美しい桃色がかったブロンドの髪は乱れに乱れ、顔は真っ青。衣服も軽く乱れている。
服の所々にはほこりが付いているが彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはそんなことも気にせずベッドのふちに腰をかけている。
今のルイズを一言で表現するのなら『死体のよう』というのがぴったりだろう。それほどまでにルイズはぴくりとも動こうとしない。
いや、動けないのか。あまりのショックに。その気持ちは分からなくはない。なんせ、貴族の象徴でもある魔法を使うことができないからな。
それも失敗するから使えない、ということではない。今のルイズでは魔法を練習することも失敗することすらできはしない。
なぜなら、魔法を使うための必須アイテムである杖が忽然と消えてしまったからだ。
服の所々にはほこりが付いているが彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはそんなことも気にせずベッドのふちに腰をかけている。
今のルイズを一言で表現するのなら『死体のよう』というのがぴったりだろう。それほどまでにルイズはぴくりとも動こうとしない。
いや、動けないのか。あまりのショックに。その気持ちは分からなくはない。なんせ、貴族の象徴でもある魔法を使うことができないからな。
それも失敗するから使えない、ということではない。今のルイズでは魔法を練習することも失敗することすらできはしない。
なぜなら、魔法を使うための必須アイテムである杖が忽然と消えてしまったからだ。
朝、いつものように目を覚まし、いつものように顔を洗い、いつものように服を着替えをし、いつものように所定の位置にある杖を取ろうとした。
しかし、そこには杖など存在していなかった。
そこからのルイズはこちらが思わずニヤけるほど慌てふためき、目を白黒させながら百面相を繰り出した。
初めこそそれほど慌てていなかったのだが、そこに完全に無いとわかると大慌てで部屋中を探し始めた。
もちろん私も表面上杖を捜すふりをした。私には杖がこの部屋には無いとわかっているからだ。いや、杖はこの部屋どころかこの大陸のどこを探しても見つからないだろう。
なぜなら、杖はルイズの目が覚める前に私がキラークイーンによって爆破したからだ。この世にあるはずがない。
もちろんルイズはそんなことを知らないから、哀れなほど必死に杖を探し続ける。
探せど探せど出てこない。それでも諦めず朝食の時間を返上してまで探し続ける。
私が諦めろと言っても聞く耳を持たず、一心不乱に探し続ける。
しかし、あえなく力付き、今に至るというわけだ。
「…………がぁ………………杖の…………」
耳を澄ますとかすかに何かをつぶやいているが、声が小さすぎて何を言っているかはほとんど分からない。
さて、このままでも面白かったがもう飽きた。このままルイズの子守りをするのも面倒だ。
さっさとルイズを授業へ向かわせなければいけない。
「ルイズ、何をしている。もうすぐ授業が始まってしまうぞ」
私の言葉にルイズの方がぴくりと動く。どうやら意識がこっちに戻ってきたらしい。
すると真っ青だった顔はどんどん赤みを増していき、体が震え始める。そして勢いよく私にしがみついてくる。
「どどどど、ど、ど……どうしよう!杖が!杖なくなってて!なんか!えっと!」
ええい、しがみつくなよ。うおっとしい。
「知らなよ。ちゃんと管理してないお前が悪いんだろ」
「ででででも、いいいいいいつもはあそこに、ああああああったんだもの!」
「これだけ探してもないんだ。この部屋にないのは確かだろう」
「もう……、なんでなのよ」
ルイズは握りしめていた手を放し、ずるずると床に崩れ落ちていく。さて、ここでさっき用意した『これ』の出番だ。
「ほらルイズ、これ持っていくんだ」
「え?」
ルイズを見上げるのを確認すると同時に懐から一本の枝を取り出す。
その瞬間、ルイズは勢いよく立ち上がり私の腕に飛び掛かる。
「杖!あんたがとって……杖じゃないじゃない!」
「これはな、さっきお前が部屋を探している時にこっそり部屋を出て、そこらへんにあった枝っきれを削ったもんだ」
「……それでどうしろってのよ」
「おまえは普段から魔法を失敗しまくっている。これでそれを利用するんだ」
「はァ?」
ルイズが果てしなくいぶかしんだ顔する。
ふん、物分かりの悪いやつだ。
「いいか。普段から失敗してるってことは、いつ失敗してもだれも気にしないってことだ」
「……あ!」
「理解できたか?そう、いつも失敗してるんだからお前が魔法を使えなくてもだれも不思議に思わない。むしろ爆発しなくなった分、成長したと思われるかもしれない」
「なるほど、そういう考えもありね」
「杖を見つけるか、新しいのを新調するまではそれで乗り切れるだろう」
「なかなかいいこと考えつくわね。でもね」
腕を掴むルイズの手に力がこもる。なんだ?
「そんなことを面と向かって言わなくてもいいじゃない!」
そんなことを言いながら右こぶしを振りかぶり、全力で私の顔面めがけて拳を放ってくる!
「あぶねえ!」
予想だにしていなかった拳を寸でのところで避けることに成功する。日頃の訓練のおかげか何とか掠る程度だった。
ほんとにあぶねえよ。
そう思いながら急いでルイズの両手を掴み追撃させないように備えるが、不覚にも拳ばかりに注意が行っていた。
ルイズがそれを見越していたのかどうかは知らないが、すかさず前蹴りを繰り出していた。
気づいた時にはもう遅く、その足しなやかな脚は驚異的な速度を持って私の弁慶の泣き所を力強く穿っていた。
「いだ!」
すぐさまルイズの手を放し、かがみこんで脛を押さえる。
チクショウ!ルイズ如きにこんなことを許すなんて!
「ふん!反省しなさいよね!」
ルイズはそう吐き捨てると鏡を見ながら身だしなみを整え始めた。どうやら行く気にはなったらしい。
それにしても、もともと私が杖を爆破したのが原因とはいえこんな痛手を被るとは!もしかしたら致命傷的な攻撃以外で今までで一番痛かったかも知れん。くそ!
まあいい。今後気をつければルイズ如きにこんなことをさせる隙など見せることはないだろう。
今回のこれは授業料だと思えばいい。
しかし、そこには杖など存在していなかった。
そこからのルイズはこちらが思わずニヤけるほど慌てふためき、目を白黒させながら百面相を繰り出した。
初めこそそれほど慌てていなかったのだが、そこに完全に無いとわかると大慌てで部屋中を探し始めた。
もちろん私も表面上杖を捜すふりをした。私には杖がこの部屋には無いとわかっているからだ。いや、杖はこの部屋どころかこの大陸のどこを探しても見つからないだろう。
なぜなら、杖はルイズの目が覚める前に私がキラークイーンによって爆破したからだ。この世にあるはずがない。
もちろんルイズはそんなことを知らないから、哀れなほど必死に杖を探し続ける。
探せど探せど出てこない。それでも諦めず朝食の時間を返上してまで探し続ける。
私が諦めろと言っても聞く耳を持たず、一心不乱に探し続ける。
しかし、あえなく力付き、今に至るというわけだ。
「…………がぁ………………杖の…………」
耳を澄ますとかすかに何かをつぶやいているが、声が小さすぎて何を言っているかはほとんど分からない。
さて、このままでも面白かったがもう飽きた。このままルイズの子守りをするのも面倒だ。
さっさとルイズを授業へ向かわせなければいけない。
「ルイズ、何をしている。もうすぐ授業が始まってしまうぞ」
私の言葉にルイズの方がぴくりと動く。どうやら意識がこっちに戻ってきたらしい。
すると真っ青だった顔はどんどん赤みを増していき、体が震え始める。そして勢いよく私にしがみついてくる。
「どどどど、ど、ど……どうしよう!杖が!杖なくなってて!なんか!えっと!」
ええい、しがみつくなよ。うおっとしい。
「知らなよ。ちゃんと管理してないお前が悪いんだろ」
「ででででも、いいいいいいつもはあそこに、ああああああったんだもの!」
「これだけ探してもないんだ。この部屋にないのは確かだろう」
「もう……、なんでなのよ」
ルイズは握りしめていた手を放し、ずるずると床に崩れ落ちていく。さて、ここでさっき用意した『これ』の出番だ。
「ほらルイズ、これ持っていくんだ」
「え?」
ルイズを見上げるのを確認すると同時に懐から一本の枝を取り出す。
その瞬間、ルイズは勢いよく立ち上がり私の腕に飛び掛かる。
「杖!あんたがとって……杖じゃないじゃない!」
「これはな、さっきお前が部屋を探している時にこっそり部屋を出て、そこらへんにあった枝っきれを削ったもんだ」
「……それでどうしろってのよ」
「おまえは普段から魔法を失敗しまくっている。これでそれを利用するんだ」
「はァ?」
ルイズが果てしなくいぶかしんだ顔する。
ふん、物分かりの悪いやつだ。
「いいか。普段から失敗してるってことは、いつ失敗してもだれも気にしないってことだ」
「……あ!」
「理解できたか?そう、いつも失敗してるんだからお前が魔法を使えなくてもだれも不思議に思わない。むしろ爆発しなくなった分、成長したと思われるかもしれない」
「なるほど、そういう考えもありね」
「杖を見つけるか、新しいのを新調するまではそれで乗り切れるだろう」
「なかなかいいこと考えつくわね。でもね」
腕を掴むルイズの手に力がこもる。なんだ?
「そんなことを面と向かって言わなくてもいいじゃない!」
そんなことを言いながら右こぶしを振りかぶり、全力で私の顔面めがけて拳を放ってくる!
「あぶねえ!」
予想だにしていなかった拳を寸でのところで避けることに成功する。日頃の訓練のおかげか何とか掠る程度だった。
ほんとにあぶねえよ。
そう思いながら急いでルイズの両手を掴み追撃させないように備えるが、不覚にも拳ばかりに注意が行っていた。
ルイズがそれを見越していたのかどうかは知らないが、すかさず前蹴りを繰り出していた。
気づいた時にはもう遅く、その足しなやかな脚は驚異的な速度を持って私の弁慶の泣き所を力強く穿っていた。
「いだ!」
すぐさまルイズの手を放し、かがみこんで脛を押さえる。
チクショウ!ルイズ如きにこんなことを許すなんて!
「ふん!反省しなさいよね!」
ルイズはそう吐き捨てると鏡を見ながら身だしなみを整え始めた。どうやら行く気にはなったらしい。
それにしても、もともと私が杖を爆破したのが原因とはいえこんな痛手を被るとは!もしかしたら致命傷的な攻撃以外で今までで一番痛かったかも知れん。くそ!
まあいい。今後気をつければルイズ如きにこんなことをさせる隙など見せることはないだろう。
今回のこれは授業料だと思えばいい。
私の足の痛みが退いたころ、ルイズの身だしなみも整ったのか私の足の痛みを見越してかは知らないが、教室へ向けて部屋を出た。もちろんデルフも持っていく。
廊下などに生徒は見えない所を見ると、もう教室内に入っているのだろう。
さて、私はルイズについていってはいるが授業を受ける気はない。いつものように教室まで送っていくだけだ。そしていつものように私の自由な時間が訪れる。
しかし、今日は先程のようなこともあり少々予定が遅れている。嘆かわしいことだ。ほんの20分ほどの遅れだが、されど20分だ。
人間の寿命なんて思っているより短いものなのだから20分といえども貴重だ。
「ね、ねえヨシカゲ」
「ん?」
そんなことを考えていると、ルイズが話しかけてくる。
身だしなみこそ整っているが、やはり杖がないことが不安なのだろう。瞳がきょろきょろと動き体も小刻みに動いている。
軽く挙動不審だ。
そこまで不安になるものだろうか?やはりあれか?杖は魔法を使うための必須アイテム。必然的に魔法使いの象徴になるものだ。
それを失くしたということは、必然的に魔法使いとは認められないことになるのではないか?当然、魔法を使うこともできないから貴族としての矜持も墜落する。
まあ、気の持ちようだと思うんだがね。消した本人が言うのもなんだが。
「……あんたがわたしの杖を隠したんじゃないわよね?」
「……はぁ?」
どういうことだ?なぜそんなことを思う?私の行動にどこか不審なところがあっただろうか?
「いったいどうしたらそんな発想になるか教えていただきたいものだ」
「え、それは、えっと……」
何か私は重大なことを見過ごしているのか。
たとえば……嘘をつくと鼻の穴が膨らむだとか?
「わたしのことを、その、恨んでるから?」
「ふむ、何故私が恨んでいると思うんだ」
「だって、わたしはあんたを勝手にここに召還したわ。それであんたは何度も死にかけたわ」
確かに、勝手に召喚され何度も死にかけた。恨みがないわけではない。
しかし、そんなことをこんな状況で直接いうほど私は愚かではない。
「それについては前にも言ったはずだ。生きているから十分だと。それに特に不自由なく暮らせるのならどこに住んでも構わないという旨もその時言ったはずだが」
「そ、そうだけど」
「それに恨んでいるのならもっと前にするし、杖など狙わずお前を直接狙った方が早い」
「じゃ、じゃあわたしに嫉妬してるからとか?」
「…………」
今度こそ意味が分からない。ルイズに嫉妬する?この私が?ルイズ如きに?
「よく聞こえなかったんだが」
わざとらしく小指で耳を掻きながら尋ね返す。
「だから!わたしに嫉妬してるんじゃないかっていったのよ」
「私がお前に嫉妬する理由が見つからないんだが」
「……あんたはまだ満足感を手に入れてないんでしょ?」
ルイズの言葉に一瞬だけ立ち止まる。ルイズを見やると先ほどまでの挙動不審さが嘘のようになくなっている。
「あんたその時に言ってたわよね。満足したいから働いてたって。こっちに来てからあんたがタルブ以外で満足してる様子なんて見たことないわ」
「………」
なにも答えることができない。
「でも、わたしは魔法が使えるようになったわ。それも伝説の虚無の魔法よ。
立派な魔法使いになれるどころか、もしかしたら始祖ブリミルと同じぐらいに謳われる様になるかもしれいわ。たぶん言いすぎじゃないと思う。
それにさいきんはわたしを認めてくれる人もいる。わたし、今満足してるわ」
デルフを握る拳に力が籠る。
「あなたとは、違う」
「……ぁ」
何か言葉が出そうになる。
「もう教室についたみたいね」
しかし、それはルイズの言葉によって打ち消される。ハッと顔を上げると、確かにそこは教室の前だった。
とりあえず、何か言わなければ。
「私は、隠していない」
「そう、わかったわ」
とっさにはこれだけの言葉しかでない。しかしルイズはその言葉だけで納得したようで教室の中へ入っていく。
「それと」
教室へ入ったと思いきやルイズは突然顔を出し、話しかけてくる。
「さっきのは忘れてちょうだい。たぶん、あんたにひどいこといったと思うから」
そう言うと今度こそ教室内へ入り扉を閉めた。
しばらく立ち尽くしていたが、教室へ背を向け足早にその場から立ち去る。
頭の中では先程のルイズの言葉が駆け巡る。
『あんたがタルブ以外で満足してる様子なんて見たことないわ』
その通りだ。
『もしかしたら始祖ブリミルと同じぐらいに謳われる様になるかもしれいわ』
その通りだ。
『あなたとは、違う』
その通りだ!
突如として自覚する。
「私は」
ルイズに嫉妬している。自分が持ちえないものを次々と手に入れていくルイズに。
そうだ。嫉妬だ。私はルイズを見下していたんじゃない。見上げていたんだ。最近の強烈なルイズへの敵意は自身の劣等感の裏返しだったんだ!
ただ、それを認めたくなかっただけだ。あのルイズに劣等感を抱いているなどと。
しかもそれを、もしかしたらルイズに見透かされているのかもしれない。
『あなたとは、違う』
「チクショウ!」
万感の思いが籠った罵倒とともに、私は壁に拳を叩きつけた。
廊下などに生徒は見えない所を見ると、もう教室内に入っているのだろう。
さて、私はルイズについていってはいるが授業を受ける気はない。いつものように教室まで送っていくだけだ。そしていつものように私の自由な時間が訪れる。
しかし、今日は先程のようなこともあり少々予定が遅れている。嘆かわしいことだ。ほんの20分ほどの遅れだが、されど20分だ。
人間の寿命なんて思っているより短いものなのだから20分といえども貴重だ。
「ね、ねえヨシカゲ」
「ん?」
そんなことを考えていると、ルイズが話しかけてくる。
身だしなみこそ整っているが、やはり杖がないことが不安なのだろう。瞳がきょろきょろと動き体も小刻みに動いている。
軽く挙動不審だ。
そこまで不安になるものだろうか?やはりあれか?杖は魔法を使うための必須アイテム。必然的に魔法使いの象徴になるものだ。
それを失くしたということは、必然的に魔法使いとは認められないことになるのではないか?当然、魔法を使うこともできないから貴族としての矜持も墜落する。
まあ、気の持ちようだと思うんだがね。消した本人が言うのもなんだが。
「……あんたがわたしの杖を隠したんじゃないわよね?」
「……はぁ?」
どういうことだ?なぜそんなことを思う?私の行動にどこか不審なところがあっただろうか?
「いったいどうしたらそんな発想になるか教えていただきたいものだ」
「え、それは、えっと……」
何か私は重大なことを見過ごしているのか。
たとえば……嘘をつくと鼻の穴が膨らむだとか?
「わたしのことを、その、恨んでるから?」
「ふむ、何故私が恨んでいると思うんだ」
「だって、わたしはあんたを勝手にここに召還したわ。それであんたは何度も死にかけたわ」
確かに、勝手に召喚され何度も死にかけた。恨みがないわけではない。
しかし、そんなことをこんな状況で直接いうほど私は愚かではない。
「それについては前にも言ったはずだ。生きているから十分だと。それに特に不自由なく暮らせるのならどこに住んでも構わないという旨もその時言ったはずだが」
「そ、そうだけど」
「それに恨んでいるのならもっと前にするし、杖など狙わずお前を直接狙った方が早い」
「じゃ、じゃあわたしに嫉妬してるからとか?」
「…………」
今度こそ意味が分からない。ルイズに嫉妬する?この私が?ルイズ如きに?
「よく聞こえなかったんだが」
わざとらしく小指で耳を掻きながら尋ね返す。
「だから!わたしに嫉妬してるんじゃないかっていったのよ」
「私がお前に嫉妬する理由が見つからないんだが」
「……あんたはまだ満足感を手に入れてないんでしょ?」
ルイズの言葉に一瞬だけ立ち止まる。ルイズを見やると先ほどまでの挙動不審さが嘘のようになくなっている。
「あんたその時に言ってたわよね。満足したいから働いてたって。こっちに来てからあんたがタルブ以外で満足してる様子なんて見たことないわ」
「………」
なにも答えることができない。
「でも、わたしは魔法が使えるようになったわ。それも伝説の虚無の魔法よ。
立派な魔法使いになれるどころか、もしかしたら始祖ブリミルと同じぐらいに謳われる様になるかもしれいわ。たぶん言いすぎじゃないと思う。
それにさいきんはわたしを認めてくれる人もいる。わたし、今満足してるわ」
デルフを握る拳に力が籠る。
「あなたとは、違う」
「……ぁ」
何か言葉が出そうになる。
「もう教室についたみたいね」
しかし、それはルイズの言葉によって打ち消される。ハッと顔を上げると、確かにそこは教室の前だった。
とりあえず、何か言わなければ。
「私は、隠していない」
「そう、わかったわ」
とっさにはこれだけの言葉しかでない。しかしルイズはその言葉だけで納得したようで教室の中へ入っていく。
「それと」
教室へ入ったと思いきやルイズは突然顔を出し、話しかけてくる。
「さっきのは忘れてちょうだい。たぶん、あんたにひどいこといったと思うから」
そう言うと今度こそ教室内へ入り扉を閉めた。
しばらく立ち尽くしていたが、教室へ背を向け足早にその場から立ち去る。
頭の中では先程のルイズの言葉が駆け巡る。
『あんたがタルブ以外で満足してる様子なんて見たことないわ』
その通りだ。
『もしかしたら始祖ブリミルと同じぐらいに謳われる様になるかもしれいわ』
その通りだ。
『あなたとは、違う』
その通りだ!
突如として自覚する。
「私は」
ルイズに嫉妬している。自分が持ちえないものを次々と手に入れていくルイズに。
そうだ。嫉妬だ。私はルイズを見下していたんじゃない。見上げていたんだ。最近の強烈なルイズへの敵意は自身の劣等感の裏返しだったんだ!
ただ、それを認めたくなかっただけだ。あのルイズに劣等感を抱いているなどと。
しかもそれを、もしかしたらルイズに見透かされているのかもしれない。
『あなたとは、違う』
「チクショウ!」
万感の思いが籠った罵倒とともに、私は壁に拳を叩きつけた。