールはこの世の全てに裏切られた気分になった。
「ぬああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁっ!!?」
「ひゃああっ!」
「うおぅっ!?なんだ!どうした!?」
 突然叫びだしたカステルモールに、エルザとホル・ホースの肩がびくりと震える。店の奥ではそれに触発されたかのように悲鳴が轟き、バケツらしきものをひっくり返す音が響いた。
「バカな……、なんという……」
「おいおいおいおいおい、なにをそんなに興奮……、はっはーん?」
 混乱した様子のカステルモールを見て、ホル・ホースは何かに気が付いたかのようにニヤリと口元を歪めた。
「故郷に置いてきた女に振られでもしたブホッ!?」
「貴様と一緒にするな、馬鹿者!!」
 邪推するホル・ホースの顔面に、カステルモールは手紙ごと掌底を食らわせた。
 零れ落ちる鼻血。吸い付く腹ペコ吸血鬼。
 顔に張り付いた紙を剥がし、ぺろぺろと舌を伸ばしてくる幼女の頭を押さえたホル・ホースは、鼻先を押さえてカステルモールの胸倉を掴み上げた。
「テメエ、喧嘩売ってんのか?」
「……いいから、それを見てみろ」
 カステルモールの指が、鼻血で汚れている放り出された手紙に向けられる。

 深い皺と血の汚れでほとんど読めなくなっているが、それでもいくつかの単語は何とか抜き出せそうだった。
 渋々といった感じで紙を手に取ったホル・ホースは、そこに並ぶ短い文を解読し始めた。
「えーっと、なんだ……?退屈。日々。オレ?が居ないと。つまらない。夜中。一人。相手が居ない。慰め……?おいおいおいおい、なんだか官能的な文章だな、オイ!」
 抜き出した単語だけを並べて本来の文章を推測すると、『あなたが居なければ毎日が退屈でつまらない、夜の相手も居らず自ら慰めています』なんて内容になってしまう。そして、それを額面通りに受け取ったホル・ホースは、鼻の下を伸ばしてへらへらと笑い始めた。
 エルザの頬が、ぷくりと膨れた。
「なんで今頃お兄ちゃんに手紙なんて届くのよ!ガリアに居たときは、そりゃあ、変なの絡まれてたけどさ。誰よ、そのしつこい女!」
「いやぁ、モテる男は辛いねえ。しかし、何でお前の手紙にオレ宛ての……、オレ宛て?」
 本来なら有り得ないことに、ホル・ホースの表情が固まる。
 カステルモールが、嘲笑うかのように目を細めた。
「ガリアの無能王からだ」
「んがっ!?」
 手紙の最後に綴られたジョゼフの署名を見て、ホル・ホースの顔色が青く染まった。
 仄かにエロティックな文章を、若作りの髭親父がハァハァ言いながら書いている光景を想像してしまったのである。
「うがああああっ!あのオッサン、なに考えてんだ!?ゲイか!同性愛者か!命狙ったオレを雇ったのは、ケツを狙ってたからか!?畜生、嵌められた!いや、ハメられそうなところをギリギリで逃げてこれたと考えれば、ある意味ラッキーか?ああクソッ!あの野郎、いつか必ずぶん殴ってやる!」
 震える体を温めようと、身近な熱源であるエルザを抱き締めたホル・ホースは、ガリアのある方向に向かって怒声を上げる。ついでに手紙で鼻血を拭き取り、店の端に置かれた屑篭に放り投げた。

 手紙に書かれていた本来の文章は、チェスの相手が居なくて退屈だという程度の話で、同性愛だとかはまったく関係無い。恐らくは、本当に退屈凌ぎに書いた手紙なのだろう。だが、それを分かっていて、カステルモールは誤解をそのままにしておくことを選んだ。
 まさか、あのジョゼフも手紙が鼻血できちんと読めなくなっているとは思うまい。

 いつの間にか同性愛者のレッテルが張られ、自分の命を狙う暗殺者のケツを狙う変態だと陰口を叩かれれば、あの飄々とした態度もいくらか崩れそうである。
 意趣返しとしては悪くないだろう。
 とはいえ、オルレアン派の行動がほぼ筒抜けであることを思い知らされたカステルモールとしては、あまりのんびりもしていられない。手元にある手紙の内容は、ほぼジョゼフに知られていると考えて間違いないだろう。だが、かといって、ガリアに居る仲間に知らせれば混乱が起きてしまうだろうし、仲間内に裏切り者が居ないかなんて疑心暗鬼にもなる。
 どうにもこうにも厄介な状況になったとカステルモールが頭を抱えたところで、ジェシカが肩を軽く叩きながら現れた。
「ホル・ホースさん、お湯の用意が出来たよ。厨房の隣にある水場にお湯と一緒に布も置いといたから、好きに使って」
「恩に着るぜ。オレたちが使ってる小屋じゃ、湯どころか水も使えねえからな。それに、あちこち穴だらけで、エルザも肌を出せねえから困ってたんだ。ほれ、エルザ。せっかく用意してくれたんだ。行って来い」
「むぅ……」
 どことなく不貞腐れた顔でホル・ホースの膝の上から降りたエルザは、そのままジェシカの案内を受けて厨房の奥へと消えていく。
 二人の後姿を見送ったホル・ホースは、やっと一息ついたと言うように大きく息を吐いた。
「そういえば、飯も飲み物も注文してねえな。というか、注文取る素振りすらねえじゃねえかよ。店も汚ねえままだし。相変わらず、客商売する気ねえな」
 脱いだ帽子でパタパタと胸元に風を送りながら、ホル・ホースは店内を見回して呆れたように口を開く。
 その言葉を聞いて、手紙の件を保留にしたカステルモールが、溜め息混じりに反応した。
「ツケで飲食しているからだろう。仮にもシャルロット様が友人と認めた者なのだから、もう少ししっかりして欲しいものだな」
 つい先程まで、店主にアルバイトを頼まれて心動かされた人物とは思えない意見である。だが、店が汚いことや客商売をする気がない、という点については同意しているようで、あまり細かく口を挟む気は無いようだった。
「仕方ねえだろうが。つい昨日まで、オレは風邪で寝込んでたんだぜ?食い扶持を稼ぎたいとは思ってるが、なんだか調子が悪くてよ。まあ、メシ食いに出歩いてたのは事実だが」

 椅子の背にもたれかかって、体をフラフラさせながら言うホル・ホースに、カステルモールは、ふむ、と息を漏らした。
「風邪か……。今は良いのか?」
 心配している、というよりは、近況を聞くような態度でカステルモールが尋ねると、曖昧な相槌を打って右手を軽く握り込んだ
「風邪は治ったみたいなんだが……、スタンド、って言ってもわからねえか。まあ、テメエらの魔法みたいなもんだ。そいつが、何故か上手く使えなくなってるんだよなあ。理由はさっぱり分からねえが、本来のパワーが出ねえんだよ」
 ハルケギニアの誰にも視認することの出来ないスタンドの像が今、ホル・ホースの右手の中に収まっている。だが、そこにあるはずの重厚な金属の質感と不思議な輝きが、今は完全に失われていた。
 輪郭は曖昧で、その姿形も薄く陰が差している。エンペラーの使用者であるホル・ホースですら、存在感をはっきりと感じ取れなかった。
 その説明に、カステルモールは顎に手を当てて、心当たりを語った。
「病に倒れたものが起こす、魔力切れの症状に似ているな。魔法に用いる精神力が、無意識の内に肉体を支えるために消費され、見た目だけが健康そうに見える。そんな状態だ」
 無理をする人間が極稀にそんな症状を起こすと、カステルモールは部下が同じ状態になった話を交えて説明をする。
 ホル・ホースは、その話に納得いかない様子で口をへの字に曲げた。
「じゃあ、オレの風邪はまだ治ってねえってのか?冗談じゃねえ。オレは生まれてこの方、風邪を二日以上拗らせた事はねえ男だぞ」
 特に自慢するほどのことでもなかった。馬鹿は風邪をひかないというのが迷信だと証明されたくらいだろう。
 段々相手にすることに馬鹿馬鹿しさを感じてきたカステルモールは、深い溜め息を一つ吐くと、テーブルに積んだ手紙の山を片付け始めた。
 カステルモールが会話を放棄したことに気がついたホル・ホースも、帽子を顔に乗せて眠りに入る準備を始める。
 唐突に会話が終了し、店の中に沈黙が訪れた。
 だが、その沈黙を破る絶叫が二つ、唐突に“緑の苔”亭に響き渡った。
 ばたばたと慌しく足音を響かせて巨乳母子が店の奥から現れ、ホル・ホースに掴み掛かる勢いで詰め寄る。

「ち、ちょ、ちょっとホル・ホースさん!エルザちゃんになんて格好させてんの!?あれってホル・ホースさんのシャツよね?良い生地を使ってるし、肌の色が浮かないように二枚重ねてるみたいだけど、アレしか着てないってどういうこと!?」
「無銭飲食の次は、恥辱プレイか!この変質者!ああもうっ、あたしの店から出てけ!!」
 唾を飛ばしながら喚き立てる二人の反応が大体予想出来ていたのか、ホル・ホースは至って冷静に、今朝数年ぶりの再会を果たしたというのに見事に息を合わせる母子を宥める。
「どう、どう、どう」
 宥め方が馬と一緒だった。
 それでも一応落ち着いたのか、母子の片方、より肌の若々しい方がゆっくりと質問した。
「すぅ、はぁ、すぅぅ……、はぁぁぁ……。よし、落ち着いた。んじゃまず、あんな格好をしている経緯から聞こうかしら」
 体を洗うために、いつも体を覆っている大きな布を取り払ったときに気付いたのだろう。
 ジェシカの脳裏に、体くらい一人で洗えるからと、体を覆う布を取り払おうとするジェシカたちに必死の抵抗を見せるエルザの姿が浮かんだ。
 ベッドのシーツと思われる大きな布の下には、上等な綿で織られた二枚の大きなシャツを重ねて着込んだ、幼い少女の姿があった。袖は手首近くまで覆い、長過ぎる裾が足の間で結ばれて尻尾の様な形になっている。男性の中でも体格の良い方に数えられるホル・ホースのシャツは、肉体年齢五歳前後のエルザの体を覆うには十分過ぎるようだ。
 エルザに自身のシャツを着せた張本人であるホル・ホースは、着替えさせていた時に見たエルザの格好を思い出しつつ、詰め寄る親子を前にヒヒと笑った。
「そんな大したことじゃねえ。説明するのも面倒臭えほどの、簡単な話なんだよ」
 そう言って、ホル・ホースはジェシカたちを手招きして耳を近づけるように指示する。
「お兄ちゃん!!絶対に、ぜぇっっっっっっったいに、言っちゃダメだからね!言ったらお兄ちゃんでも殺す!」
 こちらの状況が分かるのか、水の跳ねる音を重ねてエルザの声が届く。ホル・ホースすら殺すという意気込みから察するに、どうしても聞かれたくない内容なのだろう。
 コレは聞くべきではないか、と迷いを見せるジェシカたち。だが、人の言うことを聞かない人間の代表格ともいえるホル・ホースは、わかってるから安心して体を洗ってろ、などとエルザに向けて声を送ると、ヒヒヒとまた笑って、離れてしまったジェシカたちの耳をもう一度引き寄せた。

 いいのかな?と思いつつ、人の隠し事には興味津々な女性陣。カステルモールは女性の秘密を隠れて聞くようなことは騎士としてのプライドに関わると、耳を塞いだ。
 耳元で囁かれる、エルザの秘密。
 なぜ、体を洗うのか。なぜ、ホル・ホースのシャツを着ているのか。その真実に、わ、と表情が変わったかと思うと、へぇ、と言葉にならない声を発して溜め息を吐く。
 冷たい視線がホル・ホースの頬に突き刺さった。
「なんだ、おねしょか」
 店主の声が、抑揚もなく響いた。
「おねしょくらい、あの年の子供なら誰でもするでしょ。隠すほどの事じゃないじゃないか」
 淡々とした、本当になんでもないことのように言うジェシカに、ホル・ホースはガックリと肩を落とす。望んだ反応が返って来なかったことに落胆したらしい。
 考えてみれば当然である。
 ジェシカも、その母親も、エルザの正体が実は吸血鬼で、三十年以上も生きている、なんてことはまったく知らないのだ。見た目のままなら五歳児か六歳児であるエルザは、当然のことながら、ベッドのシーツに世界地図を描いてしまっても可笑しくない年代ともいえる。本人の気持ちはどうあれ。
 面白いネタだと思っていたものが否定されたことで興が冷めたのか、ホル・ホースは拍子抜けだと言わんばかりの退屈そうな表情を浮かべてテーブルの上に倒れこんだ。
「クソッ、失敗かよ。一人で盛り上がってたオレが馬鹿みたいじゃねえか」
「実際、馬鹿なんだよ。大方、オネショしたことを突付いて泣かせてたんだろ?アンタも、ガキの頃にはそれで親を困らせたんだから、笑うんじゃないよ」
 今でこそ妻を止めた“緑の苔”亭の店主だが、ジェシカの母親であることに違いは無い。幼いジェシカを育てているときには、数え切れないほど下の処理もしたのだろう。娘との数年ぶりの再会も相まってか、懐かしい記憶を掘り起こして思わず目が遠くなっていた。その隣で自分の過去を掘り返されやしないかと、内心肝を冷やしている娘のことに気付くことなく。
「あーつまんねえ!なんか面白いことはねえのかよ!!」
 今日一日エルザをからかって遊ぶつもりだったのか、せっかくの玩具が不良品だと知ってしまったホル・ホースは、早速退屈だと叫びだした。
 実のところ、“緑の苔”亭での反応が面白ければ、村中を回ってエルザのおねしょ事件を言い触らす予定だった。顔を真っ赤にするエルザを、思う存分からかうのだ。

 まさに羞恥プレイである。
 そんな未来を未然に防いでくれたことを、エルザはジェシカたちに感謝するべきだろう。
 他人に知られたことに変わりは無いが。
「暇なのは知ったことじゃないけどね、まだ聞いてないことがあるよ。あの子の服装がシャツだけってのは、どういうことなんだい」
 水だけを入れたコップをホル・ホースの前に置き、女店主が眉間に皺を寄せて尋ねる。
 味のついた飲み物を出さないのは、遠まわしに帰れという意思表示であった。
 そんな細かい意志にまで気の回らないホル・ホースは、出された水を一気に飲み干すと、懐から小さな皮袋を取り出してテーブルの上に放り出す。
 じゃら、と金の音がした。
「……なんだい、これ。4ドニエしか入ってないじゃないか」
 袋の中身を手の平に乗せた店主が、たった四枚の銅貨を見て首を傾げた。
 ドニエ銅貨四枚の価値は、リンゴ一個分にも満たない。その辺に落ちている団栗か松ぼっくりに珍しい形があれば、そのくらいで売れるかもしれない、という程度だ。
 そのままの銅の塊程度の価値しかないそれを前に、ホル・ホースは羽扉の隙間から見える店の外の風景に目を向け、黄昏ムードで呟いた。
「それがオレの全財産だ」
「ええええっ!これだけ!?」
 驚愕の事実に、ジェシカと店主の驚く声が店内に響き渡った。
 子供の小遣い以下の所持金に、ジェシカたちの目が丸くなる。
「エルザの服は一張羅なんだよ。以前着ていた白いのは、アルビオンで着替えた時にウェストウッドの村に置いてきちまったし、そこで借りた古着は寝小便で汚れたから洗濯中だ。水仕事なんてしたことなさそうなやつに任せちまったから、乾くのは何時になるかわからねえし。つまり、着替えがねえんだよ」
 そう言って、ホル・ホースはどうしようもないと言うかのように、手をひらひらと振った。

「ハ、クシュン!」
 タルブ村の端っこで、元王子様が水の入ったタライを前にくしゃみをした。
「……誰か、僕の噂でもしてるのかな?」
 鼻を啜りつつも、ジャブジャブとタライの中に張った水の中で白い布を揉み洗う。

 傍らには洗濯物を積んだ籠が一つ。本来なら川の流水で洗うのが良いのだろうが、色んな事情で身を隠さなければならない立場であるために、わざわざボロ小屋の前まで水を運び、人目に隠れて洗濯をしているのであった。
「しかし、不思議な気分だ。皇太子という立場を煩わしく思っていたこともあるけど、こうして人に扱き使われる立場になってみると、それを押し付ける人間に妙な苛立ちを感じるね。平民達は皆、こんな気持ちを抱えて生きているのだろうか」
 僕なら耐えられそうに無い。なんて思いながら、水の中から上質の綿で織られたエルザの下着を持ち上げて汚れが取れたかどうかを確かめる。
 何度洗っても汚れが落ちない赤い染みのようなものは、恐らくは血痕なのだろう。石鹸も何も使わずに落とすのは、慣れた者でも難しいと、何処かで聞いたことを思い出す。
 洗濯一つとっても大変な仕事なのだな、と改めて亡国の王子は感心していた。
「反対の立場に立ってみると、王族が恨まれるのも仕方ない気がしてきたよ。そう考えてみれば、誰かが僕の噂をしていても不思議じゃないかな」
 くしゃみの原因となった噂は、きっと悪い噂なんだろうな、と当たりを付けて、ウェールズは白い布地をじろじろと眺め見た。
 やはり、染みは落ちそうにない。
 どれだけ洗い続ければいいのかと、少し疲れを感じ始めていた、そんな時、最近聞き慣れた声が少しずつ近づいてくることに気がついた。
 つばの広い帽子を被った、緑を基調とした服のハーフエルフ。ティファニアだ。
 なぜか、謝らなければ謝らなければ、と連呼していることに、どうかしたのかと顔を向けたウェールズは、ほぼ同時にこちらに気付いたらしいティファニアと視線を合わせて、出来るだけ穏やかに笑った。
 だが、延々と染みを抜くために手を動かしていたせいか、息が少し乱れている。
 これでは上手く笑えていないだろうな。と思いつつ、ティファニアの様子を見てみると、びくり、とティファニアの肩が揺れた。
 日焼けなどまるで知らない白い肌が顔が赤く染まり、擦れた声が喉から漏れ、ゆっくりと上げられた手が、軽く握られて指が突き出される。
 ウェールズは、ティファニアの人差し指が自分に向けられている様子から、何か不備でもあるのだろうかと視線を自分の周囲に戻すと、すぐにそれが目に入った。
 今し方洗っていたエルザの下着を、両手に握って顔を近づけている。それだけではない。少し乱れた息は、どこか興奮しているようにも見えるのだ。

 傍目に見れば、完全に変質者であった。
「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ま、待ってくれ!これは誤解だああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 村に向かって駆け出すティファニアを、ウェールズは誤解を解くために追いかける。
 だが、手にはエルザの下着が握られたままだった。
 ハルケギニアに住む平民の多くはドロワーズやズロースを使用しているため、貴族のものと同じエルザの下着を一見しただけでは、それをすぐに下着と認識することは出来ないかもしれない。
 だが、今は初夏。麦の収穫時期である。
 収穫された麦は当然出荷されるのだが、ハルケギニアには運送会社なんてものは存在していない。となると、麦は専門の商会のある町へ運ばれるか、買い付けに来る行商人の手に渡るのである。
 つまり、この時期は行商人が多く村に訪れるのだ。
 行商人の中には衣服も扱う人間も少なからず存在しており、更にその中には貴族の下着にお目にかかったことのある人間も居るわけで。
「へ、変質者だー!変質者が女性用の下着を握って、女の子を追い掛け回しているぞー!!」
 一見しただけで下着と分かってしまう人が居たりするのである。
「ち、違う!これは違うんだ!!誤解なんだあああぁぁぁぁぁぁっ!!」
 誤解だったものが、誤解で済まなくなりそうだった。
 俄かに騒がしくなる村の様子に、このままでは変質者のレッテルが張られたままになるだろうと判断したウェールズは、転進して身を隠すことを決断する。
 ほとぼりが冷めた頃、ティファニアに誤解を解いてもらおう。そうだ、そうしよう。
 それしか、アルビオンの元王子に残された選択肢は存在しない。
 ニューカッスルでの篭城状態よりも名誉的な意味で危機的な状況に立たされる中、なんだかとっても切なくなったウェールズは、熱くなった目元に手を当てる。
 泣いてなどいない!僕は、こんなことで泣きはしないぞ!!
 王家の血を引く者としての、最後のプライドであった。

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