ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの騎士02

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匿名ユーザー

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 船着場の町。安酒場の安宿にはあらくれどもが集う。手には杯、腕(かいな)には女、
構えた腰にはふつくしい女の尻。数寄者が集い、剥れた欲を発散する。
「ではルイズ、あなたが先鞭をつけ、アニエスがそれに続く、それで構いませんね?」
「勿論。まあ、女子供に戦働きをさせたとあらば、騎士の名誉に瑕瑾を残しますゆえ、後
添えは無用なのが本意ではありますが」
「ぬぬぬ、こここのっ、小娘! 貴様、我を小僧と侮るか! お前はこのアニエスがじき
じきにブッ潰す!」
 ドカン、とテーブルを蹴り上げたおかっぱが、桃髪の悪魔に凄む。
『あ。あーああ。言っちゃったよ』
『だよなあ、アレは駄目だよな。あの小娘は姐さんの迫力を知らねえからな』
『オラオラと無駄無駄、どっちに賭ける?』
『そりゃオラオラに決まってんだろ。アレに勝てる奴はいねえ』
『ちッ、賭けにならねえなオイ』
『そりゃそうだ』
『そりゃそうか』

「決闘、いや『手合わせ』を願おうではないか」
 ちょうど出航までに半日の刻がある。ここで上下関係をはっきりさせておくのも、ま、
無益ではあるまい。ヴァリエールは渋り困るフリをしつつ、それに応えた。

 銃。たかが手合わせで銃を使うのか、こいつは。当たって死んだらどうするつもりなん
だろう? いやでもアレはどう見ても必殺の裂帛、があるな。銃がなくともこいつは殺す
気でそこにいるし、何というかその、『漆黒の意志』でもって何が何でもブチ殺さないと
気がすまないのだろう。逆に『始末』されるかもしれないという危険を、常に『覚悟』し
ているのだろう。
 侮れない、これは侮れない。侮ったフリをしたのが、うまいこと効いて欲しいがそれも
どうか。しかしまさか殺してしまう訳にもいくまい。どうする?


 阿呆が集い暴れる安酒場、夜はこれからだ。二人の勝負も、未だ終わらない。わらわら
と集ってきたボンクラどもが、賭けを始めてしばらく経つ。姫と爆発をそれぞれ応援して
はいるが、潰れたら喰う気満々だ。既に転がったボトル、三本。
「……さて、ルイズ。そろそろ始まるわよ」
「予定通り、ですか。さすが」
『ちょっと待ちたまえ。君たちは既に戦闘可能な状態では……』
 どちらも酔眼極まりながら、酔いどれを装うでもなく演じながら、しかしその眦だけは
この場の全てを、捉えている。

 その喧噪の外、賑やかな明かりに隠れ、目標をただ、睨む集団。
「始めようか」
 気楽に、むしろこれから向かうのが、恋人の家であるかのように。軽やかに、部下に状
況の開始を告げる。

「……ん?」殺気、のようなものを感じて、ルイズが少しだけ速く杯を空ける。来たか。
よろしい、では始めよう。
「OK、野郎ども。パーティータイムだぞう」
 傭兵どもが獲物を求めて走り出す。女が二人、これを好きにして殺せ。いい依頼だ。や
りたい放題だ!

 圧迫で吹き飛んだ扉、無数に飛来する矢。続いて鬨の声と共に殺到する傭兵たち。鼻の
下を伸ばして群がっていたボンクラどもをテーブルごと蹴散らし、酔眼の最後のきらめき
を向けて姫が命じる。
「るいず! ばくはつのふたつなはだてじゃないってところを、みせてやりなさい!」
「あいよ!」
『もうだめだ……こいつら完全にイカれちまってるぜ……』
 ぐごお、と、お休みの挨拶が聞こえるのを背後に、火酒によってリミッターを外された
ルイズが、凶悪な笑みをらんらんと瞳に浮かべ、腰から二本の小刀を抜いた。メイジなれ
ば己の半身たるべし杖がないことなど、残念ながらまるで気にしていないようだ。

「出ていけ。ここは俺の店だ」と凄んだデブの店主は、孤独な食事を邪魔されて怒る、ハ
ードボイルドな四十男にアームロックを極められ、お…折れるぅ~と悶絶している。


「申し訳ありません! 遅参いたしました」
 階下に轟いた破壊音に、ようやく気づいて駆けつけたアニエスが、テーブルと壁の隙間
に蹴り込まれた姫の許に跪く。
「いいのよアニエス~ほらみてあのこ~、すごくたのしそう~」
「あいつ、笑ってやがる……」ッ、
「殿下、ここはひとまず安全な場所へ」と、眼前に広まるかもしれない惨状から、むしろ
己を庇うかのように、小柄な主君を抱えて裏口へ走る。

『十時から突き! 二時の奴に切り上げつつ左反転』
「あいよ」
『デカいのが来るぞ。デルフじゃないんだから受けるなよ』
「あいよ」
『腹はいいが胸には刺すなよ、骨に当たると足が止まる』
「あいよ」
『狙うのは脇・首・手首だ。まあルイズは小さいから首は捨てていい』
「誰が“小さい”ってぇぇ?」
『いやいやいや、決してその、君の身体的特徴のことでは……』
「くそっ、お仕置きができないのがクソ悔しい!」

 たかが傭兵、しょせん烏合の衆。それなりの斬り合いができたところで、この二人の相
手ができるはずもなく、なす術もなく切り伏せられていく。
『よし、充分だ。これで奴らは壊走する』
「あいよ」
『デルフを回収して脱出するぞ、姫様と合流だ』
「あいよ!」

 止めを求める声が虚ろに響く、半壊した安酒場。無様を晒した兵の生き残りが集まる。
「兄貴! 十六名死亡、八名重症です! 申し訳ありません。女と思い、油断してしまい
ました」
「あいつは、ただの女じゃねえよ。まともな殺し合いができる相手だ」嬉しそうだ。とて
も、嬉しそうだ。焼け潰れた片目の痕を軽く掻きつつ、それか、それ以外がそうなのかど
うか、ともあれ悦びを感じまくっているのは確かのようだ。

 すやすやしてる姫を担いだアニエスと、すっかり忘れられていたデルフを担いだルイズ
が合流を果たし、桟橋へ走る。
「フゥゥー……、初めて……人を殺っちまったァ~~♪ でも想像してたより、なんて事
はないわね」
「初めてだと!」デルフとアニエスの声が同時だ。やられ役として息が合ってきたのかも
知れない。


「クソッ、何であの女は来なかったんだ! クソッ」
 白い仮面の男が、やはり桟橋へ走りながら呟く。何のためにあの重警備監獄にまで押し
入ったのだか、分からないではないか。あのクソ女、今度会ったら十六分割にしてくれる

 アルビオン行きの枝へ向かう階段を、ゆっくり走るルイズ。姫とアニエスは船の確保を
するべく、先行している。
「なあなあ? 何でゆっくりなのよ?」
「ヌケサクが追って来るのを、待ちながら逃げてるからね」
 事情を聞かされておらず、何が何やらのデルフにルイズが答える。
「ん? 誰よそのヌケサクって?」
「そろそろ来るわよ、ほら」
 と、もろそうな造りの階段をがすがすと踏みしめながら、男が一人、駆け上がって来る
。隠れてよく見えないが、たぶん憤怒の表情だ。
「ぶほっ。仮面? 何アレ格好いいの?」
『姫様も酷いことするよなあ。誰だか知らないけど』
「さ、始めるわよ! デル公、活躍してもらうわよ!」
「お、おう! 何だか知らないけど任せとけ!」

「貴様! もう一人はどうした! まあどちらにしてもブッ殺す」
 意気揚々と自信たっぷりの様子で駆け上がって来る。息は切れ、仮面の下の顔が真っ赤
に熟してるのはご愛嬌だ。
「あら、遅かったわね。お陰でゆっくりしちゃったわよ」
 不遜! 不遜なりこの女。余裕綽々である。
「それにね、私たちの世界でそんな言葉、使う必要はないのよ」
「“そんな”って何だ! どれだ! いいからお前は、死ね!」
「あらまた。覚悟が足りてないのねえ」
『覚悟だけは生まれや育ちで得られるものじゃないからなあ』
「それはそうね。ま、この甘ちゃんに期待してもねえ?」
「だだだ黙れえ! 喰らえ! 『ライトニング・クラウド!』」
 白仮面の杖から稲妻が迸る。が、残念!
「行くわよデル公!」
「がってんだ!」
 放射魔法、まっすぐ向かって来る魔法。これほどデルフと相性のいい魔法はない。手加
減なしの必殺直撃コースなら、絶対に当たるのだから。デルフに。

「な、何い! 吸収しただと!」
 ぼふ、とマヌケな音を残して白仮面の姿が掻き消える。吸収の役目を果たしたデルフを
その場に落ちるに任せ疾った、ルイズの“打”と“突”が同時にその身体を粉砕したのだ

「手ごたえ、なしか」
「遍在ってやつだな、これは」己の博識を披露するデルフ。得意気だ。
「ククク、これは楽しめそうね。次の一手はもう少し面白いのを頼むわよ」


「風石が足りませんや!」
「できるできないが問題じゃない、やるんだよ! いいから出せ!」
 凄むアニエスと怯む船長。アンリエッタはお休み中だ。
「何とかしてやるから? な?」媚びるような声の、その腰には構えた銃。
「仕方がありませんな。(畜生)OK、行ける所まで行ってやりますよ!」

 ぱたぱたと船に向かって走って来たルイズ達を、船員達がどうにか引き上げ、定刻より
かなり早いアルビオン行きの貨物船が、慌しく世界樹から出航した。


 甲板を染め始めた曙光が、深更まで飲み続けていたとは思えない健脚を照らす。昨晩の
運動がいささか激し過ぎたようで、日課の寝坊を中断され、やや不機嫌に食い物を求めた
挙句、貨物室のドアをこじ開けて発見した塩漬け肉の塊にかぶりつきながらの登場だ。
 まだ細い身体、まだ細い腕、腰。小さな手。感情がおとなしい時だけは高貴な、と見え
なくなくもない容貌、好事家であればその姿を映した一幅に大層な値をつけそうだ。右手
に肉、左手に小刀を持っている三白眼のいま、でなければ。

 迎え酒だと、またかっぱらって来たワインの樽を傾けるルイズの左手が、何かを見つけ
て声を上げる。
『おお、やはり船といえばこれがなくてはな』
「この玩具がどうかしたの?」
『退屈な船旅にはこれが付き物なのだよ、ルイズ。まあ、貴婦人が乗るような豪奢な代物
であれば、プールは当然、劇場やカジノまで揃っていたりするが、庶民が乗れる船の唯一
の娯楽といえばこの輪投げなのだ』
 そして、とルイズに向き直り、
『これが君の修行に役立つといったら、どうするどうする? 君ならどうする?』
「これが? ただの遊びじゃないの」
 と、投げ輪をつかみ、ぽんぽんと器用にピンに的中させてみせる。

『これが君の空間認知能力を鍛えてくれる』
「なによそのちょうのうりょうりょくって?」
『寒気がするっていうヤツのことか。違うぞルイズ、能力しか合ってない』
「だから何よそれは!」
『君の“魔法”はゼロ距離以外では命中しないだろう? これを矯正する』
「あれが、当たるようになるの?」
『そうだ。それができるようになれば、擬似的にだが『オラオララッシュ』も、『銃撃』
も可能になるぞ』
「『スタープラチナ』と『エンペラー』ね! 近距離と中距離でこれが使えるようになれ
ば、わたしの戦闘能力は計り知れないものになるッ!」
『ああ。ま、さらにおぞましい方法もないではないが、それができるかどうかは、まだ不
明だしな』
「何よそれ! せっかくだから教えなさいよ!」
『君が人間をやめる覚悟ができたら話すよ。私はまだ、君にそこまではさせたくない』
「ふん! まあいいわ。じゃあまずその、何とか能力を鍛えてもらおうじゃないの」
 話しながらも投げ輪を回収しては投げ、また投げと、輪投げを完成させ続けるルイズ。
左手との会話にかまけていると奇異の目で見られる、それが身に沁みた故の行動である。

『よかろう。その線から三歩下がって、真ん中の五のピンを見てくれ。こいつをどう思う
?』
「すごく……、大きいです……」
『ああスマン、冗談だ。それはともかく、その位置から五を狙うんだ。ただし』
「なに?」
『私が合図をしたら、右・左・後に跳躍して、着地と同時に投げてもらう』
「そ、それは難しそうね」
『跳躍の際に確認したピンの位置を、着地で確かめ、同時に投擲する。これは難しいぞ。
しかも私が合図するまでは、どの方向に跳べばいいか判らない。これが君の空間認知能力
を鍛える』
「ふふん、難しいからできない? それはやってみてから判断して貰いたいわ」
『あ、一つ忘れてた。フル装備だ』
「げ。あれも背負うの?」と、愛剣を見やる。


 甲板に刺さって風を感じていたデルフが、視線を感じて嬉しそうにする。
「お? もしかして俺の出番? いいよいいよ! んで、何すんの、俺?」
『重石、だな』
「な、なんだってー。し、失敬な! このデルフリンガー様を漬物石にだと!」
「あんた重いから。だからじゃない?」
「これでも二メイルの大男が持てば、腰に佩けるサイズなんだよ!」
『デルフの長さと、ルイズの背丈がほぼ変わらないからな。ま、鞘なしででも、背負って
貰えてるだけ幸せなんじゃないか?』
「ぐむ。た、確かに鞘さえなければ、俺様の美声を妨げるモノもないことだし……」
「解ったら、ほれ、わたしの鍛錬の礎となりなさい!」
「おほう、感じてしまった。姐さんの尻肉は美しく薄い」
「うるさいうるさい、うるさい! 女の魅力は尻じゃあないのよ!」
『ルイズ、それ以上は墓穴になるぞ』
「気にするな姐さん! 俺はむしろ小さいのが大好きだぜ!」
 ああ爆発、そして爆発。この珍道中は続く。爆音と悲鳴と共に……

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